Act1 偽りの救済をデリートせよ 4
廊下の突き当り、重い執務室の扉が開くと同時に、希と龍輝はは左右に分かれて壁に身を隠した。二人の衣装は、夜の闇に溶け込むマットな黒。パーカーのフードを深くかぶり、その下には姫神会の息がかかった特殊素材の薄型防弾チョッキを仕込んでいる。
「……希、龍輝、用意はいい?」
薫の緊張した声がインカムから響く。
「防弾仕様とはいえ、頭を撃たれたら終わりよ。【BREAK】の名に恥じないように一瞬で決めてきて」
廊下に躍り出た護衛二人が、銃を持ち腕を上げる。
「ガキが……!遊びのつもりか!」
護衛の銃口が希を捉えようとした瞬間、希は廊下に設置されていた消火器を力一杯蹴り飛ばした。
「龍輝ッ‼」
「おうよッ!」
龍輝が宙を舞う消火器を空中で回し蹴りし、護衛達の目の前へ叩きつける。衝撃で消火器の安全栓が外れ、白い消火剤が煙幕のように廊下を埋め尽くした。
「げっ!……前が見えねぇ!」
銃口が一度、二度、乾いた音を立てて消火剤の煙に吸い込まれる。だが目蔵めっぽうに撃つ銃は二人には当たらない。
希は低く、床を這うような足運びで煙の中を潜り抜けた。祖父に叩き込まれた「無拍子」の踏み込み。
護衛の男が次の一弾を放つ前に、希の掌が銃の銃身を跳ね上げた。
「……っ⁈」
銃口が天井を向いた一瞬の隙に、希の強い右足中段蹴りが男の身体を捉える。防弾チョッキ越しでも伝わるほどの踏み込みの衝撃に男はまもなく沈んだ。
一方、龍輝は煙を裂いて、もう一人の男の懐へ真っ向から飛び込んでいた。放たれた銃弾が龍輝の肩をかすめる。防弾チョッキが衝撃を吸収したが、焼けるような痛みが走る。しかし、龍輝は不敵に笑った。
「……下手くそ。まだまだだねえ」
龍輝の強烈なアッパーカットが男の顎を跳ね上げ、続く膝蹴りが腹部をえぐる。
崩れ落ちる護衛の右腕を掴むと、龍輝はそのまま手慣れた動作で拳銃を奪い、マガジンを抜き取って床に捨てた。
「……はい、詰んだ」
静まり返った廊下。足元には二人の護衛が転がっている。とはいえ、二人は壁に背を向けて激しく肩で息をしていた。希の額から大粒の汗が流れ、龍輝の拳はわずかに震えている。
「………龍輝、希、バイタル異常なし。そのまま進んでください」
インカムから聞こえる航聖の淡々とした声に龍輝が毒づく。
「……ㇵッ、ハァ……おい、メガネ!どこが『異常なし』だよ!こっちは生身で拳銃とやり合ったんだゾ!」
「……僕の基準だよ。……恐怖に支配されず、戦うための最適値が維持できている。完璧さ」
希は言葉の裏にある航聖なりの『信頼』に気づき荒い息をつきながらもフッと微笑んだ。
「……そう、航聖、信じてくれてるんだね。……龍輝、行こう。航聖が大丈夫だって言ってるなら、あたしたちの身体、まだまだ動くよ」
「……チッ、どいつもこいつも……」
龍輝は震える拳を強く握り、強引に震えを止めた。
航聖はモニター越しに限界に近い数値を叩きだしながらも決して折れない二人の波形を見つめ、眼鏡の奥で目を閉じた。
こいつら本当に高校生か(爆笑)




