Act10 瑞穂学園 ビブリオバトル
体育館の壇上、スポットライトを浴びて、龍輝は気まずそうに後頭部を搔きながらマイク前に立つ。手元にあるのは原稿と山科(先生)に持たされた夏目漱石の『こころ』だ。
「え……と、加納 龍輝です。俺が今から紹介するのは、この『こころ』です。……ぶっちゃけ正直に言います。山科の……あ、失礼、山科先生があんまりしつこく推してくるから……ていうか、無理やり読まされた一冊です。
会場からクスクスと笑い声が漏れる。原稿をチェックした山科先生は、最前列に座り、片手で顔を覆って天を仰いでいる。
「最初は、何だこの暗い話、さっぱり意味分かんねえぞ、って思いました。親友を裏切って自殺ってね……。で、途中で航聖……じゃなかった、三年の玉木先輩に、作者はのたうち回るような激しい胃痛と戦いながら血を吐くような思いで、この何百ページもある大作を書き上げたことを聞いた……いや聞きました」
ここで、龍輝は一呼吸ついた。
「俺は思いました。この物語の『先生』ってやつがメソメソ悩んでいる裏で、作者は自分の腹の激痛と……命とガチで戦ってたんだって。カッケーなって。……物語の中の『死』よりもそれを書いた人間の『生きたい、書き上げたい』という執念の方が俺には刺さりました」
龍輝は、本を高く掲げた。
「だから俺はこの本を、『友情』や『罪』の物語じゃなく『死ぬ気でやり遂げた男の根性物語』として推します。……みなさん、この暗い物語を、激痛の中で完走した文豪に……そしてそれを俺に教えようとして胃を痛めた山科……あ、先生に拍手を送ってやってください」
一呼吸置いて、会場は拍手と笑いが巻き起こった。
最前列で見ていた山科先生は苦笑いしながらも、龍輝のビブリオバトルはこうして無事に終わったのであった。
おまけです(笑)




