Act 4 船上暗部:龍輝、電子の楔
龍輝は暗い通路を駆け抜けながら、耳元のインカムを付け直した。背後の喧騒が遠のき、代わりに巨大なエンジンの駆動音と複雑に絡み合う配線のノイズが耳に届き始める。
『……龍輝、聞こえるかい?突き当りを右に……今、会場の防犯カメラは全て希の「演舞」に釘付けだ。警備員も持ち場を離れて見物とは……希の派手さには感謝しなきゃいけないな』
相変わらず航聖の声は、冷たく冷静である。
龍輝は、指示された重厚な鉄の扉をこじ開けた。そこは、船内のすべての通信と電力を司る、中央配電盤室だ。
「……着いたぞ。どれだ?」
『壁面、第三ユニットの光ファイバーの基部だ。君に渡した銀色のデバイスを、そこにある金属レールに張り付けてくれ』
龍輝が取り出したのは、掌に収まるサイズの銀色のデバイスだった。裏面には強力なネオジム磁石が仕込まれており、精密機器というよりは、武骨な金属の塊に見える。
「これだけでいいのか?」
『ああ。物理的に接触した瞬間、僕の組んだプログラムが光信号を横取りする。頼むぞ』
龍輝は言われた通りに、デバイスをファイバーの束の真横へと張り付けた。
__バチンッ
磁石が吸い付く小さな音が、密閉された部屋に響く。直後、デバイスの表面にある極小のLEDが、青く点滅を始めた。
『……接続成功だ。これで、この船の心臓部は僕の手の中だ。……正雄氏の隠し口座への「裏口」も開いたし、お前のお母さんについての情報も調べることが出来るだろう』
「……そうか」
龍輝は一瞬、表情を歪めたが、すぐに乱れた呼吸を整える。
「そっちは任せた。俺は上に戻る」
『了解……希が飽きて全部壊してしまわないうちにね。君は「人質に縛られた悲劇の息子」を演じてくれないと、今は彼女の生殺与奪の権は僕たちに移ったんだからね』
「……」
龍輝は、青い光を残して部屋を後にした。再びリングへと戻る彼の瞳には、加納家の呪縛を、そして姫神 正雄という傲慢な男を内側から破壊するための静かな殺意が宿っていた。




