Act 4 洋上の処刑場
黒く巨大な客船「MIZUCHI」の甲板で、潮風に吹かれながら龍輝と希は並んでいた。
「龍輝、準備はいい?」
希は三節棍を背負い、いつもの無邪気な顔で尋ねる。
「希……今日は思いっきり暴れられるな。法律も何も関係なく」
「あはは、そうだね!ヒメも『壊していい』って言っていたし。あたし、本気の龍輝が遠慮なく見られるの、ちょっと楽しみかも」
イヤホンからは離れた場所でキーボードを叩く航聖の声が響く。
「……龍輝、希。船内の監視システムは僕が押さえている。薫の合図で奴の資産の書き換えを開始する。……せいぜい頑張りたまえ」
豪華客船の特別会場。
そこは、姫神 正雄の「正義」が崩壊し、四人の「逆襲」始まる場所へと変わろうとしていた。
会場のボルテージが上がる中、リングに希が上がると城内に下卑たヤジが飛んだ。
「おいおい、あんな小娘が相手か?」
「けがをさせる前に泣き出すんじゃねえぞ」
対峙するのは、父・正雄が「彼女の排除」の為に用意した格闘技のプロや地下傭兵たち五人。
希はそれらの声を無視し、肩に担いでいた三本の節を平行に重ねた物体__(高密度タングステン芯を内蔵したカーボン三節棍)を、厚い鉄板の床に垂直に落とした。
__ゴンッ!!
重い。
只の棒が床に当たった音ではない。鉄柱を叩きつけたような重低音が響き、リングの鉄板がわずかに震えた。男たちの嘲笑が止まる。
「……あはは。これはね、ヒメがあたしにしか振れない重さで特別に作ってくれたんだよ。ちょっと重いけど、その分当たると、すっごく痛いよ?」
希が三節棍を解き放つと、鎖のなる音が重厚に響く。ゴングの音とともに、一人目の大男が拳を振り上げて突進してきた。
「まずは……振り回す!!」
希は、束ねていた三節棍を一気に解放した。遠心力が乗ったその一撃は、空気を切り裂くといった音ではなく、重車両が通り過ぎるような「ドォン」という風圧を伴う。
防御の為に腕を交差させた男だったが、関係なかった。
三本分の重量が凝縮された先端の一説が、男のガードを見事に粉砕し、そのまま側頭部を捉える。
男の巨体は、一回転してマットに沈んだ。
客席からは、相変わらず下卑た笑い声と「次だ、次!賭け金は?」「早く殺せ!」「賭けた金返せ!」「まずは服をはぎ取れ!」といった罵声が飛ぶ。この場にいる大人たちにとって、少女の命は単なるギャンブルのチップに過ぎないのだ。
「……ふーん、そっか。これって賭け事なんだ」
次の瞬間二人の男が同時に左右から襲い掛かる。
希は即座に三節棍のジョイントを直線状に固定し一本のロングスタッフ(長棒)へと変形させた。
三本が直結したリーチは男たちの予想をはるかに超えている。
鉄板の床を蹴り、希はその長棒の重力を利用した旋回で左の男の脇腹を薙ぎ払い、その反動で右の男の喉元を鋭く突いた。
三本が直結した「長棒」に、男たちは近づくことすらできない。
「さあ、最後はまとめてお掃除!」
残った二人が恐怖で足が止まった瞬間、希は再びジョイントを外し三本を重ねて平行に握りしめた。
外見は短く手太い「棍棒」だが、その実態は超重量のハンマーだ。
希は軽やかなステップで懐に潜り込むと、その「塊」を男たちの脛と膝へ、無造作に叩きつけた。
__バキッ、メキッ!
男たちの叫び声が上がる間もなく、希は三節棍を再び肩に担ぎ、満足そうに息を吐いた。
「あ_、スッキリした。やっぱり重い方が、手ごたえあって楽しいね!」
「……な、なんだあの威力は……。たかが棒一本で、あの大男たちの骨が……」
事の成り行きを見ていた姫神 正雄は、震える手で双眼鏡を握りしめた。彼が「非力な少女」だと思っていた希は、実際には「重火器並みの破壊力を振り回す怪物」だったのだ。
隣で薫は、優雅に足を組み、無言で希を見ていた。
希が「派手に、重く」暴れたことで場内の視線は完全に希にくぎ付けだ。
その隙をついて、龍輝が配電盤室にハッキングデバイスを貼り付け、航聖の攻撃が始まる最終段階に入っていた。
書下ろしなので、なかなか難しいです。




