Act2 図書室での決戦 2
研斗のPCスピーカから、航聖の声が流れ出す。
『佐藤。お前が三日間、旧校舎の埃っぽい部屋で必死に書き上げていた「最高傑作」だが。……あれを読まされた僕の身にもなって欲しい。あまりに稚拙な創造物で、吐き気がしたよ』
「……お、おま……、ずっと見て……」
『ああ、カメラ越しにな。……お前が龍輝の母親の偽造サインを練習していた時のあの悦に浸った顔……実に見苦しかった。録画させてもらったがな。……さて、お前が今しがた「送信」したのは、お前自身の全履歴をノイズで上書きするデリート・プログラムだ。……お前の銀行口座も、本家へのアクセス権も今この時をもって消滅した』
研斗のPCからは、冷徹な声が続く。
『……佐藤。お前、自分のことを「選ぶ側の人間」だとでも思っていたのか?』
「……よくも、……よくも僕のPCを」
研斗の顔から一気に血の気が引いた。自分が「完璧な密室」で「完璧な計画」を立てていたはずが、実は航聖という観客に嘲笑われる滑稽なコメディに過ぎなかった。
『お前のログインIDも、資産記録も身分証明も、いまこの瞬間本家のシステムから「さささ」というゴミデータに置換され、永遠に消去だな』
「……嘘だ……!僕の、僕の地位が、消えるはずが__」
研斗は、狂ったようにキーボードを連打した。しかし、画面には『NOT FOUND』の文字が無数に立ち上がる。
彼が一番恐れていたこと
__「何者でもなくなること」が、現実として彼を飲み込もうとしていた。
【B-Net:航聖】
「龍輝、ヒメ。佐藤の身柄を確保しろ…と言いたいところだが……もう、その価値すらないな。……本家の警備システムには、今頃「佐藤 研斗が本家をテロに陥れた」というアラートが届いている。……こいつに、もう逃げる場所はない」
龍輝が、ゆっくりと一歩踏み出した。逃げようとする研斗の襟首を龍輝の右手が獣の爪のように掴み、机に叩きつける。
「……ガハッ……⁈」
「佐藤。お前、さっき俺に言ったよな。『……帰る場所がない』っつーて」
龍輝のの低い声が、震える研斗の耳に落ちる。
「お前のことだ。一生その暗闇の中で震えてろ」
龍輝はゴミを捨てるように研斗から手を放した。研斗は、電源すら入らなくなったPCを抱え、獣の影から逃れるように、図書室の闇へと這いずりだしていった。
航聖は怒らせると怖い(笑)




