Act2 図書室での決戦
龍輝がが転入して三日目の放課後、図書室の最も奥まった場所。
研斗は優雅に椅子に座り、ノートPCを広げて二人を待っていた。やがて、龍輝と薫が並んで姿を現す。その親密な距離に、研斗の胸に、再びどす黒い嫉妬が沸き上がった。
「……待っていたよ。加納君、それに姫神さん。……今日は加納君の「正体」を彼女にも知ってもらいたくてね」
研斗はわざとらしくPCを二人の方に向けて、画面をスクロールした。
「……君が母親と逃げたあの日々、実は本家から母親宛てに多額の報酬が振り込まれていたんだ。母親は君を絶望させることによって『本家好みの狂犬に』育てるためのキャストだったのかもね」
「……」
「……君にはもう、最初から帰る場所なんてなかったんだよ」
ヒメが眉をひそめて、龍輝の顔を覗き込む。龍輝は無言で画面を凝視し、拳を固く握りしめていた。
研斗はその姿を『絶望の沈黙』だと確信し、勝ち誇ったようにキーボードを叩き始めた。
「……さて、仕上げだね。君が絶望している間に、僕は本家へ『最終報告書』を遅らせてもらうよ」
研斗の指が躍る。画面には『加納 龍輝の本家への裏切りを確認した。即刻処分を要請する』という報告文が並んでいる。
(これですべてが終わる……!)
研斗の胸に勝利の歓喜が津波のように押し寄せた。数秒前、彼は完ぺきに仕上げた(つもりの)報告書に最終確認を終えて、悦に浸っていた。
目の前の龍輝は、過去の残酷な真実を突きつけられ、石像のように固まっている。ヒメは眉をひそめ、研斗を警戒するような視線を向けているが、それすらも「彼の非道に驚いているだけ」だと研斗は解釈した。
(僕の勝利だ……!野良犬は排除され、姫神さんの隣には、最初から僕が空けていた席が戻ってくる。この最高の瞬間を、僕は彼女に見せつけてやるんだ!)
研斗は高揚感に包まれながら、震える指をマウスに伸ばした。画面上の【送信】ボタンが、宝石のように輝いて見える。このボタンを押せば、龍輝の人生は終わり、研斗の未来は約束される。
ゆっくりと。しかし確かな力で、研斗はクリックした。カチリ、と軽やかな音が図書室の静寂に響き渡る。
「……さようなら、加納 龍輝」
研斗は満面の笑みを浮かべ。龍輝を直視した。彼の頭の中では、すでに本家からの感謝のメッセージとヒメの賞賛の声が聞こえていた。
だが。
龍輝の口元に冷酷な笑みが浮かんだのは、その直後だった。
「__お前、自分で何を送ったのか、分かってんのか?」
龍輝の言葉は研斗の万能感に冷水を浴びせた。研斗は眉をひそめ、龍輝の意図を探る。負け犬の遠吠え……か?」
その時、いきなり彼のPC画面が真っ赤に染まった。
【ERROR!!】
けたたましい警告音が図書室に鳴り響く。研斗の背筋を恐怖の冷気が駆け上がった。
「な、なんだっ!これ……⁈止まれっ!動くなっ!!」
キーボードを叩いても、マウスを動かしても画面は制御不能のまま、意味不明な「さささささささ」の羅列と警告メッセージで埋め尽くされていく。
研斗が狂ったようにEnterキーを叩くが、PCはもはや彼を拒絶するようにさらに高い音域で「ピ______ッ!!」と悲鳴を上げ続ける。
そのパニックの渦中。
__スッ、と。
突如として音が消えた。
嵐の後のような不気味な静寂が図書室を包み込む。呆然とする研斗の耳元でPCのスピーカーから地獄の底から響くような男の声がした。
『佐藤、五月蠅いぞ。少し黙れ』
研斗の顔から完全に血の気が引いた。
詐欺画面がまさしくこれ(笑)ビビりました。




