Act1 偽りの救済をデリートせよ
夜の帳が下りた某区。街の喧噪から切り離されたかのような古い雑居ビルの五階。そこには、若者たちの「悩み」を食い物にして、急成長を遂げたSNS詐欺組織「聖域」の活動拠点があった。
「__ターゲット確認。現在、事務所内には十人、奥の部屋にボスの「ミハイル」こと佐伯がいます。」
耳元のインカムから流れるのは、温度を感じさせない玉木 航聖の声だ。彼は数百メートル離れたワンボックスカーの中で、無数のモニターに囲まれ、ビルの防犯カメラと警備システムを完全に掌握していた。
「了解__希ちゃん、準備は?」
非常階段の暗がりに潜む、姫神 薫が問いかける。
彼女は夜の闇に溶け込むような深い紺色のトレンチコートを着て、手元で姫神会の情報端末を開いていた。
「__いつでもいけます、ヒメ」
樹 希は、黒いパーカーのフードをかぶり、拳を固く握りしめた。その隣では、加納 龍輝が退屈そうに首の骨をポキポキ鳴らし、コンクリートの壁にもたれ掛かっている。
「おい、お前。気負い過ぎだってぇの__。俺が適当に暴れっから、お前は後ろで見てろ」
「__余計なお世話です、龍輝。あたしは自分の仕事をするだけですから」
希の声は冷たい。二人の間にはまだ、「戦友」と呼べるような信頼はない。あるのは薫が提示した「報酬」の為に、今夜この場所を制圧しなければならないという契約だ。
「__3,2,1,全フロアの電子ロック強制解除__デリート開始」
航聖の合図と同時に、ビル全体の光が消えた。
直後、希が非常扉を蹴破り、闇の中へと飛び込む。
「な、なんだ⁈誰だ!」
混乱する男たちの声。だが、希の動きに迷いはない。祖父に叩き込まれた寸止め無しの実践空手の神髄__『先に打たず、必ず仕留める』
闇を裂くような希の正拳突きが一人目の鳩尾を捉えた。肺の空気をすべて吐き出させ,声さえあげさせずに沈める。流れるような身のこなしで、二人目の腕を取り、関節を極めて床に叩き伏せた。
「……へぇ、空手だけかと思ってたが、意外とエグい動きするじゃねえか」
龍輝が背後から、逃げようとした男の襟首を掴み、そのまま壁に激突させた。彼の格闘スタイルは、希とは正反対の『野生』。無駄は多いが、一撃の重さと相手の恐怖を煽るような威圧感があった。
「龍輝、希、無駄口はそれぐらいに。……三名、奥の部屋から武装して出てきます。警察の放出品の警棒を持っています。注意して」
航聖の冷静なナビゲートに従って、希は低く構えた。
「武装してようが関係ない!……子供たちの信頼を裏切った代償、受けてもらわなきゃ」
希の瞳に、正義の炎が宿る。その様子を、安全圏からモニター越しに眺めていた姫神 薫は、優雅に唇の端を上げた。
「……いいわ。その調子よ。私の『愛刀たち』」
ビルの一室で繰り広げられる、音のない粛清
これが四人の記念すべき最初の共同作業だった。
目標、チャプター1書き切ること。




