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「勇者ギルドっていうのは、アルマが”勇者発祥の地”であることを証明するものなんだ。勇者伝説との繋がりを絶たせないよう、海裂災期後に創設されたのが始まり。始めは復興時代ということもあって救世主的な存在だったけど、平和な世となった今では”なんでも屋”に近い。自由に動けない兵士に代わって単独的に動く猛者を集めていて、護衛や討伐から探し物まで、ほとんどの面倒事を引き受けてるんだ」
カップ片手に軽い調子で説明するハロディ。カレンは目を丸くしてわずかに身を乗り出し、純粋な目でそんな彼を見上げた。
「西大陸が勇者様発祥の地であることは存じておりましたが……この国のお方だったのですね」
「──いいや?」
感心しているカレンに対し、ハロディは瞼を伏せて首を横に振る。そして、深呼吸するようにゆっくりと息を吐き出した。
「──君は随分と”勇者”にご執心って感じに見えるけど……どこまで情報を持っているんだい?」
空色の瞳が、優しくカレンの瞳孔を射抜く。唐突に問われたカレンは居住まいを正すと、膝の上に置いていた両手を軽く握った。
「西より現れし勇気ある青年が、割れた海溝から突然現れた魔性の異形を倒し、人々を混沌から救ったと……。巨悪に対抗するため、数人の仲間と共に星を巡ってその土地を助け──最後には巨悪の根源を打ち倒し、星に平和を齎した。そのような伝承が物語となって、北の地にも伝わっています。わたくしはそのお話がとても好きで、何度も同じ本を読み返していました」
懐かしむような遠い目をして語るカレンの横で、ヴァルターが小刻みに頷いている。そんな二人を見て苦笑しながら、ハロディは隣でぼうっとソファに背を預けるタケルを一瞥した。カレンの話に関心があるのか無いのか、気の抜けた表情で、窓からの日差しを浴びた彼女の眼差しを眺めている。ハロディはくすりと笑って大きくひとつ手を叩くと、三人の表情を自らに注目させた。
「どうやら、君の大好きな本は寓話に近い普及本のようだね。──つまり、歴史に基づいたものとは少し外れてる。ここには何も知らないタケル君もいることだし、僕から軽く説明させてもらおうかな」
ヴァルターが何か言いたげに片眉を上げたが、それを受け流したハロディは、咳払いをひとつした後カップをテーブルに戻した。名指しされたタケルは不思議そうにハロディの動作を目で追う。戸惑いを払拭させるように片目を閉じて戯けてみせると、ハロディはゆっくりと語り始めた。
「──この星、”ノヴァ”の歴史は、魔法が発見された時から始まった。それ以前のことは”古代”とされている。創世暦元年、人々は鉱脈から魔石を発見し、それを切っ掛けに魔法という力の存在に気付いた。そして、魔法で作り上げた文明が発展し始める。……これが、”魔導黎明期”」
言いながらハロディは立ち上がり、カウンターの上からある物をつまみ上げた。日差しを受けて色を反射させているのは、一本の糸に繋がれた七つの鉱石だ。色とりどりのそれはキラキラとタケルの目を惹きつけた。
「これがその魔石。人々は最初、鉱石に宿った魔力が反応して魔法になるのだと考えていたんだけど、研究が進められるにつれ、そうじゃないことが分かった。鉱石の魔力はあくまで媒介で、人の魔力が鉱石を通して具現化されていた──つまり魔法とは、人の魔力に起因するものだったんだ。それが判明した時、権力は魔力に左右されるようになった」
テーブルに小さな鉱石の連なりが置かれる。色とりどりの歪な欠片はただの綺麗な石にしか見えない。タケルは眉を寄せて身を乗り出し、じっと凝視してみるが、そこにあるのは単なる石でしかなかった。
「魔力が高い者によって国や街が築かれ、文明が発展し、やがて人々は海に出る。これが”航海時代”。この時、南北の大陸と──東大陸が発見される。だがこの東大陸で探査船が攻撃を受け、乗組員のほとんどが殺された。命からがら陸伝いに西に戻った者によって事態が伝えられ、これが切っ掛けで東西が戦争状態となって、時代は”分断戦期”に突入する。これは、南大陸を大いに巻き込んだ数十年の戦乱の時代となった、とされている」
まるで本の文字を追うように、ハロディの口から歴史が紡がれていく。真剣な眼差しで時折頷くカレンとヴァルター。対してタケルは、まるで神話を聞くように彼の声に耳を傾けていた。
「そして、混乱のさなか──海に大穴が開き、そこから見たこともない異形が出現し、人々を襲うようになる。戦争と異形との戦いで星は混沌と化し、時代は”海裂災期”へ。東西は一時休戦を余儀なくされ、自国の防衛に徹する他なくなった」
ハロディは一呼吸置くとソファに背を預け、足を組んだ。黙って話を聞く優秀な生徒たちに満足げな微笑みをたたえ、三人の興味をほどよく引きつけたところで再び説明を再開した。
「勇者がアルマを訪れたとされるのは、この海裂災期のさなかだね。記録によれば、アルマの領主を訪問し、力を見せつけ、異形の謎を解くと申し出たらしい。そして領主を通してアンスール王と謁見し、正式にその任を命じられたって話だよ。だから、勇者の出自は正確に言えば”不明”なんだ。突然この地に現れた──そう、君のように」
ハロディはそう言ってタケルを流し見た。タケルが目を瞠って肩を緊張させる。視界の端でカレンが瞳を輝かせたのを見たが、そんなことはお構いなしに心臓が重い音を立て、妙なプレッシャーがタケルを襲う。視線を泳がせるとヴァルターと目が合うが、彼は信じられないというように訝しげな目をタケルに向けていた。
「歴史好きの僕が言うのもおかしい話なんだけどさ。歴史っていうのは、必ずしも史実通りに記録されているとは限らないんだ。そもそも”勇者”っていう呼び名も後から付随したものだし。”自分は星を救いに来た勇者です”って自ら宣言するなんて、そんな人間、いるはず無いだろう?」
「──何が言いたいんだ?」
ヴァルターの視線が鋭く光る。彼の胸の内を察したハロディがカレンを横目に見れば、緊張の面持ちで言葉の続きを待っている。覚悟の決まったようなその表情を微笑ましく見やると、ハロディは人差し指を立てた。
「つまり、さ。かつての伝説の勇者の”目的”──これが、本当は史実とは違って”故郷へ帰ること”だったとしたら? ちょうどこの彼みたいに」
「──勇者が勇者として突然現れたのではなく、故郷に帰りたかった人物が成り行きで星を救うことになり、”勇者”とされた……ということか?」
「その線もあるって話ね。どのみち星を救ったってことはそれ相応の力があったってことだから、伝説になり得たんだろう。とにかく勇者の活躍で星の混沌が消え、平和が訪れた。──君たちの故郷である北大陸のイス帝国はこの海裂災期の後に築かれ、四大陸の国は平和協定を結び、貿易航路などの調整に入った。そこでストームラインが発見され……今に至る」
ハロディは再び立ち上がると、今度は飾り棚の端に畳まれていた紙を手に取ってソファに戻る。四隅の丸まった古びた紙を開くとそれは地図で、海を囲う主な四つの大陸が描かれていた。テーブルに置かれた地図に三人の瞳が集中する。ハロディは指先で絵をなぞりながら、主にタケルに向かって語りかけた。
「今いるのはこの──西の”アンスール大陸”。その上のここが、北の”イス大陸”。その隣が東の”オセル大陸”で、下が南の”ソウェイル大陸”。それぞれ主要国家の名前がそのまま大陸名になってるんだ。君の故郷のアカツキにも四つの国があると言ってたけど……これと似てたりする?」
タケルは腕を組み、地図を睨みながら口角を下げた。
「俺はこんな、全部が描かれた切絵図は見たこと無い。……だから聞いた話と、山の上から見た景色しか知らねぇんだ。四つの島は川で隔たれてるって話で、向こうのほうに見えるでっかい天峯山も、広い川の先にあった。──それだけだ」
「──君は海を見たことが無かったんだよね? となると、ノヴァほど規模は大きく無さそうだけど……でもやっぱり未開の地としては大きすぎる気がする。するとつまり、秘密の入り口があって然るべきだ。こうして君という少年が存在していて、アカツキという国の証左となるなら、尚更ね」
ハロディは地図を畳むと、自らの言葉を吟味するかのように小さく頷く。彼の思考に全くついていけないカレンたち三人は顔を見合わせた。
「あの……つまり、ハロディ様がおっしゃりたいことは、タケル様の境遇が伝説の勇者様と似ていて、ええと、その──」
「おい! 貴様の中だけで完結させようとするな。分かるように説明しろ!」
眉尻を下げて遠慮がちに問いかけるカレン。被せるようにヴァルターの怒号にも似た声が飛び、ハロディは後ろ頭を掻いて苦笑した。
「ごめんごめん。僕の中でちょっと、ある仮説が成り立ちそうだったからつい、ね」
「ではその仮説とやらを速やかに言え!」
「──最近の若者はえらい高圧的だなぁ」
ハロディの性格に痺れを切らしたヴァルターだったが、そんな彼の勢いに臆することなくハロディは笑いながらぼやいてみせる。年長者の余裕から来るものなのかは不明だが、そんな彼にタケルは内心で舌を巻いていた。
「僕の仮説はこう。何かが切っ掛けでアカツキとの秘密の入り口が開き、一人の人物がこちら側に突如現れる。その人物は訳もわからず帰る方法を探り、その仮定で異形の根源に触れる必要にかられる。結果、アカツキへ帰る事が叶い、双方が一件落着となる。そしてその人物は”伝説の勇者”として。ノヴァの歴史に存在を刻まれる。──かつての勇者とタケル君の状況を重ねるとして、勇者の実像で、こういう線は考えられないかい?」
「……ですが、”切っ掛け”とは?」
「──”海の大穴”だよ。君らも見たんだろう?」
再びカレンたちの視線がかち合う。荒波から伸びた、見たこともない異形。あれは突然変異や自然現象なのではなく、何か重要な”予兆”だったのではないか? そんな、漠然とした気付きがカレンとヴァルターの脳内に浮かび上がる。何も知らないタケルは、”勇者”と自分が結び付けられていく流れに心中で慄き、重く鳴り響く鼓動を抑えるために口元をひき結んでいた。
「実は”大穴”と”異形”の話を聞いた時からさ、これは王様に奏上すべき情報だと思ってたんだ。だって、あまりにもかつての異形──”モル”の出現と酷似してる。海を割って現れたモルはやがて陸地にまで影響を及ぼし、陸の生き物の姿すら変えた。そうやって、星は海裂災期に入ったんだからね」
「なっ──ではつまり、星に海裂災期が再来する恐れがあるということですか? 本当に、そんなことが?」
「ここまで来る時にも、妙な獣に襲われた。──あれは古代種でも何でもなく、大穴の影響で変貌した野獣の姿とでも言うのか? 海裂災期など書物の一説でしかないと思っていたが、まさか……」
戦慄の眼差しでハロディに問いかけるカレンの横で、ヴァルターが顎を摘んで独りごちる。あまりにも平和なこの時代に、遥か昔の混沌が訪れようとしているなどとはにわかには考え難い。しかし、彼らの見てきたものは確実に何かを示唆している。驚愕と困惑に塗れたカレンたち二人の表情をどこか面白そうに見つめてから、ハロディはタケルに視線を投げた。タケルの黒い瞳にも恐怖に似た困惑が滲んでいるが、歴史を知らない彼が何に慄くのかは手にとるように分かる。「さて、この奇妙な三人の感情をどうまとめようか」とハロディが頬を掻いた時、外から何やら喧騒が部屋の中に漏れ聞こえてきた。
「──おっと。何だか外が騒がしいね」
出窓を開き、ハロディが外を覗き込む。すると窓ガラスに隔たれていた喧騒が確かな音となって部屋に侵入し、カレンたち三人の気を引いた。
「門の外だなぁ」
ぼんやりと呟いたハロディがテラスへの扉へと移動し、外へ出ていく。そして、すぐ傍のカーテンウォールの上、城壁歩廊を見上げた。
カレンたちも顔を見合わせ、彼に倣ってテラスへ向かう。その時、壁に阻まれて轟音のような音が響いた。
「な、何だ⁈」
ヴァルターが身構える。矢継ぎ早に聞こえる轟音とともに地面が小刻みに揺れるのだ。足踏みするほどではないが、結構な衝撃だった。
「こ、攻撃を受けているのではありませんか?」
心配そうな声をあげるカレンだったが、ハロディは呑気に頬を掻いている。タケルは城壁歩廊の凹凸の隙間から時折見え隠れする兵士の頭に目を凝らすと、首を傾げた。
「──それにしちゃ、何か焦ってる様子は無ぇみたいだけど……」
ハロディがタケルを振り返って目を瞠った。このテラスはまだロワーサイドの中でも高い位置にあるが、それでも外壁は高く、歩廊は遥か頭上だ。そんな場所にいる兵士の様子を探るのは容易では無い。
「まあ、確かにそれほど焦ってはいないだろうねぇ」
ハロディが呟いた時、階下からテラスに向かって怒号が投げられた。この部屋を訪ねる前、進むのすら躊躇われた路地の方からだ。
「オイこらハロディ! またてめぇんとこのガキどもだろう! 気が散って仕事にならねぇ、今すぐやめさせろ!」
日陰に位置する建物の窓から顔を覗かせた強面の男がこちらに向かって怒りをあらわにしている。距離があってもかなりの迫力だ。ヴァルターがカレンを背後に庇い、部屋の中へと促す。タケルはその横で、呑気に笑っているハロディと共に怒号の主へ視線を向けた。
「もうすぐ終わるだろうから、ちょっと大目に見てくれないか?」
口元に手を添え、ハロディが大声で応える。男はそれには無言を返し、懐に手を入れた。間髪入れず、鋭くその腕を一振りする。ハロディとタケルは同時に素早く顔を傾けた。二人の間を閃光のように何かが通り抜け、出窓の枠に当たって跳ね返る。間一髪でガラスを割らず、硬質な音と共に地面に落ちたのは、石工の使う端切りだ。タケルは目を見開いたまま、突然飛んできたそれを見下ろした。
「──まったく、野蛮なんだからさぁ。……おーい、道具は職人の命だろ!」
端切りを拾い上げたハロディが頭上にそれを翳して振りながら声を掛けるが、窓は無情にも乱暴に閉じられる。肩を竦めて溜め息を吐くと、彼は手にしたものを懐に仕舞った。
「しかし君、よく避けたね」
感嘆の声を漏らしながら、ハロディが微笑む。タケルは頬を引きつらせながらぎこちなく一つ頷いた。
「お、おい! 何だあの輩は⁈」
部屋に避難していたヴァルターが、嫌悪感を露わにした表情でテラスの二人に向かって抗議する。ハロディはタケルの肩を何度か軽く叩くと、間延びした声で笑った。
「はっはっは。まあまあ抑えて抑えて。──とりあえず、申し訳ないけど門まで御足労願えるかな? ここに君たちだけ残していくのは忍びないからさ」
悠然と部屋へ戻るハロディとそれに続くタケル。ハロディは窓とテラスへの扉を施錠しながら、三人に向かって──特に、熱り立つヴァルターに向かって苦笑と共に請うた。ヴァルターがさらに説明を求めて詰め寄ると、両手を上げて防御する。
「一体どういう事なんだ⁈」
「ガウリーとアルトが無茶な修行してるんだ。たまに白熱しすぎて悪目立ちするから、そうなったら僕が止めに行かないと」
ハロディはそう言ってカレンとヴァルターの間をすり抜け、玄関へと向かっていく。途中振り返って手招きするおまけ付きだ。
「──……仕方がありません。カレン様、よろしいですか?」
苦虫を噛み潰したような表情でヴァルターが声を絞り出す。カレンは彼の疲れ切った様子に労わりの眼差しを向けつつも、深く頷いた。
「あの、修行ということですわよね? それって、喧嘩をなさってるわけでは無いのですよね?」
鉄扉でのバイロンの様子が気がかりだったのか、”喧嘩”という言葉に敏感に反応するカレン。凡その顛末を予想しているのか、ヴァルターはそんな彼女に対し、眉間を押さえながら首を横に振って応える。カレンが答えを求めるように彼の背後にいるタケルを見上げると、タケルは眉を歪めて目を伏せる。そして逡巡の後に言葉を捻り出した。
「ま、まぁ……修行ってのは、知らない人間からしたら喧嘩に見える時もある……のか?」
「おーい、行きますよぉ」
タケルが首を捻ったところで、玄関から声がかかる。三人は顔を見合わせ、ひとまずハロディの指示に従うことにした。
建物を出ると、通りには日陰が増えていた。ハロディを先頭にして、鉄扉へ続く階段へと坂道を上っていく。殿のタケルがそろりと後ろの路地を振り返ると、何やら黒ずくめの服装をした人物が道端の暗がりに置いてあるランタンの明かりを灯している。その人物と目が合いそうになるとタケルは瞬時に前方に振り向き、早鐘を打つ心臓を撫で付けた。
まだ日の当たる階段を上っていくと、途中で頭上から鉄の擦れる音と声が降り注いだ。日陰に沈むロワーサイドを眺めながら足を進めていた一行が一斉に顔を上げる。バイロンだ。兜に隠れて表情は不鮮明だが、動作と声音が焦りを物語っていた。
「お、おい、ハロ!」
「やぁバイロン。今日も平和で何より」
「平和じゃねえよ!」
しれっと微笑みを返すハロディに突っ込みながら、鉄扉の鍵を開ける。その手つきもどこか焦っているように若干覚束ない。ハロディは眉を上げるが、敢えて問わずに肩を竦めてみせた。
「今回はちゃんと外に出させたんだから、文句無いだろ?」
「そうだけど、そうじゃねぇよ!」
「は?」
話の噛み合わない二人に首を傾げながら、ハロディに続く形でカレンたちも鉄扉を抜ける。再び施錠したバイロンは大きく溜息を吐くと、槍を持つ手とは逆の手で精一杯の手振りを加えながら、ハロディに訴えた。
「俺も最初はアイツらの”いつものやつ”だと思ってたんだけどよ、──あ、ちなみに俺は今回アルトの方に賭けたんだがな。……まあそれはさておき、どうやら何か途中から様子が変わったらしいんだ。伝達によれば、なんか妙な生き物が現れて、奴ら二人が迎え撃ってるらしいんだよ」
途中不適切な発言を聞いた気がするがそれを無視して、ハロディたちは顔を見合わせた。すぐに反応が返らないことを訝しんだバイロンが眉を顰める。しかし気を取り直すかのように頭を振ると、さらに続けた。
「門番はとりあえず民を避難させて閉門したらしいんだが、兵士長に報告すべきか迷っててさ。でもアイツらそんなのお構いなしに、どうやら本気出してどっちが仕留めるか勝負事にしてるらしいんだよ」
「何で報告を迷うことがあるんだい?」
呆れたようにハロディが問うと、バイロンは肩を竦めた。
「だって単なる野獣なら、門番だけで片付けろって話だろ? わざわざ騎士様にお出ましいただく訳にはいかねぇってことだよ」
「妙な生き物ってことなら充分報告に値すると思うんだけどねぇ。ま、君らからしてみたらあの二人が片付けてくれたら万々歳ってわけか」
「けど、万が一ってことがあるだろ? 俺はここを離れられねぇから、お前行って様子見てきてくれよ。そんで、必要ならロイの所から助っ人とか頼んでさ──抵抗あるだろうがよ」
ハロディは肩を落として深く溜息を吐くと、腰に両手を当てた。その腰元の帯刀ベルトには曲剣が収められている。皮製の鞘から覗いたナックルガード付きのヒルトが、鈍い金色を日光に反射させていた。
「わかったわかった。多分大丈夫だと思うけど、情報ありがとう」
片手を振って、ハロディが噴水広場へ向かってさっさと足を進めてしまう。慌てて追いかけるカレンたちを、バイロンが呼び止めた。
「お、おい! あんたらも行くのか?」
戸惑いがちに尋ねるバイロンに、振り返った三人は矢継ぎ早に答える。
「ええ、確かめたいことがあるのです。どうかお気になさらず」
「あんな場所に残っていられるか」
「──俺も一応、戦えるから」
それだけ言い残し、路地の向こうに消えていく。取り残されたバイロンの足元が再び、遠い轟音と共に小さく振動する。
「い、一体なんなんだ、あの人ら──」
彼の茫然とした呟きは、喧騒に拐われて霧散した。




