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WORLD SMITH ─ 創星の勇者たち ─  作者: pochi.
第三章 はじめの一歩

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3-2


 ゆっくりと扉が開き、隙間から霧のようなものが微かに漏れ出て来る。それと共に漂う甘さと刺激が入り混じった、独特の香り。カレンたち新参者が息をのんで見守るなか、半身を覗かせたのは白い影だった。


「ほーう、なんじゃ……これはまた、珍客を連れてきてくれたのう」

「うわぁ!」


 ぞんざいに伸ばされた白髪、足首の辺りまでに達する白衣、薄い革製のグローブ。ランタンの明かりを反射して浮かび上がるシルエットは不気味だが、声を上げる程では無い。タケルが叫んだのは、部屋の主のオーラと容貌が原因だった。


 血の気の無い真っ白な肌、銀色に光沢を放っているようにも見える瞳、その周囲に色濃く刻まれた酷い隈。彫りの深い顔立ちは若々しいが、極度な猫背で、痩せぎすな身体が折り畳まっている姿。タケルはそんな目の前の男性を見て、”ある物”を連想した。


「ゆ、幽霊画だ──……!」


 鳥肌が立ったのか、痺れたように両肩を竦めて恐れ慄くタケル。そのまま硬直する彼に、周囲は小首を傾げた。


「ユーレイガ?」

「あ、足、あるよな……?」


 ハロディの問いかけに何度も頷きながら、タケルは彼の足元を確認する。──幸いなことに、黒い長靴はしっかりと石畳を踏み締めていた。


 ほっと胸を撫で下ろした時、傍のハロディが突然弾けるように笑った。片手で腹を抱え、もう片方で胸を押さえて苦しげに息継ぎをしながら、しばらく一人で笑い続ける。


「い、いや……ごめんごめん……ふふ、だってタケル君、多分コイツを亡霊か何かと勘違いしたってことだろ? 傑作だ。だってコイツの異名、”路地裏のファントム”だからさ……」

「何じゃ、失礼な小僧共じゃのう。何しに来たんか知らんが、ワシを揶揄いに来ただけなら──」


 覗かせていた半身をもう一歩乗り出し、ぬるりと扉からタケルを覗き込む。そして、肩を揺らして引きつったような笑い声を上げると、その男はよりいっそう口角を持ち上げる。


「──その身の無事は保証出来んぞ? ヒッヒッヒ!」

「もういいから、ルナ。面白がってないで、さっさと中に入れてくれ。話があって来たんだから」


 わざとらしくタケルを脅やかす男にハロディは、扉の奥を指差して苦笑した。




 鉄の扉の奥、数段の石段を下りた先は、”偏執狂の楽園”ともいうべき空間だった。中央の円卓を囲むようにして、壁際には本棚と木のカウンターが並んでいる。本も、大小様々なガラス容器も、その中に見える色とりどりの鉱石の欠片も、整理されているのかいないのか、側から見れば判別できない。円卓にはひとつのカップ、側には椅子が一脚。カップには飲みかけの黒い液体が残っている。ランタンの淡い光に照らされたその部屋は、家主の風貌からすると意外なほど、”温度”があった。


「コイツの名前はルーメン・ナーダっていって、こうしてここで日々魔法の研究をしてる。愛称はルナ。変な奴だけど、ガウリーよりも魔法には詳しいんだよ。──ちなみに歳は、ピチピチの二十一歳」

「と、歳下なのか──⁈」


 全員が部屋に収まると、物珍しげに周囲を観察するタケルたちの注目を集めながら、ハロディが円卓の椅子に座った男について紹介する。ヴァルターが驚愕に目を見開いて後ずさる横で、カレンは会釈をして微笑んだ。


「わたくしはカレンドラと申します。よろしくお願いいたしますわ」

「お、俺は、タケル」

「──し、失礼。ヴァルターという」


 物怖じしないカレンに触発され、勇気を振り絞ったタケルが彼女に倣う。居住まいを正したヴァルターも、小さく咳払いをしてそれに続いた。


 ルナはカップの中身を飲み干しながら、そんな三人を品定めするように見つめる。持ち上がる口角を抑えきれない様子だ。彼はカップをテーブルに置いて足を組むと、顎を摘んで小さく笑った。


「ヒヒ、確かになかなか興味深い連中にも見えるが……して、何用なんじゃ?」

「実はこのタケル君がさ、見知らぬ土地から突然現れたって少年なんだ。だから、そういう魔法があるのか聞きたいのと──魔法についての知識が全く無いみたいだからさ、色々ご教授いただこうと思ってね」

「ほーう、ほうほう」


 ぎょろりとハロディに視線を移し、ルナは口角を更に持ち上げる。そしてタケルに視線を戻すと、頭の先から爪先までゆっくりと瞳を移動させてゆく。


「まあ、一見そこらへんの小僧と大差無いがのう? 魔法の知識が無いのに魔法のように出現したということかい? 一体どんなふうに?」


 タケルは今、ヴァルターの服を借りている状態だ。確かに異国の人間とは分かりづらい。ルナは疑問を口にしたもののそこには言及せず、矢継ぎ早に出現方法について問いを投げた。


 タケルは反射的にカレンやヴァルターを振り返るが、思い直してすぐに眉間を寄せ、記憶を辿った。


「どんなふうに……よく分かんねぇんだ。景色が曲がって、光って、気付いたら船の上だったっていうか……」

「こちらの視点でも似たようなものだ。空間が歪み、重圧が襲い、閃光が走った後──いつの間にかその場所にいた、という具合だったな」


 拙いタケルの証言にヴァルターが捕捉を加える。すると、ルナは一度考え込むように俯いた。心なしか、歓喜を堪えるように肩が震えており、周囲が怪訝そうな視線を向ける。その瞬間、円卓を叩くようにして両手をつくと、ルナは突然立ち上がった。勢いで倒れた椅子を避けたハロディが「おっと」と呟く。


「空間を捻じ曲げ、重圧が生まれ、光を放ち、二点が一点に交わったということかい? 何じゃそれは、そんな魔法は聞いたことがないぞ!!」


 両手の拳を握り、蒼白な顔をほんのわずかに紅潮させ、声を上げるルナ。タケルたち三人は驚きに肩を竦ませるが、アルトやガウリーは微動だにせず、ハロディは苦笑しながら椅子を起こしてやっていた。


「いいかい? ワシが長年研究を重ねて来た”魔法”という現象に、一瞬で異なる場所へ渡るものなど存在しない! 何故なら現段階では、魔法は”性質を具現化するもの”と、”精神や身体に干渉するもの”の二つしか有りえんからじゃ。空間を渡る魔法があるならワシが使いたいくらいじゃよ。老体に鞭打って研究材料を採りに行かんで済むからのう」

「……研究材料採って来てるの僕らだからね。君、ここから一歩も出てないからね」


 昂揚した口調で手振りを加え、ルナがタケルに詰め寄る。その背後でハロディが半顔を携えてぼそりと小さく訴える。しかしルナの反応で判明したのは、やはりタケル出現の原理は解らずじまいということだ。わずかに肩を落とすタケルを、カレンは心配そうに見上げた。


「で、ではタケル様は、どのような方法で──?」


 気遣わしげにカレンが尋ねるも、ルナにとってはお構いなしだ。新たな発見の布石となるタケルに殊更な興味を抱いた彼は、周りのカウンターからとある器具を取り上げて円卓に置いた。丸底で、先端が筒状になったガラス容器を挟んで浮かせている木製の土台。ガラス容器の底には透明な小石がいくつも入れられている。自らの調子でどんどん話を先に進めていく様子のルナに面食らいながら、タケルたちは円卓を囲んでそれを覗き込んだ。


「こやつは”魔力の性質”を判別させる装置でな。ワシが開発したものじゃ。その名も”エウレーカ”! 最近では魔力が無いと思っておる輩も多いが、本来魔力とは誰もが秘めたる”素質”じゃ。それが”ナチュラ”というもの。駆使する能力を忘れただけで、この装置があれば有無を言わさず明らかにすることが出来る。──お前のナチュラが判明すれば、その空間を渡る魔法について何か分かるかも知れん!」

「ちょっと、おい……!」


 手首が掴まれたと気づいた瞬間、タケルは掌をガラス容器の下に押しつけられる。木のざらつきが手の甲を刺激する。つんのめるようにして円卓に肘をついたタケルは驚いて手を引こうとするが、意外にもルナの力は強かった。


「ヒヒ、怖がるでない。そのままじっとしておるだけでいいんじゃ。すぐに中の石が反応し、お前のナチュラが判明するからの」


 ごくりと唾を飲み、タケルはおずおずと体勢を立て直した。この先どうなるかの想像は全くつかないが、周りが止めないのでひとまず従うことにする。しかし、しばらくガラス容器の内部を凝視するも、一向に変化は現れない。しんとした空気が流れ、その場にいる誰もがルナに視線を送った。


「──馬鹿な!!」


 表情を歪め、頭を抱えて突然ルナが叫ぶ。反射的にタケルが肩を跳ねさせる。──その時だった。


 石が震え、ガラスの中で微かに跳ねる音がした。耳ざとくそれに気づいたルナがガラス容器にかじりつく。しかし反応したのはほんの一瞬で、それ以上、石が動くことはなかった。


「な、何じゃ今の動きは……見たことのない反応じゃ……」

「──え?」


 真鍮の金具を外し、ガラス容器を持ち上げて軽く振り、ルナが中の石を舐め回すような視線で確認する。呆気に取られたタケルたち新参者の三人は、顔を見合わせ、無言で互いの疑問を共有した。


「あの……タケル様のナチュラは、一体何だったのでしょうか?」


 両手の指を組み、カレンが真摯な眼差しでルナを見上げる。ルナはしばし石の観察を続けたが、やがて小さく溜息を吐き、容器を戻した。


「ちょっと待て。──アルト、念のためお前もやってみるんじゃ」

「……承知した」


 部屋の入り口付近で壁に寄りかかって腕を組んでいたアルトが、タケルと場所を代わって同じように容器の下に手を翳す。するとたちまち透明だった石が緑色の光沢を浮かべ、同色の煙を発生させる。煙は筒を出ると、一陣の風となってさっと霧散した。


 その不可思議な光景を目の当たりにしたタケルは、間抜けにも口を開けたまま硬直する。何の原理で煙が生じたのか、どうしてそれが突然消えたのか、彼の脳では想像することすら叶わなかった。


「ふむ。装置に問題は無いようじゃのう。やはり、あの振動のようなもんが小僧のナチュラを示す何かだということか……」

「ルナ、考察はいいから説明してあげなよ」


 顎を摘んで思考の海に飛び込むルナの肩をハロディが叩く。興奮を誤魔化すように瞼を閉じると、ルナは仕方なさそうに説明を始めた。


「──今のがこのエウレーカの正常な反応じゃ。魔力に反応した石が、ナチュラの特性を秘めた魔石と同色の煙を発生させる。今のは、風の魔石”ヴェルデライト”の反応じゃ。つまり、アルトのナチュラは”風”、ということになる」

「……だが、タケルの時は煙なぞ発生しなかったではないか」

「だから見たことがない反応だと言ったじゃろう? ルビライトなら赤、アズライトなら青、アンバライトなら黄、ルミナイトなら白、ノクタムならば黒! ワシが研究に研究を重ねた末に生み出したこの人工鉱石は、そうやってナチュラを吸って反応するはずなんじゃ。それが、見たこともない反応を示した。つまり小僧には未知の魔力が備わっておる可能性が高いということじゃ!」


 ルナはカウンターに散らばっていた魔石の欠片をかき集め、赤や青、黄に白と、ひとつひとつを指先でつまみ上げては周囲の面々に突きつけるように示しながら、熱のこもった口調で捲し立てた。しかし、今までのタケルから魔法の類を感じ取った事の無いヴァルターは懐疑的だ。しかしカレンだけは、城での一件の時のように瞳を輝かせ、憧憬の眼差しをタケルに向ける。タケルはその純粋な瞳がむず痒いのか、此度も複雑な表情でをれを受け止めた。


「タケル様は、あんなにも大きな海の異形を一撃のうちに討伐されたのです。きっと、わたくしたちの常識の範疇にない特別な力をお持ちなのに違いありません!」


 否応なしにカレンの中で、タケルが伝説の勇者であるという確証が積み上がっていく。それがなんとも居心地悪く、タケルは彼女がそうして自らを真っ直ぐ見つめる度に、心臓が重い音を立てるのを聞いた。


「何じゃ、何か不可思議な魔法でも使ったんか? 話が違うじゃろ」

「いや、弓だぞ。船から弓矢を放って異形に命中させた。──まああの嵐の中、軌道がぶれずに……まるで吸い込まれるように恐らく急所を仕留めたのは、魔法じみた正確さとも言えるがな」

「……なるほどのう」


 ヴァルターの証言に、タケルは自らの記憶を顧みた。突然嵐の船上に放り出され、異形を倒す必要に駆られ、無我夢中で矢を放った。あの時──タケルは無意識のうちに不思議な感覚の中にいた。まるで見たことも無い異形の全てを把握したような、奇妙な感覚だ。誘われるように瞳が異形の一点に固定され、何の躊躇もなくそこを狙った。荒れ狂う波は彼の中では凪いでいて、異形が倒れると同時に現実が戻ったかのように足元が揺れた。


 それが、”魔法”? ──タケルにはまるでその認識が無い。ガウリーが自由に自然を操っていた姿と、自分のあの時の行動が同じものだとは到底思えない。ただ素直に弓を引き、矢を放っただけだった。


「──まあ、すぐには答えは出せんということじゃな。それもまた一興じゃ! それにこの場には、実は小僧に限らず変わり者ばかりがおるからのう」


 ルナが、アルトとは反対の壁に寄りかかるガウリーを差し示す。そうして彼に注目が集まったところで、あの楽しげに引きつった笑い声をあげる。


「ガウリーの奴は、本来人間がひとつしか持つ事の出来んナチュラを四つ持っておる。その秘めたる魔力は強力じゃ。しかも、魔法を使うのに詠唱も必要とせん逸物ときておる」


 次にアルトを指し示す。そうしてルナは新参者たちに”変わり者の証明”をし始めた。


「次にアルト。こやつは魔法は使えんが、明らかに身体能力に影響がある。もともと風をナチュラに持つ人間は身軽じゃが、そんなレベルは越えておる」


 タケルは、エレヴァンでの救出劇や共に戦った森での光景を思い起こす。確かに彼女の動きは、まるでかまいたちのようだった。


「そして、ハロディ。こやつのナチュラは”光”。──知っての通り、最も希少なナチュラの持ち主じゃ」


 これにはタケルだけでなく、カレンやヴァルターも弾かれたようにハロディに視線を向ける。彼は戦闘している姿をカレンたちに見せたことは無い。それ故か、魔法の片鱗すら見出せなかった。


「そう言うルナは、ナチュラを持っていないしね」


 ハロディは自分に向けられる瞳をやり過ごし、ルナに話題を振った。ルナは肩を揺らして笑い、両腕を広げる。


「詳しくは言わんがのう。ワシは昔禁忌を犯したのじゃ。それが原因か、魔力の源を絶たれてしもうた。──じゃが、この星に魔力を帯びた魔石という存在がある限りワシの研究は継続され、その成果を駆使して間接的に魔法を操ることは出来る。ある意味”魔法使い”というわけじゃ」


 得意げに体を捻り、周囲の器具や本棚を見せつけるルナ。その発言の真意はタケルたち三人には掴めないが、乱雑に見えて細かく分類された機器たち、古びた本の数々、散らばるようにして置かれている図形や文字──それらには確かな説得力がある。


「あ、あの──すみません」


 ふとした間に、カレンが控えめに手を挙げた。一同の瞳が彼女に集中する。緊張した面持ちで周囲を見渡すと、カレンは小さくルナに問いかけた。


「その、エウレーカという装置に……わたくしも手を翳してみてもよろしいでしょうか……?」


 その発言に、カレンとルナ意外が顔を見合わせた。つい先刻の事を思い出す。「カレン様はナチュラを持たない」と──そう、ヴァルターは言っていた。


「何じゃ、お前は自分のナチュラを知らんのか。いいぞ、小僧やアルトがやっていたように手を置いてみい」


 何も知らないルナはそう言って快くカレンを促す。気遣わしげにヴァルターが見守るなか、カレンは一度胸を抑えると、その手を容器の下にそっと置いた。


 室内が静まり返る。その場に居る全員が、容器の中の石を凝視する。しかし石は動かず、光りもせず、煙を発することも無い。いくら待っても石は凪いだように沈黙している。それを見たカレンは一瞬だけ息を詰めた。ほんのわずかに胸の奥で何かが持ち上がったような気がして──音もなく落ちていくのを感じる。彼女はそのまま、何も言わずに手を引いた。


「何と、変わり者がここにもう一人おったとは! 石が反応せんじゃと? ヒヒ、さてはお前も禁忌を犯したクチかい?」


 ルナは楽しげに口角を持ち上げる。対するカレンはすっかり眉尻を下げ、両手を胸元に寄せている。代わりにヴァルターが弁明の声を上げた。


「そのような道を外れた行為をカレン様がするはずがないだろう! 変な言いがかりをつけるな!」

「何も理由がないなら、この小娘は小僧同様希少種じゃぞ? 魔法を忘れた者であっても、ナチュラは保持しているものじゃからのう」


 ルナはその後、ハロディやガウリー、ヴァルターにもエウレーカを試させた。ハロディの魔力は石を白く光らせ、煙は星屑のように消える。ガウリーの魔力は乱反射するように石を四色に光らせ、混じり合う色の煙は互いを打ち消すようにはじけて消える。ヴァルターの魔力は石を蒼く光らせ、煙は霧のように消える。ヴァルターもここまで一切の魔法を使っていない、魔法を忘れた側の人間だ。だがエウレーカはそんな彼のナチュラをも証明した。


 石が反応しなかったのはカレンだけだった。異国人のタケルや、魔法には明るくないアルト以外、各々が目を瞠る。悲痛な表情を浮かべるカレンを、ヴァルターは気遣うように見守る。室内が複雑な空気に満たされる意味をいまいち理解していないタケルも、滅多に見せない彼女のそのような表情に動揺していた。何故か彼女が今までとは別の場所に立っているような気がして、ひどく小さく見え、胸がざわついたのだ。


「──じゃあ、……簡単な魔法の授業が終わったところで、この先どこを目指すか相談しないかい? ルナ、タケル君は元居た故郷に帰る方法を探してるんだ。彼のナチュラが未知なものなら、この先どこでヒントを貰えばいいと思う? 僕は、とりあえず魔法の類を探るならアンスール王国かな、と踏んでるんだけど」


 ハロディの提案が沈んだ空気を一掃する。元々そんな空気に飲まれていなかったルナは短く唸ると、眉を歪めて苦々しくそれに答える。


「”未知”を探るには”知識”じゃ。ワシなんかよりももっと長く生きておる者どもを訪ねるのもいいかもしれんぞ」

「──もしかしなくても、”霧の谷の民”、だよな……?」


 つられるようにしてハロディが表情を歪める。二人の奇妙な様子に、胸の内の靄を振り払ったカレンが顔を上げる。


「──それは、長い旅になりそうだ」


 訝しむ異国の三人の横で、ハロディは苦笑いで頬を掻き、ガウリーは目を伏せる。アルトだけは仏頂面の上に歓喜のヴェールを纏っていたが、ルナですら忌々しげな表情を浮かべている。


 元から分かっていたことではあるが、旅はどうやら厄介なことになりそうだった。




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