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義理だと分かったら、妹がガチの恋愛脳になった。〜妹が妹じゃなくなれば、最強ヒロインができあがる  作者: 白井 緒望


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第98話 デッドオアかえる。


 「鈴音っ、脱衣所の鍵はかけたよな?」


 鈴音はポカンとした顔。


 「なにそれ?」


 一刻の猶予もない。

 俺は全力ダッシュで、脱衣所に飛び込んだ。


 「あっ、ちょっとぉ。カエルちゃんつけて!」


 フックに手を伸ばし、鍵をガチャンと下ろす。



 ガタ、ガタン!


 「おい。悠真。いるのか?」

 父さんの声。


 俺と鈴音どっちが答えるべきか。

 突きつけられた死の2択。


 もし鈴音が返事をしたら。

 父さんは、きっと放置しない。

 『一緒に食事会場に行こう』という。


 そして、鈴音が着替えている間、脱衣所の換気をする。日本一、浴室のカビが嫌いな男、篠宮 亮介。俺は彼の矜持を知っている。


 ここで採用すべきはもう一つの選択肢なのだ。


 俺と父さんは男同士。

 すなわち、俺なら全裸のまま、父さんをこの場から強引に離脱させることができる。


 そして俺は言うのだ。

 『換気は俺がしとくから。父さんは先に鈴音と食事してて』


 篠宮 亮介。

 俺と鈴音の小遣いに格差をつけた男。俺は彼の娘びいきを知っている。


 よしっ、これだ。

 数多のパターンから、唯一助かる線をみつけた。俺は拳を握った。


 俺は鈴音に目配せをした。

 視線を脱衣所の外に向け、手のひらで鈴音を押し戻すジェスチャー。鈴音に声を出すなというサインだ。


 「悠真! ちゃんとカエルちゃんで隠して! パパ、わたしお風呂にいるからっ! 先に行ってて!」

 鈴音が叫んだ。


 この人、マジか。


 「おいっ、そこに悠真もいるのか!?」

 父さんがドンドンと脱衣所の戸を叩いた。


 「どうすんだよ! もう言い逃れできないぞ」


 高校生の兄妹が全裸で父親とご対面とか、面白すぎるぜ。俺はこの世の終わりっていう気分なのに、なぜか鈴音はすまし顔だ。


 なにやら鈴音がスマホをいじり出した。


 浴槽ではタオルすら巻かないルールマニアの妹が、なぜ浴槽でスマホを持っているのかツッコミどころ満載だが、俺は静かに見守った。


 「あ、ママ。どこ? わたし、自分の部屋に着替え置いて来ちゃって。パパがいて脱衣所から出られないの。レストランに連れていって。え、おにいちゃん? さっきの可愛い仲居さんを探してどこかに行っちゃったよ」


 ドアを叩く音が止んだ。

 どうやら、鈴音の電話が聞こえたらしい。


 1分後。


 「お父さん。鈴音がお風呂から出られないって」という母さんの声がして、外は静かになった。


 俺が、家族旅行で仲居さんをナンパするやつという設定になっているのが気に入らないが、何はともあれ、助かったらしい。


 「お前なぁ。心臓が止まると思ったよ」


 「パパが来たから、大丈夫って思った。パパ、わたしの言うことなら信じてくれるし」


 俺と全く逆の認識だ。


 それにしても、娘を溺愛するほどに、娘になめられているという悲しい現実。父さんに教えてやりたい。


 すると、鈴音が言った。


 「悠真、先に出て。早くしないとママが戻ってきちゃう。ママが来たらもう言い逃れできない」


 俺からしたら、母さんに見つかった方がまだマシだと思うが、やはり、俺とは認識が逆みたいだ。


 すると、鈴音の視線がカエルで止まった。

 束の間の沈黙。


 鈴音が口を開いた。


 「ちゃんと隠れてる……かわいい」


 俺はカエルを持ったまま、逃げるように自分の部屋に戻った。


 『かわいい』か。

 それ自体は褒め言葉のはずなのに、悲しさと悔しさが同時に押し寄せてくる。


 『すごい』とか、やたら経験値が高そうなことを言われるよりは良いのだけれど。 


 どちらにせよ、微妙だな。


 「なに難しい顔してるの?」


 俺が着替えて居間で待っていると、浴衣姿の鈴音が出てきた。


 髪をリボンで結っていて、色っぽい。

 

 「浴衣、……どうかな?」

 鈴音が髪を何度もいじっている。


 「色っぽい」

 俺がそう答えたら、鈴音は頰を膨らませた。


 どうやら求める答えではなかったらしい。


 可愛いと言われれば情けない。

 凄いと言われれば嫉妬する。

 色っぽいと言えば、的外れ。


 ——とかくこの世は住みにくい。


 「ふっ」


 俺が苦笑すると、鈴音が言った。

 「なに、ニヤニヤしてるの? きもっ」

 

 『キモ』って久しぶりに言われた。

 前は本気で傷ついたけれど、今はイジリだって理解できる。


 「この旅館、ビュッフェが自慢らしい。早く行こうぜ」


 「ちょっと待ってよぉ」

 

 そう言いながら、鈴音がついてくる。


 

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