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義理だと分かったら、妹がガチの恋愛脳になった。〜妹が妹じゃなくなれば、最強ヒロインができあがる  作者: 白井 緒望


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第96話 2人の露天風呂。

 俺と鈴音は部屋に戻った。

 今度は、鍵もしっかり掛けた。


 視線を落とすと、さっきまで離れていたローベッドがくっついてダブルベッド化している。


 (さっきの仲居さんのお節介か……)


 ベッドを離そうとしたが、重くて1ミリも動かない。正直、腹がパンパンで無理をしたら吐いてしまいそうだ。


 (戻すのは後回しでいいや)


 とはいえ、お線香の匂いが残っている。

 食事の前に、さっぱりしたい。


 「鈴音は風呂、どうするの?」


 鈴音はお腹をさすりながら答えた。


 「えっ、もったいないし入るよ。ママ、まだお風呂にいると思うし」


 鈴音はスタイルがいい。

 でも、食べ過ぎると分かりやすくお腹が出るのだ。


 ふふっ。

 俺だけが知っている鈴音の数少ない弱点。

 その事実が、少しだけ嬉しい。


 「そっかあ。俺は部屋風呂にするわ。鈴音は大浴場な」


 俺は脱衣所に入った。

 板張りの壁で、洗面台は黒い陶器製。


 秘湯みたいだ。


 「そういえば、風呂はどんななんだろう」


 さっき各部屋を探検したのだが、お風呂は見ていなかった。


 ガラッ。

 引き戸を開けると、内風呂があって、その奥に露天風呂がある。


 「鈴音! 内風呂に露天風呂あるよ!」

 俺は脱衣所から顔を出して叫んだが、返事はなかった。


 鈴音は、もう大浴場に行ってしまったらしい。


 「部屋風呂、最高すぎるでしょ」


 俺は手早く服を脱いで、身体を洗うと、まずは露天風呂に入ってみることにした。


 檜の風呂。


 ざぶんと身体を沈めると、湯気が塊になって立ち昇った。木の匂いが、冷えた鼻先を温めてくれる。


 この旅館は、岸壁沿いにある。


 ざざんと押し寄せる白波を眺めていると、段々と時間が遅回しになっていくみたいだった。


 どんどんゆっくりになって、そのうちに音がしなくなった。


 「澪母さんが夢で言ってた色打掛って、どこかにあるのかな」


 風が止まった。

 ——夕凪だ。


 ポチャン。


 「色打掛、綺麗だよね。旦那さんの家の色に染まるって意味があるんだって」 


 振り返ろうとしたら、顔を前に押し戻された。

 この声、鈴音だ。


 「へぇ。知らなかった」


 「澪さんの着物。もし、わたしが着れるのなら、また篠宮の家に戻ってくるんだね」


 たしかに。


 澪母さんの着物を、同じ篠宮家の娘が受け継ぐ。それはすごくロマンティックなことだと思った。


 湯気がほどける。

 鈴音はクスクスと笑った。


 「大浴場よりも、今は悠真と入りたかったの」


 部屋の露天風呂は、1人用だ。

 大人2人で入るには、少し小さい。


 視界の端に、白い肌が見える。


 「バスタオル巻かなかったの?」


 「だって、脱衣所のところに、お風呂ではタオルを巻かないでくださいって書いてあったし」


 ちょん。


 鈴音の膝が背中に当たる。


 振り向くと、鈴音は肩までお湯に浸かっていた。


 かすかに出た肩が水面で揺れている。

 海風が吹くたびに、湯気のベールが散り散りになった。


 また波の音が始まった。


 いま鈴音にくっつかれたら、色々我慢できなそうだ。


 「あ、あのさ。今、くっつかれたりしたら……」


 すると、鈴音が言葉を被せた。


 「悠真は、海を見てて! 今はお腹ぽっこりだから、振り向いたらダメだから!」


 どうやら、杞憂だったらしい。


 俺はまた鈴音に背を向けて、顎までお湯に浸かった。


 チャポンッ。


 鈴音が動くと、そのたびに小さな波が背中に当たる。オレンジに染まっていく海を眺めていると、鈴音が俺の肩に触れた。

 

 「悠真と一緒に入るの、久しぶりだね」


 「子供の頃以来だしな」


 「うん。今年は良い年でした。悠真とまた仲直りできた。もう、ずっと仲良くできなくて、そのまま大人になっちゃうと思ってた」


 俺と鈴音の間で、小さな波が揺れる。

 鈴音の肌が、微かに背中に触れる。


 「悠真。こっち向いて?」


 「いいのか?」


 「うん。近づいたからお腹見えないし」


 俺は唾を飲み込んだ。


 俺は振り向いた。


 真っ白な肌が黄昏で輝いている。

 鎖骨に当たって砕ける白波。


 目が合うと、鈴音はニコッと笑った。


 「ねっ。これで遊ぼ」 

 

 その手にはオモチャのカエルが握られていた。


 「蛍と朱音ちゃんとだけズルい。わたしとも遊んで欲しいんだもん」


 そこにいるのは、妹ではなくて。

 少女と大人のアンバランスにたゆたう、1人の女の子だった。


 俺は思い知った。


 ——鈴音から妹を引き算して残るもの。

 それは、俺にとっての”最強ヒロイン”なのだ。

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