第85話 鈴守りは恋守り。
すると、蛍が口を尖らせた。
「ウチだって『お前は可愛いんだから、もっと自分を大切にしろ』って言われたし」
いや、確かに言ったけどさ。
ニュアンス!
朱音も言い返す。
「うちだって。毎晩、ベッドで頭撫でてもらってるし!」
いや、たしかに。
毎晩、朱音がベッドに侵入しようとするから、頭を撫でてなだめて追い返しているけれど。
だって、そのまま追い返したら、泣くじゃん。
そもそも、朱音は部外者でしょ。会話に参加しなくていいから!
「最低ですね」
愛良の声。
さっき会ったばかりの女子に、早々に嫌われてるんですが。……あの、俺、もう帰っていいですか?
「ほら、そこ。脱線しない。スケジュールが立て込んでるんです」
山口はカメラを構えながら、そう言った。
石畳を歩く2人。
真剣に見つめていた山口が口を開いた。
「どうもしっくりこないですね。2人は神社にどんな思い出がありますか?」
蛍が答える。
「お祭りかなぁ。鈴音と何度も来たし。りんご飴食べたりとか」
「ふむ。確かにお祭りといえば、露店か。でも、今からじゃ厳しいな。せめて、りんご飴の現物だけでもあれば……」
山口は眉間を押さえた。
俺は手を上げた。
「なぁ。この前買った鈴のお守りじゃダメか? 一応、直近の思い出だし」
2人のバッグには、この前の鈴守がついている。朱音にお守りを外してもらった。
朱音が鈴守を2人に渡すと、鈴音と蛍は笑顔になった。
カシャ。
「いいね。自然な笑顔。木々の揺れの空気感も出てる。篠宮くん、ナイス。もっとレフあてて。鈴音さんの瞳の色も出していこうか」
カシャカシャ。
山口はさらに何枚か撮ると、人差し指と親指でOKサインを出した。
「篠宮さんは、女の子3人に同じ鈴の恋守りを持たせている……と」
愛良の声。
なんか、ますます嫌われてるんですけど。
誤解を解かねば。
「な、朱音。これ、恋守りなんかじゃないよな?」
すると、朱音は首を傾げた。
「これ、恋守りやよ? ピンクだし、ここにハートマークついてるでしょ?」
たしかに紐との継ぎ目に、ハートが付いている。
「うち、悠真にセカンドって言われたけど、正々堂々と勝負できるように、お守り渡したの! うちが一番好きな言葉は『フェアプレイ』。どう? 偉い?」
そう言うと、朱音はドヤ顔になった。
さっき母さんを買収して、自分だけ隠し味を手に入れようとしてたのは、どこの誰ですか?
視線が俺に集まる。
針の筵とは、まさにこのことだ。
でも、お守りを選んだのは朱音だし。恋守りだなんて、今この瞬間まで、全く知らなかったし。
蛍が口を尖らせた。
「ウチ、セカンドなら我慢できるけど、サードはイヤぁぁ。それじゃ、ただの都合のいい女の子」
「三股……と」
愛良は声のトーンをさらに下げて、言葉を続けた。
「しかも同じお守りをもたせて競わせるとか悪趣味。恋愛蠱毒ですか?」
蠱毒って、壺に無数の虫をいれてサバイバルさせるやつだよな?
恋愛蠱毒……。
言葉選びの棘と嫌悪感がすごい。
お守りは朱音が選んだって言っても、もはや、どうにもならなそうだ。
山口の声。
「ちょっと。蛍さんが泣きそうじゃない。篠宮くん、ほんと何やってるのよ」
俺、本気で何もしてないよ?
でも、怒られてる。
「あの、俺。急用を思い出したので、帰っていいですか?」
俺の言葉に、鈴音、蛍、朱音は声を揃えて言った。
「ダメ!」




