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義理だと分かったら、妹がガチの恋愛脳になった。〜妹が妹じゃなくなれば、最強ヒロインができあがる  作者: 白井 緒望


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第7話 妹を分析してみた。

 日本酒チョコは一粒で記憶を溶かす。甘美な熱が、鈴音との距離をほどく。


 俺は“観察ノート”をつけるみたいに、視線・指先・呼吸を順に拾い、鈴音の機嫌の式を解こうとする。


 ——分析なんて、好きの言い換えだと本当は知りながら。



 ********



 「ちょっとトイレ行ってくる」


 俺は今、スーパーの出入り口で鈴音を待っている。思えば、鈴音は妹だし、女性として客観的に見たことがない。


 暇だし、妹分析でもして時間を潰そう。


 まず、顔。

 色が白くて、目が大きい。パッチリ二重でまつ毛が長くて、気のせいか他の子よりも黒目が大きい気がする。確実に美少女のたぐいだろう。


 次に身体。

 胸が大きくてウエストが細い。健康的な太ももで足首は細い。本人は足が太いからイヤと言っていたが、むしろ、普通にスタイルがいい。俺は知っている。鈴音は、たまにお風呂をサボっても、次の日も良い匂いなのだ。


 そして内面。

 口が悪くて凶暴。服は派手そうなのに、生真面目っ子。実は努力家で勉強もスポーツもできる。性格は、俺以外には優しい。あと、たまにツンデレかも。


 改めて客観視すると、ハイスペック美少女な気がする。まぁ、妹なのと口の悪さはあれだが。



 「お待たせっ」

 鈴音が戻ってきた。


 「なに、あの子。すごく可愛いし、芸能人?」

 見知らぬオバチャンたちが、鈴音の噂話をしている。


 いや、ほんと。

 オバ様方の言う通り。


 すると、鈴音が俺を睨んだ。

 「おい、お前」

 なにやら怒っているぞ。


 「なに?」

 俺、何かやらかしたっけ。

 

 「わたしが出てきた時、他の女のことを見てたでしょ。鼻の下をのばして、ニヘラニヘラしてた。キモいしあり得ないんだけど」

 

 とんだ言いがかりだ。

 俺はむしろ、鈴音を見ていた。


 「わりーかよ。俺の勝手だろ」


 イテッ。


 鈴音に脛をけられた。


 「こんな可愛い妹がいるのに、生意気すぎ。このDTやろー」


 (ほんと口が悪いな。この人)


 言われっぱなしも悔しい。

 少しくらいは言い返してやる。


 「鈴音のことだけ見てたんだけど」


 「ふにゅ」


 ん。鈴音から変な効果音がでたぞ。


 鈴音は俯いて黙ってしまった。

 時々、チラッとこっちを見るが、目が合うと前髪で顔を隠そうとする。


 さっきの分析に1つ追加するなら、鈴音はすぐにやきもちを焼く。



 家に帰ると、俺は自分の部屋に追いやられた。鈴音はエプロンをつけて、忙しそうにしている。夕食を作ってくれるらしい。



 しばらく待っていたが、何の音沙汰もない。

 時計を見ると、1時間半近く経っていた。


 ちょっと遅すぎる。

 俺は腹が減ってしまった。


 

 ギシギシと階段を上がる音がして、ドアが開いた。

 

 「腹へっちゃったよ」


 俺が立ち上がると、鈴音は目に涙をためて、口を尖らせていた。


 「……夕食、作るのやめた。ごめん、デリバリー頼むから」


 俺は階段を降りた。


 「ち、ちょっと。見ないで!!」

 鈴音は俺の腕を引っ張った。


 

 実は、なんでもできる鈴音にも欠点はある。


 それは料理だ。


 「俺は兄貴なんだよ? お前の実力くらい分かってるって」


 キッチンでは、皿の上に乗った暗黒物質たちがお出迎えしてくれた。


 これはまた……。

 今日は一段と凄いな。


 気合いに比例したのか、いつもより深い漆黒をまとった料理たち。


 俺は席について言った。

 「ほら。席につけよ。早く食おうぜ。腹へっちゃったよ」


 「そんなの食べたらお腹壊すよ」

 鈴音は俯いてしまった。


 これは、何の料理なのだろう。


 お皿に乗っていて丸くて黒い。横にはケチャップが置いてある。


 ……オムライスかな。

 うん。きっと、オムライスだ。


 俺は鈴音の制止を振り切って、一口食べた。


 ちょっと塩が強いけど、悪くはない。

 「いや、普通に美味いよ? お前も食ってみろよ」


 鈴音は半眼になって一口食べた。

 「嘘つくなよ……。こんなのマズイに決まってるし。って、あれっ」



 「なっ?」

 俺は2口目をスプーンに乗せた。


 「うん。見た目は悪いけど、美味しいっ!!」

 鈴音は笑顔になった。


 「だろ?」


 「見た目は冴えないけど、中身は好き。アンタと一緒。ふふっ」

 鈴音は嬉しそうだ。 

  

 たぶん俺を褒めているつもりなのだろうけれど、軽くムカつくのは気のせいだろうか。

 

 ってか、コイツ。

 『いま初めて食べました』みたいな雰囲気なんだけど、味見してないのか?


 「ありがとう。そういえば、鈴音って味見とかしないの?」


 「しない。だって、レシピ通りに作ったらその味になるに決まってるし」


 なるほど。

 決まってないから、暗黒物質が生産されるんだがな。


 今度、一緒に料理してやるか。

 一緒に作るのも、子供の頃みたくて楽しそうだし。


 「ごちそうさま」


 食べ終わって、2人で並んで食器を洗う。俺が洗った食器を、鈴音が拭いてくれる。


 「なんかこうしてると、昔みたいだな」

 俺がそう言うと、鈴音は何も言わずにくっついてきた。じんわりと体温が伝わってきて温かい。


 いつも口が悪いのに。

 たまにすごく女の子っぽい。


 調子が狂う。


 片付けた後は、2人でテレビを見ることにした。

 

 すると、鈴音が手を叩いた。

 「気になる映画があるんだけど、一緒に観てくれない?」

 

 「別にいいけど」

 

 鈴音ってどんな映画が好きなのだろう。


 テレビのリモコンに話しかける鈴音。

 選んだ映画は、意外にもホラーだった。


 「これ、ママがお友達からもらったんだって。勝手に食べちゃおう」

 鈴音はそう言うと、どこからかチョコレートを持ってきた。一粒ずつ銀紙で包んである高級そうなチョコだ。


 「これどこにあったの?」


 「床下収納。ママ、あそこに食べ物を色々と隠しているんだよ」


 鈴音はチョコをつまんでニヒヒと笑った。

 俺も笑い返した。


 子供の頃みたいだ。

 ……一緒に悪戯するのって楽しい。


 

 「早く観よっ」


 電気を消すと、鈴音は猫のように寄り添ってきた。


 映画はビックリさせる系のホラーで、時々、いきなり効果音が大きくなる。鈴音はその度にビクッとして、シャンプーのいい香りがしてくる。


 鈴音は驚くたびにチョコを食べている。

 ストレスで甘いものが欲しくなるのかも知れない。


 (やたらビビってるけど、鈴音は本当にホラー好きなのか? あっ、このチョコ、美味しいかも)


 暗くてよく見えないが、チョコレートの中には、風味のある甘い液体が入っている。


 映画が終わって鈴音を見ると、目をギュッとつむって胸を押さえていた。


 俺は聞いてみることにした。


 「鈴音って、ホラー好きなの?」


 鈴音は顔をフルフルと横に振った。


 「好きじゃない。でも、友達が、この映画を観たあと、彼氏と進展したって言ってたから」


 鈴音は両膝を何度かくっつけてから、太ももに手を置いた。


 進展?


 どういう意味だ?



 クンクン。


 なんだろう。お酒の風味がする。

 これってもしかして……。


 鈴音がチョコの包み紙をはがして、一口かじった。


 「おい、鈴音。そのチョコ、酒入ってないか?」


 「え、でも。わたしブランデーボンボンなら食べたことあるし、別に平気だけど」


 「これの箱どこ?」


 俺はチョコの箱を見た。

 すると、表面に日本酒チョコと書いてあった。そのすぐ下には「日本酒の風味をいかしたチョコ」とある。


 電気を消していたから、違いに気づかなかったみたいだ。



 その時。


 「ポンッ! 鈴音さん。なにかご用意ですか?」


 不意にテレビから大音量が流れた。


 「キャアア!!」


 鈴音は飛び上がって、体を押し付けてきた。

 汗ばんだ肌が、俺の右肩に触れる。


 「AIの音声だよ。驚きすぎ」


 俺がそう言うと、鈴音は少しだけ体を離して俯いた。


 2人の指先が触れている。

 心なしか、鈴音の指がいつもより温かい。


 鈴音が顔を近づけてきた。

 「ねぇ、頭がクラクラするんだけど」


 「チョコ食べ過ぎだよ」


 鈴音は手を止めたが、かじりかけチョコの欠片から液体が垂れた。


 透明な雫がツーっと胸元に滑って消えると、鈴音はシャツの襟を開いて風を入れた。


 「なんか暑くてベタベタするんだけど……」

 

 俺を見つめる鈴音の目は、何かを訴えるようにトロンとしていて、頬は櫻色さくらいろに色付いていた。


 鈴音の潤んだ瞳に、俺が映り込んでいる。



 ごくり。

 俺は唾を飲み込んだ。


 ……もしかして、進展ってこういうことなのか?

 


 ——その夜、鈴音に渡された一枚のメモ。

 ただ1行の「I, she, tell U」。

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