第66話 朱音歓迎会。
風呂から出ると、食事の用意がされていた。
というか。
すでに食事会が始まっていた。
ピザの空箱に、寿司の桶。
フライとハンバーグに添えられていた千切りキャベツ。
豪華な夕飯の残骸の数々が俺を迎えてくれた。
父さんは、朱音にお酒を注いでもらってご機嫌だ。ほんと、世間知らずのお嬢様のくせに、朱音は要領がいい。
それにしても、俺なしで楽しそう。
俺、ほんとは、よその子なのかな……。
すると、鈴音が隣の座布団をトントンとした。俺が座ると、鈴音が身体を寄せてくる。
「ロケットの中身、何だったの? 朱音ちゃん、なんかはぐらかすし」
「い、いや。俺もよく分からないな。個人情報っていうか」
自分の写真が入ってたとか、言えないでしょ。
「ふーん。ま、いいけど。そういえば、お父さんが飲んでるお酒、朱音ちゃんがお土産で持ってきてくれたの。金沢の日本酒らしいよ。わたしたちには、お菓子だって」
「あいつの今の家って、横浜だろ?」
「朱音ちゃん、子供の頃は金沢にいたじゃない? その関係で本家の方にも、行く機会が多いみたい」
「あぁ、朱音の家って、金沢の名家だったもんな」
「そうそう。すごいお屋敷だよ」
「鈴音は行ったことあるんだっけ。ってことは、うちらもセレブの家系なのか?」
「ママの実家は由緒あるらしいけれど、ママは実家と仲良くないし。それに、名誉以外のお金的な部分は、朱音ちゃんのパパが一代で築いたものでしょ? わたしたちは、ザ・庶民だね」
鈴音は笑顔になった。
……機嫌を直してくれたみたいで良かった。
「そういえば、母さんって、なんで実家と不仲なんだ?」
「美岬家は、代々、当主が娘の許嫁を決めるの。それで、本当はママにもそういう人が居たみたい。でも、ママはパパのことが好きで。実家の意向に逆らって、勘当同然になっちゃったんだって」
なるほど。
本来なら、俺も美岬家と無関係ではない。でも、その意識が希薄なのは、俺は母さんの実家と接点がないからだ。
美岬家からすれば、父さんは、娘を勘当した原因になった男だ。しかも、その男は別の女(澪母さん)を選んだ。
俺はその息子。
子供の頃、鈴音は法事で母さんと金沢まで行ったことがあったが、俺と父さんは留守番だった。
……そういうことか。
腹に落ちた。
「悠真? なんか悲しそうな顔してる」
鈴音が心配そうに見ている。
こんな祝いの席で墓掘りすることじゃない。
「大丈夫。さ、俺らもご馳走をいただこうぜ?」
すると、鈴音が俯いた。
「ごめん、悠真。わたしね。すでにお腹いっぱいなの」
「そ、そうか」
「だから、食べさせてあげるっ」
鈴音は、かっぱ巻きを箸でつまむと、俺の口に近づけた。
「はい。あーん」
横を向けば、父さんと朱音の熱視線。
「わたしの『あーん』は食べてくれないの?」
正面には、鈴音は寂しそうな顔。
……胃が痛くなりそう。
ムギュ。
鈴音は強引に俺の口にかっぱ巻きを押し込んだ。
「悠真、お前」
父さんの熱視線が怒りの視線に変わりつつある。酒がまわってるのかも知れない。
ムギュ。
今度は、母さんが父さんの口に寿司を押し込んだ。
「モグモグ……母さん、私は悠真に話が」
父さんがそう言うと、母さんが二つ目の寿司をつまんだ。
「お父さん。わたしの『あーん』は食べてくれないの?」
母さんは父さんに甘えた顔をした。
そして、直後に俺の方を見て言った。
「悠真たちは、解散。部屋割りとか色々決めないとでしょ? 荷物を置くのはいいけど、夜に寝るのは別問題。嫁入り前の女の子なんだから」
母さんも、どこまでが冗談なのか分かりづらすぎる。でも、この場から脱出させてくれるのは助かる。
「んじゃあ、俺らは寝るよ」
俺たちは立ち上がって、ダイニングから出た。
すると、父さんが追いかけてきた。
「朱音ちゃん。ここを自分の家だと思いなさい。それと、日本酒ありがとうな」
父さんなりの気遣いだ。
朱音は振り返った。
俺からは背中しか見えないが、きっと笑顔。
「はいっ! うち、亮介お父さんのことも、大好きやよ。……これからよろしゅうね」
父さんの顔がデレッとした。
ほんと、娘が2人に増えた父親の顔。
この瞬間、朱音はうちの父さんを、絶対的な味方に引き入れたのだ。




