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義理の関係だと分かったら、妹がガチの恋愛脳になった。〜妹が妹じゃなくなれば、最強ヒロインができあがる  作者: 白井 緒望


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第64話 稽古と朱音

 「悠真お兄様……わたしを守るために?」


 朱音はそう言うと、手に持っていたゴミを落とした。


 瞳が濡れた宝石みたいだ。

 キラキラしている。


 でも、ごめん。

 空手をするのには色んな理由があるけれど、朱音は入ってない。だって、今朝、数年ぶりに会ったばかりだし。


 しかし、そんな状況でも、自分のためと思えるポジティブさは、素直に羨ましい。


 「こほん。鼻の下のばさない」

 更紗さんに怒られてしまった。


 「じゃあ、軽く蹴りを打ってきて。まずは得意だった上段蹴りをものにしようか」


 更紗さんがミットを構える。


 「ここね。ここに正確にヒットさせて」

 ミットの一部分を指さして、更紗さんはそう言った。


 「はい」

 俺は呼吸を整える。


 大きく息を吸う。

 すると、畳の青い匂いが鼻から抜けて、肺の底まで落ちてくる。



 「シッ」


 腰の回転。

 同時に左足の親指に荷重を移す。


 蹴り足をコンパクトにまとめて上げ。

 上半身を反対方向に捻る。


 上半身と蹴り足を同時にぶつけるように。


 左足の親指がギュッと僅かに沈む。

 撃ち抜け。



 ボフッ!


 ……え。

 音がこもってる。


 自分の蹴りじゃないみたいだ。


 「蹴りの線がブレてる」

 更紗さんは言った。


 俺は思い知った。

 これが今の俺の実力。


 この前の組み手の時は、きっと。

 更紗さんが、俺が蹴りやすいように誘導してくれていたのだ。


 稽古をつけながら、その都度、更紗さんがアドバイスをくれる。


 「打撃にも、陰と陽があるの。こもった音は陰の音。無駄のない通りの良い攻撃は、陽の音がする。本来の悠真の蹴りの音は、すごく抜けが良いの」


 陰と陽?

 弓道みたいだ。


 弓道も空手も武道だ。

 通ずるところがあるのかも知れない。


 「はぁはぁ」

 30分ほど続けると、俺の息はすっかり上がってしまった。


 「今日はこの辺にしておきましょう。威力よりも速度と正確性。それが悠真が目指すべき空手よ」


 「男子空手だと、組み手の接近間合いで押し負けられないし。パワーが必要じゃありませんか?」


 「マッチョはあまりタイプじゃない。……こほん。そんなことはないよ。現にわたしの突きも蹴りも、現役の時とキレは変わらないし。ポイントを取るなら、むしろその方がいい」


 「はい。分かってるつもりです」


 「あなたの本来の空手は、相手を倒す空手。フルコンタクトなら全国レベルの稀有なセンスと言ってもいい。あの事故も……いや、これは今更しても仕方のない話ね」


 更紗さんは首を横に振って、言葉を続けた。


 「だからこそ、狙って外すためにコントロールの精度が必要になる」 


 「はい」


 「それと、悠真。部活に戻る算段はついてるの?」


 高校空手の大会は、殆どが部活経由でないと参加できない。


 「斉藤から顧問に話してもらってます」


 すると、更紗さんは首を傾げた。


 「翔太も次は優勝狙えるかもって、喜んでたわよ。鷺乃谷のコーチって、部外者でもできるんだっけ?」


 「できたと思いましたよ。たしか、学校の認定があれば顧問もできたかと」


 さっき、写真部の件で、山口がそんなことを言っていた。


 「そっか。ちゃんと家でも練習してね。悠真なら分かってると思うけど、高校空手は甘くないし、あなたでも蹴りなしじゃ勝ち抜けない。壁でも柱でもいいけど顔くらいの高さにマークをつけて、蹴りのフォームを反復するの。そうね。毎日50回3セットはするように」


 そう言うと更紗さんは、正拳突きをした。


 ヒュンッ。

 振り抜いた風が耳の横を抜ける。


 これが陽の音。



 壁とか柱。普通に振り切ったら足が壊れる。

 きっと訓練でも寸止めをしろって意味だ。



 「昇段試験の日程も送っておくね」

 そう言って、更紗さんは手を振った。


 

 「ありがとうございました」

 俺は礼を言って、道場を後にした。


 外に出ると、辺りはもう真っ暗で。

 首元を抜ける風に、肩がすくむ。


 (3セットか。結構、ハードだ。それだけで右足が痙攣しそうなんだけど)


 「はぁ」

 俺は息を吐いた。



 「寒いね」

 鈴音がマフラーに顔を埋めて、手袋越しに左手を握ってきた。


 「寒いよ」

 朱音が口を尖らせて右手を握ってくる。朱音は手袋をしていないから、指先が冷んやりしてる。


 「指の間も寒い」

 朱音はそう言うと、俺の指の間に自分の指を押し込んできた。


 その様子を見ていた鈴音は手袋を外した。


 「わたしも指の間が寒いんだけど」

 そう言って、手を繋ぎ直す。


 鈴音の指はホカホカで、安心する。


 「寒いでしょ?」

 鈴音が、自分のマフラーを外して、朱音に巻いた。


 すると、朱音はマフラーを鼻先に当てて、嬉しそうに笑った。



 「あ、……雪だ」

 俺は空を見上げた。


 紺色の空に、綿毛のような雪が舞っていた。


 

 「初雪だね」

 鈴音が寄り添ってくる。



 「わたし、雪、大好きやよ!」

 朱音は手を離して前に出ると、くるくると回った。


 金沢弁が出てるし。

 自分でも気づいてないのかな。


 雪が音を吸い取るのだろうか。

 すごく静かだ。

 

 去年の初雪は1人で見たのだけれど。

 今年は3人。


 ずいぶんと賑やかになって。

 すごく嬉しい。



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