表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
義理の関係だと分かったら、妹がガチの恋愛脳になった。〜妹が妹じゃなくなれば、最強ヒロインができあがる  作者: 白井 緒望


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

61/98

第61話 美容室『西園寺』


 パタパタと音がして、引き戸が開いた。


 更紗さんだ。

 髪型がショートに変わってる。


 黒髪ロングも良かったけど、今のも良い感じだ。


 「いらっしゃ……あら? 随分と可愛い道場破りさんね」


 更紗さんは、朱音を見てそう言った。


 「すいません。道場破る気ないです。こいつ、従姉妹です」


 「ふぅん。また新しい子を追加……と」


 更紗さんは耳元に口を近づけた。

 でも、普通の声量。きっとわざとだ。


 「あんなに『綺麗』だって言ってくれたのに、他の女の子のことばっかり見ないでよ……」


 oh。

 ハスキーボイス。

 

 すると朱音がむくれて、それを見た鈴音も口を尖らせた。いちいちリアクションしてると、雑談だけで1日が終わってしまいそうだ。


 「あの、髪の毛の件。ありがとうございます」


 俺は頭を下げた。

 更紗さんは笑顔を返してくれた。


 「いえいえ。久しぶりだから失敗したらごめんね。さっき、自分の髪で手を慣らしておいたのだけれど」


 それで髪型が変わっているのか。


 更紗さんは、聞くまでもなく普段のカットは美容院だろう。もしかして、俺のために短く切る練習をしてくれたのかな。


 「控え室は狭いから、2人は道場の方で待っててね」

 

 道場に上がると、俺だけ控え室に通された。中には大きめの鏡があって、灯油のストーブの匂いがする。


 鏡の前に丸椅子があって、座ると髪に櫛を入れてくれた。


 「随分と伸びてるわねー」


 「最近、切ってなかったかもです」


 ストーブの上にはヤカンがあって、湯気が出ている。


 シュッ、シュッ。

 ハサミの刃が重なる音が響く。


 「あの、更紗さんの髪型、俺のために? すごく似合ってます」


 背中越しにクスクスと聞こえる。


 「ありがとう。悠真って、人付き合いは下手なくせに、結構たらしだよね?」


 「なっ……」


 穏やかな空気。


 時折、背中に更紗さんの温もりが伝わってきて、俺は懐かしい気持ちになった。


 更紗さんは前とはガラリと雰囲気が変わってしまった。でも、俺は変わらずに更紗さんを慕っている。


 これは、たぶん。

 ——俺は更紗さんを、1人の人間として尊敬してるからなのだろう。



 すると、更紗さんにトントンと肩を叩かれた。


 「悠真。悩み事? さっきの子、優しそうだね」


 更紗さんが屈んだ拍子に、俺の耳に更紗さんの前髪が触れた。自分の心拍数が上がったのが分かって、少し気まずい。


 「そうですか? 朱音はとんでもない乱暴者ですよ」


 「わたしは、他人を見る目には自信があるんだ。あの子、すごく良い子だから大切にしてあげてね」


 「それって、娘を託すお母さんみたいですよ?」


 「……そこまで年上じゃないんだけどな」


 そう言って、またチョキチョキと小気味よくハサミを動かす。俺は更紗さんに聞いてみたいことがあったのを思い出した。


 あの司書さんのことだ。


 「そういえば、桜坂って人知ってますか? 鷺乃谷高校のOGらしいので、更紗さんと同い年ですし、何か知ってるかなって」


 すると、ハサミの音が止まった。


 「まどか……?」


 名字を聞いて名前が返ってきた。

 親しいということか。


 「はい。桜坂まどかさんです。うちの高校の図書室で働いてるんですよ」


 「そっかあ。図書室ね。懐かしいな。まどか、元気にしてるの?」


 ちらっと見える更紗さんの横顔。

 すごく優しい目をしている。

 

 「やっぱり知ってるんですね。どんな人だったんですか?」


 「特別に親しかったわけじゃないよ。部活の空き時間に図書室で、たまに勉強してたんだけど、その時、よく偶然に会う子でさ」


 よく偶然に……ね?


 更紗さんはクスクスと笑って話を続けた。


 「ある時、『おすすめの本はありませんか?』って話しかけられて。それからたまに世間話をすることになったんだけど。ある時、何か大切な話をされそうな雰囲気になって、わたし、話される前に制止しちゃったんだ」


 桜坂さん、図書室に思い入れがあるみたいだった。たしか、好きな人を覗いていたとかそんなことを言っていたし。


 「それって、好かれてたんじゃないですか? 俺の記憶では、更紗さん相当モテてましたし」


 「それは分からないけど。まどかは、元気そうだった? もう結婚してたり?」 


 「俺も詳しくは知りませんけど。名字が変わってないし、きっと独身ですよ。知り合いなら、更紗さんの話をしても大丈夫でしたか?」


 すると、更紗さんは首を横に振った。


 「いや、いい。お互いに思い出の中で良いの」


 会話が途切れた。

 耳元ではシュッシュッというハサミの音がして、切られた髪がパラパラと床に落ちていく。


 その度、鏡の中の自分の表情が引き締まっていく気がした。


 更紗さんが立ち上がった。

 全身の髪の毛を払ってくれる。


 「さぁ。できた! どうかな?」


 更紗さんはワックスで髪の毛を整えてくれると、美容院みたいに鏡を合わせて、後ろ姿を見せてくれた。


 「すごい良いです!っていうか、いつもの床屋さんより全然上手!」


 「よかった♡」

 更紗さんは笑った。


 いつも一緒にいて馬鹿騒ぎするだけが友達じゃない。会わないけどお互いを気にかけている。


 ——そんな関係もきっとある。


 俺は少しだけ、背伸びできた気がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ