第58話 部長は部員思い。
俺の前では、山口が土下座している。
鈴音の写真を部室に貼ってるような男が、鈴音の写真集だと?
無理、無理無理!
俺が口を出そうとすると、先に鈴音が口を開いた。
「正直、ちょっと引きました。でも、事情があるなら教えてください」
鈴音の声のトーンが低い。
山口はしどろもどろだ。
「は、はいっ。実は、写真部は実績不足で生徒会に目をつけられてしまっているんです。生徒会長には『入選実績が作れなかったら、写真部は同好会落ち』と宣告されていて、だから、ちゃんとした実績を残さないといけないんです」
俺は部室を見渡した。
好き勝手なものを集めた残骸の数々。まあ、この漫研みたいな部屋からしてダメだしな。
鈴音は目を細めた。
「それで写真集? 飛躍してませんか? 普通の風景写真とかじゃダメなの?」
「それなりの規模のコンテストで入選する必要があって。条件を満たせる直近のコンテストが、これしかないんです! できなかったら、部室もなくなります……」
「で?」
山口は顔を上げた。
顔を赤くして、必死だ。
「そのコンテスト、出版社が主催でして。写真集の体裁で応募する必要があるんです」
鈴音は足を組んだ。
「ちゃんと活動していなかったのなら、なくなっても仕方ない気がするけれど」
鈴音は生真面目だからな。
怠惰なのは、基本的に嫌いだ。
「この部活、僕以外に一年生の部員が1人しかいないんです。彼、教室に居場所がなくて。ここは彼の居場所で。だから、僕は、なんとかしてこの部活を引き継ぎたいんです」
古い電池のような匂い。
きっとここは、部員には居心地のいい場所なのだろう。
鈴音は顎に手を当てた。
「部活を後輩に引き継ぎたい……か。その気持ちは、わたしにも分かるけれど」
「これ、賞金も出るんですよ。もし受賞できたら、賞金はモデル料として全額さしあげます」
「でも、なんでわたしなの?」
「コンテストのテーマが『君の推しの子と、いつもの風景』でして。僕、写真だけには嘘をつけないので。推しの子は、鈴音さん以外には考えられないんです」
「うーん。どうしようかな」
俺は山口の顔を見た。
瞳が潤んでいる。
「賞金はいくらなの? 写真って水着とかじゃないよな?」
俺が質問すると、山口は俺を見た。
そこには、さっきまでの俺を毛嫌いする目つきはなかった。
(こいつ、必死だな)
「最優秀受賞者の賞金は100万円です。あと、水着は……諦めます」
「出版社主催だったよな? 受賞したとして、強制的に出版されたりしないよな?」
「それはもちろん。もし出版するなら主催出版社しかダメですが、出すかは受賞者が決められます」
「鈴音が受賞しても、出版はさせないけど、それは問題ないな?」
「ええ。僕としても、鈴音さんを広めたくないですし、そのつもりはないです」
「なぁ、鈴音。考えるだけ考えてやりなよ」
鈴音は組んだ足をブラブラした。
「それ、本当に流通しないんだよね? あと、わたしと蛍の2人でモデルになってもいい?」
鈴音の問いかけに、山口は立ち上がった。
「流通はしません。約束します。あと、モデルも2人でOKです」
「ちょっと考えさせてください。ところで、女子部員の件はお手伝いできないけど」
「そ、それはこっちで何とかしますので。あとこれ。ペンケースです。遅くなって、すみません」
山口からペンケースを受け取り、俺らは写真部の部室を出た。
鈴音と廊下を歩く。
俺は気になっていたことを聞くことにした。
「なぁ、鈴音。さっき蛍もモデルするって話してたけど、なんでなんだ?」
すると、鈴音は立ち止まった。
「この話、わたしから聞いたって言わないで欲しいんだけど」
「分かった」
鈴音は隠し事を好まない。
その鈴音がこう言うのだ。きっと何かある。
「悠真は、高校出たらどうするつもり?」
「俺? 俺は大学に行くつもりだけど」
「そうだよね。わたしもそうなの。でも、蛍は学費のことで迷ってるみたい。あの子の家、ちょっと複雑でさ。優勝したら、学費の足しになるかなって」
そういえば、蛍の家のこと。
俺は何も知らないや。
でも、弓道大会に来てくれたよな。
蛍は自分も大変なのに、バイトを休んで鈴音を応援してくれた。
俺も蛍のために、何かしたい。
「そっか。これ以上、俺は聞かない方がいいよな?」
鈴音は頷いた。
「ごめんね。きっと人から話されたくないことだと思うんだ。必要なら、本人から聞いて欲しいかも」
「……分かった」
ピピッ。
スマホを見ると、朱音だった。
「遅すぎる! もう帰っていい?」
おいおい。
さっきの『ずっと待ってる』発言はどこに行ったんだよ。




