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義理だと分かったら、妹がガチの恋愛脳になった。〜妹が妹じゃなくなれば、最強ヒロインができあがる  作者: 白井 緒望


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第11話 “アビスアイ”が覗く本音

 風が吹き抜ける。

 鈴音は舞い上がる髪を押さえた。


 昼休みの屋上。

 2人きりのランチ。


 明日も明後日も変わらない風景。


 鈴音は言った。

 「明日のお昼は、わたしが先約ね」



 ********


 AM8:45

 私立 鷺乃谷学園高校 2年3組。



 「ちゃーす」


 俺はクラスを見渡した。


 夏休み明けの初日は、夏の青春の成果が否が応でも露呈してしまう。そういう意味では、夏ほど残酷な休みはない。


 あっちの席の茶髪くん。

 前は普通に黒髪だったよね? 夏休みに良いことでもあったのだろう。



 俺の今年の夏休みは、妹の家出でスタートしたからな。なかなか大変だった。


 席に着くと、後ろの席のクラスメイトに話しかけられた。彼の名前は斉藤 翔太しょうた、数少ない俺の友達だ。


 「なぁ。篠宮。初体験はしたか? 俺はマジで惜しかったぜ」


 斉藤は顔は悪くはないが、キャラがこじれているので、モテない。一言でいえば、厨二病で空手家で、自称陰キャのくせに無駄に元気。


 要するにウザい。

 よく女子に、キモいと言われている。


 ……そんな斉藤が惜しかったらしい。


 「もしかして、彼女できた?」

 俺の質問に、斉藤は神妙な顔をした。


 「いや、夏バイトめっちゃ頑張ってさ。5万くらい貯めた」


 「貯めて……。あ、分かった。女の子に貢いだんだろ?」


 「全く違う。その金を握りしめて神社に行ったんよ」


 「は?」

 話の流れがさっぱりわからん。


 「鈍いヤツだな。俺、最近、気になる女がいてさ」


 「誰?」  

 斉藤にも春がきたか。

 ま、もう秋だが。


 「いやさ、神社の……巨乳の。信仰心のある人が好きって言うから」


 相手は巫女さんなのか?

 「歯切れが悪いな」


 「まぁ、とにかくダメだった。たぶん、女子大生だし。高嶺の花だったわ」


 「まだ手元に金はあるんだろ?」


 「いや、普通にないが」


 そんな大金が消えている時点で、何ひとつ普通じゃないんだが。


 「なんで?」


 「信仰心をアピールするためにさ。男らしく、大胆不敵に、金は丸めて賽銭箱にダンク決めてやった」


 「でもさ、お賽銭ってことだし。きっとご利益あるぜ?」


 斉藤は苦虫を噛み潰したような顔をした。


 「むしろ逆効果。『ばち当たり』って言われたわ」


 知ってたけど。

 こいつ、残念すぎるぜ。


 「そういえばさ、鈴音ちゃん噂になってるぜ?」

 斉藤は首を横に振ると、話を続けた。


 「どんな噂?」

 鈴音は人気者だからな。

 

 「すげーご機嫌で、男ができたんじゃないかって」


 男? まさか彼氏ができたとか?

 ……と、いうことはないよな。


 夏休みの間、毎日一緒に居たし。

 ほぼ毎日、好きって言われてたし。


 今朝もクンクンされたし。


 ってことは、俺のことでご機嫌だったんだろうか。


 斉藤は右手を顔の前にかざすと、どこからかビー玉を出して机の上に置いた。


 「待て、我が深淵なるアビスアイは、鈴音ちゃんが一夏の経験をしたと示している」


 いきなりモードに入りやがった。

 さすが重度の厨二病。


 っていうか、深淵とアビスは同じ意味なんだが……。


 経験とはチョコの夜の一件のことか?


 だったら、あながち間違ってもいない。おそるべし、深淵なるアビスアイ。


 斉藤はアホだが人間的には信用のできるヤツだし、後で鈴音とのことを話しておくか。


 「一夏ひとなつの経験って、たぶん違うと思うぜ?」


 「いや、待て。アリスアイが輝き出した」


 おいおい。

 アビスじゃねーのかよ。


 斉藤は続けた。


 「鈴音ちゃんは、近々、告白される。相手は、『ブック』。むおっ。悪の魔術結社め。我が邪眼の邪魔をしおったわ」


 そんな演出いらんから、きちんと最後まで言ってほしい。「またね」とか言って続編が永遠にできないアニメみたいなのはやめて。



 だが、鈴音は相当にモテる。

 告白は、あり得る話だ。


 だとしたら、相手は?


 ブックって、人名とは思えないんだが。

 本? もしかして、本って意味か?


 うちのクラスで、その漢字で始まるヤツは1人しかいない。本田 そう。陽キャグループの中心にいる高身長イケメンだ。


 しかも、サッカー部で成績も男子トップ。最悪なことに、性格も良い。そんなんだから、同じく女子で成績トップの鈴音と、定期的に噂になっている。


 でも、まさか。

 鈴音に限って。



 斉藤が俺の方を見ている。

 「深淵なるアビスアイが、また反応したぞ。篠宮、お主、好きな女ができたであろう? いや、これはむしろ好かれているのか?」


 俺は一瞬、ドキッとした。

 もしかして、鈴音のことか?


 たしかに、鈴音に見つめられると頬が熱くなるけれど。……アイツは妹だぞ? 


 「っていうか、紛らわしい言い方するなよ」


 他の女の子のことみたいに聞こえるし。あの嫉妬深い妹に勘違いされたら、どんなことになるか。



 キンコーン。

 始業のチャイムだ。



 「ほら。もう授業はじまるわよ」

 俺たちは、担任に注意されてしまった。


 鈴音の方を見ると、こっちを睨んでいた。

 絶対に勘違いされてるし。


 久しぶりの授業は、爆睡しているうちにあっという間に終わり、昼休みになった。学校でも鈴音はベタベタしてくるかと思ったが、意外にも、よそよそしかった。


 それはそれで、少し寂しい。



 視線を感じて教室の入り口を見ると、鈴音がいた。おいでおいでと呼んでいる。


 「屋上にいこ」

 そう言うと鈴音は歩き出した。


 階段を上るたびに、カツンカツンと足音がした。鈴音は何度か立ち止まり、チラッと俺のことをみる。


 まだ怒っているのだろうか。


  

 3階に上がる踊り場で、1年生が写真を撮っていた。3人で並んで自撮りをしている。


 うちの女子の制服は学生ウケがいい。


 なんでも、ネイビーのリボンに入った金の刺繍。あれがSNSでバズるらしく、同じような光景をよく目にする。


 

 (やっぱ、鈴音の方が可愛いな)



 鈴音は、着崩してはいるが、基本は守っていて、きちんとブレザーも着ている。ほとんど黒に近い色味なので、色白な鈴音はよく似合っている。


 そんな鈴音の太ももが、目の前でグレーのスカートを揺らして階段を上っているのだ。正直、目が離せない。


 だが、今はダメな気がする。のぞいたりしたら、怒りを通り越して、鈴音にガッカリされてしまいそうだ。



 ふぅ。

 俺は余計なことはせずに、大人しく後をついて行くことにした。



 屋上に出ると、風が吹き抜けた。

 鈴音のスカートがふわりと持ち上がる。


 後ろ手で押さえると、鈴音は、キッと俺を睨んだ。スカートの端をギュッと握り込んでいる。


 階段でのぞかなくて良かった。



 沈黙が辛い。何か話さないと。


 「あ、あのさ。さっきの斉藤の話なんだけど」


 俺が切り出すと、鈴音は左の耳たぶをいじった。俺を見る目を細めた。


 「他の女って、もしかして蛍?」

 

 「え? なんで蛍?」


 「別に。前に蛍が、アンタのこと気にしてたから、もしかしたらって……」


 それって俺が盗み聞きした時のことか?

 たしかに、蛍は『篠宮ってめっちゃ優しそう』とか言っていたけれど。


 いやいや、ないでしょ。


 「違うし。お前こそ、男とかいないのかよ」

 あれっ、俺はもしかして嫉妬してるのか?


 「はぁ?」

 鈴音はさらに不機嫌になった。


 「どうしたんだよ」


 「わたしのこと、信じてないってことじゃん」

 あ、これは俺が悪い。


 「ごめん。あんなに気持ち伝えてくれるのに、そんな訳ないよね」


 鈴音は腕を組んだ。


 「ふんっ。わたしはアンタ以外とか考えられないし。キスだって、その先だって、アンタにあげるって決めてるし。って、本人の前だと、さすがに恥ずいけど」


 鈴音の頬が、少しだけ赤くなった。


 「俺だって、無実だし」


 「『俺は無実だー』って、大概、悪い人が言うんだけど」


 鈴音はクスクスと笑った。


 どうやら、ご機嫌を直してくれたみたいだ。

 良かった。


 こんなに嫉妬したり、不安になったり。

 夏休み前には考えられなかったことだ。


 

 俺らは塔屋脇の外階段に並んで座った。

 

 西側には高い建物がないので、遠くの山々まで景色が抜けている。今日は天気がいいからか、緑がいつもより鮮やかに見える。


 「すごい。こんなに遠くまで見えるんだぁ」

 鈴音は風になびく前髪を押さえた。


 「斉藤の予言、変なフラグも困るんだけどな。まぁ、俺の相手は、お前以外いないし」


 「ふ、ふぅん。それなら良いけど。べ、別に、あんたが誰を好きでも、関係ないけど!」

 

 鈴音は口を尖らせた。


 その目は、ずっと遠くを見つめていた。

 俺も同じ方を見つめて、しばらく過ごした。



 ツバメが尾羽をなびかせて飛んでいる。

 気持ちよさそうだ。



 鈴音はお弁当の包みを解き始めた。

 「そろそろ、お弁当食べよ♪ あ、あのね」  

  

 「ん?」


 「……ホントは関係あるし」


 鈴音は膝の上にお弁当を広げながら、言葉を続けた。

 

 「嫉妬してたの。ゴメン。わたし、アンタが他の女の子を好きとか、耐えられないみたい。男の子にこういう気持ちになるの初めてだから、どうしていいか分からないの。でも、それくらい好きなんだよ?」


 それだけ言うと、鈴音はニコッとして、お弁当箱の蓋を開けた。


 (はじめてかぁ。それは嬉しい)


 って、鈴音のお弁当には、おかずがたくさん入っていてしっかりしている。まさか、自分だけ母さんの弁当持ってきたのか?


 俺は、おにぎり2個とゆで卵(殻付き)、マシュマロなのに。


 鈴音が申し訳なさそうな顔をした。

 「あの。わたしだけママのお弁当でごめんね。アンタのはわたしが作りたくて。でも、不器用だから、そんなんになっちゃった。ママに教えてもらって、ちゃんと作れるようになるから」


 たしかに、嫁の料理はうまいに越したことはないし、この機会に修行してもらうのも悪くないか。


 あれ、嫁?


 俺は、いつかの日か鈴音が、自分の気持ちは勘違いだと気づくことに期待していたんじゃないのか?


 「ありがと。でも、なんでお前は自分で作った弁当じゃないの?」


 あ、そうか。もしかして、

 母さんに疑われないために?


 両親に疑われたら、ややこしいことになりそうだし。俺とのことを考えてくれたのかな。


 鈴音は答えた。


 「だって、わたし、おにぎり2個じゃ足りないし。卵の殻をむくの大変だし。マシュマロ嫌いだし」


 「……」

 このクソガキ。

 

 「自分勝手なヤツめぇぇ」

 俺が文句を言うと、鈴音は舌を出した。


 「じゃあ、わたしの唐揚げ1個あげる」


 「でも、それ、母さんの作った唐揚げじゃん」


 「違うよ。こうしてね。チュッ」

 鈴音は唐揚げを一つ摘んで、キスをした。


 そして、そのまま唐揚げを俺の口元に近づけると、俺の唇につんつんと触れた。


 「はい。あーんして」

 


 パクッ。


 「う、うん。うまい」   

 気のせいかな。いつもよりうまく感じる。

 

 鈴音は足を抱えて微笑んだ。

 日差しに照らされて、頬の赤が透ける。


 「間接キス……しちゃったね♪」


 風が吹いて、亜麻色の髪がフワッと舞い上がった。鈴音は髪を押さえると、俺の顔を覗き込んで言った。


 「ねっ、明日もここで待ち合わせしよ? アンタの明日のお昼。わたしが先約だから」


 目が合うと鈴音が視線を逸らした。


 「べ、べ、べつに。明日、わたしが暇だから付き合ってあげるっていうだけだし」


 「へいへい」


 鈴音は口を尖らせた。

 「もっと喜んでよ……」


 


 


 

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