第107話 冷たい後輩が眼鏡を外した。
鈴音の誕生日プレゼント、どうしよう。
あれっ、靴とか指輪とか、誕生日プレゼントだった気がするぞ?
鈴音に聞けば分かるんだけれど。確認が必要なくらいに曖昧なこと自体が、既に重罪だったりする。
んー。それに靴は壊れちゃったし、指輪はバイトのご褒美だったんだ。
何かに『人の記憶はご都合主義』って書いてあったけれど、どうやら本当らしい。
誰か女性に相談したいところだが、あいにく気軽に相談できる女友達がいない。
蛍? 朱音?
聞いたら、別の問題が続出しそうだ。
飛び込みで店に行ってみるか。
見ているうちに、何か思いつくかもしれない。
俺は近くのショッピングモールに出かけることにした。目についた雑貨屋に入ってみる。
お香の匂い。
和風雑貨の店らしく、棚には、水引の髪飾りや友禅の小皿が並んでいる。店の奥には、木製の水筒やお弁当箱が陳列されていた。俺は弁当箱を手に取った。
「これ渡したら、鈴音にお弁当をおねだりしてるみたいじゃん……」
マジで分からない。
店に行けば思いつくとか言ったやつ誰だよ。
余計に分からなくなったぞ。
俺は、途方にくれるしかなかった。
すると、背後で女性の声がした。
「あっ。シスコンお兄さん」
(誰だよ。失礼なやつだな)
振り返ると、黒髪おさげに黒縁メガネ。
奥二重で、地味目な隠れ美人。
飯田 愛良だ。
写真撮影の時以来だったから、一瞬、分からなかった。
「愛良じゃん。偶然」
「そうですね。イヤな偶然です」
相変わらず、そっけない。
でも、俺のことを認識はしてくれているみたいだ。
「そう? 俺は愛良に会えて良かったけど」
鈴音から程よい距離感のニュートラルさ。
そして女子。理想的な相談相手。
この出会いは、天が与えたもうた奇跡に違いない。
愛良は身構えた。
「あの、なんで呼び捨てなんですか? 馴れ馴れしい。しかも下の名前呼び」
えっ? そうだっけ?
前にどう呼んでいたかすら覚えていない。
「じゃあ、飯島さんでいい?」
愛良は眼鏡を掛け直した。
「あのー、わたし飯田なんですけど」
やべっ。素で間違えた。
ここで機嫌を損ねたら、アドバイスがもらえなくなってしまう。
「じゃあ、愛良さん」
「名字忘れてるくせに名前だけ覚えてるとか、まじで引くんですけど。それに今更『サン』つけられても」
「……じゃあ、愛良ちゃんで」
「今朝、テレビで見たんですけど、最近は『ちゃん付け』は、なんとかハラスメントなんですよ?」
それは職場での話だろう。
ええい、面倒くさい。
「じゃあ、なんて呼べば良いか指定してよ」
「わたし、一応、後輩ですし。自分で呼び方を指定するのとか滑稽じゃないですか。だから、別に呼び捨てでいいです」
結局は愛良でいいらしい。
これだけやり取りして最初の呼び方に戻るとか。なんなのこの人。
「それで、愛良は何してるの?」
「和装部の小物を買いに。悠真は?」
自分は普通に呼び捨てかよ。
俺は『一応』先輩なんですけどぉ?
ま、いいや。
「俺は妹の誕生日プレゼントを選びに」
「シスコン」
「え?」
「なんでもないです。それで、わたしに一緒に選べと?」
「いや、まだ何も言ってないんだが」
「だって、こうやって嫌いな男子と偶然会った場合って、この後、いかにも口実なプレゼント選びに付き合わされるんですよ。そして、少し好きになってラストでキスをするんです。そういうのラノベ的『お約束』って言うんです。ま、ヘタレなシスコンには無理でしょうけど」
さりげに『嫌い』宣言されたんだが。
それに、俺は結構色々読んでいるが、そこまでご都合主義なラノベには出会ったことがない。
女の子の方も、嫌いな相手とプレゼント選びなんて行かないでしょ、普通。
何かのフラグか?
そんなに挑発するならやってやろーじゃねーの。
「愛良。プレゼント選びに付き合って」
ふんっ。言ってやったぜ。
さあ、誹謗中傷して断るがいい。
愛良は立ち止まった。
天井を見上げて、何かを呟く。
おもむろに眼鏡を外してバッグに入れた。
そして答えた。
「……はい」
え?
そして、なんでメガネを外したの?




