第106話 ママが変化した。
旅行の数日後。
変化が起きた。
母さんがすごく優しくなったのだ。
「ママって呼んで」と言われたが、さすがに断った。もうすぐ高三になる男子にそれは厳しい。
すると、母さんは鈴音に困ったことを言い出した。
「鈴音。悠真ママとしては、悠真のお嫁さんは誰でも良いって訳じゃないの。澪が納得する相手じゃないとダメ。鈴音が油断してると、他の子に負けちゃうかもね」
鈴音は頬を膨らませた。
「わたしだって、悠真に優しくするし!」
うんうん、妹よ。
もっと俺に優しくしておくれ。
♦︎
ガチャ。
ドアが開いた。
「ただいまぁ」
ほんの数日なのに懐かしい。朱音の声だ。
朱音は脱ぎ捨てた靴を、玄関に戻って揃えた。そして、母さんに抱きついてから、鈴音に抱きついた。
相変わらず人懐っこい。
朱音は俺のところにくると、お辞儀した。
やけによそよそしい。
「お兄様は『血縁じゃないと盛り上がらないド変態』なんですか?」
そう言う朱音はジト目だった。
「いや、普通に盛り下がるでしょ」
「ほほう。では、風夏さんという新しい嫁候補の存在については、どう弁明されるのですか?」
「いや、血縁なんだからコンプラ的にも嫁にはなれんでしょ」
朱音はカバンから本を取り出し、しおりが挟まっているページを開く。そして、ポンポンと指差した。
読み上げろということらしい。
「なになに、『民法734条……三親等内の傍系血族の間では、婚姻をすることができない』。従姉妹って何親等?」
鈴音が指を4本立てた。
どうやら、従姉妹は四親等らしい。
朱音は本を閉じて、ズイッと一歩踏み出した。
「お兄様。この通り、血縁があろうともコンプラ的には嫁になれてしまうんです」
「お、おう」
風夏と付き合ったりとか、感覚的には考えられない。ドキッとしないし。
でも、ルール的にはOKらしい。
「このケダモノっ!」
朱音は自分で両肩を抱き、クネッと腰をひねった。
鈴音は強く頷いている。
あぁ、そうだ。
鈴音はルールマニアだったんだ。ルール重視で鈴音も風夏をライバル視しているのかもしれない。
実際に風夏とどうにかなるとか、あり得ないけれど、鈴音を怒らせないようにしよう。
俺らの様子を見ていた母さんが口を開いた。
「風夏ちゃんかぁ。健康的ですごく良い子よね。悠真にふさわしければ、わたし的には全然OKよ?」
いやいや。
澪母さん的にNGでしょ。
「それに、風夏ちゃん本人にも『悠真はアタシをどう思ったかな』って聞かれたのよね。気にならない人にそんなこと思うのかな……」
母さんはそう言うと、舌を出した。
この人、多分、面白がっている。
風夏も年頃だし、単に自分の見た目を気にしただけだと思うんだけど。
朱音はまた俺の前に戻ってきた。
「……ということで、言い残したことは?」
ちょっと!
言い残すのは死ぬ人だから。
俺はまだ元気。まだまだ生きる予定。
そして『言い残すこと』ね。
「朱音、おかえり」
これを言ってなかった。
「うちが居なくて、どうだった?」
「寂しかった。わりとマジで」
すると、朱音が抱きついてきた。
……うちの家族みんな同じだと思う。
「そういえば、施設の子、亜美ちゃんだっけ? プレゼントは喜んでくれた?」
「うん。ぬいぐるみにしたんだけど、喜んでくれたよ。わたしのお誕生日もお祝いしてくれるんだって」
「良かったじゃん」
「ちらっ」
朱音が擬態語を口に出した。
何やら視線を感じる。
ああ、俺にも祝えという意味か。
「分かった。朱音は6月生まれだよな。誕生会しような」
そして、俺は気づいてしまった。
もうすぐクリスマス。
鈴音は12月24日生まれ。
つまり、もうすぐ誕生日。
やばい、誕生日プレゼントのことをすっかり忘れていた。




