第105話 旅の終わり。
居間に戻ると、昼食を準備してくれていた。
「悠真。どうだった?」
鈴音も心配そうだ。
「うん。ありがとう。たぶん、澪母さんも喜んでくれたと思う」
「そっか。良かった」
俺は玉江さん(祖母)のところに行って、正座した。
「部屋をそのままにしてくれて、ありがとうございます。澪母さんのこと、なんとなく肌で感じることができました。それと、色打掛なんですけど、もう少しだけ、預かっていただいても良いですか?」
「あぁ。わかったよ」
玉江さんは答えた。
「使う時には、また受け取りに来ますんで」
「そうかい。じゃあ、また悠真に会えるのを楽しみにしておくよ。わたしが死ぬ前にはよろしくな」
玉江さんは、口を綻ばせた。
テーブルには、ちらし寿司とポテトサラダと鳥の唐揚げが山盛りになっている。
ちらし寿司には淡い桃色の刺身。地魚だろうか。
光希さんが玉江さんに取り分け、仏壇にも小さなお椀でお供えした。その後、俺たちはテーブルを囲んだ。
玉江さんがベッドから言った。
「この金目鯛は、澪の好物なのよ。では、いただきましょう」
鈴音と風夏はすぐに打ち解けた。
風夏も部活を頑張っているらしく、鈴音と話が合うようだ。
鈴音が耳打ちしてきた。
「風夏ちゃん、かわいいねぇ。まさか……口説いたりしてないよね?」
「おまえな。俺をどんだけチャラいと思ってるんだよ。従姉妹だぞ? んなわけないだろ」
「ふぅん。ま、血縁だもんね。さすがに大丈夫か」
なんかトゲがあるな。
風夏が言った。
「鈴音ちゃんたち、旅籠遊里に泊まったんでしょ? あそこの娘は、わたしのクラスメイトなんだ」
「あっ、凛ちゃんね。悠真に口説かれていたみたいだけど」
鈴音と風夏は、目を細めて俺を見た。
「わたし、せっかく増えた従兄弟がチャラ男だなんて、ちょっとへこむんだけど」
風夏は、そう言って目を更に細めた。
それにしても、あのポンコツ仲居さんが風夏の友達とは。世の中は狭い。
その後は、澪母さんの好物だったという猪の形のお菓子をもらって、解散になった。
玄関口で風夏が手を振ってくれた。
俺が手を振りかえすと、風夏が言った。
「鈴音ちゃん。今度、鈴音ちゃんの家に遊びに行って良い? あと、うちにも遊びに来て。悠真くんなしでもいいから!」
どうやら、俺に手を振ってくれたわけではないらしい。鈴音と風夏が仲良くなってくれるのは嬉しい。
でも、俺は実従兄弟なのに……。
鈴音が俺の方をみた。
「悠真。どうかしたの?」
「いや、俺だって従兄弟なのに。俺なしでいいとか、血縁の絆、脆すぎだろ」
鈴音は頬をいじった。
「それは、まぁ。風夏ちゃんに悠真のこと聞かれて、『悠真は血縁がないと燃えない男の子』だって言ったからかな……」
「は?」
「いや、だってそうだし。わたしだって朱音ちゃんだって親戚だし。蛍は例外中の例外」
「他には何か言ったのか?」
「アタシのことどう思ってるかなぁ? って言われたから、『小麦色のふくらはぎが可愛い』って言ってたと伝えたくらい……かな」
『かな』じゃあないよ!
悪意しか感じない。それで急に風夏がよそよそしくなったのか。
……まぁ、ふくらはぎを見てそう思ったのは事実だが、鈴音には話していない。なんで分かるんだろう。
帰りの車の中で俺が首を傾げていると、鈴音が顔を覗き込んできた。
「怒った?」
俺は声を落とした。
「怒らないよ。ごめんな、心配をかけて。鈴音が一番だから。あっ、もらったお菓子を食べてみようぜ」
「うんっ」
鈴音は口を綻ばせた。
俺は猪のお菓子を一口かじった。
皮が砕けてパリッと音がする。
「うまいな、これ」
澪母さんが好きだったお菓子は、中に黒糖味の餡が入っていて、少しだけほろ苦かった。




