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義理だと分かったら、妹がガチの恋愛脳になった。〜妹が妹じゃなくなれば、最強ヒロインができあがる  作者: 白井 緒望


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103/108

第103話 澪の家。

 旅館から車で30分。

 下田の端っこに澪母さんの家はあった。


 家の脇には軽自動車がとまっていて、海の近くなのに、背の高い木々で海は見えない。


 4人で門柱の前に立つ。

 

 インターホンを鳴らすと、母さんは父さんと繋いでいた手を離した。


 ——母さんの指先、かすかに震えてる。


 俺がそう思うのと同時に、鈴音が母さんの手を握った。


 もしかして、母さん。怖いのかな?

 この家の人から嫌われているのかな。


 きっと母さんは、この家では部外者なのだ。

 

 (……そうか。この中で、桜坂の血をひいているのは俺だけなんだ)


 俺がうまく立ち回らないと。


 ピッピッ。


 どこかから、鳥の鳴き声が聞こえる。

 切れの良い鳴き声だ。



 「あっ、ちょっと待ってね」

 インターホン越しに、女性の声。

 

 俺は唾を飲み込んだ。


 玄関ドアが開いた。

 「いらっしゃい。遠いところから、ありがとうね」


 声の主は40代なかごろの女性だった。玄関のたたきに片足だけおろして、誰かのビーチサンダルの上に立っている。


 母さんと同世代か少し上。

 色白で綺麗な人だ。


 「さぁ、入って」

 家の中に招き入れてもらう。


 上がりかまちで身をかがめて靴を揃えると、革のローファーがあった。鈴音と同じくらいのサイズだ。


 廊下を抜けると奥の部屋にベッドがあって、お婆さんが横になっていた。


 あの人が俺の祖母。

 たぶん、澪母さんのお母さんだ。


 と、いうことは。


 「わたしは、桜坂光希(みつき)。澪の姉なので、悠真くんからしたら、伯母ね。奥に寝てるのが、あなたのお祖母さん」

 さっきの女性が自己紹介してくれた。


 父さんと母さんは光希さんに会釈をすると、お婆さんの前で正座した。


 「お義母さん、悠真を連れてくるのが遅くなってすみません」


 父さんが頭を下げると、母さんも頭を下げた。


 お祖母さんは、足腰が弱いのだろう。

 光希さんの支えで上半身を起こすと、笑顔になった。


 「2人とも顔をあげて。2人は何度も来てくれてるんだし、この前も言ったけれど、畏まる必要なんてないんだよ?」


 「でも、わたしのせいで悠真を連れて来れなくて」  

 母さんは頭を下げたまま、答えた。


 「違う。初音ちゃんは、澪のお願いを聞いてくれたのよ。こちらこそ、イヤな役割をさせて、ごめんなさい。それよりも、悠真。顔を見せて。わたしは、玉江。あなたの祖母よ」


 桜坂 玉江。

 この人が澪母さんの母、俺の祖母らしい。


 俺が近づくと、お祖母さんの皺だらけの顔が、梅干しみたいになった。

 

 「うん。澪の面影があるね。今日は来てくれてありがとう。お爺さんにも、見せてあげたかったわ」


 嫌味な感じはない。

 身構えていたが、良い人そうで良かった。


 俺たちは、仏間に通された。

 広縁ひろえん越しに、少しだけ海が見えている。


 仏壇には、澪母さんとお祖父さんの写真。その横には水仙の花が挿してある。


 お線香を炊いて、手を合わせる。


 俺はお祖父さんの写真をぼんやりと眺めた。隣にいる澪母さんの写真と見比べると、目元が似ている。


 お線香の白檀の匂い。

 その中にまざって、食べ物の匂いがする。


 何か準備してくれてるのかな。

 俺と鈴音も手伝った方がいいだろうか。


 ザサンと波の音。


 「そろそろ戻ろうか」

 父さんの声で、立ち上がった。


 仏間にいたのは、ほんの数分間だった。


 手を握ると、爪が掌に当たって自分の体温を感じた。それなのに、さっきの俺は、まるでテレビの中のワンシーンを見ているようで、特に何も感じなかった。


 普通なら涙の一つでも流すべきなのだろう。


 ——俺は薄情なのだろうか。



 居間に戻ると、光希さんに声をかけられた。

 「悠真くん。あなたに渡すものがあるの」

 

 俺に? なんだろう。

 色打掛なら、母さんが鈴音に渡すべきだろう。

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