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新たなストーリーの始まり

 



 父とともに再び教会へ戻った私は、真っ直ぐ神父のもとへ歩み寄った。

 すると、私たちの姿に気づいた神父は、ほんの一瞬だけ眉を上げ、すぐに作り笑いを浮かべる。


「お戻りですか? 何か、忘れ物でも?」


 その馴れ馴れしい声音に、父が一歩前へ出た。

 低く、冷ややかな響きで告げる。


「カロンを、ノイアー家の養子として迎えたい。今すぐ、引き取る」


 神父の表情が、ぴたりと凍りついた。


「は……はい? そんな……カロンはこの教会で――」


「私腹を肥やす“特別な存在”だということだろう?」


 父の声は静かでありながら、教会の空気を一瞬で張り詰めさせる鋭さを帯びていた。

 神父が慌てて口を開き、言い返そうとしたその瞬間――。

 私は一歩前へ踏み出していた。


「村の人たちから聞きました。神父様がカロンに能力を使わせて、村人の病気や怪我を“奇跡”として治していたって。そして、その“奇跡”へのお礼として、必要以上の金品や作物を受け取っていたって――」


 私はまるで本当に村人から聞いたかのように、前世の記憶から得た知識を口にした。

 その瞬間、神父の顔がみるみる青ざめていくのがわかる。


「でも……その“お礼”のせいで、村の生活は苦しくなってるそうです。子どもたちに満足な食事を与えられない家庭があるって……それって、本当に神父のやることですか?」


 静かに問い詰めると、父の目が鋭く光った。


「未成年の能力(ギフト)を教会の都合で使わせ、対価を得ていたとすれば、それは“信仰”を利用したただの搾取だ。しかも、それを“神の奇跡”として誤魔化していたとすれば……これは、国がしっかり調査すべき問題になるな」


「ま、待ってください、それはただの噂でして――!」


 神父が必死に言い訳を口にする。

 だが父は一歩も引かず、さらに低い声で畳みかけた。


「でも、その噂が本当だったら? カロンが、自分の意思とは関係なく能力を使わされていたとしたら?」


 神父の喉がごくりと鳴り、口を開きかけたものの、言葉を詰まらせてしまった。

 ――その時だった。


 私の横から、小さな影が一歩前に出る。

 振り返った先にいたカロンの顔には、これまで見たことのないほど強い意志が宿っていた。


「神父様。……今まで、お世話になりました」


 その声はわずかに震えていたけれど、確かに前を向いていた。


「僕……もう、あなたの元にはいたくありません」


 神父の目が大きく見開かれる。


「……カロン? なにを言ってるんだ。お前は――」


「ずっと、言えなかった。でも……僕、本当はいやだったんです」


 カロンの声が、静かに、しかし確かな強さを帯びていく。


「勝手に“奇跡”って呼ばれて、誰かの体を治す度に、周りから褒められて、感謝されて……それを見て、神父様は“よくやった”って笑ってた。でも、それが僕の意思じゃなかったって、わかってましたよね?」


 神父の口元が引きつり、苦々しい色が浮かぶ。


「そ、それは……お前の能力(ギフト)は神から授かったもので、だからこそ――」


「僕は、あなたの道具じゃないっ!!」


 カロンの声が、教会の冷たい空気を切り裂いた。

 その小さな体から放たれた言葉は、誰よりも強く響き渡っていた。


 カロンは小さな拳を握りしめたまま、真っ直ぐ神父を見据える。


「人を助けるのが嫌だったわけじゃない。誰かのためにこの能力(ギフト)を使えることは、本当はすごく誇らしいことなんだって……僕は、そう思いたかった。でも、“使われる”のは、もう嫌なんです。誰かの思い通りに、心を無視して動くのは……もう、やめたい」


 その言葉に、神父の顔が怒りで歪む。


「……恩知らずめ。ここまで育ててやったんだ、感謝しろ! お前の居場所なんて、この教会しかないのに!」


 カロンが小さく身を震わせた、その瞬間、父がすっと二人の間に割って入った。


「何を言っているんだ」


 低く響く声が、冷たい空気を震わせる。


「これまでの悪事を調べたら、居場所がなくなるのはあなただろう」


 神父はぎり、と歯を食いしばり、やがて「好きにしろ」と吐き捨てて踵を返した。

 背を向けて教会の奥へと消えていく姿は、先ほどまでの威厳を欠片も残していなかった。


 重苦しい沈黙を破るように、父が静かに、それでいてはっきりと口を開いた。


「とても立派だったね、カロン。自分の意思を言葉にできるのは、強さの証だ。君の選択は、私が必ず守ろう」


 そう言って、父は私とカロン、二人の頭に優しく手を添えた。


「さあ、家に帰ろうか。我が子たちよ」


 その言葉に、胸がいっぱいになって、私は強く頷いた。

 カロンも小さく「……はい」と呟き、父の手の温もりにそっと身を預ける。


 こうして私たちは――少し早く、けれどゲームの時よりもずっと素敵な“家族”になったのだった。



 * * *


 夕暮れの光が、馬車の窓からやわらかく差し込む。

 隣に座るカロンは、まだ少しだけ緊張しているようだった。

 けれど目が合うと、照れくさそうに、でも確かに微笑んでくれる。


(ああ……本当に良かった)


 心から、そう思えた。

 あの教会を出たときの重苦しさとはまるで違う、穏やかで温かい空気が今、私たちを包んでいる。


「これからが大変だよ、カロン。屋敷での生活にも慣れなくてはならないし、勉強もある。礼儀作法も――」


 父が少しだけ意地悪そうに揶揄うと、カロンが小さく笑った。


「はい。がんばります。……僕、お二人となら、ちゃんと生きられる気がします」


 その言葉に、胸の奥がじんと熱くなる。

 思わず、私はそっと彼の手を握った。


「今日からは、家族なんだもの。分からないことがあったら、なんでも聞いてね」


「……うん。ありがとう……お姉ちゃん」


 その一言が、胸の奥をぎゅっと締めつけた。

 嬉しくて、温かくて、泣きそうになるのを必死に堪えながら、私はそっと微笑む。


(……本当の意味で、物語が動き始めた気がする)


 それは、ゲームのストーリーとは違う、まったく新しいルート。

 バッドエンドを避けるために選んだはずの選択だったのに――。


 きっと、これはどんなエンドよりも幸せな“始まり”。

 そう信じて、私は窓の外に目を向けた。


 馬車は、ゆっくりと未来へ向かって走り出していた。




ここまでお読みいただきありがとうございます。

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