☀08物言いの癖
「エナ様、ヘドウィン様に母国語が分からなくなってしまっていることをお伝えしました。その上で夕食をご一緒したい、と」
「あ、はい」
イレイラさんから運んでもらった昼食を、部屋で黙々と食べているとイレイラさんからそう伝えられた。早めにヘドウィンさんに共有したほうがいいと思っていたけれど、イレイラさんの仕事が早かった。
「本当なら昼食をご一緒したかったそうですが、公務が忙しいご様子でした」
仕事に追われながら申し訳なさそうな表情をしているヘドウィンさんが容易に想像できる。イレイラさんの話を聞いて迅速な対応を、と考えてくれていそうだが、大公の仕事は私の想像よりも忙しいだろう。ただでさえ私がやって来たあの日の火事のことも対応しないといけないのだから、本当に大変だろう、と他人事ながらに考えてしまう。迷惑をかけている自覚があるからこそ、あまりヘドウィンさんが無理をしていないといいな、と思ってしまう。なんとなく、いろんな人に囲まれて話を聞いているのが好きそうな方だし、書類整理が得意そうな感じがしたい。見た目で判断するべきではないけれど。
「ご夕食までどうされますか?」
「部屋で過ごしてもいいですか?他に、何か変わったことがないか一応確認しておきたいんです」
「問題ございません」
「ありがとうございます。多分ですけど……部屋から出ることもないと思うので、もし他にお仕事あったらそちらを優先してもらって大丈夫ですからね」
そう伝えればイレイラさんは少し驚いた後に静かに、そして軽く頭を下げる。
「ご配慮いただき、ありがとうございます。ですが私が優先するのはエナ様のお世話ですので、何卒ご理解いただけましたら幸いです」
イレイラさんの言葉に心臓が跳ねる。今の言い方では彼女の『私の世話係』という仕事を否定したことにならないだろうか、と不安に襲われる。イレイラさんには本当にお世話になっているし、感謝の気持ちでいっぱいだ。そんなつもりはなくとも、余計な一言で彼女に失礼なことを言ってしまっていたら――そう思うと動悸が早くなる。
「あ、あの……わ、私、イレイラさんにすごく感謝しています。それと同時に、私のせいで別の仕事ができなかったり、迷惑をかけていたら申し訳なくて……」
そこまで言ったところでイレイラさんは顔を横に振り、私の名前を呼ぶ。
「エナ様、先ほども言いましたがご配慮いただいたことはありがたく思います。そして、一使用人である私に対しそこまでご配慮いただく必要はございません。私のスケジュール管理は私自身の仕事でもございますし……。私にエナ様より優先しなければならない仕事が舞い込んでくる可能性はない、とは言いませんが……ヘドウィン様からの指示もありますので限りなく低いので私の職務に関して安心していただければと」
イレイラさんはまっすぐ私を見ながらそう言った。
「私が控えていると落ち着かない、等ございましたらその際は仰ってください。その時の状況によっては難しいこともありますが、エナ様のご希望に沿えるように善処させていただきます」
気を使ったつもりが、逆に気を使われてしまったような気がして申し訳ない気持ちになる。
(……言葉に気を付けないと。それで散々、問題を起こしてきたんだから……)
過去自分の物言いで迷惑をかけたこと、問題を引き起こしたことを思い出して心臓がきゅっと締め付けられる。イレイラさんがそんなに気にしていなさそうな様子が見えるのが幸いだ。
「いつもお世話になっています。イレイラさんとヘドウィンさんのおかげで……穏やかに過ごせています。本当に、ありがとうございます。私のせいでイレイラさんに余計な仕事を……増やしてしまっているでしょうから、正直なところ、罪悪感があります。でももし、余計な仕事も込みで仕事の内だ、と言ってくださっているのであれば……本当に、本当にありがとうございます」
できる限り深く、深く頭を下げる。けれど土下座になってしまえばイレイラさんは戸惑ってしまうだろうから、そうはならないよう気を付けつつしっかりとお辞儀をする。
「可能な限りご迷惑をおかけしないよう気を付けます。その……一人で過ごしたいと思ったときにはきちんとお伝えしますので、もしイレイラさんから見て変な行動や発言をしてしまったときは、指摘していただけると嬉しいです」
そう伝えればイレイラさんは小さく笑って「かしこまりました」と答えてくれた。
我ながら面倒な性格をしている、ということは理解している。先ほどの会話も簡単に済んだだろうが、余計なことを考え、口に出したことでややこしくしてしまった。
「……ありがとうございます、イレイラさん」
「どういたしまして」
目をぱちりとさせて、イレイラさんはそういった。




