第7話:護送任務➀
「はぁ……」
仁は、今日が世界の終末と錯覚するかのような大きなため息をついた。
もう少しすると、神事課の車が迎えにやってくる。
神事関連の調査をする事務所と聞いていたにも関わらず、初手から危険な仕事である。
「仁さん、しっかりしてくださいよ」と、クリスが明るく声をかける。
「こんなに緊張していたら、仕事になりませんよ」
「いや、さすがに仕方ないだろ。ついこの前まで、フリーターだったんだぞ」
「それを言うなら、僕も先日まで小学生でしたよ」
「あのなぁ……」
「あ、来ましたね」
文句を言うことすら許可してもらえず、仁はクリスに無理やり引っ張られる形で、到着した車に向かった。
車の助手席には、田楽刑事が座っていた。
「よぉ、頼むぞ」
田楽刑事は、その膝に小型ペットを入れるケージを持っていた。
「えっと……護送って」
「まあ、早く乗れよ」
怪訝そうな顔をする仁に、田楽刑事は早く乗れと促す。
クリスに押されるような形で仁は車に乗り込み、車は緩やかに発信した。
「あの、護送って……」
「ん? ああ、何か映画みたいなのを想像してたのか? そんなことしたらバレるだけだろ。実際はこんなものだよ」
仰々しい車列。
完全防備の護送車。
防弾チョッキ。
田楽刑事の言う、正に映画のセットを想像していた仁はすっかりと肩の力が抜けてしまった。
「ははは、何だ。脅かしやがって」
仁は、恨めしそうにクリスを見ると、クリスはただ黙って、ほほ笑むだけだった。
車は何事もなく道路を進み、高速道路へ入る。
「ここから30分ほどで、神事課の科学研究所に付きます。後をつけられている様子もないですし、大丈夫そうですね」
運転手が、安堵の声を上げる。
車は高速道路へ入り、どんどんスピードを上げる。
何事もなく流れる平和の車窓を、仁はゆったりと眺めていた。
10分ほど走っただろうか、車はトンネルに入る。
「なぁ?」
田楽刑事が、運転手へ声をかける
「はい、何でしょうか?」
「お前、なんでトンネルの中で減速したんだ?」
「え?」
その言葉に、仁は不安を覚え、周囲を見回した。
周囲には、何もいない。
むしろ、減速という事象を違和感として認知するほうが難しいくらいだ。
だが……。
「いや、その……安全のために減速を……」
田楽刑事が、ニヤリと笑う。
「なあ、仁くん。どう思った?」
「え?」
「わしの指摘について、どう思った?」
「え、いや。別に、何も。めちゃくちゃ言ってるなと……」
仁は、ハッとした。
そして、それは運転手の男も同じだった。
「そうだ。滅茶苦茶な話だ。でもな、何か考えているものにとって、それは無茶苦茶な指摘じゃないんだよなあ?」
「ふ……ふふ……」
不気味に、運転手が笑う。
「そうだよ。だが、もうおしまいだ。俺は組織の仲間じゃない。道具だからな!」
トンネルを抜けたその瞬間、目の前がフラッシュして視界が曇る。
仁が瞬きをした、その直後。
まさにフロントガラスの前には、大きな鉄骨が存在していた。
「……!!」
車は、そのまま鉄骨へ突っ込んだ。
コントロールを失った車は横転し、ガードレールに衝突する。
辺り一面に、ガラスや金属片が散乱した。
道路を封鎖するかのように、複数のトラックが背後からやってきた
トラックからは、複数の男が降りてくる。
「よし、速やかに回収するぞ」
「うわあ、グチャグチャだ」
凄惨な運転席の状況に、男たちが声を上げる。
だが、そこには悲哀の感情は一切なかった。
1人の男が慣れた手つきで運転手の死体を引っ張り出し、車の中を確認する。
「あれ……」
その男は、ゾッとした。
(死体がない……)
「回収って何をですか?」
外の男たちが、ざわめく。
砕けたフロントガラス越しに男は、ターゲットである3人の男が何事もなかったかのように立っているのを目撃した。




