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第15話:襲撃?

 豪奢な屋敷の扉を抜けた瞬間、仁は思わず息を止めた。

 玄関から続く赤い絨毯は、彼らを導くようにまっすぐ延び、その先に広がるのは舞踏会でも開けそうなほどの広大なホールだった。

 天井には幾つものシャンデリアが吊り下げられ、黄金色の光が万華鏡のように床や壁を照らしている。

 壁際には西洋の名画を模した絵画や大理石の彫像が並び、金と白で統一された装飾はまるで幻想の宮殿だった。


 だが、漂う空気は華やかさとは程遠かった。

 ホールの中央には、屈強な傭兵たちがびっしりと陣取っていたのだ。


 男たちの目は血走り、女傭兵でさえ刃物を隠し持つような危うい気配を放っている。


 軍用迷彩の者、全身に刺青を刻んだ者、そして指名手配中の強盗犯までもが混じっていた。


 ざっと見渡す限り、五十名はくだらない。

 まともな舞踏会の客など一人もいない。


(どうやって、こんな連中を集めたんだ……?)


 仁は息を呑んだ。


 まだ二十歳にも満たないはずの少女――天音。


 彼女の人脈や交渉力だけでここまでやれるとは思えない。


 当然、あの義眼の神具による「神事」の力なのだろう。

 しかし、不思議だ……。


 あの幸運をもたらすだけの神具に、これだけの力があるとはとても思えない。

 そんなにお金が入ってくる幸運の神具と言えば、それこそ著名な神のはずだが、果たして英雄譚に出てくる一つの神事がこれほどの力を持つものだろうか?


「仁さん」

 隣で歩を止めたクリスの声は、低く鋭かった。

「僕の傍から絶対に離れないでください」


 仁は眉をひそめる。

「え? どういう……」


「天音は嘘をついています」


 静かな言葉だった。

 しかしそこには確信があった。


 クリスはさらに言葉を重ねる。


「仁さん、先日、田楽さんが指輪の解析が終わったと言っていた事、覚えていますか?」

「あ、ああ……」


 クリスは、仁の耳元に近寄る。

「どうやら、割り出されたアジトに突入した特殊部隊が、全滅したみたいなんですよ」


 仁の表情が強張る。

「……田楽のおっさんから聞いたのか?」


「いいえ」

 クリスはきっぱりと否定した。

「僕が個別に持っている情報網からのネタです」


「田楽さんは律儀で、危険なことに僕たちを巻き込むことは絶対にしません。だからこそ――今日のような仕事を田楽さんが紹介することはありえないんです」


 仁は言葉を失った。

 胸の奥で抱いていた小さな違和感が、今クリスの言葉で形を与えられる。


 疑念が確信へと変わった瞬間だった。


 やはり、天音には何か裏があるのだ。


 クリスはさらに視線を落とし、仁にだけ聞こえる声で囁いた。

「そして、あの神具の正体も嘘です」


「……やっぱりか」

「あの義眼を見たとき、僕の碧眼が何の反応も示さなかった。僕の推察では、この眼はヘラクレス英雄譚に関わる神具なら必ず反応があります。それがないということは――偽りである可能性が高い」


 仁の背筋に冷たい汗が流れた。


 すべてが仕組まれた罠だとしたら、この場に集められた五十名の傭兵たちは……。


 あのスネメアのような怪物か、はたまたは別の何かか……。


 仁の脳裏に、あのスネメアの姿が思い出される。


 ここを出よう。


 そうクリスに言いかけた時だった。


 別の二人組が重い扉を抜けてホールへ入ってきた。

 すると、扉脇に立っていたメイドたちが深々と一礼し、巨大な扉が閉ざされた。


 厚い木材がぶつかり合う重音が、広間の隅々まで響いた。


 ――しまった。


 仁の焦りを他所に、会場の前方にある壇上に一人の男があがった。


 その姿を見た瞬間、会場がざわつき始める。


「あれは……」

「タイタス……!?」

「嘘だろ、あのタイタスか!」


 どよめきが広がる。

 仁ですら知っている名だった。

 世界的に有名な強盗団、クレーテ強盗団の団長――タイタス。


 分厚い体躯、黒々とした髭、背中に刻まれた無数の傷跡。


 その存在感は、ただ壇上に立っているだけで会場全体を支配していた。


「あー、ごほん」

 軽く咳払いをしたタイタスは、わざとらしく肩を竦めてみせた。

「みんな、よく集まってくれたな。改めて自己紹介だ。俺はタイタス。クレーテ強盗団のリーダーをやらせてもらってる。そして今日は――お嬢ちゃんから、この場の統率を依頼されている」


 ざわつきはさらに大きくなる。

 だが、驚きと同時に納得の空気も広がった。

 ここまでの大物なら、これだけの集団をまとめても不思議ではないと誰もが感じたのだ。


 タイタスはゆっくりと片手を上げ、そして静かに下ろす。

 その仕草ひとつで、会場のざわめきが止まる。

 口元に浮かんだ笑みは、獲物をいたぶる猛獣のようだった。


 違和感……。

 仁とクリスは、そう感じた。

 他の者も同様だろう。


 なぜなら、タイタスのそれは『仲間』に向けられるものではないのだ。

 その対象は、『獲物』である……。


「ここにいるのが護衛部隊全員だと聞いている。つまり……」


 片手が完全に下ろされた瞬間、彼の声は低く、鋭く、そして残酷に響いた。


「ここにいるやつ全員ぶっ殺せば、お嬢ちゃんの資産は全部俺のモノってことだ!」


 その言葉と同時に。


 壇上の背後で、そしてホールの四方の壁際で、無機質な金属音が轟いた。


 スチール製の床板が裂ける。


 暗闇から姿を現したのは、全身を機械装甲で覆った兵士たちだった。


 光を反射する黒鉄のボディ、赤いセンサーのような眼。

 人間というより戦闘兵器に近い。


 何人かが反射的に動き出す。


 が、次の瞬間――。


 無数の銃口が一斉に火を噴いた。


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