表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アブノーマル  作者: 白菜


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/7

君だね?

 足音が近づいてくる。ギシ…ギシ… と段々大きくなる足音と比例して尾座田の心臓の鼓動も増していく。そんな尾座田は挙げた両手で包帯を解いた。そしてゆっくりと警官の方を向く。

「……ひっ!」

警官は尾座田の()()()()()に驚いた。その一瞬を尾座田は見逃さなかった。一気に距離を詰める。

(形なら分かるんだよ。)

ドガッ!!

警官の顎に不慣れなパンチを食らわす。手応えはまるで無いが、良い位置に入ったと思っている。

「うぐっ……!こ、こちら林!アブノーマルと交戦中!発砲許可と応援を要請する!」

「ま、まず…!」

逃げ道が見つからない。玄関までの道は一本道で絶対不利だ。割った窓も警官がいて簡単にはいかない。でも窓くらいしか逃げ道が無いし…。それに風呂場の死体。あれが見つかったら確実に俺が捕まる。そんなバッドエンドはさすがに避けたいし……

「……………よし、()()()。」

尾座田は決意した。裏社会の仲間入りを。尾座田は認めた。自分が有害であることを。そして、尾座田は決心した。人殺しになることを。

「……来いよ!!」

ザ……ザザッ…… パン!パンッ!!

二発。軌道は足へ。しかし、今の俺は何かが違う。すべての流れがゆっくりにみえるのだ。それでも弾速は早い方だ。片足を捨てなければいけない。いや、待てよ。尾座田は体勢を低くし、頭から弾丸に当たりに行った。白い光が世界を包み込む。無慈悲にも、死にに行ったのに死ねないのだ。それが尾座田のメリットであり、デメリットである。


 あぁ、またここか。久しぶりに見た気がするな。白い空間に大きな片目がこちらを見ている。笑っているような、不思議そうに見つめているような。子供のような目をしている。不純なき目。このなんとも言えない眼差しに不思議と近づいてしまう。影が無いから床がわからないけれど、歩みは止めない。いや、()()()()()()。これは中毒だ。本能で求めている。触れたい。一度だけ、一度でいいから触れてみたい。近づくとわかることがある。黒目は黒い地球だった。けれど、この地球はおかしい。海が狭すぎる。三割ほどと言ったところだろうか。だが、そんなことどうでもいい。あと三歩……もう少しなんだ。

グチョッ…?

もう、訳がわからなかった。明らかにその効果音は()()()()()()。何が?何を質問した?理解しようとするほど理解が出来なくなってくる。なんなんだ……?でもあと二歩…たった二歩。

パッ。ポッ!

俺の選択は間違っていた。手に目の花が咲いた。血が抜かれていく感覚。何と不運なことか、後ろに倒れてしまう。不純なき目は完全に笑顔を作った。邪悪な方の。


 頭が痛いが、五秒ほど経てば慣れた。もうそろそろ自分の力に慣れないといけないと痛感した。

「……っ?」

「じゃあね。」

警官の首に両手を添える。不完全な輪っかを作り、その広さ縮めていく。形を変えるイメージ。空き缶を握りしめるような力で工作する。彼がメリットの対象外になるまで二分半ほどかかった。その間の彼は混乱していて自分が呼吸ができない事を理解できていなかった。えっ、あっ、はっ、ひっ、などとずっと言っていた。なんというか、()()()()()。殺す事っていうのはすごい簡単だった。なのに、後味が人肉と同じだなんて。

「…完全に殺さなきゃ。不完全な死は快楽を得られない。」

「うぉっ!?……だれ、?」

振り返れば子供のような体格をした人がいた。それに、見たことがある。フードの形が見えると思い出した。が、先手を打たれる。

(かげ)。それ、こっちで処理するね。今は柴のところに行がないと。」

「え、あっ、うん。」

「中入って。繋がっているから。」

「…あぁ。」

情報の処理が早過ぎる。ひとつひとつが正解で、的確で、冷静。一眼見ただけでわかる。彼、()()()。形が歪で彼の雰囲気そのものがその歪さをあらわにしている。怖気付いている間に体が沈む。また入るのか、暗闇に。まぁ、否定することは今更できないけど。

「   うぇ、慣れないや。この()()。」

この中だけは本当に何度やっても慣れないだろう。この世に知らなければ得なものってのがあるなんて。ところで、どこに行けばいいんだ?

─────────────────────────

尾座田翠のデメリット 『単眼』 人間の目は二つ。おかしいと思わないか?一つで足りるはずだ。魚や馬などは二つ無いといけないとは思う。なぜなら生物は一面に一眼は必要だからだ。魚がいい例だろう。魚は二面だ。口を正面として見た場合、その面は目を必要としていない。だから魚は二眼必要なんだ。だが、人間はどうだろう?一面に二眼。おかしい。ならば正さなければ。()()()()()()()()()

『単眼』は両方の目を半分にするデメリット。合わせて二つだったものが、合わせて一つに。ただ、これだけ。しかし、不運にも、彼は零に。しかし、人間ってのは面白い。見えなくても、視えてしまう。"形"とは立体の影のようなもの。表情などは見えるはずも無く、ただただその立体を捉えるだけである。しかし、光が見えない彼にとって───

─────────────────────────

(水中は死だ。)

誰かがサポートしなければ死ぬ。あれ、俺はどうやって影を出たんだっけ?柴のサポートがあったっけ?感覚がだんだんと死んでゆく。何処に行くだ?俺はどうなるんだ?お、俺は死ぬ?

「   落ち着け。君は死なないよ。いい感じなポイントに向かって進めばいいんだ。」

この声……柴?なんで?

「   僕はハードな教育ってのが一番効果的だと思うんだ。その身で感じた痛みってのは二度目は軽傷で済むんだよ。」

ははっ。柴らしいよ。いい感じのポイントか。うーん。あそこら辺かな。俺は思ったように進んだ。この中での進み方は泳ぐような感じでは無い。ボルダリングだ。水中のような世界で、沈んでいくのは事実。しかし、跳べる。なんとも不思議な世界だ。ずっと跳ぶと言っても限界がある。それに、全然跳ばないのだから無謀だ。跳べても5cm程。だから足掻きだと思って腕を伸ばすと気付く。掴めるのだ。だいぶキツい教育だ。


 三十分もかかったかな?空気を浴びた時は快感だった。ここは何処だろうか?

「病院の前さ。」

「病院…?犯人がここにいるの?」

「あぁ、()()()()()()()()()()。」

「っ!?」

俺はすぐ立ち上がり、身構えた。

「……ぷっ、あはははっ!!嘘だよ嘘!君はやっぱ面白いね!」

「くっ……こ、殺してやろうか…?」

声に出るほどの殺意が沸いてきた。むかつかせることに関しても天才的なのがより俺をむかつかせる。

「しかし、犯人がここにいるのは事実だ。4階に行くよ。」

「…あぁ!」

柴の"形"についてゆく。どんなのが犯人なのか全く検討がつかない。

「……ところで、君は犯人の顔を見ているのだろう?」

柴は歩きながら俺に質問してきた。

「半目の頃はしっかり犯人と目があったね。」

「ふふっ……なら、ピースは揃った。」

柴は立ち止まり、こちらを向いた。しかし妙だ。まだ病院内では無いのに止まるなんて。そんなことを考えていると柴は喋った。

「これから君にはしてもらうことが二つある。一つ目、僕が叫んだ後に僕を殴れ。二つ目、僕はその後、気絶したフリをする。君は僕を担いで人気の無いところに行く。いいかい?」

俺は意味が分からないまま同意した。柴は俺の同意を聞いたら息を大きく吸った。

「誰かー!!!!助けてー!!!!!アブノーマルに襲われる!!!!!!!」

「え。」

俺は困惑した。だが、そんな暇は無いと思い、柴を軽く殴った。柴はうっと言いながら倒れた。少し強かったのかもしれない。考える暇も無く、柴を抱えて走る。

「…予想通り。」

柴の独り言は含みがあった。恨みや妬み、怨念のこもった言葉に聞こえた。……俺のせいか。元を辿れば俺が殺したようなもの。俺がもっと冷静だったら。俺がもっと強かったら。そんな戯言が頭をよぎる。走るたびに後悔が込み上げてくる。自分がウザい。学校にいる時だってずっと思っていた。いざという時に行動できない自分が嫌になる。

グサッ

は?頭に、違和感。意識が、薄れる。形が、消える。そのまま俺は倒れた。

「う〜ん。ここも…賭けだね。」

そもそも尾座田くんのメリットの限度がわからない。が、結構タフであることを考えるなら……三回が限度か?あと一回は残しておきたいが、これは何回目だろうか?犯人との接触で一回。これで二回目……いや、警官との戦闘で使ったならこれは三回目。ならもう使わないほうがいいな。発動条件が死だからこそ、無闇に使うのは馬鹿だ。後は、()()()が銃を使ったこと。もし、院内に銃を持ち込んでいるなら、僕らは圧倒的に不利だ。それに奴は()()()()()()()()()()。うーん、カラス……血文字……まぁありえるか。なら先生は……!?いや、日記の内容を踏まえれば……

「無くはないな。」

柴が考えが整った瞬間、尾座田のメリットが微弱ながら発動した。柴はいつも通り笑った。


 尾座田には生に対する考えがある。具体的に何が生きるべきかが彼にあるのだ。そのゴミみたいな能書きが尾座田の日常を退屈にさせていた。しかし、今になって親友(よねば)依頼主(そごう)の死を振り返っている。こんなときの人間はワンパターンだ。『俺のせいじゃない』。自己の正当化(お決まりのフレーズ)で安心感を得る。人間が一番幸せな時とは、富豪になった時や家族と円満に暮らしている時ではなく、()()()()()()だ。だからこそいち早く幸せになろうとして自分で自分を許すのだ。尾座田は今、葛藤している。死について、自分はどうあるべきか。自分はどう生きればいいのか考えている。そんな尾座田を大きな単眼は見ている。視線に気づいた尾座田はようやく気づく。

(この空間にいる時間が長い。)

お前はくだらないな

「……あ?…声?」

本当は死にたいくせに、なぜ生きるのを諦めない?

「そんなん………わからない……」

私は分からない。お前があの男についてゆく理由が分からない。

「俺だって、こんな利用されっぱな生活は嫌だよ。でも…でもアイツは、()()()()()()()()()()()。」

それがどうした。そんなくだらないものがお前の何を刺激する?

(………何を?わかんないよ。そもそも何で俺は生きてる?成り行きでアブノーマルになって、気づけば周りが死んでって……)

「俺だって……俺だって……っ!!」

お前に何ができる?お前は何になれる?お前は何に必死なんだ?

いつもの目だ。そいつが俺と喋ってると分かると一歩一歩近づいた。ぺたぺた、ぺたぺた。無気力なまま歩いていく。

「…もう黙れ。」

強く拳を握り、目に目掛けて振りかぶる。初めて触れた。柔らかくて、つめたい。ガラスが割れたようにパリンと目は割れていった。確かに、アイツの言っている事は理解できる。俺に価値なんかない。いっそのこと死ねばいいと思っている。でも、俺は()()()()()()()()。柴は、あそこのみんなはあったかい。俺を信頼する目をしている。だから、もう少しだけ、()()()()()()()()()。そして、俺と同じ様なアブノーマルを救いたい。もう二度とアブノーマルを失いたくない。間違いを正さなくては。俺が、やらなきゃ。


 尾座田は無意識のうちに高度なメリットの使用を行った。それは『部分的な使用』。尾座田のメリットは広範囲に放つ光が時を戻す為の鍵だった。しかし、広範囲なこともあり、周りを巻き込む。なら、逆はどうだろうか?一定の範囲のみだけの時間を戻す。そうすることによって、そこだけを過去の状態に戻すことができるはず。だが、可能だろうか?

「…最高だっ!いいねその才能!!普通じゃ絶対思いつかないメリットの使い方!!君を殺して正解だったよ。」

尾座田の身体を包む光。普段のメリットならば身体から光が発散するのだが、今回は違う。傷を包む光。メリットの制御がもうできるのか?……違うな。死に際の潜在能力みたいなやつか?僕にも分かるよ。その感覚は馴染みある。

「………………ってぇな。」

寝たまま尾座田が呟く。僕は思った。()()()()()()()と。俺は誓った。コイツらを守ると。両者とも思いは同じ。自分が犯人を見極めると。

「早く立て。君が頼りなんだよ。」

「はいはい。帰ったらコーヒー飲もうぜ。」

「はぁ、キーマスターに席空けといてって言えば良かったな……」

「そんなん後ででいいだろ。」

ぬるい風が吹く。空の目玉に風が当たり、染みる。感じた事のない痛みが頭をすっきりさせる。

「っし!じゃあ、やるか。」

「うん。そろそろ決着をつけよう。」


 柴一人、長い廊下を歩く。今日、僕は死ぬかもしれない。柴はプレッシャーを感じている。指先は震え、冷や汗が止まらない。こんな時の感情の殺し方を僕は知っている。柴は舌を噛んだ。痛みで逆に理性を取り戻す。

「ここかな。」

412号室。赤木佑玖(あかぎたすく)。大きな白い扉を前に背中が凍える。決心し、柴は扉を開ける。目の前には子供が一人。え?と声を発して焦ってる。

「君だね?十合先生を殺した犯人は。」

「……は?え?え?…どうして……?」

「少しずつ整理しよっか。」

柴は自分のペースに持ち込めたおかげで余裕を持てた。

「まず僕は先生の患者と仕事仲間を怪しんだ。ただ、先生は脳外科医だから患者の線は無いと考えた。仕事仲間とも仲良いと聞いたからほぼ無いでスルーした。考えれる可能性としては、『身内』、『別の患者』の二つがある。だが身内に関して調べると両親は他界、兄弟はおらず、あの人の性格からして友達は少ないはず。なら別の患者しかないね。」

「……だ、だからってなんで俺なんだよ!この病院はでかいだろ!」

「確かに。六階まであって北棟、西棟、東棟の三つがある。先生は東棟の三階だね。ただ、僕が目をつけたのは()()()()()()。血文字の脅しとかいう幼稚なことに使用したカラスの血は野生のカラスから手に入れたはず。ただ病人に死骸の処理は難しいだろうね。だから僕は周りを見回った。各所にあったけど特に集中していたのは西棟。匂いが酷かったんだ。カラスよけネットもあったし、犯人は西棟と確定した。同時に、犯人がアブノーマルであることも分かった。メリットの確認にカラスを使ったと思ったから。」

「……その後は?なんで居場所が分かったの?」

「君は尾座田を目視している。たぶんあれ、初めて他のアブノーマルを見たでしょ。初じゃなかったらあの場で逃げるわけないからね。そこで僕は罠を仕掛けた。」

赤木ははっとした。

「……アブノーマルの発生かっ!」

「その通り!君の性格はもう分かってる。慎重だが、杜撰なとこがある。リスクはなるべく回避する君は尾座田の発生は()()()()()()()()()()。僕もそれは分かっていた。」

「あぁ……やられたっ…!」

赤木は歯軋りをする。悔しさが彼を蝕む。ただ、いつかはこうなると思っていた。それも柴には見抜かれている。

「尾座田の存在を叫ぶと普通は見るはず。ネットで叩くため、窓からスマホをこちらに向ける。じゃあ、こちらを見ないやつを調べればいい。西棟のこちらを見なかった部屋。三つあった。後は、脅迫文から子供だと推測して君にたどり着いたって感じかな。」

赤木はもういいと思った。コイツを殺せばすべて無くなる。そしたら日常に戻れる。恨みは晴らした。余命宣告されている赤木はすべてを捨てる決意をした。だが、ふと気になったことがある。

「……その推理だと内側にいる前提じゃないか。(びょういん)の内側だったらわかる。けど外側に犯人がいる可能性があるだろ!」

柴はため息をついた。重い話をするような声のトーンで話し始める。

「その可能性はある。だが、十合が今日休みだということを知るには内側じゃなきゃわからない。外側だと一回、確認してからじゃないといけないからね。確認すると後に十合を探してた自分が怪しまれるから絶対できない。だから内側だ。」

思った。相手が化け物だ。レベルが違う。住んでる世界が違う。でもこんなとこで死ぬべきか?彼女は、僕に生きて欲しいと言ったんだ。彼女のために生きるって決めただろ?ならやれよ。生きることに必死になれよ俺!

「すごい。12歳の俺じゃ絶対無理だ。けどこんなとこで死ぬ訳にもいかないんだ。」

部屋の窓を開ける。強風が吹き、窓際の花瓶が落ち、割れる。その音がゴングだった。

「じゃあな。」

「……は!?」

赤木は四階の窓から飛び降りた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ