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アブノーマル  作者: 白菜


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5/7

 柴だけは理解していた。尾座田翠(おざたすい)のメリットは何か。それは人間に出来るはずがないことであり、人々の理想でもあった。まさに神の領域。簡単にメリットを使用できれば大事にすべき宝だ。しかし、()()()()()()。あえて名付けるならば、『再び(リセット)』というのが妥当だろう。

「……くっ、!こんなの………誰がわかるんだよ…!」

柴は俯いたまま涙を落とす。十合の頬に滴る涙。実は涙の方が温かいことを尾座田はまだ知らない。『再び(リセット)』は時間を"ある程度"戻す力。力を使うと眩い光が辺りに広がり、光を直視しない限り時間が戻ったことに気が付かない。逆に、直視すれば時間が戻る前の記憶や状態が残っているということ。しかし、この力を使うには死に近しいダメージを負わないといけない。つまり、()()()()()()()と言っている。大いなる力には大いなる代償だけではなく、揺るぎない覚悟と勇気が必要である。そして、『再び(リセット)』には隠された最悪のデメリットが一つある。柴は外で戦いが起きても、尾座田がメリットを発動してしまっても蘇生を止めなかった。つまり、風呂場の中にいるので光を直視していないことになる。時間が戻り、柴は蘇生を続けながらなんとなく目線を風呂場の扉の先に向けた。ほんとはそこに立ってるはずの尾座田がいないことを理解し、『再び(リセット)』のからくりに気づき、メリットを使ったことを推測した。なぜなら柴は一度メリットを目の当たりにしているからだ。そこで一つの疑問を抱いた。

(尾座田のメリットは()()()()()()()()()()()()()()())

しかし、十合は死んでいた。戻す時間が短すぎたのだ。柴は蘇生はもう意味がないと決めつけた。その判断は正解である。『再び(リセット)』のデメリット、それは()()()()()()()()()()()であること。過去に戻ったとしても運命には逆らえない。むしろ、逆らってはいけないのだ。ならばいっそのことそのままにしとけばいいのでは?尾座田が米葉(よねば)と話したくだらないこと。それがそのままトレースされている。そのことは柴は知らない。というか、誰も知らないことだ。柴は立ち上がり、ふつふつと怒りが湧き上がった。それは自分に対してなのか、十合に対してなのか、はたまた尾座田に対してなのか、柴自身もわからない。ただ、今はこの怒りを晴らしたい。ぶつけたい気分だ。そんな時に尾座田が慌ててこっちに向かって言う。

「柴……十合は……?」

柴は尾座田の胸ぐらを掴み、息を荒くする。

「君が……!君がもっと……!!」

怒っている。僕は怒っているんだよ。あぁ、とてつもなく怒っている。

「な、なぁ……怒っているんだよな…?」

「あぁ!」

尾座田が柴の顔に触れる。

「じゃあ……()()()()()()()()()()…」

「は……?え?ぇ?う、嘘だ……嘘だよ…」

尾座田を離す。自分の口を触る。ぺたぺたと触る。ぱちんとも聞こえる。唇をなぞると口はU字を描いていた。下げようとしても下がらない口角。怖い。自分が怖い。なんで?なんでなんだ?僕は先生の死を喜んでいるのか?そんなわけないだろ!僕は涙を流していたじゃないか!あれは嘘なのか?

「……………」

目の前で狂ったように動き回る柴。表情はわからないが、歪んでいるのはわかる。俺は柴を無視して部屋を探索しようとしたが、ちゃんとした視覚はやっぱ欲しい。俺は柴の顔を躊躇なく蹴った。俺も俺で狂ってるのかもしれない。

「……はははっ、ひどいよ。…ありがとう。」

「どういたしまして。さっ、やることやろうぜ。」

「…うん。そうだね。」

柴は立ち上がり、十合の家を調べることにした。


 支えられながら十合の家を調べると柴は俺に聞いてきた。

「そういえば、君は目を撃たれたんだろ?」

「あぁ。」

「傷口はどうした?」

確かにと思い、後頭部を触るとあるはずの穴が無い。撃たれた時でさえ痛みを感じなかった。

「うーん、考えられるのは君の回復力が高いとか無意識のうちに部分的なメリットを使ったとかかな。」

ゴトッ。四角い物体に左足がぶつかった。柴がん?と声を出す。きっと何か見つけたのだろう。

「なんかあったか?」

「……タンスの中に…日記?」

確かにタンスが少し開いている。柴が中に手を突っ込んだ。

「日記だ。……二年前の。」

柴がパラパラとページをめくる。すると、ピタッと動かなくなった。震えた声が響く。手も震えている。

「見れないことが羨ましいよ……」

「じゃあ、読んでくれないか?」

柴は嘘だろと強く否定するが、すぐに諦めた。唾を飲み、重要そうなところを読み始めた。


─────────────────────────

 5月19日[晴] 倉那宮(くらなみや)が入院。小児脳腫瘍(しょうにのうしゅよう)で手術が必要と判断。手術日は22〜23日の予定。

就寝2時46分


 5月20日[晴] 倉那の親が私を脅した。手術に成功しなければ殺すと。な̶ら̶ば̶私̶は̶殺̶さ̶れ̶る̶だ̶ろ̶う̶。̶

死なない できる きっと 自分なら できる やれる 不安になるな 落ち着け 

就寝


5月21日[ ]


5月22日[曇] 手術は安定。明日もミスすることはないだろう。今日は早く寝ようと思う。

就寝1時17分


5月23日[ ] 宮の脳 宮の脳 宮の脳  宮の脳 宮の脳   宮の脳 宮の脳宮の脳  宮の脳 宮の脳 宮の脳  宮の脳 宮の脳  宮の脳 宮の脳宮の脳   宮の脳 宮の脳宮の脳 宮の脳 宮の脳  宮の脳 宮の脳 宮の脳  宮の脳宮の脳 宮の脳  宮の脳 宮の脳   宮の脳 宮の脳宮の脳

。遺書は書かないでおこう。。.,...。私は眠る


 月 日 [ ] 


  なぜ生きてる?

            足りなかった?

    非科学的        ↪︎いや ありえない

 なんだ?     人か?    人外か?

    不可解       死んだはず


           ͟ア͟ブ͟ノ͟ー͟マ͟ル͟か?

          ↙︎

        (これが正解)

─────────────────────────


(おぞ)ましいものを聞いた。柴が震えるのも納得の内容だった。他の日記よりもぼろぼろのこの日記は十合の心を酷く表している。人が壊れる瞬間というのは息が詰まる。言葉にできない感情が胸に残るような、得体の知れない何かが気持ち悪い位置に刺さっているような、そんな気持ちになる。不快…よりも歪な悲しみが勝る。そして自分を振り返ることになる。振り返ったら幸福や安堵が得られるのも確かだ。その行為は悪だと分かっていても、やってしまうのは人だからだろう。

「……ん、?」

誰かが近づく音。柴ではない。知らぬ人。柴もそれに気づいていた。

「…相手よろしくねー!」

床を足で叩く。柴が消えてゆくのがわかる。

「え、ちょ!?待って!俺も影に入れろ!!」

柴が完全に消えた。いや、()()()

「手を挙げろ!!!警察だ!!」

「……。」

俺は大人しく両手を挙げた。さぁ、どうする…?


 無事に僕だけが帰ってきた。落ち着く温度の室内はほんとに最高だ。尾座田くんなら…なんとかなるだろう。ていうか、なんとかしてもらわなきゃ困る。

「影、ありがとね。」

「………。」

影はグッドサインをしてまた影に潜った。それにしても今日は散々だ。信頼していた人が死んだり、それを僕は無自覚に笑ったり。だが、収穫が多いのも事実だ。まず尾座田くんのメリットが判明した。これが一番大きい。()()()()()()()使()()()。みんなの理想への大事な一ピースだ。そして、これも衝撃だった。十合の死。これが意味すること、それは()()()()()()()()()こと。不死身とかではなく、二度目の復活とかも無い。しっかり死ぬんだ。

「…あはっ、はははっ!」

なにがおかしいんだろう。心の中は笑って無いのに。今の僕は最高におかしい。なんというか、その、狂ってる。そんな気がする。………。

「さて、()()()()()()()()()。」

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