一度
人の命は一つ。死んでしまったら終わりだった───
俺の高校はかなりの不良高だ。色々な嫌がらせが多いけどやっぱり一番はいじめだろう。これだけは絶えなかった。俺も標的になったことがあるが今は親友の米葉が玩具にされている。正直、助けたい。けれど、あの日々には戻りたくない。米葉には申し訳ないという気持ちでいっぱいだが、まだ口に出せていなかった。一度でもいいから米葉とご飯でも食べに行きたい。こんな連絡を嫌がられるほど送っても既読の文字のみ。文字すら打つ気力が無いと考えると舌を噛んでも噛んでも苦味が増えていくだけだろう。とりあえず寝るかとベッドに寝転んだその時、携帯が鳴る。
『明日昼早退』
『俺の家集合 2時』
『了解』
午後二時、約束の家へ。指先で触れるインターホン。耳に響き残る風の音と呼び鈴の音。扉が開く。痩せ細った米葉が顔を見せる。
「入りなよ、親友。」
「あ、あぁ……お邪魔するよ…」
親友という最高の皮肉。何もしてくれない俺を未だに親友と呼んでくれることに少し拳を握る力を強くした。汗で少々拳があつくなっているが気にしてる場合ではない。中に入る。綺麗に整えられてる部屋から寒気を感じる自分がいる。
「適当に座って。」
「あ、ありがとな。」
なんともいえない座り心地。米葉は冷たいお茶を淹れたコップ二つをテーブルに置いた。俺の対面に座り、話し始めた。
「尾座田、まずは……謝らないでくれ。お前が謝ると俺はもっと痛む。」
「うっ…うぅ……」
泣くのを堪えるのはこんなにも辛いのか。まだ俺は小物だ。小さいんだ。経験も、心も色々小さいままだ。
「アイツらに酷い扱い受けているけど今は前よりかはマシなんだよ。……はぁ、お前には話すか。」
「……えっ?な、なに?」
「……落ち着いたままでいてくれよ。」
唾を飲む。重い空気感となった今、飲み物を手に取りづらかった。動いたら場を壊してしまうと思ったから。
「俺……アブノーマルになった。」
「……え?」
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アブノーマル:稀に死人が生き返ることがあり、生き返った人間をアブノーマルと呼ぶ。病気とも体質とも言われているが定かではないが、十万人に一人はアブノーマルであると専門家が発表した。アブノーマルには大きな特徴が二つある。一つは【メリット】と【デメリット】という非科学的な力を使うことが出来る。もう一つは普通の人間より平均体温が高い個体と低い個体の二体いるというもの。体温は高いのと低いのでメリット、デメリットに大きな違いは見られない。
メリットとデメリット:科学では説明し難い力。メリットは名の通り自身に有利な力、状態。デメリットも名の通り自身に不利な力、もしくは状態。
(科学サイト『scienceCode』の"アブノーマルとは"より一部抜粋)
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アブノーマルになった。つまり一度死んだということ。そんな惨い経験を淡々と話した米葉に恐怖してしまった。ただでも辛かっただろうに。俺の顔みるなり、米葉が口を開けた。
「あぁ、前から死のうと思ってたし心配しないでくれ。でも、あるニュースを見ちまったんだよ。それから怖くて……」
「…あるニュースって?」
「……一般市民とアブノーマルが衝突する事故があって結構大事になって裁判にまでなったんだ。しかし裁判長は全部アブノーマルに罪を押し付け。結果アブノーマルが有罪。一般市民は230万円の得をした。」
「は!?それじゃあまるで差別じゃないか!!」
話を聞いて怒りが湧き、立ち上がって声を荒げてしまった。しかし、これを聞いて怒りを覚えない奴は居ないだろう。明らかにおかしい。俺の学校と変わらないじゃないか。自分の中で世界への憎しみが少しばかり現れた。
「ネットでも賛成派しか見当たらなくて、もう人が怖くて仕方ないんだ。学校も……もう行けないな。」
午後七時半に解散。帰り道に考えてしまう米葉の言葉。悔しくて仕方なかった。ぐっと握った拳は自分の歪な感情を表してるような感じだった。家に帰ってもずっと考えて夜も寝れず、寝不足のまま朝を迎えた。重い足、だるい体そして暗い事実。隠し事をしながら過ごす平日はいつもより暗い顔をしていた。そんな顔をしていたからか仲村グループに目をつけられた。
「尾座田く〜ん。最近さぁ、アイツ学校来ないよねぇ。」
「は…はい……」
「ちょっと退屈でさぁ〜遊んでよ尾座田くんw」
胸ぐらを掴まれて仲間の重いパンチ一撃をくらう。吹き飛ばされ吐血する。髪をぐしゃっと掴み持ち上げ、問われる。
「お前、米葉が休んでる理由知ってるだろ。」
喋る訳にはいかない。誰にも言えないアイツとの約束なんだ!
「なぁ。なんとか言えよゴラァ!!」
顔にパンチを一発。幸い、利き手じゃ無かったからまだ立てる。唾と混じった血をぺっと飛ばす。そんな瀕死の状態でも口を割らなかった。よろよろと立ち上がる途中に膝蹴りを腹にくらう。呻き声と倒れ込む音。教室の椅子を目の前に持ってきてその椅子に座る。前屈みになり俺に質問する。
「米葉になにがあったんだ?ほら、俺に言えよ。言ったらお前でもう遊ばねぇからさ?な?」
「……」
「チッ、おい。コイツ押さえろ。身動き取れないようにしろよ。」
「「「はい!わかりました!」」」
俺を押さえにドタドタ迫ってくる。抵抗するも蹴られ殴られ、まさに地獄そのものだった。俺が何をしたって言うんだよ。心の声は届くわけなく、届いたとしても響くわけない。うつ伏せの状態で拘束された時にはもう意識が飛びそうだった。
「お前、昨日早退したけどなんで?」
「うっ……た、体調が悪かった…だけっ……」
横腹に一発蹴りを入れられた。なにかゴガッって聞こえたがそんなこと気にする間も無く話し始める。
「例えば〜、誰かと会う約束をしたとか?俺らから逃げたかったとか色々ある。けどなぁ、昨日お前が米葉にあったのはわかってんだよ!!」
「っ……ぐっ、会って…ない。」
仲村が近づいてきてしゃがみ喋る。
「俺の後輩が見てんだよ。米葉と友達みたいなのが家に入っていったってよぉ。それに親友とかって呼んでたらしいんだよ。それに米葉がお前を親友って呼ぶのは分かってんだよ。」
「……」
「なぁ、話せよ。そしたらお前は自由だ。」
屑だ。どいつもこいつも屑。権利を利用して弱者をボコボコにする屑。権力者に群がる屑。見て見ぬふりをする屑。神は俺にどういう人生を歩んで欲しかったんだよ。もう、いいよね?神は俺を見てないんだ。俺に堕ちろって言ってるようなものだよな?心の色はだんだんと灰のように黒色もある鼠色に染まっていった。少し口を開き、息を吸う。余力を尽くして言葉を発する。
「あ…いつ…は…アブノー……マル…に。」
全員が驚く。三秒ほど硬直していたがすぐに屑どもは俺を解放し、舌打ちをした。ボソッと何か言っていたが意識が朦朧としていてあんまり聞き取れなかった。気がつけば保健室のベッドの上だった。体を起こすが傷がまだ痛むがそんなものより痛い事実。
「あはっ、俺も屑か。」
先生の目を掻い潜り、抜け出す。ふらつく足で向かう米葉の家。一歩一歩が重く、痛い。いきなりスマホが鳴り、一件のメールが。
米葉から一件のメールが届きました。
たすけて
手も足も震えた。仲村はもう米葉の家にいる。歩むスピードを速めた。しかし、もう遅かった。部屋に入ると目の前には赤色の米葉と首のない仲村達が居た。日光をバックに光る米葉はどこかおかしかった。そして、目が合う。
「お前、言ったな?」




