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魔力契約

朝。

起きたら、空は綺麗に晴れていた。

外はすっかり雪景色だ。

これから春までは、銀世界らしい。


ハーブティーを片手に、エマスイが言う。

「雪かき、しないといけないのよ。」

サマーは元気良く、

「やります!」

僕も手を挙げる。

「僕も!」

でも、僕は雪かきなんて、したことない。

敷地が広いから大変そうだ。エマスイはにこっとする。

「それじゃあ、女中部屋から雪かき機を出してきてくれるかしら。」


一階の西側に、開かずの間がある。

僕は一回も入ったことがない。

エマスイがカギを開け、ドアを開く。

中に入ると……

右のほうに廊下が伸びていて、左側の壁にいくつかドアがあって、部屋が並んでいる。

どの部屋もドアは開いていて、中が見える。

窓は鎧戸が閉められていて、薄暗く、ホコリっぽい。

ちょっと廃墟感あって、夜中は入りたくない感じだ……。


古い建物だし、どの部屋も何か出るって言われても、おかしくないけど……、

僕は病院にいた時、さんざんそういう話は聞いたから、もう慣れた。

大抵は作り話しだし、いろんな病気の人がいたから、もし何か、説明のつかないものを見聞きしたのだとしても、不調が原因って事なのだろう。

ローイは平気なふりしてたけど、結構怖がりだから、誰かが怪談話を始めると、自分もわざと怪談話を作って対抗してた……。

「話す方が怖くない。」

らしい。ローイの怪談はあんまり怖くなかったけど、話し方が上手くて雰囲気あって、引き込まれたな……。

またローイの怪談、聞きたいな……。


女中部屋をのぞくと、

どの部屋も何かしら物が置いてあった。

使われなくなった家具や家電、庭で使う道具、どれもガラクタに見える……。

「母と私が越して来たとき、家中の家具や家電を新しく買い替えて、内装も変えたんだけど、ここはほとんど手をつけていないわ。」

ガラクタたちは、エマスイが来る前の家主の持ち物らしい……。

「母は、雪かき機を置いただけなんじゃないかしら。これで三台目よ。」

一番手前の部屋に、雪かき機が置かれていた。

サマーが、雪かき機にかぶせてある袋を取る。

「わあ!」

「へえ、小型のブルドーザーだ!」

箱のようなシャベルが前方についていて、キャタピラで走行する。

子供が乗って遊ぶ、おもちゃの車くらいのサイズで、色は……

「黄色でカワイイ!」

「庭の地形や道は覚えさせてあるから、自動で除雪してくれるのよ。」

「掃除ロボットの雪かき版なんですね。」

知らなかった。雪国にはそんな機械があるんだ。

電源を入れ、サマーの手帳でログインする。

ロボットのランプが点滅する。

「初めまして。サマーさん」

『しゃべった!』

と、僕とサマー。

「よろしくレモン。」

黄色いからレモンが愛称らしい。

除雪運転をオンにすると、雪かきロボットレモンの回転灯が光り、注意を促す音を出しながら、キャタピラで動き出した。

「移動中です。近づかないでください。」

僕たちは、レモンが、玄関の外へ向かってゆっくり移動していくのを見守る。

小さくてかわいいけれど、かなり重量がありそうだ。

ロボットは玄関を出ると早速、スロープを下りて庭に出て、石畳に積もっている雪を、押し始める。

僕の手帳にも、アプリを入れる。

レモンが見ている映像が見れて面白い。

押していった雪を、石畳のふちのところで、植え込みに壁を作るように押し付けて離れる。

サマーが元気よく言う。

「運動になるし、俺も雪かきしよう!」


準備して戻って来たサマーは、サングラスをかけ、長靴を履いていて、薄着だ。雪かきスコップをかっこよく振り回してから構える。スコップもロボットと同じ部屋にあった。

サマーはレモンに指示する。

「ロボット、お前はそっち側、俺はこっち側をやっつける。」

レモンはカメラをサマーのほうへ向ける。

「了解しました。」

と、レモンはシャベルを持ち上げる。サマーは、

「頑張ろうな!」

と、ロボットを撫でた。


二人はサクサク雪を運んでいく。

途中で僕も、サマーと交代して雪かきした。

雪をすくって……持ち上げる……。

「重い……!」

運んで落とす。

「はあ……。」

十往復で疲れてしまった……。でも……

「雪かき、楽しいですね!手足も温まるし!」

雪は好きだ……。



入院以来……、

初めて雪が積もった日……。

僕とローイは二人で、病院の屋上で雪遊びした。

雪玉を投げ合ったり、雪だるまを作ったり。

楽しかった……。

でもそのせいで、

夜には、見事に二人とも熱を出して、先生に呆れられた。

「無茶なことするなあ。」

懐かしい思い出だ。

僕たちはとても楽しかったから、これで死んでも本望だと、その時は本気で思っていた。



サマーより、ロボットのほうが先に雪かき終わった。

「やっぱ早いな!レモン、こっち側も頼むよ。」

「わかりました。」

電気アンカを抱えて見物していた僕は、玄関へやってきたサマーにジュースを手渡す。

「お疲れ様です!かっこよかったですよ!」

サマーはジュースをごくごく飲んでから、

「はあ……それを言うのはまだ早いよアルシュ。」

「え、」

彼はどや顔する。

「俺はウインタースポーツも得意なんだ!冬も俺の季節だ!」

「あはは!さすがです!」



数日後。

僕はコートを着て玄関の外へ出た。

「雪かき終わってる!」

除雪機は、夜中のうちに働いていたらしい。

また動いてるとこ眺めたかったな。また昼間に降らないかな。

さすがに未舗装の森のほうは除雪できないらしく、真っ白だ。

僕はそちらへ踏み入り、きれいな雪で雪玉を作る。

後ろからサマーに声をかけられた。

「アルシュ!その靴だと滑って転ぶよ!」

南国なイメージの彼だけど、雪になれている。

『大学こっちだったからな。スキーもスケートもできるよ。』

と、話していた。 

『さすが!僕もやりたいです!教えてください!』

『いいよ!』

約束してもらった。


サマーは植木に積もった雪を、デッキブラシではらって落とし始めた。

僕もそちらへ向かう。

「僕も手伝いまうわっ!」

滑って転んだ……。

「アルシュ!」

雪の上に倒れたから、大丈夫だ。

とっさにかばった腕も指も、なんともない。

「ちょっと待ってて!そのまま!」

「え。」

サマーは玄関に入り、僕の長靴を取ってきてくれた。

「ほら、摑まって。」

履き替えるのを手伝ってくれた。

「ありがとうございます。」

「本当に大丈夫?怪我無い?」

「ないです。」

膝にあざができたかもしれないけど、他は大丈夫だ。

「すみません、気を付けます。」

「こうやって歩くんだよ。」

と、実演してくれた。

知らなかった。転ばない歩き方があるんだ。

「アルシュはスキーより、まずは、雪の上を転ばずに歩くところからだな。」

「はい。」

スキー板を履いて森をお散歩……は、まだお預けだ……。





最近サマーが上機嫌だ。

例のパーラーの女性と、とうとうお付き合いを始めたらしい。

「緊張して告白したけど、すんなりOKしてくれたよ!」

以来、サマーは地に足がつかない。

本当に、常に踊りながら移動している。

家の中を、普通に歩いているところを見かけなくなった。

「あの、サマー。」

「なーにー?」

踊りながらやってくるので、笑ってしまう。

そのうち、床だけじゃなくて、壁や天井でも踊り出しそう……。


二人が長く幸せでいられるよう、祈ってる。





車庫のシャッターの音がしたので、僕は玄関へ向かう。

両開きのドアを片方開け、

雪景色に目をやると、石畳の庭を歩いて来る人がいる。


「ルイス!」

ルイスがこちらへ向かって歩いていた。


彼は、僕を見て表情が輝く。

「アルシュ君!」


「ルイス!」

お互い駆け寄る。

満面の笑顔の彼に抱きしめられる。


「アルシュ君!会いたかったよー!」

「僕もですよ!」

「ああ……癒される……いい香り……!」

と、ほおずりされる。

「あはは!」

「ごめんね、寒いね。入ろう。」

「荷物、持ちますよ。」

「ありがとう。」

玄関から、エマスイがこちらを見ている。

「エマスイ先生!」

ルイスは彼女にもハグする。

「いらっしゃい。ルイス。ゆっくりしていってね。」

「お世話になります!」

サマーも出迎える。

「サマー君!」

ルイスは彼ともハグする。

「歓迎しますよ。」

と、サマーはルイスの背中を叩く。

「ありがとう。」



僕はルイスが来るまで、自分の部屋にいた。

メルツとおしゃべりしてた。

僕は階段を駆け上がり、自分の部屋のドアを開け、メルツに声をかける。

「ルイスが来たよ!」

「私もお会いしたいです!」

メルツは、ルイスと会えるのを楽しみにしていた。


ベージュ色のイタチのメルツを抱いて、ルイスのところへ行く。

「メルツですよ。」

ルイスは目を輝かせる。

「わあ!はじめまして!」

メルツは見る間に小鳥になって、僕の腕に留まる。

「わあ、すごい!」

ルイスはメルツに見入っている。

「ルイス、こうやってください。」

僕はメルツの乗っている腕を持ち上げる。

ルイスも片肘を持ち上げる。

すると、ルイスの腕に、メルツは飛び移った……。

ルイスはメルツに見惚れている。

「変身するなんて、本当に精霊なんですね……綺麗……!」


二人は見つめ合う……。


「メルツさん、とってもお綺麗です。」

褒められたメルツは恥ずかしそうに言う。

「ルイスさんのほうが綺麗です。見とれてしまいます……。」

僕はメルツの感想をルイス伝える。

「あはは!ありがとうございます!

クリスマスということで、メルツさんにもプレゼントご用意してあるので、ご期待くださいね!」

と、ウインクする。

メルツはくすくす笑う。

「楽しみです!」




アルシュ君が、本を見せてくれた。

魔法について書かれた本だ。

一緒に本を見ながら話す。

「特別に作られた不思議な道具もあるけど、身近な物に魔力を込めて魔法道具に作り変える事も多いんだね。」

魔法道具の一例がのっていた。

箒やペン、メガネ、調理器具など。日用品が多い。

なるほどね。と、思う物もあれば、説明されないと何に使うのか分からない物もある。

使い古したアイロン台、割れた電球、蛇の抜け殻……。

魔法使いらしい。

アルシュ君が絵を指差して言う。

「これは僕、持ってますよ。」

そして、僕を自室へ招いてくれた。

ベッドサイドのテーブルに、水晶の結晶が一本置いてある。

「これです。」

彼はそれを手に取って、僕に見せる。

「これは、僕の魔力の電池なんです。」

「へえ!これに?魔力をためられるの?」

「はい。この結晶にためておけば、魔力が長持ちするんです。毎日少しずつ注いでいるんですよ。」

「どんな時に使うの?」

魔力をためても、まだアルシュ君は、魔法を使えないはずだ。

「メルツと一緒に空を飛んだり、魔力を消耗する時に使います。」

「え、アルシュ君、空飛べるの!?すごい!」

「メルツが僕を運転してくれるんです。

この本に、水晶の万能性が書かれていたので、メルツに手伝ってもらって、電池として扱えるようになったんですよ。

研修所へ行くまでの間、自分たちでできそうなことを試しながら、暮らしているんです。」


それから、内緒話をするみたいに、アルシュ君が近づいてくる。

「ルイス、僕は今まで黙っていたことがあるんです。」

僕も彼に耳を寄せる。

「何?」


「ルイスも少しだけですけど、魔力がありますよ。」


「ほんと!?」

僕に魔力が!?びっくりだ!


「コントロールできれば、弱い魔法を使えるようになるかもしれません。」

と、魔法について書かれている本を差し出してくれた。

「読んでもいいの?」

「どうぞお貸しします。」

モーリーさんが送ってくれた本らしい。

「これで三冊目なんです。親切ですよね!」

僕は、サマー君ほどには、魔法に興味ないなと思っていたけど、

自分に魔力があるとなると、話は違う!


僕は四十分かけて、隅々まで本を読んだ。

「え、もう読んだんですか!?」

アルシュ君が驚いている。

「うん。僕、文章読むの早いみたい。暗唱もできるよ。」

アルシュ君は目を丸くしている。

「一冊暗記したって事ですか……!?すごいです……さすが……」

「……魔力少ないと魔法使うの難しそうだけど、あるってだけでもワクワクして楽しいね!」

アルシュ君は、魔力仲間ができて嬉しそうだ。





エマスイが言う。

「今年もスケートリンクを作ったそうよ。

私は子供のころから、ほぼ毎年、そこでスケートをしているの。」

エマスイの説明によると、

村の住宅地近くの原っぱの窪地に、川の水を引き込んで凍らせて、スケートリンクにして、開放しているそう。

昔は地主の土地だったけど、今は村の敷地らしい。

役場の人とボランティアが整備しているそう。

サマーが僕に尋ねる。

『ルイスさんはスケートできますか?』

「子供のころ、友達と滑った以来だよ。アルシュ君は?」

「全く初めてです。」

少し不安そう。アルシュ君は、サマー君に教わるのが良いだろう。サマー君はウインタースポーツフィーバーらしいから。(子どもの頃、冬季オリンピックを見て憧れてたらしい。)

それなら僕は……

「僕はエマスイに教えてもらおうかな。」

「いいわよ。」



村には子供が少ないらしく、思ったより年齢層高めのスケーターたちが滑っている。

エマスイは、白いモヘアのレース編みの美しいショールを首に巻いて、優雅に氷上を滑っている。

僕も隣を滑る。

「そうそう、上手よルイス。」

「フィギュアスケーターになるのも憧れてたんですよ。」

「今から習ったら?」

「それも良いですね。」

僕はアルシュ君とサマー君の方を見る。

「ふふ。アルシュ君、少し腰が引けてる。」

厚手の手袋、ニット帽、耳当て、マフラー、コート、レッグウォーマー、完全防備でよろよろ滑っている。

転ぶ手前でサマー君が受け止めている。




僕はスケートは初めて。

転んで腕や肩にダメージがないよう、厚手のセーターとダウンコートを着ている。

リンクに下りて小一時間。

サマーに支えられて、ようやく、何とか、安定して滑れるようになってきた。

「メルツ?見て。」

僕はサマーの支えなしで滑る。

小鳥のメルツが、僕のマフラーの中から顔をのぞかせて言う。

「楽しそうですね!」

「うん。楽しいよ!」

割と必死だけど……。

スケートリンクの近くに、屋台がある。

サングリアとか、パイとか売ってる。

美味しそうだ。後でみんなで食べながら休憩する。

メルツが言う。

「アルシュさん、踊りませんか?」

「え、踊る?」

「アルシュさんの魔力を運転して踊ります。」

「やってみて。」

「はい。」


メルツが精霊の姿になって目の前に降り立つ。

僕らは手をつなぐ。

急に足元が安定して、

メルツのリズムが、僕の体に流れ込んでくる。

気づくと、自然と踊っていた。

周りからは、透明人間と踊っているように見えるだろう。


踊るメルツは、ダイヤモンド色の日差しに透けて輝いていて綺麗だ……。


「あはは!すごいよメルツ!」

「ふふふ!」

僕たちはクルクル回って、

アイスダンスを楽しんだ。


エマスイも、ルイスも、サマーも、笑顔で拍手してくれた。


みんなでリンクから出て、休憩しようと、メルツの手を離した途端、

僕は転んだ……。

「わ!」

「すみません!大丈夫ですか!?」

メルツが慌てて腕をつかんでくれたおかげで、間一髪、氷に肩をぶつけずに済んだ。

「アルシュ!?」

サマーも僕を抱き起こす。

「大丈夫です。あはは!ありがとう。」



エマスイは、サングリアを飲んで嬉しそうににっこりして言う。

「変わらず美味しい。これが目当てなのよ。」

確かに美味しそうだ。

「アルシュ君も一口どうぞ。」

と、ルイスが差し出してくれたので、飲んでみた。

「甘酸っぱくて美味しいです!メルツにもあげていいですか?」

「どうぞ。」

メルツに聞く。

「お酒は大丈夫?」

「平気ですよ。」

肩に止まっている小鳥のメルツは、コップの中に顔を突っ込む。起き上がって、

「良い気持ちです!」

コップを受け取ったルイスは、美味しそうに中身を飲み干す。

僕とメルツは紅茶を飲み、ミートパイを食べる。

「美味しい……。」

三つ目のミートパイをかじっているサマーに、ルイスが話しかける。

「サマー君スケート上手だね。どこで覚えたの?」

「音大の近くにある公園の池です。ここよりずっと広くて、滑りごたえありましたよ。ルイスさんこそ上手でしたよ。」

「ふふ。滑り方忘れてなくて良かったよ。

エマスイは、いつもアシスタントを連れて来て滑ってるんですか?」

「そうね。興味ある子とね。ふふ。初心者で踊ったのはアルシュが初めてよ。」

「メルツのおかげです。」

「いつか私もメルツさんとアイスダンスしたいわ。」

メルツは羽を震わせる。

「嬉しいです!私もエマスイと踊りたいです!」

「だそうです。」

「僕もメルツさんとダンスしたいな!」

と、ルイス。

「わあ!」

サマーもおずおずと、

「じゃあ、俺も……。」

メルツは嬉しそうだ。

僕は三人に言う。

「魔力を補う何かを僕が学べたら、ぜひ!」

「楽しみにしているわ。」

「いつか、精霊の姿のメルツさんと会えるの、楽しみにしてるよ!」



帰りの車の中で、エマスイが謝る。

「サマー、ごめんなさいね。」

「いいえ!彼女とは、次のデート約束してあるんで!今日会えたのは、ほんと偶然でラッキーでした!」

食事休憩の後、もうひと滑りして、そろそろ帰ろうとしたころに、サマーの恋人が、友達と一緒に滑りにやって来たのだ。

二人の時間を作ってあげたいのはやまやまだけど、サングリアを飲んでいないのはサマーだけで、他に運転手がいない……。

サマーは彼女と少し会話して、軽くキスすると、手を振って車へ向かった。

サマーって、そういうところ、すごく偉いと思う。

隣に座っているルイスがこっそり僕に言う。

「きっと、夜に長電話でイチャイチャするんだよ。」

「ははは!」


少し疲れたので、ピアノを弾く前に昼寝する事にした。

「メルツ、僕は休むね。」

肩に止まっているメルツを二階の手すりに移す。

「はい。おやすみなさい。アルシュさん。」

僕は手を振って、ドアを開けて部屋に入り、

セーターとズボンを脱いで、温めておいたベッドに潜った。





私が森にいると、

雪がちらついてきた。

空からの、

美しい、可愛い、贈り物。

雪を見ていると、楽しくて優しい気持ちになる……。


アルシュさんも、雪が好きだと言う。

でも、長くは外に居られない。

道に積もった雪を退けないと散歩できないし、

寒さで辛くなってくるらしいし、

私と一緒に雪を眺める他にも、彼は、やる事がいろいろある。


人間は、森の動物よりずっと長生きだし、強いように思えるけど、

すぐに寒がったり、暑がったり、怪我をしたり、病気になったり、

心配で気掛かりになる……。

でも、アルシュさんは、システムがあって病気にならないぶん、私は安心していられる。



私を最初に愛してくれた人間は……子爵さんは……

最後、病気だった……。


だから、ある日突然、旅に出ると言って、

屋敷から姿を消してしまった……。


当時の私には、それが何なのか分からなかったけど、彼の生命力には不調があった……。



アルシュさんには、そういう事が無いというのは、とても良い。


人間にとって、快適な温度に保たれた屋敷の中で暮らしている、アルシュさん達……。


私もそこへ入って行きたい気持ちもあるし、

アルシュさんと一緒に、森で精霊の暮らしをしたい気持ちもある。


人間と精霊は、ずいぶん違うから、どちらも難しいけど、これからも、一緒に過ごす時間を楽しんでいきたいと思う……。





僕は、リビングの暖炉のそばにあるソファに寝そべって、アルシュ君から借りた本を読んでいる。借りるのは二冊目だ。

今回は、初心者向けの、魔力入門書だ。

魔力とはどういうものか、

魔力が減った時、補う方法、

自分に魔力がどれくらいあるのかが分かるチェックリスト……。などなどが書いてある。


少しとはいえ、僕に魔力があったなんて驚きだ。全然実感ないけど。


「アルシュ君には、僕の魔力が見えてるの?」

と、聞いてみた。

オーラ的な何かが見えてるのかなと思ったけど、

「いえ、僕には分かりません。

メルツが教えてくれたんです。ルイスはエマスイより濃いらしいですよ。」


ねえ、聞いてよ。

スワロウ、アドルフ、ダルシアン、

僕に魔力があったなんて、びっくりだよ!

もしかして、僕の魅力は、魔力も関係あるかもね!


魔力測定チェックリストをやってみた。

リストの中には、

精霊の存在や、魔力の込められた物の存在を身近に感じた事がある。とか、

地下でも方角や天気が分かる。とか、

動物と意思疎通できる。とか、

ポルターガイストが起こった事がある。とかあって、

なんとなくオカルトチックだけど、実際魔力の濃い人は多く当てはまるんだろうな……。


僕が唯一当てはまるのは、液体を操れる。だ。

うーん、でも、それもどうなんだろう。

実験で量をこなして薬品の扱いになれて、手早く試薬を作れるようになっただけかもしれない。

落ちた液体を元の容器に戻せる訳じゃないし。

でも、特技と言える。

昔から、液体の動きは、感覚で分かる。

例えば、雫の育つ早さと大きさで、落ちるタイミングが分かる。

ダルシアンにそう話したら、

「え!俺には分からない……。」

と、驚かれた。

「薬品によって表面張力が違うから、液滴一粒の質量も違うけど、数回見れば、落ちる瞬間が分かるようになるよ。」

「すごいな……!」

ダルシアンに尊敬の眼差しで見られるのは、こそばゆくて快感だった……。

「ふふ!リズム感みたいなものだと思うよ。」


……

あの火事で……

素早く火を消すのにも、特技は役立った……。

ダルシアンを助ける事はできなかったけど……。

「ダルシアン……。」

涙が滲む……。




リビングには、大きなクリスマスツリーが飾ってある。

十二月に入ってすぐの頃、僕とメルツと、エマスイとサマーで飾り付けした。

この木は、お花屋さんとサマーの二人が森から取ってきた本物のモミの木だから、本格的なクリスマスツリーだ。


「間近で見るのも、飾りつけするのも初めてです!」

と、メルツは楽しそうだった。

「木に飾りつけするなんて、人間って面白いことしますね!」

キラキラした雪の結晶モチーフや、星や、

リボンや、可愛い天使、木製の動物達。

僕がオーナメントを手渡すと、リスの姿のメルツは、木の上で上手に飾りつけしてくれた。


オーナメントは、エマスイが幼い頃、母と一緒に選んだ物も多いらしい。

ツリーを見上げて喜ぶ小さなエマスイ……。

可愛かっただろうな……!


僕が小さな頃は……、

クリスマスの日は、両親がパーティーをはしごする日で、僕はいつも通り、放って置かれた。

気まぐれで連れて行かれた事もあったけど、割と迷惑だった。

他の子と仲良くなれたり、ピアノを弾かせてもらえれば嬉しくなるけど、酔っ払った母をなんとかタクシーに乗せて連れ帰った事もある。最悪で、思い出したくない……。


入院中は、先生がサンタに扮して、みんなにプレゼントを配ってくれた。

とても嬉しかった。



「メリークリスマス!」

僕たちはテーブルを囲んで乾杯する。

「すごいご馳走……!」

「ルイスが持って来てくれたローストビーフ、美味しいわ!」

「良かった!……ん!サマー君の作った、このキッシュみたいなの、すごく美味しいよ!」

「うちじゃ、クリスマスは毎年これですよ。」

「どう?メルツさんも、楽しんでるかしら?」

僕の隣の席にいるメルツは、

「はい、楽しいです!」

真っ白な狐のメルツは目を細める。


ルイスがクリスマスソングを歌い始める。サマーがピアノへ走り、伴奏を弾きだす。

ルイスの美声に聞き惚れていたら、

「みんなも歌って!」

なので、僕もメルツもエマスイも、ハモって歌う……。

「あはは!」

歌い終わってみんなで拍手した……。


すごく、幸せで、楽しいクリスマスだな……!


プレゼント交換をした。

エマスイからは手袋をもらった。手持ちのコートに合いそうなオフホワイト色だ。

サマーからはケーキとクッキーを。どちらもシンプルだけど、味は間違いない。

ルイスからは、メモリースティックを首に下げるための鎖をもらった。銀色で細い。箱に入ってて高そう……。


僕とメルツからは、全員に小さなリースを贈った。

森で見つけた蔓で輪を作り、木ノ実をたくさん付けて飾った。

「とても可愛いわ。ありがとうアルシュ。」

「すごく素敵だよ!ありがとう!」

「お花屋さんに作り方を教えてもらいました。

材料はメルツと一緒に探しました。」

冬になる前に森で採ってきた。

「メルツさん、どうもありがとう!」

「良かったです!」

喜んでもらえて、メルツも嬉しそうだ。


メルツもプレゼントをもらった。

サマーからは、ケーキとクッキー。

ルイスからは、綺麗な布製のポシェット。

エマスイからは、靴下をもらった。僕の手袋とそっくりなオフホワイト。

「わあ!ありがとうございます!」

狐のメルツはしっぽを振って、飛び跳ねて、とっても嬉しそうだ。クリスマスにプレゼントをもらうのは、ものすごく久しぶりらしいから。僕も嬉しい。

「良かったね!」


エマスイからのプレゼントの靴下を見る。

そういえば、メルツはいつも裸足だ。僕は見慣れてしまっていたけど、エマスイは、僕からメルツの服装を聞いて以来、気になっていたらしい。


「早速、靴下を履きたいです!」

と、メルツが言うので、僕は狐のメルツを抱えてソファに移動する。

ソファに乗ったメルツは、精霊の姿になる。

僕は白い毛糸の靴下を片方手渡す。

「どうぞ。」

メルツは少し苦労しながら、初めての靴下を履く……。

「ん……」

「つま先を合わせてから、引上げて……そうそう!」

「わあ、履けましたよ!」

嬉しそうなメルツ。

「履けたね!」

僕は拍手する。靴下は次の瞬間、床に落ちる。

でもまだ履いている。精霊の身体の一部になったのだ。

精霊は、衣服をコピーして身に付ける。

なるほど。コピーってこういう事か。

「一瞬、靴下を履いたメルツさんの足が見えたわ。」

と、エマスイも嬉しそう。

もう片方も、同じように履いた。

「温かそうで良いね!」

両足を、靴下で包まれたメルツは、膝を抱えて、ニコニコしながら靴下を撫でている。

「ふわふわです……!」

気に入ったみたいだ。僕も嬉しい。

再び狐の姿になると、対面のソファに座っているエマスイのところへトコトコ歩いて行き、ひざに額を押し付けた。

「喜んでもらえて私も嬉しいわ。」

エマスイはメルツを撫でる……。


僕も早速、ルイスからもらった銀色の鎖にメモリースティックを通す。

今まで使っていた鎖は長くて、襟元から見えなかったけど、ルイスがくれたのは短めだから、少し見える。でも、そんなに目立たない。

ルイスが僕の後ろに立ち、留め金を掛けてくれた。

「思った通り、似合ってるよ!細いから品が良くて綺麗だよ。輝きも繊細で良いでしょ?

人工のだけど、プラチナだから。」

「はい。ありがとうございます!とても気に入りました!」

「メルツさんにプレゼントしたポシェットはさ、二人で好きなように使って。」


ルイスは、精霊について分からないなりに、メルツのためになる物を考えてくれたのだ……。

「ポシェットをプレゼントするなんて、僕は考えつきませんでした。」

「入れ物はさ、あれば何かしらの役に立つから。」

メルツは、前足で触ってポーチの感触を楽しんでいる。

「アルシュさん、この中に、ケーキとクッキーを入れて、森へ持って帰りたいです!」

と、フサフサの尻尾を揺らす。

ケーキも?メルツは可愛いな!

「ふふ!そうしよう!」


それには理由があった。


「サマー、メルツがケーキとクッキーをポーチに入れて持って帰りたいそうです。」

「え!?持って帰るの?ケーキも入れるの?クリームたっぷりだけど……?」

「森でお腹空かせてる動物たちにあげたいらしいです。」

「なるほど!ちょっと待ってて!ラップ取って来る!」




私は、肩から下げたポシェットを揺らし、

靴下を履いた足で、

冬の空気を蹴り、

雪で覆われた森を、飛んでいく……。


寒そうに、首を縮めて、枝に止まっている小鳥達に、

クッキーやケーキをひとかけ、プレゼントする……。

巣穴で冬眠しているウサギにも。目覚めた時に食べられるように。

木に止まっているフクロウにも。


「メリークリスマス。」



翌朝。

起きると、窓の外にメルツがいた。

「おはようございます。アルシュさん。窓を開けてもらえますか?」

メルツはポシェットを肩から下げている。

「おはよう。」

開けた窓から入って来たメルツは、ポシェットを開けて、机の上に、中身を取り出して見せてくれた。

「え!?」

驚いた。


昨日、クッキーとケーキを入れていたポシェットから出てきたのは……

「綺麗でしょう。」

「宝石……!?」

の原石に見える……。

ガラスみたいに透き通っていて、黄緑色だ。


「森の地下から取って来ました。皆さんから頂いたプレゼントのお返しです。

それに、アルシュさんのお役にも立つのではないでしょうか。」


水晶が魔力の電池になるから、この宝石も何かに使えると思ったらしい。


「ありがとう!メルツ!……森の地下に、鉱脈があるの?」

「浅いところにも、何箇所かあるんですよ。私はあまり深くは潜れませんし、水脈の底にある物しか取って来れませんけど、こういう塊が、点々とあるんです。綺麗ですよ。アルシュさんにも見せたいです。」

「へえ、綺麗だろうね!……採った宝石をどうやって持って帰って来たの?」

メルツはどこでも通り抜けられるけど、地下にある石は、そうは行かない。

地上へ運ぶのは大変そうだ……。

「水脈を通ると、泉に出るんです。このくらい小さな物なら、水の道で運べるんですよ。」


小指の先程の大きさのそれらは、マスカットのような、鮮やかで綺麗な黄緑色……。

まだ少し濡れている。

メルツは大切に握りしめて、抱えて水脈を通って来たのだろう。


「大変だったでしょう?」

「楽しかったですよ。皆さん喜んでもらえると良いですけど……。」

「喜ぶと思うよ。僕ももらってもいいの?」

「はい。」

「ありがとう、メルツ。これ、すごく綺麗だよ!」

メルツは嬉しそうだ。



真っ白なリスのメルツが、ポシェットに潜り、宝石を抱えて出てきて、ルイスにプレゼントする。

手のひらに受け取ったルイスは、

「へえ!ありがとうございます!すごいな!

……これは多分、ペリドットじゃないかな。」

そういう名前の宝石らしい。

手帳のカメラにかざす。

「うん、ペリドットだ。地球のマントルは、これでできてる。」

「そうなんですか!」

地球の中が、こんな綺麗な宝石だらけだなんて……!知らなかった!

「うん。面白いよね。」

それなら、ありふれた宝石なんだ。僕はちょっとほっとする。貴重で高価な石かもしれないと思ってた。

エマスイの敷地の地下から持ってきた高価な物を、勝手にもらっちゃいけないだろうから、後でエマスイに相談するつもりだった。

ルイスは石を光に透かして見て、

「でも、これはひび割れがないし、色が鮮やかで綺麗だし、希少価値あるよ。メルツさん、大切にしますね!ピアス綺麗かも。ペンダントトップも良いな!どう?」

と、耳に当てたり胸元に乗せてみせる。

「似合ってます!」

「似合いますよ!」

ルイスは嬉しそうににっこりする。

「うふ!僕にぴったりなプレゼントをありがとう!」



「あら。素敵なプレゼントをありがとう。」

エマスイは、シロフクロウのメルツのくちばしから宝石を受け取り、頬にキスする。

「待っていて。」

と、彼女は自室へ行く。

戻って来たエマスイは、ショールを持っていた。

スケートの時、纏っていた、レース編みのショールだ。

「メルツさん、これが好きよね?あの時、褒めてくれたものね。きっとメルツさんに似合うと思うわ。お貸しします。」

「良いんですか……?嬉しいです!」

メルツは精霊の姿になり、ショールを被る。

途端にショールはメルツを通り抜けて落ちる。床につく前に、メルツはショールを浮かせて手に取る。丁寧に畳んでエマスイに返してから、嬉しそうに僕を見て笑顔で言う。

「アルシュさん!お返しの、お返しを頂いちゃいました!」

身体の一部になったショールを纏って、嬉しそうにくるりと回った。

「エマスイとおそろいです!」

「似合ってるよ!」




サマーが驚いて目を丸くしてのけぞる。

「ええ!?そんな……受け取れません……!そんな高価な物……クッキーとケーキ一切れのお礼にだなんて!」

「サマー、受け取ってあげてください。ルイスもエマスイも喜んで受け取ってましたよ。」

「え、でも、」

「対等ですよ。サマーのクッキーもケーキも宝石クラスですよ。」

「え、や、」

メルツが戸惑っている。

僕はサマーの目をじっと見つめる。

メルツからのプレゼントを拒まないでほしい……。

「……ああ、うん。そうかもな。そうだよな。うん。俺の菓子作りの腕はパティシエ級だよな!」サマーは腕組みして何度も頷く。それから、

「それじゃ、ありがたく頂きます!うわー、すごい綺麗だな……!」



リビングへ戻り、メルツに聞いてみた。

「宝石運ぶの、どんなところが大変だった?」

「特に大変ではなかったですけど、他の出口に行かないように誘導するのが少し難しかったです。」

水脈は、いくつも出口があるらしい。

「そうなんだ。春になったら、その泉を教えて。」

「はい。綺麗な泉ですよ。冬でも凍らないんです。」

メルツが両手で宝石を握りしめ、美しい泉の水面から現れる姿を想像する……。

半透明のメルツが持つと、手の中の宝石は透けて見える……。

「そうだ、アルシュさん、ポシェットを預かってもらってもいいですか?私が持っていると汚してしまいそうで。それに、窓を開けてもらわないと出入りできませんし。」

「いいよ。靴下と同じ引き出しにしまっておくね。必要な時、持って行って。」

「はい。」




僕は今日も、ルイスと一緒にお風呂に入っている。

並んで湯船に浸かっていると、ルイスが言う。

「僕はさー、一人でお風呂入るより、こうして仲良い人と一緒に入る方が好きなんだよねー……。

はあ……癒やされる……。」

「僕もルイスとお風呂入れるの、嬉しいですよ。」

ルイスは僕と同じく長風呂だし。

いい香りで、肌がすべすべになる入浴剤も楽しめるし。

今日はスイーツも持ち込んでいる。

アイスティーと、葡萄のタルト。

タルトはルイスが持って来てくれた。

「お取り寄せの冷凍物だけど、美味しいね!」

「美味しいし、綺麗です!メルツがくれた宝石みたい!」

サマーも一緒だったら良いのにな、と思うけど、難しいかも。

ルイスとは普通に話してるけど、まだ腹筋フェチを警戒しているんだと思う……。


「ルイス、口元にカケラがついてますよ。」

「ふふ。」

綺麗な指で上手に取って口に入れた。


僕はネックレスに触れて言う。

「頂いた鎖、髪が絡まらなくて良いです。」

前に使ってたのは、時々髪が引っかかって痛かった。

ルイスが僕の首周りを眺める。

「そう!留め金も鎖もフラットで、噛みにくいんだろうね。」

以前のは、予備のメモリースティックと一緒に引き出しにしまってある。


「アルシュ君ってさ、クラシック寄りの作曲ばかりしてるの?」

「いえ、ポップスやジャズも思いつきます。

メロディーから始める事もありますけど、大抵、ベースとドラムのループで、後から、メロディーが思い浮かびます。

でも、どことなく聞き覚えのある感じになってしまうので……あまり演奏しません。

自分では心地良かったりするんですけどね……。歌詞も書けませんし……。」

「曲を聞いて歌詞書ける人と繋がれたら良いね。打ち込みとかある?」

「はい。あります。」

「聞きたいな!」

「じゃ、後でパソコンで。」

「やった!」



楽しい日はすぐに過ぎて行ってしまうな……。

あと三日で新年だ。ルイスの休みは一月四日までらしい。

「ルイス、今日は僕の部屋で休みませんか?」

「いいの?嬉しい!ありがとう!」

ルイスのベッドより、僕のベッドの方が大きいから、二人で寝ても寝心地良いはずだ。


ルイスは枕を抱えてニコニコして僕の部屋へやってきた。

「窓に近い方が僕で良いですか?」

メルツがやってくる窓だ。

「もちろん!ねぇ、僕にも本を読んで!」

メルツに読み聞かせているのが、羨ましいらしい。子どもみたいで可愛いな。

「良いですよ!どれにしますか?」

机に立ててある魔法の本を見てもらう。

「んー、この、一番大きいやつ。」

二人でベッドに上がって座って、僕はルイスに本を読み聞かせる。

「魔法使いにとっての三種の神器は、中世より変わらず、杖、魔術書、魔法の袋(鞄やポケット)である。

だが、何らかの理由でそれらを持たずに暮らす人もいる。

杖無しで魔術を行うのは、フリーハンド魔術と言われており、体質的にそちらが合う人もいる。

杖を使わず、詠唱もなく魔力を操るのは、自由さがメリットだが、コントロールに鍛錬が必要である。

そして、危険な術を知る必要がある。杖には危険術を使えなくするストッパーが付いているが、フリーハンド魔術では発現できるからだ。魔力のコントロール方法の他に、危険術を習い、ライセンスを得る必要がある……。」


ルイスは目を輝かせて聞いてくれた。

「はぁ……良いなぁ……魔法の国、いつか行ってみたい……。」

「ルイスも魔力あるので、入国できるかも。モーリーさんに聞いてみますね。」

「楽しみ!……ねぇアルシュ君、メルツさんとの契約は、いつするの?」

「春になったらです。」

「春か……。僕も一緒に行って、お祝いしたいけど、その時期は学会とか忙しいから……。」

「いつか一緒に行きましょう。」

「うん、行こうね!」

ワクワクする約束だ……。


ルイスが幸せそうに微笑んで、横になる。

「読んでくれてありがとう。久しぶりだよ。」

僕の前に、ルイスに本を読み聞かせてくれた人は、誰だろう……。

スワロウさんかな……。

それとも、ずっと昔の……恋人の……

……。

僕はルイスの髪を撫でる……。

「うふふ!」

ルイスは嬉しそうに、甘えた笑顔を見せる。


僕はルイスに何ができるだろう……と、よく考える……。

ルイスの苦しみを取り除き、寂しさを埋める存在になりたい……。

でも、そうなれる自信は無い……。

僕がそう思ってるのを、ルイスは知っている……。

だから、体重をかけて甘えて来ないし、頼って来ない……。


僕はなんて無力で弱いんだろう……。

ルイスの半分も生きてないから、できる事が少ないのは、仕方ないのかもしれないけど……

でも、支えたいんだ……。

苦しくなるけど、側にいたい……。

ルイスだって、僕といて苦しいはずだ。

ダルシアン博士を思い出すだろう……。

でも……一緒に過ごす日々が積み重なって行けば……僕との楽しい思い出が増えて行けば、いつかは僕に、ダルシアン博士の喪失を見なくなるんじゃないか……。

そう願ってる……。


髪に触れている僕の手を、ルイスはそっと掴む。

「綺麗な手……」

眺めてから、愛おしそうに僕の手にキスする……。

それから、僕の手を自分の胸に誘導した……。

パジャマ越しに、ルイスの鼓動が伝わってくる……。

ルイスはゆっくり起き上がって言う。

「アルシュ君、僕にもコアがあって、そこにもう、ずっと、君の一部があるんだ……。

アルシュ君の一部は、僕の命の一部になってるんだよ。」


命の一部に……


それはきっと、あの時、僕が泣いたからだ……。

ルイスの家のベッドで、

ダルシアン博士の代わりに、僕がルイスを幸せにしたいと、しがみついたから……。

自分に何ができるかも分からず、

ルイスに頼られたい一心でそう言った。

半年経った今もそう思っているけど、僕の頼り甲斐は増していない……。

なのに、命の一部になっていると言われて、ちょっと安心してしまっている自分がいる……。


「アルシュ君。抱きしめて。」

と、ルイスは両腕を広げる。

でも僕は、ルイスの全部を抱きしめる事ができない。なぜなら……

「……僕、ルイスの事、知らない事だらけです……。ルイスは大人で、僕は子供で、ルイスが知っているたくさんの物事を、僕は何も知らないし、経験してないんです……。」


「僕を、知りたい?」

僕はしっかりうなづく。

「知りたいですよ。」

ちゃんと知って、抱きしめたい。

「知っていても知らなくても、ルイスが大好きですけど。」


「……アルシュ君は、いつもまっすぐに僕を見てくれるね……。」


ルイスは僕を抱きしめる……。

僕もルイスを抱きしめた……。


「……アルシュ君……まだ僕は、上手く過去を話せないみたい……。ごめんね……。」

「いいですよ。待ちますから。」

ショックの大きい経験を何度もしてきたルイス……。

その辛さを僕に吐き出すのは躊躇があるし、思い出すのもしんどいらしい。

ルイスが安心して何でも話せる相手になりたいな……。





一月一日。

新しい年に、何を願うか……。


メルツがニコッとして言う。

「今年も、アルシュさんや皆さんと、楽しく過ごしたいです。」


エマスイが言う。

「みんなの幸せを願うわ。」


サマーは、

「今年こそデビューしたいな。」

コンクールで賞を取って、プロになりたいらしい。


僕は、

「自分もみんなも、目標達成できる事を願います。」


ルイスは、

「僕自身の喜びも、みんなの喜びも、ひとつひとつを大切にしたいよ。」




サマーが言う。

「新しい一年が始まるって思うと、ワクワクするな!今年も良い事たくさんあるだろうな!」

「……」

サマーの表情は、晴れやかで、楽しそう。

僕もにっこりする。

「僕も、そう思います!去年は、とっても良い年だったので。

こんなに希望に満ちた毎日を送れていて、一年先も、続いてるって信じられるのは、僕は初めてです。」


両親と一緒に住んでいた頃は、毎日不安で怖かった。

病院にいた頃は、いつ自分もローイも、コールドスリープしてもおかしくなかった。


だから、こんなに不安も心配もなく過ごせるのは初めてなのだ。


ふとサマーを見ると、泣きそうな顔をしている……。

ルイスが、

「アルシュ君!」

と抱きついてきた。

僕はルイスを抱きしめる。

「ルイス、僕を救ってくれて、ありがとうございます。」

目元にキスされた。

ルイスは離れると、

「ほら、サマー君も!」

「え!?」

僕は微笑む。

「サマーもたまにはハグしてください!」

「……そうだな。」

ハグしてくれた……。僕は笑う。

「サマー、泣かないで!」

僕はサマーの背中を擦る。

「うん……アルシュ、良かったな……!」

「僕が楽しく過ごせてるのは、サマーのおかげでもあるんですよ。」

「……う……来年もそう言ってもらえるよう、頑張るよ……!」

「ホント良い子たち!」

ルイスが僕達に抱きついてきた。

「僕も研究頑張る!」

「ルイス……」


ルイスはまた、あの、生活感がなくて、遺品だらけの部屋に帰って、

ダルシアン博士が遺した研究をこなす日々を過ごすのだ……。


「ルイス……ここに居ても良いんですよ。

部屋もありますし。って僕が言うのも変ですけど、でも、

エマスイはきっと、歓迎してくれると思います。」


テレワークにして、ルイスもここで一緒に暮らせば、

その方が、

ルイスは、過去を振り返って悲しむ時間が少なくて済むと思う……。

僕も心配しなくて済むし。

「一緒に暮らせたら、僕は嬉しいです。」


「アルシュ君……そうだね……考えてみるよ。」





楽しい毎日を記録したカメラを胸に、

ルイスは都市へ、

システムの問題解決の仕事をしに帰って行った……。






「じゃあ、あの木にしよう。」

と、僕がメルツに言うと、

「はい。」

メルツは木の幹に、魔力で丸い的を描いてくれた。

「アルシュさん、お先にどうぞ。」

「ありがとう。」

僕は、作って並べておいた雪玉を、一つ手に取って、木の的に向かって投げる。

雪玉は綺麗に飛んだけど、木の根本に落ちた。

「あー、おしい!次、メルツどうぞ。」

「はい!」

メルツは雪玉を一つ拾い、両手で持ち、魔力で浮かせて、前方へトスするように軽く押し出す。

雪玉は、驚くほど勢いよく飛んでいく。

「うわ!」

けれど、木にたどり着く前に、空中で砕けた。

「あ……力が強かったみたいです。」

「……すごい早かったよ!」

メルツは投げる力も強いんだ……!


……もともとは、メルツと雪合戦するつもりだった。

でも、メルツは雪玉が身体を通り抜けてしまうから、申し訳なくて、的に当てることにしたのだ。


僕は手帳を取り出し、参考までに、野球選手の投球フォームを動画で見る。

真似して思いっきり投げる。


「こうして……こう!」


雪玉はきれいに飛んでいく。

でも、慣れない投げ方のせいか、さっきとあまり変わらない位置に落ちた。

「ダメだ……。硬さが足りないのかな?」

僕は雪玉を両手でよーく圧縮する。

「もう少し小さいほうがいいのかな。」

グレープフルーツくらいの大きさに作ったけど、野球ボールくらいのほうが投げやすいかもしれない。

「なるほどです!」

メルツは雪玉を一つ拾い、両手の上に乗せる。

その雪玉がきしみ始め、だんだん小さくなっていく。

「え!?」

僕は思わず目を見張る。

ゴルフボールくらいの大きさになった。

「できました。」

「触ってもいい?」

「どうぞ。」

差し出してくれた雪玉を持ってみる。

「うわ!カチカチだ!」

雪というより氷だ。

「投げてみますね。」

メルツは再び、雪玉ならぬ氷玉をトスのようにそっと押し出す。

氷玉は、剛速球のように、すごい勢いでまっすぐに飛んでいき、

的の真ん中に直撃した。

ゴッ!

と大きな音が響いて、木が震え、氷玉が粉々に砕ける。

木に積もっていた雪が、ザアッと落ちた。

僕はびっくりしていて、なかなか言葉が出ない……。

「…………すごいよメルツ……!」

ちょっと怖いくらいだ。

「アルシュさんにもできますよ。」

「え、」

メルツがニコッとして、僕の背後へまわる。

雪玉を載せた僕の両手に、自分の両手を添えて、

「こう、魔力でギュッと押すんです。」

頑張ってみる。魔力を手の上に集めて、雪玉を押す……。

「うーん……!」

「魔力で雪玉を包んで、大きな球を作って、星みたいに、中心に向かって重力で圧縮するんです。」

……雪玉と魔力で、星を作るらしい……。

「圧力で雪が少し解けたら、力を弱めて冷やして、また圧をかけて、溶かして冷やして、粒子を密着させるんです。」

メルツは物理も得意なんだ……。

「ううーん……!」

「アルシュさん、頑張って!」

「んーん……!」


メルツの魔力をもらいつつ、その大半を無駄遣いしながら、ようやくちょっと固い雪玉ができた。

だけど、メルツの言うようには、とてもじゃないけどできない……。でも、

「一回り小さくなったよ!」

オレンジくらいの大きさになったけど、僕はへとへとだ。

「それでは、一緒に投げてみましょうか。」

「うん。」

的が盾の役割をするけれど、同じ木じゃかわいそうなので、一本奥の木に的を描いてもらって狙う。

「行きますよ。せーの……!」

二人で押し出した雪玉は、矢のように飛んでいき、遠くの木の的の、ほぼ真ん中に命中した。

ボッ!

と音がして、衝撃で枝の雪がさらさら落ちた。

「……はあ……。」

僕は、ふかふかの雪の上にへたり込んで座り、横たわる……。

「これ、結構な武器になるね……。」

僕の雪玉でも、当たったら痛そうだ。

メルツの雪玉は……骨が砕けるくらいじゃ済まない……。

「そうですね。でもあの的を強力にして手に持てば防御できます。」

「そっか……。

ふふ!精霊や魔法使い同士の雪合戦、すごそうだな……!」

「昔、友達の精霊と遊びました。楽しい思い出です。……アルシュさん?」

メルツが手を差し出す。

「冷えますよ。」

「疲れたよ。」

引っ張ってもらいつつ、起きた。

メルツに魔力を補ってもらったけど、体力的にも、気分的にも疲れた……。

楽しかったけど、僕は別に武器になる雪玉は作れなくていいや……。怖いから……。

でも、メルツの強さはカッコいいと思う。


精霊が本気で戦ったら……

すごく強いんだろうな……。

それだけの、無尽蔵とも思える魔力を持っているから、精霊狩りに狙われる……。


早く春にならないかな……。

早くメルツと契約したい……。

メルツを守りたい……。





僕はメルツに本を読み聞かせる。

「精霊たちは、春の訪れを告げる儀式をする。

凍った川や、湖に降り立ち、

氷を割っていく……。

自然に割れるより、ほんの少し早く、氷に足跡をつけ、魔力を通す。

すると、綺麗な図形を描いて、氷が割れていく……。

精霊の割った氷は、特有の光沢できらめきながら、音を立てて流れていき、下流の森や畑を豊かにする……。」

僕はメルツに訊ねる。

「メルツも、森にある河とか、湖の氷を毎年割ってるの?」

メルツがにっこりする。

「はい。」

「誰かに教わったとかじゃなくて、自然と割りたくなってそうするの?」

「春の気配に呼ばれると言うか、氷の下の水に誘われるというか、いいタイミングで割ってあげたくなるんです。」

「へえ。」

「氷を割ると、まるで、自分が春を呼んだかのような気分になるんですよ。

それまで真っ白だった景色が、その日からどんどん変わっていくので。」

「それは楽しそうだね。」

「はい。毎年、春を抱きしめたくなります。」


爛漫の春を、

愛しそうに抱きしめるメルツを、想像した……。





僕の曲集、リトルサウンドの売り上げは、上々らしい。

表紙にルイスが撮った森の写真を使ってもらえたし、楽譜のミスもなくて気に入っている。

クラシックで初出版にしては売れている方らしい。

エマスイに手伝ってもらって、僕名義の口座を作った。初めて数字が記帳された。

「わあ……!」


これで僕も、胸を張って作曲家だ。

やっと、自分の生活費を、自分で払える……!


今までは、エマスイに頼り切っていて、申し訳ないな……と思っていたけど、これからしばらくは、自分の収入でここに居られるんだ!

嬉しいし、ホッとする。

それに、自信を持てるようになった。

ここに居ていいんだと思えるようになったし、

作曲家になれた気がする。


僕の作品を演奏して動画配信してくれたエマスイ先生と、

企画、編集、宣伝をしてくれた編集者さんに、感謝だ。



僕は編集者さんに希望を言う。

「次はギターの曲集を作りたいです。」

「良いですね。」

「チェンバロの曲集も作りたいですが、マニアックで売れないかもですね。」

「曲集作れるほど作曲したんですか!?チェンバロの曲を作り始めたの、半年前くらいですよね?」

「はい。あと十曲ほど作って、選びたいですけど。」

「アルシュさんは多作ですね。」

「そうでしょうか?完成度が足りなくならないよう気を付けます。」



曲集を出すのは、作曲家にとって重要だ。

著作権の関係があるから。

たとえば、自作の曲を動画配信すると、コピーできないアプリであっても、割と簡単にコピーされてしまう。

流れている曲を楽譜に起こすアプリだってある。

大勢の人に、僕の曲を聴いてもらいたいけど……、

守りたい気持ちもある。

僕が作った曲たちだ。

悪い人に、よく似た曲をばらまかれたりしたくない……。

配信だと、アマチュアは弱い立場だ……。

だから、僕はほとんどSNSで配信してこなかった。(以前、大人が作った曲を盗んだんじゃないか、というコメントをされて、傷ついて嫌になったっていうのもあるけど。)


エマスイ先生が、

「曲を守るには、出版社と契約するのが良いわよ。」

と、教えてくれた。


レコード会社と契約してレコードを出す手もあるけど、

それには、まだ僕の演奏は未熟だ。

だからまずは、楽譜を出版することにした。


作曲家にとって曲集は、目に見えない音楽を、自分が作曲したのだという事を証明する、証明書のようなものだと思う……。





一つ、気になっていることがある。

メルツのことだ……。


精霊について書かれた本を読み返すたび、思う。

もしかしたらメルツは……

精霊の仲間たちと、一緒に暮らしたいのかもしれない……。


メルツに本を読み聞かせた時、

彼女は、大勢の精霊が描かれたイラストを、じっと見ていた。

「これからは、たくさんの仲間と出会えると良いね。」

と、僕が言うと、メルツは珍しく無言でイラストを撫でていた……。


メルツは……

僕と一緒に、人間の社会で暮らすより……、

自然の中で、精霊の仲間に囲まれていたほうが、

幸せかもしれない……。


そのほうが、精霊であるメルツのアイデンティティーにいいかも……。

そう思っているのだけれど、

メルツになんて話したらいいか、決めかねている。


仲間のところへ行ってしまったら……

僕といるより幸せで、

帰ってこなくなるかもしれない……。


そう思うと、話せない……。

「僕はそれでもいい。行っておいで。」

そう言えるようになるまで、話せない……。


メルツに行きたい気持ちがあるなら、

早く行かせてあげるべきだけど……


精霊仲間と一緒にいたいって気持ちは、僕では絶対満たせないって分かっているけど……


行かせたくない……。

それっきり会えなくなるかもしれない……。

そう思うと怖い……。


別れたくない……。


メルツ……。


明日も明後日も、ずっとこの森にいてほしいだなんて、

たとえ行ってもまた僕のところへ帰ってきてほしいだなんて、

わがまま言わずに、

メルツの幸せだけを考えて、送り出してやれたら良いのに……。




画面の向こうでモーリーさんが言う。

「普段はそれぞれの土地で暮らしていたり、魔術師と仕事をしていて、イベントの時だけ集まる精霊も多いですよ。サザハもそうです。」


「そうなんですか!」

イベントだけ参加する精霊もいるんだ……!

サザハさんは、仲間のところとモーリーさんのところを、行き来してるんだ……。


「イベントも様々で、小規模のものから、大勢で地球を巡回する大規模なものまであります。

魔術師も参加できるイベントもありますよ。少ないですが。

この間の初雪のダンスパーティーや、アルシュさんのお住まいの辺りですと、月夜の弓矢がそうです。」

月夜の弓矢……?


「精霊たちは、イベントが好きなんです。

仲間と集まって、一体感を楽しむのが、幸福なんです。

けれど、常にみんな一緒にいるのが何より幸せかと言うと、少し違うようです。

サザハは、仲間と一緒に暮らしていなくても、時々集まれれば、幸せなようですよ。」


行きっぱなしでなくても、時々集まる事ができれば、それで幸福が得られる……。

メルツもそうだと良いな……。




翌日。モーリーさんから、小包が届いた。

開けてみると、今回は本ではなく、箱が入っていた。

小さな箱を開けてみると……

中身は、ペーパーウエイトのような石だった。

良く磨かれた、美しいメノウだ。

青や透明や紫が、幻想的な縞模様を作っている。

「なんだろう。魔法道具かな?綺麗だな……。」

カードやメッセージは見当たらない。

僕はメノウに触れてみた。


すると、結界が破れるような感じがして、

メノウの中からサザハさんが、立ち上るように出てきた。


「!サザハさん!驚きました!」

「主人から、使いを頼まれました。」


「え、」

「アルシュさんのご不安が解けるよう、メルツさんと話をしてみます。」


メルツは仲間のところへ行きたいのかもしれない、と、僕が悩んでいるのを解決しに来てくれたらしい。


「わざわざ、ありがとうございます!まさか、郵便でサザハさんが届くとは思いませんでした!

窮屈じゃなかったですか?」

「メノウの中は城のように広いですよ。郵便は、早くて確実なんです。」

確かに、モーリーさんも安心な移動手段かもしれない……。

あ、でも、帰る時はどうしたらいいだろう……。僕は結界を張れない。石とサザハさんを送れない。

するとサザハさんは言う。

「帰りは季節風に乗って帰りますので。」

「え、この石は?」

「アルシュさんに差し上げます。」

「この中が安全で早いから郵便で来たんじゃないですか?」

「季節風の吹いている高度も安全ですし、早いですよ。一方通行なのが難点ですけど。」

石に閉じ込められるよりは、風に乗る方が気持ち良さそうだ。

僕は石を両手で持つ。

「……。高価なものなんじゃないですか?」

と、訊ねると、サザハさんは、

「主の部屋は、蚤の市や骨董店で入手した石や魔法道具でいっぱいなんです。知人がくれたりもするので、増える一方で、主は困っているんです。」

と、少し呆れた様子で言った。

スマートな印象のモーリーさんだけど、そんな趣味があるんだ……。

雑多なコレクションが、ところ狭しと置いてある部屋を想像する……。

なんだか微笑ましい。

「そうですか。それでしたら、いただきます。」

魔法で収納スペースをどうにかできないんだろうか、とも思ったけど、もらっておくことにした。

綺麗で、見ていて飽きない感じだ。


「サザハさん、来てくれたから、おたずねしますけど、

サザハさんは、精霊の仲間と暮らすより、モーリーさんと仕事をすることを、自分で選んだんですよね?」

「はい。そうです。私の場合は、魔術師と組むのは五度目になります。」

「五度目!?」

「はい。魔術師それぞれの事情や、亡くなるたび、精霊の集団へ帰っています。

なじみの精霊たちと暮らすのは、安心で楽しいですが、人といた方が、目新しいことが多くて面白いのです。」

「面白いから、式をしているんですか?」

「一言で言うと、そうです。」


僕が、精霊の暮らしを不思議で面白いと感じるように、精霊も人間の暮らしをそう思えるのかも……。


「モーリーさんとは、どうやって知り合ったんですか?」

「彼女は、毎年、初雪のダンスパーティーに来ていました。

精霊をスカウトしては、組もうとしていましたが、毎年うまくいかなかったようです。

割とすぐに相性のいい精霊が見つかる人が多い中、モーリーは苦戦していました。

なんだかかわいそうで、私のほうから声をかけたんです。

私の名前を聞いて、彼女は目を丸くしていました。

私が今まで組んだことのある魔術師が、皆、伝説として語り継がれているようでした。

試しにモーリーと儀式を始めてみたら、すんなり契約を結べたのです。」

「……そうだったんですか……!」

「彼女の仕事は、魔力のある人たちを支えてつなぐ、地道なものですが、私にとっては、それも面白いのです。

メルツさんも、きっと、アルシュさんといるのが面白いんだと思いますよ。」

メルツは、僕だけではなく、エマスイ邸の人達とも仲良くできている。だから、サザハさんの言う通り、面白い事が多いのだろう。楽しそうだ。

でも、サザハさんは……


「……島の外では、ほとんどの人が、精霊の存在を知らなくて、見えないのに、それでもサザハさんは面白いんですか……?」


病院で初めてモーリーさんと会った時、サザハさんはモーリーさんの懐にいた。

島の外ではいつもその状態なら、サザハさんは、ただ周りを眺めるだけで、人と会話もできず、他人からは存在すら知られず、孤独に思える……。


サザハさんは微笑む。

「空の、星が多く集まっているところや、都市の明かりがまぶしいところ、

それとは対照に、疎になっていて、星や明かりが少ないところがありますよね。

魔術師や精霊も同じです。

私とモーリーは、どちらも行き来しています。

私も主も、孤独ではありませんよ。

楽しく暮らしています。

ご心配、ありがとうございます。

それに、どこかに、私達を必要としている人達がいますから、やりがいのある仕事です。」


初めてモーリーさんと会った時、病院の手術室前にいたモーリーさんは、美しくてカッコよかった。

でも、僕だけ、魔法の国かもしれない土地を知らされ、誘われて、戸惑いと、怖さと、好奇心の間で揺れ動いた。

ローイと一緒が良い……。僕だけよくわからないところに属しているなんて、嫌だ。と、思った……。

でも、今ならわかる。

モーリーさんは、僕を未来の孤独から救ってくれたのだ。

魔力のせいで、困った事が起きる前に、教えてくれた……。


不安な僕は、ローイに言った。

「一緒にマイザの岬へ行ってくれる……?」

ローイは目を輝かせて、

「もちろん!」

と、笑った……。


初めて魔法の国へ行く時は叶わなかったけど……いつかはローイと一緒に……



経験豊富なサザハ先輩が、メルツと話し合ってくれる……。


メルツと一緒に暮らすことは、精霊たちとの暮らしへの憧れを、メルツから遠ざけてしまうんだと思っていたけど……

僕が、メルツを孤独にさせないように工夫すればいいんだ。

イベントへ行ったり、島へ行ったり、精霊のパートナーのいる魔法使い仲間と、時々会ったり……。

精霊が集まっている場所へ、一緒に行けば良いんだ……。

できる事があると分かってほっとして、

なんだかワクワクしてきた。

メルツと、これから先も、楽しく暮らせる実感がわいてきた……。



私は、怪我をして取り残されてしまった渡り鳥を、魔法で回復させて見送った。

すると、

「こちらでしたか。メルツさん。」

「サザハさん!」

「アルシュさんがお悩みのようなので、解決のお手伝いに参りました。」

「アルシュさんが、悩みを……?」

「メルツさんが、精霊の仲間たちの元へ行きたがっているのではないか、その方が、幸せなのではないか、と、お考えのようです。」

「……。」


精霊の仲間たちのもとへ……

私は……

もしかしたら、そのほうが……。


私は涙が溢れてくる……。

「サザハさん、アルシュさんには、黙っていてください……!

私は決して孤独ではないのに、どうしても、そういう幸せを欲してしまうんです……!」


「メルツさん……自分と同じ精霊たちと過ごしたいと思うのは、自然な事ですよ。確かに精霊の集団に属していると、明るくて、楽しいです。

けれど、大抵、ただそれだけで、刺激が少ないんですよ。

私は、時々遊びに行ければ、満足してしまいます。人間を知っている精霊ほど、そうです。」


「この……焦がれる気持ちも……行ってみれば、収まるでしょうか……?

アルシュさんを、安心させられるでしょうか……?」


サザハさんは微笑む。

「きっと、精霊の集団に長くいると、アルシュさんのことが、気になって、心配になると思いますよ。」


「そうですね……。アルシュさんと離れていると、気になって心配になります……。」


「メルツさん、精霊のイベントに行きませんか?アルシュさんもご一緒に。

月夜の弓矢というイベントで、地域ごとに催されるもので、地域の精霊や魔法使い達が集まります。」


「この地域の精霊や魔法使いに会えるんですか……!

行きたいです!」




月明かりに照らされて、

細い矢が、銀色に輝く……。

精霊達が、この日のために、魔力で作った弓と矢だ……。

崖の上に立った精霊が、弓に矢をつがえ、引き絞る……。

天に向かって矢を放つ……。

銀の矢は、空に吸い込まれて消えた……。


次は僕の番だ。

メルツが魔力で作った弓に、同じく魔力で作った矢をつがえ、構える……。

メルツは僕の背後にいて、僕の両手に手を添えている……。

二人で弓を引き絞り、矢を放った……。

まっすぐに星空に飛んでいき、

すぐに点になり、見えなくなった……。

どこまでも、遠くの星まで飛んで行きそうだ……。


モーリーさんとサザハさんも弓を引いた。

みんな順番に、矢を放っていく……。


どの精霊も、魔法使いも、みんな美しいなと思った……。


「月夜の弓矢って、どんな意味合いの儀式なんですか?」

と、サザハさんに訊ねた。

「そうですね……返事が欲しいんだと思います。」

「返事……?空から?」

「はい。静かな月夜は、空の魔力が少ないんです。だから矢を放って、宇宙の言葉を待った……。

精霊は、人間より、周囲の魔力から影響を受けるので、月の魔力が雑多な魔力を消してくれる夜に、空と交信したくなるんです。」

「空と、話しをするんですか……?」

精霊は天気がわかると、メルツから聞いているけど、空よりさらに外側の宇宙から情報が降ってくるんだろうか……。

「星空が返事をくれる事は稀です。

けれど、偶然、矢が精霊の国へ届く事があるようで、向こうからも矢を送ってくれる事があります。」

「精霊の国……?」

「時間の概念が無い、天国のようなものだと言い伝えられています。」

精霊にとっての、天国……。



一組ずつ矢を放っていき、全員が放ち終わった。

最後に、全員一列になって、一斉に天を射た……。


それからみんなで円になると、鈴が配られ、ダンスが始まった。

鈴をつけた弓を使った踊りで、軽快さがあって、僕とメルツも見様見真似で踊る……。

お祭り感があって楽しかった……。

メルツがニコニコして言う。

「とっても楽しかったです!」

「良かったね!すごく楽しみにしてたもんね!」メルツは、サザハさんから教わって、弓矢を作る練習も、何度もしていたし、矢を射る練習も、毎日していた。

僕もなるべく毎日練習した。

おかげで、みんなと同じくらいよく飛ぶ弓矢になった。

「僕も楽しかったよ!」

メルツはみんなの一矢一矢に興奮していたし、ダンスもすぐに上手に踊れていて、笑顔がキラキラしていた。

「他の精霊さんから褒められましたよ!」

僕は、モーリーさんとサザハさん以外と会話しなかったけど、メルツはいつの間にか他の精霊達と交流していたらしい。

精霊同士は、目を合わせるだけで簡単な会話ができるんだそうだ。

そういえば、本にもそう書いてあったな。





冬の間、買い出しは十日に一度だ。

エマスイ邸の前まで除雪車が来てくれた後で、天気が持ちそうな日に、

サマーと僕は車で市場へ行く。


市場は、冬の間は、アーケードのある屋内で開かれる。

でも、屋根はあるけど、気温は外とそんなに変わらない……。

僕はしっかり着込んで、充電したレッグウォーマーを身に着けて出かける。


僕とサマーは、八百屋さんで、たくさん買い物した。

「テリーは元気ですか?」

チョコレート色の、つやつやな毛並みの犬のテリーは、どうしているかな。

「元気よ。良く雪の庭を駆け回ってるわ。」

良かった。春になったら、また会いに行きたいな。

ワゴンの上には、冬でも新鮮な野菜がたくさん並んでいる。

ハウスで育てているらしい。

「おまけだよ。」

と、アプリコットやブドウの自家製ドライフルーツをくれた。

サマーが手帳のメモを見ながら、

「チーズと、ソーセージと、缶詰と、あとは……」

お肉も十四キロ買う。半分サマーが食べる……。

最後はお花屋さんだ。

今までは車で宅配してもらっていたけど、冬の間はサマーに買いに行ってもらっているらしい。

エマスイが言っていた。

「雪道をわざわざうちまで来てもらうのは悪いし、

冬は花もちのいい枝ものを飾ることにしているから、お任せして頼んであるの。」

南の方で育てられている花木らしい。

お花屋さんが用意しておいてくれた花束を受け取った。

「可愛いつぼみがたくさんついてますね!」

僕もサマーも花が好きなので、どんな花が咲くのか楽しみだ。

車に積み込んで、帰路につく。


……の、前に、

サマーの彼女さんとの待ち合わせだ。

「アルシュは車にいて。」

と、サマーは街角にたたずむ。

カップルは外で話すらしい。

「僕だけ温かい車内にいて、なんだか悪いな……」


ドアがノックされる。彼女さんだ。

「アルシュ君、久しぶり!はい、これ!」

と、はちみつ入りのホットティーをくれた。

「ありがとうございます!」

彼女さんは、

「ちょっと待っててもらうけど、大丈夫?」「はい!ゆっくりお話ししてください。」

「ありがとう!」

と、僕ににっこりすると、サマーに手を振って小走りしていった。


ホットティーを飲みながら、二人をちらっと見る。

二人とも楽しそうに話している。

僕とメルツも、あんな風に見えるのかもな……。サマーとエマスイから見たメルツは、動物の姿だけど。

サマーと彼女さんは、キスして、ハグして、笑顔で別れた。

「……」

ニコニコのサマーがやって来て、

「お待たせ!じゃ、帰ろう!」

運転席に乗り込み、シートベルトを締める。

「サマー、ひとつ聞いてもいいですか?」

「ん、なに?」


「キスってどんな感じですか?」

「!えっ!」

僕はサマーをじっと見る。

「僕はまだ、女の子としたことないんです。」


テリーに顔じゅうキスされたし、昔は母からも顔じゅうにされてたけど、

女の子とは、一度も……。

女の子に見とれることはあっても、

特に、話しかけて仲良くなりたいと思わなかったし、付き合いたいとも思わなかった。

仲良くなれる気がしなかったから。

仲良くなりたい、なれる、と思ったのは、メルツが初めてだ。


「えっと……そうだな……キスは、夢見心地だよ……。

お互い気持ちを伝え合えて、安らぐし、心が輝く感じがする。」

サマーの幸せそうな表情が語っている。


「うらやましいです。」

「メルツさんとしてみたらいいよ。」

「そうですね。そう思います。」


でも……精霊のメルツはうれしく思ってくれるだろうか……。




エマスイ邸へ帰ってくると、外でメルツが待っていた。

彼女は楽しそうに言う。

「アルシュさん、お花見に行きませんか?」

「え!お花見!?」

「今が見ごろの木があるんです!」


メルツが僕の魔力を運転して、空を飛ばしてくれる。

飛ぶのは久しぶりだ。

真冬だけど、メルツが風を避けてくれるので、寒くない。

「冬の森も、綺麗だね。」

「はい。」

雪化粧した森も、とても美しいと思う。


メルツが指さす。

「あの木ですよ!」

僕らは木の側に降り立つ。


こんな真冬に、花が咲いている木が、本当にあった……。

淡い黄色で、可憐な花だ。香りがいい。


「かわいい花だね!」

「そうですね。少し魔力もあるんですよ!」

「ほんとだ!」

僕もだんだん魔力が感じられるようになってきた。


僕はメルツを眺める。

隣で楽しそうにしている。

思い切ってメルツに言ってみる。

「あの、メルツ、あのね、……頬にキスしてもいい?」

メルツはちょっと驚いた様子だけれど、

「いいですよ!」

と、頬にかかる髪を耳にかけた。


僕はメルツの肩にそっと触れ、頬にキスする……。


可愛いメルツ……。やっぱりふわっとしてて、綿みたいだな……。


離れてメルツの眼を見ると、彼女は楽しそうに、

「私もしていいですか?」

そう言われるなんて、思ってなかった。嬉しいな……!

「いいよ!」


メルツが僕の頬にキスしてくれた……。

ドキドキして照れるし、くすぐったい……。


色彩のあるメルツ……。

淡い、黄色の花の香り……。

全然寒くない……。


嬉しくて、楽しくて、ドキドキしてる……。


「ふふ。」

二人でくすくす笑いあう。


でも……

メルツは、キスをあいさつくらいにしか思ってないかもしれないな……。

僕が感じてる高揚感と同じようには感じていないかも知れない……。

僕はメルツに恋愛感情を抱いているけど、メルツは違うかも知れない……。

それでもいいけど。


すると、メルツがちょっとしんみりしたトーンで言った。

「アルシュさん……。私は……精霊です。」

「うん。」

「なので、人間のようには、アルシュさんの恋人になれないんです……。」

「メルツ……」

僕は心が少し痛くなる。

メルツは精霊だから……僕が人間だから……お互い思うようにならない事や、諦めなきゃならない事があると、心のどこかで思ってしまっているんだ……。

残念に思いたくないから、なるべく避けているけど……。


メルツは話し続ける。

「人間みたいに、一緒に食事して、同じおいしさを感じることもできませんし、手を繋いでも、アルシュさんの体温の温かさはわかりませんし、

他にもたくさん、できないことがあります……。

ずっと一緒にいたくても、未来を望んでも、人間と精霊とでは、結婚することも、子孫を望むこともできないんです……。

人間のアルシュさんが、いつかそんな幸せを望んでも、私は叶えられないんです……。」


僕はまだ、自分が結婚する将来を思い描いた事がない。

メルツと、いつまでもこうして一緒にいられたらと思っているんだけど、

メルツは、人間の僕の将来のことを思ってくれている……。

自分では、満たせない幸せがあると……。


そうか。僕が意気地なしなだけだったんだ……。

違いなんて、気にしなくて良い事なのに。


僕は微笑む。

「わかってるよ、メルツ。

僕は、君が好きなんだ。精霊であることも含めて。

メルツが精霊だからこそ、できることはたくさんあるんだし、

僕は、それが楽しくて、幸せなんだよ。」

と、にっこりする。

自分と違うから、素敵だと思うし、憧れるし、知るのが楽しい。

「結婚っていう結びつきなんかなくても、僕たちは一緒にいられるし、幸せでいられる。

僕が大切に思ってるのは、精霊のメルツだ。もし何か悩む事があっても、一緒に良い方法を考えよう。」


「アルシュさん……」


「キス、ありがとう。

僕のこと、考えてくれて、ありがとう。」

「こちらこそです。」


僕たちは……

少しずつ顔を寄せ合い……

口づけした……。


……離れてメルツの眼を見つめて言う。

「……メルツ、今、魔力を送ってくれたよね……?」

メルツも僕を見つめて、少し首をかしげて言う。

「はい、あの、うれしくなかったですか?」


ここまでの移動で減った分の魔力を、口移しで分けてくれたんだけど、

メルツは僕を喜ばせたくて、してくれたみたいだけど……

正直、え!いま!?と思った……。


僕は噴き出して笑う。

「ははは!メルツらしい!」

彼女を抱きしめた。

「!」

「好きだよ!メルツ!」


そんな彼女がかわいくて仕方がないし、

……確かに、サマーが言ってたみたいに……、

……夢見心地だ……。


「ふふ。メルツ、お花綺麗だね。」

と、見上げる。

「きれいですね。」


僕と一緒にお花見したいと、楽しみに思って、待っていてくれたメルツ。

僕を喜ばせたいと思ってくれるメルツ。

僕は、そんな君と、一緒にいたい。


僕たちは雪の上に座って、

お互い肩に寄り掛かって、花を眺めた……。


愛しくて、温かい……

メルツ……。

優しい花の香りに包まれて……。


とても幸せだ……。


僕らは、百年後も、二百年後も、

こうしていられたら、と思う……。




もうすぐ春が来る。

サマーとウインタースポーツを楽しむのも楽しかったけど、

寒いの苦手だし、気軽に森を散歩したいから、春が待ち遠しい……。


春が来たら、

メルツとの契約もできる。

それを思うだけで、僕は頬が緩む……。



僕はモーリーさんと、電話で話している。

「モーリーさん、精霊との契約ってどんなことするんですか?」

「まず、お互い、魔術師の前で誓を述べます。

それから、契約の術をかけてもらいます。

人と精霊、両方の魔力を合わせてコアを作り、お互いの体内に埋め込みます。

様子を見て、コアが安定しているのを確認できれば、術は終了です。

後は、魔術師の魔力印が押された契約書を持って、役所へ行き、届けを出して、

魔力証明書に、契約精霊ありの文字が刻まれれば、完了です。」


「コアを作るってどんな様子なんですか?」

「人と精霊から、魔力を少量抽出し、混ぜ合わせて契約の術をかけます。

本人たちは、特に疲れるような事はないので、魔術師に任せて儀式を受けてください。

二つに分かれた魔力がお互いの体内で不和無く落ち着けば、術は終わりです。

アルシュさんとメルツさんの魔力のサンプルは持っているので、契約してくれる魔術師に、お二人の魔力の相性が良いか聞いておきますね。」

「お願いします。

契約後は、メンテナンスとかは必要なんですか?」

「契約後のコアは、常に二人に新鮮な魔力を湛えて続け、釣り合いを取り、安定した状態を保ちます。

メンテナンスは要らないケースがほとんどです。

契約は、とてもフェアなものです。

術自体は古典的で、昔は魔法使いの主が精霊を式として従え、主従関係になるための術で、一方的でしたが、今はコアと同じく、対等なパートナー関係となります。」

本で読んだのと同じ感じだ……。


「モーリーさんは、サザハさんと契約を結んだ時、どんな感じがしましたか?」

「サザハから聞いたかもしれませんが、私は精霊と契約しようとするたび、破綻してしまって、コアが作れませんでした。

魔術師の腕が悪いのではなく、私の魔力の質が、特異だったためです。

けれど私は、どうしても精霊と契約する必要がありました。

質はどうあれ、魔力にむらがあったためです。

魔力のむらは、魔法を使う仕事への就職に不利なんです。

サザハから、契約を試してみようと誘われた時は、正直、今回も無理かもしれないと思いました。

でも……、サザハとは、まるで今までのことが嘘みたいに綺麗にコアが作れました。

コアが体に戻った瞬間から、サザハは私にとって特別な存在の精霊になりました。

魔力のむらを制御する努力が必要なくなり、

生まれて初めて、安定感のある、完成度の高い魔術を扱えると実感できました。

精霊と契約すると、魔力的な欠点をカバーしてもらえるんです。

精霊の一部が体内にあるので、精霊が離れた場所にいるときでも、それはある程度、有効です。

ようやく私は、生きていける。仕事ができる。と、自信がわいてきました。

なので、サザハは私の恩人の精霊です。」

「すごい……!

すごい出会いだったんですね……!」


僕の魔力は、抜けやすい以外、特に問題はないみたいだ。

メルツと契約すれば、メルツが離れたところにいても、僕の魔力は抜けにくくなる……。

身体の負担が軽くなって、さらに体調が良くなるかも。


「契約できる精霊は、一人なんですか?」

「複数人と契約できますけれど、その分魔力が散ってしまうので、魔力の弱い人は疲れてしまいますし、たいていは一人の精霊で足りるようです。

けれど、精霊も特質や、性格が違うので、複数の契約精霊を仕事内容によって分担させる人もいます。

精霊も、複数人の魔術師と契約できます。

ご夫婦で同じ精霊と契約して暮らしている方たちもいらっしゃいます。」

「そうなんですね……。」

精霊とのかかわり方も多様なのだな……。

「それから、契約に関してですと、島では伝統的にタトゥーを入れる習慣があります。」

「え!精霊と契約すると、タトゥーを入れるんですか!?」

「入れるかどうかは自由です。ただの印なので、入れなくても全く問題ないです。島の人間でも、入れていない人も結構います。」

「モーリーさんはタトゥーあるんですか?」


彼女は腕まくりする。

二の腕に、不思議な美しいリング状の模様があった……。

モーリーさんに似合ってるし、かっこいいと思う……。


「私の家系はみな入れているので、私も入れました。

必要性はありませんし、消すにはレーザー治療が必要になってくるので、よく考えてから、判断してください。」





サマーが良い笑顔で言う。

「アルシュ、森をジョギングしてみない?」

ようやく雪が溶けてなくなり、地面が乾いた。

冬の間、階段やランニングマシンで鍛えていたサマーは、外を走れるようになったのが嬉しいらしい。

「やっぱりVRの景色で走るより、本物の自然を感じながら走りたいよ!」

って言ってたし。

誘ってくれたのは嬉しいけど、でも……

「……僕、長く走った事なくて……」

「緩く二十分くらいならいけると思うよ。」

二十分か……。

「……それなら、挑戦してみます。」

あんまりサマーが楽しそうだから、僕も走る事にした。

Tシャツとトレーナー、ハーフパンツを着て、サマーと一緒に準備運動をする。

そして、森の入口に立った。

「自分のペースでな!」

十分走ったら、Uターンして戻ってくる。

いつも一時間かけて散歩している道を、二十分で往復する予定だ。

「スタート!」

「!」

サマーはダッシュして、あっという間に森に入って行って見えなくなった……。

「ジョギングって、あんなペースだっけ……」


十分後……

「はぁ、苦しい……」

僕は、早歩きと変わらない速度で折り返して、帰路を走る。

「アルシュさん!大丈夫ですか!?」

メルツがやって来た。

「大丈夫……。体力作りに……走ってる……ところだよ……。はぁ……。」

「しんどそうですよ?顔が赤いですよ?」

「うん……大丈夫。心配……ないよ……はぁ……応援して。」

「……頑張ってください!アルシュさん!もう少しですよ!」

僕は嬉しくなる。

メルツに応援されたら、頑張れる。


庭のベンチで休んでいたら、サマーが帰ってきた。

「おかえりなさい!」

「はあ……ただいま!アルシュ、ストレッチするよ!」

ストレッチしながら尋ねる。

「サマーはどこまで行って来たんですか?」

「広い川のところまで。」

「え!あんなところまで行ったんですか!?」

もう道もないような森の深くだ。

僕はメルツと一緒に空を飛んだ時、眺めた事があるだけだ。

「危なくなかったですか?」

「前も行ったことあるから地形は知ってるよ。

でももし怪我して帰れなくなったら……メルツさんのお世話になるかも。」

「メルツは魔法で怪我を治せるんですよ!」

「え!マジ!?すごい!」

子爵さんから教わった魔法らしい。

「動物の怪我を治す目的で習得したらしいですけど、人間も治した事あるそうです。」

「カッケー!回復魔法使える精霊さんだったのか……!」

憧れの眼差しで僕の隣を見る。でも、残念ながら、メルツはそこじゃない。

「サマー、メルツはこっちです。」

メルツはクスッと笑った。





玄関チャイムが鳴り、エマスイがドアを開ける。

外にいたのは……

「モーリーです。アルシュさんをお迎えに参りました。」

モーリーさんがエマスイ邸まで来てくれた。

「エマスイです。実際にお会いするのは初めてですね。」

「エマスイさん、お会いできて光栄です。」

二人は握手する。

「アルシュをよろしくお願いします。」

僕も出迎える。

「遠くまでわざわざありがとうございます!」

モーリーさんは自分の車で来てくれた。

「契約前の精霊を運ぶには車の方が安全なんです。」

魔法の車なのだろう。

僕は振り返り、玄関にいる二人に挨拶する。

「エマスイ、サマー、行ってきます!」

「気を付けてね。行ってらっしゃい。」

「行ってらっしゃい!メルツさんも行ってらっしゃい!」

メルツは小鳥の姿で僕の肩に止まっていて、翼を振っている。

「行ってきます!」

「じゃあ、行こう。」

外はもう春本番だ。

僕とメルツは花咲く庭を通って、車へ向かう。

「モーリーさん、よろしくお願いします。」

彼女は微笑んで車のドアを開けてくれた。

「どうぞ。」

僕とメルツは後部座席に乗り込む。

「あ!」

サザハさんが助手席にいるのに気が付いた。彼女はこちらを見て微笑む。

「道中の安全はお任せください。」

「ありがとうございます!」

「ありがとうございます!サザハさん!」

僕はメルツを見てにっこりする。

精霊の姿になって隣に座ったメルツもワクワクしているらしい。嬉しそうに笑っている。

僕とメルツは手を繋ぐ。

モーリーさんが運転席に座り、

「では、出発します。」

「お願いします!」



長い旅だ。

僕は前もって、モーリーさんとサザハさんに質問したい事をリストにしてきた。

契約の事、魔法使いの国の事、モーリーさんとサザハさんについて……。


二時間後。

質問したり、おしゃべりしているうちに、パーキングエリアに着いた。

道の駅があり、車がたくさん止まっている。

「すみません、僕、舞い上がっていますね……。

運転中に、たくさん質問してすみません……。」

自動運転ではあるけれど、邪魔をしないよう、なるべくサザハさんに質問していた。けれど、モーリーさんもたくさん答えてくれた。

「アルシュさんのご質問は、どれもよくあるもので、容易にお答えできるので、お気になさらず。

ランチを買いに行きますけど、アルシュさんも一緒にいかがですか?それとも、私がお選びしましょうか?」

「あ、僕も行きます!」



アルシュさんとモーリーさんが買い物に出かけて、車内は私たち精霊二人だけになった。

私は助手席に向かって尋ねる。

「あの、サザハさん、モーリーさんと契約した時、どんな感じでしたか?」

「私は、モーリーと契約する前は、男性としか契約した事がなかったので、女性とだと何か違うかもしれないと思っていましたが、性別による違いは特にありませんでした。魔力の相や性格、年齢による違いはありましたけれど。

どなたも良い人間で、契約した時、嬉しかったですよ。」

「どんなふうに嬉しかったですか?」

「……コアは、少し重みがあって、磁石のような芯が胸にある感じです。

それでいて、軽くて、心優しい主の魔力の温かさが感じられて、それに感動するのです。

単なる魔力の塊だった自分が、少し人間に近付けたようにも思えますし。

人間は魔力源があって力強くて、魔力の流れも複雑で美しくて、私は憧れがあるのです。」

「分かります!私もアルシュさんに憧れあります!」

綺麗なアルシュさんを、ひと目見た時から、毎日眺めていたいと思っていた……。

仲良くなれて、毎日楽しくて嬉しいし、

私と契約したいと思ってくれるなんて、なんだか信じられないような……幸せ……!




ランチを買って、車へ戻る途中。

「モーリーさん……。僕、ちょっと思ってるんですが……」

「はい。」

「僕はちゃんと、メルツの気持ちを考えてあげられてるかなって……。」

「……。」

モーリーさんは立ち止まる。僕も立ち止まる。

「僕は、メルツと離ればなれになるのが怖いんです。だから、早く形ある関係になって、安心したくて、契約したいって思ってる部分があって、それで良いのかなって……。

楽しみで明るい気持ちですけど、契約した先が、未来が、真っ白で、全然分からないんです。

なので、こんな状態で契約して大丈夫かなって……ちょっと思っていて……。」

「契約は、お二人の夢で、目標だったんですよね?」

「はい。」

「メルツさんも、アルシュさんと契約するのをとても楽しみに思っていますよ。とてもお幸せそうです。

契約したその先は、お二人でゆっくり考えながら、過ごして行けば、そのうち新しい夢や目標が現れると思いますよ。」


「……そうですね……!」


モーリーさんは微笑む。

「メルツさんは幸せものですね。」

「はい?」

「アルシュさんにそんなに思われていて。」

「……」

僕は首を横に振る。

「メルツの幸せが何か、精霊の幸せが何か、僕はまだよく分かっていないと思います……。

メルツをまだちゃんと全部は知れてなくて……。でも、何を知っても好きなのは変わらないですけど……。」

モーリーさんが言う。

「……アルシュさん、ラウンジで食べましょうか。」

「あ……はい……。」

モーリーさんは、車にいる精霊二人に外で食べると伝えてくれた……。



精霊と契約するのに、年齢制限は無いらしい。

けど……

僕の年齢で契約する人はあまりいなくて、珍しいらしい……。

さっき、車の中で、

「僕の年で精霊と契約する人ってどのくらいいるんですか?」

と尋ねたら、そう答えてくれた。

丁度パーキングエリアに入ったから、続けて質問できなかったけど。

ラウンジの席の向かいに座っているモーリーさんは言う。

「そうですね、魔力を使う仕事につくタイミングで、パートナーを探す人が多いです。」

専門学校や大学を出てから、仕事のパートナーとして、精霊を探して契約する人が多いということ。

精霊と一緒に働きたい人と、精霊を、マッチングするお仕事もあるとか。

出会いが早くても、学生のうちに精霊のパートナーを持つのは早いと言う人がいるらしい。親とか。特に恋愛感情があるとそうらしい。

まるで結婚みたいだ……。

人間の結婚と、精霊との契約はだいぶ違うと思うけど、魔法使いの社会では、恋愛関係にある精霊と未成年者の契約を良しとしない……。

悲しいな……。

「どうしてなんでしょうか……?」


「一番は、精霊と恋愛して契約して公私ともにパートナーとするよりも、

将来、人間と結婚してほしいと思っている大人がいるせいです。」


「……そんな……」


「私は、契約も結婚も、当人同士で考えて決める事であって、大人の願望やお節介は、不必要と思っています。

明日は、同じ考えの魔法使いに契約の儀式を頼んであるので、安心してください。」

と、僕を励ますように微笑んだ。

「……。」

僕も少し微笑む。

でも、こっそり思う……。

魔法使いの国でメルツと一緒に暮らすのは、無理かも……。

契約したら早く帰ろう……。

僕は魔法使いの国で生まれなくて良かったな……。

好きになったのが精霊だったから、精霊と関係を続けていく方法を探したいし、イレギュラーだとしても、まわりから祝福や応援をされたい……。


大人の願望……か……。

例えば一人っ子が精霊と恋愛して、生涯のパートナーとしたら、跡継ぎがいなくなる、みたいな事だろうか……。


多様性を重視するし、個人の幸せを大事にする世の中に変わったのに、魔法使いの国は、ずいぶん時代遅れだな……。

閉鎖的なの、どうにかならないんだろうか……。


モーリーさんは優しく微笑む。

「アルシュさん。私はアルシュさんとメルツさんを応援していますよ。サザハも。」

「……」


たった二人の、島の知り合いが、僕を応援して、契約を喜んでくれているなら、その他の知らない人たちの事なんて、気にしないでいいかもしれない。


モーリーさんは言う。

「アルシュさんとメルツさんは、きっと誰かの希望になると思います。」


「誰かの希望に……?」


「はい。なので、お二人らしく、楽しんで生きて行ってください。」


「僕たちらしく、楽しんで……。」


モーリーさんの笑顔を見て思う。

僕とメルツは、幸せなんだな……。

祝福して送り出してくれる人がいるって、幸せな事なんだな……。


魔法使いの国では、そうじゃない十代の人もいるって思うと、泣きそうだ……。




車に戻り、僕は微笑んで言う。

「お待たせ。メルツ。」

「ランチ美味しかったですか?」

「うん。美味しかったよ!」

「良かったですね!

……アルシュさん。私、アルシュさんは、誰よりも綺麗だと思っています。」

僕は驚く。

「え、綺麗……!?」

誰よりも!?急にどうしたんだろう……。

「……僕のどこが綺麗なの?」

顔綺麗、とか、髪綺麗、女の子みたいに可愛い、とか人から言われた事あるけど、メルツもそんな事思ってるのかな……。


「全部です。全部綺麗だと思います。」

と、うっとり微笑む。


全部……!?

ずいぶん過大評価に思えるけど……

でも、それってつまり……

一目惚れって事かな……。


「……メルツこそ……

全部綺麗だし可愛いよ……。」

って言うの、ちょっと照れるな……。

でも、本当に心からそう思ってる。


僕こそ一目惚れだった……。

月明かりに透けて輝くメルツ……。

初めて会話した時から好きだった……。


「アルシュさん……!」


僕らは抱き合う……。


モーリーさんとサザハさんが拍手する。

「素敵ですね。」

「こちらも幸せな気持ちになります。」


思えば、契約というものがあると知ったのは、メルツが教えてくれたからだった。

その頃から、メルツは、僕との契約を考えてくれていたのだろうか。


「メルツはいつから僕と契約したいって思ってくれてたの?」

「いつからでしょう……。たぶん、アルシュさんと同じくらいの頃からです。」


僕らは一歩ずつ、近寄って、契約の約束をして、ここまで来た……。

これから先も、一緒に楽しんで生きて行くために……。


未成年者と精霊の、契約や恋愛に反対する人がいるからって、それがなんだと言うんだろう。


愛は正義なんだ。

何を言われようと、僕は跳ね除ける!




ドライブは続く。モーリーさんが言う。

「もうすぐマイザの岬ですが、バイパスを通ります。一般道路から、魔法で隠された道路へ入ります。」

どこまでが一般道路でどこからが隠された道路なのか、僕には分からなかったけど、車は林を抜けて、海の上の橋を渡って行く……。

海の上は開けていて、清々しい景色だ。

右手の方にマイザの岬が見える。

でも……行く先の橋を見ると……

「橋の先に島が見えないですけど……」

橋の先の方は霞んでいて、海しか見えなくて、どこにも繋がってないように見える……。

「そのうち現れます。」


「あ!島が……!」

急に陸が見えてきた。

上陸する少し手前で見えた。近づくにつれてはっきりしていく。

「大きい……!」

以前、マイザの岬から見た島より、ずっと大きい……。

「マイザから見えるのは見せかけで、こちらが本物です。」

上陸すると、すぐにゲートがあった。

側に建物があり、壁のカメラがこちらを向いている。窓を開けずに窓から精霊が顔を出した。

「モーリーさん。サザハさん。入国ですね。」

「はい。国外の人と精霊、一名ずつ再入国です。契約の手続きをしに来ました。」

「確認は取れています。どうぞ。」

精霊はにっこりしてゲートを開けてくれた。



ホテルに着いた。

「お疲れ様でした。今日はゆっくり休んでください。明日の朝、迎えに来ます。」

「モーリーさんとサザハさんこそ、お疲れ様でした。ありがとうございます!」


夜になったけど、眠くないし、疲れてない。

明日が楽しみで。

契約の儀式は体力も魔力もあまり使わないらしいけど、よく休んでおかないと。

システムがあって良かったな。無かったら、絶対眠れないと思う……。

お風呂に入ったあと、髪を乾かしてからパジャマを着る。

バスルームから出てベッドへ行くと、メルツが窓越しに誰かと話していた。

ドキッとしたけど、外にいたのはサザハさんだった。メルツが振り向いて、

「あ、アルシュさん。サザハさんは朝まで見張りをしてくださるそうです。」

窓越しにサザハさんは言う。

「アルシュさん。お気になさらずお休みください。」

「もしかして、以前泊まった時も、外で見張りをしてくださってたんですか?」

「……はい。これも仕事ですので。」

僕は窓を開ける。

「それなら中へ入ってください。外じゃなければいけない理由がなければですけど。」

「特にありません。では、失礼いたします。」

サザハさんは窓から入り、部屋を見回し、

「では、私はこちらの中におりますので。」

と、クローゼットに入った……。

「え……!椅子に座ってるとかでいいんですよ?」

「お邪魔になるでしょうから。」

「……」

なんだか閉じ込めてしまったみたいで悪いな……。

お互い気を使わなくていい位置との判断なのだろうけど……。

「あの、サザハさん、僕は眠りますけど、気にせずメルツと過ごしてくださいね。」

「……はい。」

「……では、お休みなさい。」

「お休みなさい。アルシュさん。」

僕とメルツは一緒にベッドに横になり、手を繋いで、僕は眠った……。




私は起き上がり、ベッドに座る。

「サザハさん。」

「……はい。」

「アルシュさん、眠りましたよ。こちらへ来てもらえますか?」

サザハさんがクローゼットから出て、ベッドの側へやって来た。

「どうぞ座って下さい。」

と、ベッドの足元の方を示したけど、サザハさんは椅子を持って来て腰掛けた。

「メルツさん。なんでしょう。」

「サザハさん、質問があるんですけど……契約したら、アルシュさんの魔力って、変化しますか?」

私はアルシュさんの魔力の相が好き。眠っている時、特に綺麗だと思う。

契約して、アルシュさんの身のうちにコアができたら、この魔力の相も何か変化があるのだろうか……。

「コアは深く埋め込むので、表面の見た目はほとんど変わらないですよ。」

「そうなんですね!」

ほっとする……。

この魔力の相も見納めかもしれないと思っていたから……。

「メルツさん、素晴らしいパートナーと出会えて良かったですね。」

「はい!」

「実は、十代の人を見初めて契約したいと思う精霊は多いのです。」

「そうなんですか!」

「昔の私もそうでしたが、大抵は片思いで終わります。なので、両想いになれたメルツさんとアルシュさんは、貴重な存在です。あやかりたい精霊も出てくるでしょう。」

「そう言われるとソワソワします……。

サザハさん、私たち、無事に契約できるでしょうか……?」

魔力的に合わなくて、契約の手続きが破綻してしまう場合もあるらしいから……。

「お伝えしてある通り、契約のプロの魔術師の方は、上手くいくと見立ててくださっています。信じて臨みましょう。」

「はい……!」

水晶に貯めた、私とアルシュさんの魔力をあらかじめ見せてくれたらしい。


私は集団で暮らす精霊たちを羨ましいと思っていた。

持っていない幸せを、一方的に、欲しがっていた。

けれど、彼らの中には、アルシュさんと契約する私を羨ましがる精霊がいるだなんて……

思ってもみなかった。

驚いたし、なんだか親しみを感じる……。

そういう精霊たちにも、良いご縁がありますように……。


「サザハさんは、時々モーリーさんを主と呼んでいますよね。」

「大昔は、精霊は契約した魔術師を主として仕える、主従関係でした。私も初めての主の時は、まだその風習が残っていると感じていましたが、今では呼び名だけが残っています。ですが、それも時代遅れですね。若い人中心に、お互いをパートナーと呼ぶ呼び方が定着しています。」

「私も、アルシュさんはパートナーと呼ぶ方がしっくりきます。」

「素敵ですね。仕事は関係なく、ライフパートナーとして人間と契約するの、憧れます。」


「サザハさんも、十代の人を好きになった事があるんですね。」

「はい。彼女の魔力は本当に美しくて、いつまでも眺めていたくて、つい、後をついて行ってしまいました。ストーカーですね……。」

「気持ちは伝えられましたか?」

「伝える前に調べました。彼女には恋人が、彼氏がいましたし、精霊と恋愛したい人ではありませんでした。」

と、悲しげに微笑む。


「そうですか……。」

「今は、恋愛よりも、モーリーとの信頼関係の方が大事です。……あの、メルツさん、泣かないで下さい……。」


サザハさんの表情が、今でも好きだと語っていて……。

私は失恋話しに弱いのかもしれない……。




翌朝。

僕たちは、ホテルのロビーでモーリーさんと待ち合わせた。

「では、儀式を行う場所へ行きましょう。」


儀式の場所は、特別なのだと聞いている。

どんなところなんだろう……。

車で街の外に出た。

魔力生物が草を喰む丘を通り、島の端っこまでやって来た。

「このあたりは、魔力の少ない地質なんです。」

車を下りると、丘の下へ潜る下りの階段があった。ウサギ穴みたいだ。

階段を下りるとドアがあった。開けると、また下りの階段がある。

さっき外に一台車が止めてあった。契約の儀式をしてくれる魔術師さんは、もう先に来ているらしい。

階段の下には、またドアがあった。

モーリーさんはドアをノックする。

すると、ドアを開けてくれたのは……

精霊だった……。

精霊はニコッとして言う。

「ようこそ。どうぞ中へ。」


「わあ……!」

声が響く。

儀式の部屋は、部屋と言うより、円柱状のホールだ……。

ガラス張りの高い天井から、光が降り注いでいる。

光は床に描かれた魔法陣を照らしている。

一人の男性が近づいてきた。

「アルシュさんとメルツさんですね。はじめまして。契約の儀式を担当させていただく、エドワードです。よろしくお願いします。」 

「こちらこそよろしくお願いします!」

「実は僕も、十代で精霊と出会って、十七歳の時、契約したんですよ。」

と、微笑む。

「彼女がその精霊です。」

精霊も、幸せそうにニコッとする。

ホールの奥へ招かれて入る。

精霊がドアを閉めてくれた。

「メルツさん、この場所は外からの魔力がほとんど入って来ない作りですが、調子はいかがですか?」

「しばらくは大丈夫そうです。アルシュさんの魔力がよく見えます。」

「ノイズが少ないですからね。では、まずはアルシュさん、システムについて質問させてください。」

「はい。」

「体内にシステムをお持ちということですが、位置はどのあたりですか?」

僕はお腹と頭を指さす。

「ここです。」

「わかりました。では、契約のコアはシステムを避けて埋め込みますね。

コアの位置を決めたいので、鎖骨の下からおヘソの上までをスキャンさせてください。」

「はい。」

「そこに、スキャナーがあるので、ガラスに胸が付くように座ってもらえますか?服はそのままで大丈夫です。」

レントゲンみたいだな……。

言われた通り、じっと座っていると、

「魔力源が多いですね。ここの隙間が良さそうですね。」

画像をモーリーさんと一緒に見ている。

「あとはこのあたり……。」


僕は指示通りに魔法陣の上を歩き、線が集まっている一点の上に立つ。

メルツは僕の向かい正面にいる。

「では、契約の儀式を始めます。アルシュさん、メルツさん、よろしいでしょうか?」

「はい。」

「よろしくお願いします。」

魔法陣の外側に立っているエドワードさんは、杖を魔法陣に向け、詠唱する……。

「…………」

……促されて魔法陣に満ちていくのは、僕とメルツの魔力だ……。

魔力が減った感じはしない。自分と繋がっているから。

僕は儀式を楽しんでる。

メルツも楽しそうな表情で、僕と顔を見合わせて笑う。


そうしているうちに、僕とメルツの周りに、大小いくつもの魔力の玉ができた。空中に浮いている。

え……これ全部コアなのかな……!?

十個以上あるみたいだけど……?


エドワードさんが、一粒ずつ調べていく……。そして、選別してくれた。

「この三つの中でどのコアが良いか、選んでください。」

そう言われても、僕にはよく見えないし、違いが分からない……。

「メルツ、どう?よく分からないから決めていいよ。」

でもメルツは、

「アルシュさんと一緒に選びたいです。」

モーリーさんが言う。

「鏡を見て。」

それでさっき貸してくれたのか。僕はポケットから手鏡を出す。メルツと僕の間に浮かんでいる三つのコアにかざす……。


「わあ……!」

まるで火の玉みたいだ……。

太陽みたいに魔力が対流してる……。

三つ同じようでいて、対流の仕方が、それぞれ違う……。

「メルツ、せーので指さそう。」

「はい。」

お互い違うのを指差しても、話し合えばいい。好みが違うのは個性で、当たり前なんだし。

「せーの……!」


「!」

僕とメルツは、同じコアを指差していた……。


「すごい!じゃあこれでお願いします!」

「わかりました。」

他のコアは魔法陣に溶けた。

エドワードさんが詠唱を始める……。

「…………」

コアの様子を鏡で見ていたかったけど、ポケットにしまった。これからふたつに分かれたコアの片方が、僕の胴体に埋め込まれる……。

「…………」

メルツが両手で胸元を押さえている。

どうやらメルツの方が先にコアが入ったらしい。

「メルツ……。」

大丈夫かな……。

メルツは幸せそうに笑っている……。

良かった……。

もう一つのコアは、僕のみぞおちのあたりにやって来た。


「あ……!?」

僕は、いつの間にか、

森に立っていた……。

メルツの森だ。

森の時間を感じる……。


すると、不思議な悟りのような、腑に落ちた感覚がした。


この繋がりは、僕に必然なのだ……。


森と、メルツと、僕……。


森はメルツ由来なのかと思ったら、そうでもないんだな……。

僕とメルツは、同じところから来たのかもしれないし……

僕も、遠い昔の前世、森で生まれたのかも……。


拍手が聞こえて、気が付いた。

エドワードさんとモーリーさんが拍手している。

契約の儀式が終わったらしい。


メルツを見ると、僕を見つめて微笑んでいる……。


メルツも森を見たかな……。



帰りの車の中で尋ねてみる。

「メルツ、どうだった?」

「森の木がたくさんの時間を持っているように、アルシュさんにも、たくさんの時間が詰まっているんですね。過去にも、未来にも……。そう感じました。」


時間が詰まっている……?

「僕は森が見えたよ。」

「きっと、私もアルシュさんも、森が好きだからですね!」



僕の胸の奥に、小さな窓があって、メルツの魔力が少しずつそよいで入ってくる。

メルツの魔力は触媒になって、僕の魔力を安定した流れに変えていく……。


……システムを入れた後も、色んな変化があった。

どこも不調が無くなって、気になる症状も無くなって、あとは体力をつけるだけになって……

今では自由に動けて、何でも食べられるのが当たり前になっている……。


メルツと契約したおかげで、魔力が抜けにくくなるはず。

魔力的な体調?にきっと何か変化があるはず。



ホテルの部屋に帰ってきた。

メルツが言う。

「アルシュさん、くっきりしてきましたね……!」

「くっきり?」

「魔力が抜けて揺らいでいたのが、なくなってきました。」

輪郭がボヤケていたのが、はっきりしてきたらしい。

魔力が身体に留まるようになってきたのだ。

「なんだか僕も魔法が使えそうな実感が湧いてきたよ。」

そうなのだ。急に力がついて自信が湧いてきた感じがする。契約してすぐなのに。

まだ何も魔法使えないんだけど……不思議な自信がある。

「カッコいいです!」

メルツにはそう見えるらしい。

僕は微笑む。

「それは、メルツが僕と契約してくれたおかげだよ。メルツのコアがそうさせてるんだ。」

「……」

「メルツ?」

「ふふふ……!」


この感じは……

この含み笑いは……

メルツ、僕にメロメロになってる……?

「そんなに?」

可愛いな……。


「ふふふふ!すごく綺麗です!」


この先、メルツはずっとこんな調子なんだろうか……。

キラキラの眼差しで僕を見つめ続けている。

なんか恥ずかしいな……。

でも、嬉しい……。


メルツの手に触れて言う。

「メルツ、僕と契約してくれて、ありがとう。」

メルツは堂々と言う。

「アルシュさんが私を思ってくださっている心に触れたから、契約したいって、気持ちがはっきりしたんですよ。」

「メルツ……」

なんだか頼もしいな……。

僕の気持ちを知って、一緒に生きる決心をしてくれたって事だ……。



僕たちは、それぞれの魔力を混ぜて作ったコアを分かち合い、契約の儀式をした……。


コアは、体になじむ時、少し魔力を放出して、小さくなる。

明るく爽やかなメルツの魔力が、僕の中に広がった……。

綺麗な音色のようだった……。


メルツの方も、同じく、体内で僕の魔力が広がっただろう。

以来、お互いの魔力が安定して通い合っている……。


「……。メルツ?」

メルツは今度は涙を流している……。

僕は近寄り、メルツの肩を抱く。


「なんだか……嬉しくて……

すごく幸せで……

アルシュさん……!」

抱きしめられた……。


そんなに感動してくれるなんて……。


僕たちはもう、なにも孤独じゃない。

お互いの魔力も心も通って、暖かだ……。

メルツは、子爵さんから姿を得てからずっと、確かなつながりを求めていた……。


子爵さんと契約したかっただろうけど、今は……

僕と契約できて、こんなに喜んで、感動してくれている……。

「メルツ……」

僕も涙がこぼれる……。


それだけメルツは、僕たちは、

孤独を抱えて生きてきたって事だ……。


巡り合い、辿り着いた、

この二人で立っている場所を、

広く、豊かにして行こう……。



契約の後、僕たちは一時間ほど魔法陣のある部屋で過ごした。

契約直後の僕とメルツの様子を見るためだ。

せっかくなので、質問した。

「エドワードさんは、どんなきっかけでリマさんと知り合ったんですか?」

リマさんは、エドワードさんの契約精霊だ。

エドワードさんは話してくれた。

「リマはもともと渡りの精霊だったんだ。島のお祭りで偶然知り合って、次の日、僕から告白したんだ。」

「すごい……!次の日ですか!」

「渡りに行ってほしくなかったから。」

「リマさんはどうでしたか?」

リマさんは微笑んで言う。

「残りますとお返事しました。」

「でも、いつまた渡りに行ってしまうかと不安で苦しかったよ。

契約したいと親に話しても反対されたしね。」

「人間であるエドワードさんは制約が多くて不自由そうでした。エドワードさんを連れ去りたかったです。」

連れ去る!

「僕の様子を心配した親が、一年後も気持ちが変わっていなければ、契約していいと折れてくれたんだ。」

「約束を交わして、私は渡りに行って、一年後に再会して契約しました。」

「十七の時だ。」


不安で幸せな一年だっただろうな……。



「あの……精霊と人間の恋愛って、変に思われたりするんですか?」

「今はそういう事あんまりないみたいだよ。街でもよく見かけるようになった。」

確かに、手を繋いでいる人間と精霊のカップルを時々見かける。

「じゃあ、僕とメルツも気にしないでいいんですね!」

エドワードさんとリマさんがにっこりしてうなづく。

「普通にしていて大丈夫です。」


お二人に契約の儀式をしてもらって良かったな。お話しできて良かったな……。





次の日は一日観光した。

と言っても、町中をぶらぶらしただけだけど。

メルツと手を繋いで、ウィンドウショッピングをして、楽しかった。杖のお店もあった。

「今度来た時は、免許を取って、ここで杖を買いたいな。」

「アルシュさんなら大丈夫ですよ。免許取れると思います。」

「メルツにそう言われると、出来る気がするよ!」


帰りはモーリーさんに、マイザの岬の最寄り駅まで車で送ってもらって、そこからは電車で帰った。


「ただいま帰りました。エマスイ先生。」

「アルシュ。お帰りなさい。……ふふ。急に大人びたわね。」

大人びた……?

メルツと契約できて、安心して、少し余裕が出てきたのかも。

サマーもやって来た。

「アルシュ!おかえり!」

僕はにっこりする。

「ただいまです!」

「……幸せそうだな〜!」

「あはは!だからなんでサマーが照れるんですか!」

サマーは、

「おめでとう!」

と、僕の手を握って振る。

「今日はごちそう作るよ!」

「サマーの料理はいつもごちそうですよ!僕も手伝います!」


料理が完成したあと、

「フォーマルに着替えてきて。」

と、サマーが言うから、僕はスーツに着替えた。

部屋から出ると、メルツがいた。

「わ……!その姿、久しぶりだね!」

メルツは真っ白な鹿の姿だ。

「綺麗だよ!」

「アルシュさんも、スーツよくお似合いです!」

二人で階段を下りて、リビングに入ると、花びらが雪のように降ってきた。

「契約おめでとう!」

「おめでとうアルシュ。」

サマーとエマスイが笑顔で拍手してくれた。

「わあ……!」

「ありがとうございます!」

メルツが楽しそうに言う。

「私、昔、子爵さんと一緒に、こういうの見たことあります!村の教会で、若い男女が皆からお祝いされていました。」

「結婚式だね。」

「花婿さんが、花嫁さんを抱き上げてキスしていました。花嫁さんのドレス姿が素敵でした!」

と、にっこりしている。

「うん……。」

「あ……契約と結婚は違いますね。すみません、こんな話し……」 

と、心配そうに僕を見る。


「メルツ。」


僕はメルツにキスする……。


「僕は、メルツ以外、誰とも契約しないし、結婚もしない。

だから、そんなに違いはないよ。」


「……アルシュさん……?」


そうだ。契約と結婚の違いは無い。僕たちにとって。


僕は床に膝をつき、メルツの肩に手を触れて言う。


「僕は生涯、メルツを愛すると、誓います。」


「アルシュさん……」




メルツは泣いて……

僕は笑って抱きしめて……

サマーはありったけの花を降らせて……

エマスイは笑顔で拍手していた……。


僕はベッドに横たわって言う。

「メルツ、おやすみ。」

「おやすみなさい、アルシュさん。」


僕は、誓いを違えない自信がある。

だから契約したし、メルツに誓った。


メルツは嬉し泣きしていた……。

その姿は、宝物だ……。




『子爵さんは、結婚はしないのですか?』

『はは!しませんよ。』


『子爵さんは精霊と契約した事ありますか?』

『無いです。これから先もしません。契約は便利な事もあるけれど、不自由な面もあるからね。必要とも思えないですし。』


『精霊さん、あなたは私にとって、隣人です。』

『子爵さんにとっての隣人ってなんですか?』

『一緒にいて楽しいということです。』


その距離感が、子爵さんの愛だった……。

晩年は……

『私の死に納得して生きて行ってください。』

付きっきりで、お互い、一日一日が、愛おしかった……。


彼との約束は少なかったし、彼は私に愛を誓った事は無かった……。


だから、


『僕は生涯、メルツを愛すると誓います。』


言葉で言われると、

こんなに嬉しくて、苦しいものだとは、

知らなかった……。


だって、アルシュさんは、約束を守る人だから……


四百年、一緒に生きて行こうと約束した時は、まだ、長生き仲間として頼り合っている感じで、契約の話しもしていなかった。


契約して、結びつきがはっきりした今、自信を持って誓ってくれて、私はようやく気づいた……。


パートナーを私に決めてくれて、とても嬉しい。

でも、やっぱり私以外を選んだ方が良いかもしれない……。


アルシュさんは人間だから、人間の女性と結ばれた方が良いかもしれない……。

きっとこの先、アルシュさんは女性に恋をする日が来ると思う。


そうあってほしいとすら思う。


でも、たぶんアルシュさんは、女性に恋をしても、自分の見た目が変わらない事を気にして、先に進めないのだと思う……。


生涯、一番近くにいられるのは、精霊の私だと思って、誓ってくれたのだ……。


「アルシュさん。

もし長命化問題が解決して、アルシュさんの寿命も他の人たちと同じになったら、

精霊の私より、人間の女性を選んでください。」


「え……!?メルツ……

僕はそんなつもりは全く無いよ!

もし問題が解決しても、僕は適応されたくない。

そしたら四百年生きられなくなっちゃうから。

メルツとなら、僕は生きていけるし、一緒にいたいんだ。

僕は人間に生まれて、メルツは精霊に生まれたけど、それは問題じゃない。

お互いなんでも話し合って、納得できれば、それで良いんだ。」


アルシュさんは、微笑んで私を見つめて言う。

「メルツ、僕の幸せを考えて、人間の女性を選んでって言ってくれたんだよね?

でも、これからは、僕の幸せだけじゃなくて、

僕たち二人の幸せを考えて行こう。」

と、笑顔で小指を差し出す。


「約束してくれる?」

「アルシュさん……」

私とアルシュさんは、小指を絡めた……。



鹿のメルツは花の首輪をもらって嬉しそうだった。

料理も美味しくて、幸せだ。

エマスイとサマーに、契約の儀式がどんなだったか話した。






以前、アルシュ君がねだってくれた。

「ルイスも、一緒に暮らせたらいいんですが……。」

「はは!ありがとう。それじゃあ、ライセンス取って、自家用ドローン飛行機を買おうかな。」

するとアルシュ君は目を輝かせて、

「それって……すごくかっこいいです!」

アルシュ君、いい表情だったな……。


「空飛ぶクルマで出社か……。」

僕は、エマスイ邸に住むことを考えてみた。

ドローンは問題ないだろう。僕の経済力なら維持できるし、ライセンスも大丈夫だろう。

仕事が定時で終わらない日もそこそこあるから、夕食がいるかいらないか、毎日サマー君に連絡することになる。一番迷惑かけるのは彼かもしれない……。


マンションの僕の部屋にある冷凍庫たちは、研究所に管理を頼もう。

それらには、ダルシアンとの研究で作った資料が入ってる。

好きな人のものは何でも取っておきたい僕のくせで、実用化しなかったものも全部取ってある。

いつかダルシアン・ライブラリーができたら収蔵してもらおう。それまで安全に保管しておきたい。


でも……

毎日冷凍庫を眺めたい……。

悲しくなるけど、ダルシアンと過ごした記憶をなぞりたい……。

家具もそうだ。うちにある椅子やテーブルは、昔亡くなった恋人、アドルフのものだ。

毎日、触れたい……。


そんなだから、僕の部屋は、どうしても、過去の部屋なのだ……。


たまにステファンが来てくれるけど、その時以外は、僕は、過去へ沈んでいく……。


昼は、ダルシアンの研究の続きをして、

夜と休日は、遺品に囲まれて過ごす……。


ダルシアン……

アドルフ……

スワロウ……


僕は、気づくと過去ばかりを思っていて……

友人ステファンも、以前からそれを心配している……。


だから、アルシュ君たちと暮らすのは良いことなんだと思う。

アルシュ君は希望に輝いているし、

エマスイ先生は美しいし、

サマー君は魅力的な若者だ。

僕が彼らに何ができるかわからないけど、頑張ればいい。


ダルシアンも、アドルフも、スワロウも、

きっと、そうした方が良いと言うだろう……。


過去を思うのは、止められない。

でも、同じくらい、良い未来を思えたら……。


「……よし。エマスイ邸に住もう!」

ドローン飛行機の教習を予約した。





エマスイが言う。

「にぎやかになっていいわね。

ルイスがそばに居れば、アルシュはとても心強いはずよ。」

システムのことだ。

僕は製作者の一人だし、僕自身にもシステムが入っているから、僕がそばにいれば、アルシュ君はその面で孤独じゃなくなるだろう。


どの治験者とも、まめにラインで会話しているけど、世界中でたった十五人っていうのは、やっぱり孤独で心もとないだろう……。

研究所にいた頃みたいに、全員と一緒に暮らせればいいんだけど、そうもいかない……。

「そうできればいいんだけどね。」

と、ステファンに話したことがあった。彼は、

「よせ、合宿ぐらいにしろ。」

と言っていた。僕が頑張りすぎてしまうからだ。


ダルシアンと一緒に作ったシステムを持っている子たちだ。

ダルシアンと一緒に救った子たちだ。

彼らは、ダルシアンと僕の子供みたいなものだ……。

そう思っているから、何でも尽くしたくなる……。




「アルシュ君、エマスイ邸でドローン飛行機を発着させていいか、メルツさんに聞いてもらってもいいかな。」

エマスイ邸も、メルツさんが住む森の一部だ。

「聞いておきますね。」


返事が来た。

「あまり森の奥へ来なければ大丈夫だそうですよ。」

「行かないよ。ありがとう。メルツさんにもよろしくね。」

「はい。メルツも、ルイスが引っ越して来るの楽しみって言ってましたよ。」

「はは!うれしいな!」





ステファンが大声を出す。

「は!?ドローンを買って運転する!?」

「え、そんな驚くこと?ステファンだって何度も運転してるじゃん。ドローンから狙撃したり、飛び降りたりもしてるじゃん。」

アクション派俳優の、イケメンでガタイの良い彼は、銃撃戦が派手な映画にも出ている。

「俺はドローンの運転なんてできねえよ!演技だし、セットなんだよあれは!」

「初乗りはステファン乗せてあげるね!」

「いやだ!免許取りたてのやつのドローンになんかゼッテー乗りたくねえ!」

「ははは!怖がらなくて大丈夫だよ~!この僕が、完璧にマスターした運転を披露するんだから!それに、今時、落ちるドローンなんてそうそうないじゃん。よっぽど酷い機体じゃない限り。」

「そういうとこが不安なんだよ……。」

「そんな臆病でよく俳優やってられるよね。」

「臆病じゃねえ。慎重なんだよお前と違って。」

「はいはい。ステファンもドローン買ったらいいのに。」

「買えねえよ。俺はドル箱俳優じゃねえんだよ。」

「ステファン、いつの時代の人?今は車くらいの値段で買えるのもあるよ?」

「中古でな。」

怖がりのステファンは、中古の乗り物に乗るのは怖いらしい。愛車の整備も、信頼している整備士にしか頼まないらしい。

「撮影現場までひとっ飛び!渋滞なんて関係ない!スマートで鮮やかでかっこいいよね!」

「いや。渋滞しても、地味でもかっこ悪くても、俺は車がいい。」

「事故率変わらないのに。」

高所が苦手な彼は、地に足が着いてないと不安らしい。ステファンって、マインドがハリウッドじゃないとこが、玉にキズなんだよね……。でも、弱さを見せて甘えてくれるのは僕くらいだと思うと、うふふ!ってなる!

「ルイス。屋敷の人たちに迷惑かけんなよ。」

ステファンはいまだに僕のことを子供だと思っている。

「かけないよ!僕はこう見えて、知的で気の利く大人だから。」

「そうかよ。応援はしてるぜ。引っ越し手伝うから、日にち決まったら知らせろよ。」

「ありがとう!ステファン!」

僕は背伸びして彼の頬にキスした。毎度ながら彼は、うっとうしそうに手で拭った。





ルイスが駐機場から自前のドローンで飛び立った。

俺たちもエマスイ邸へ車で向かい、二時間後に到着した。

端正で品の良いお屋敷の玄関前のロータリーに、ルイスのドローンが止めてある。

ネイビーとシルバーの塗装で、品があるデザイン。

俺たちも車を止めて下りる。

リョーヤがエマスイ邸を見上げて言う。

「へえ、お館っていうより、質素な城って感じだな……。

貴族の屋敷って聞いてたから、もっと派手なの想像してたけど。良いとこ住んでんじゃん。」

玄関からルイスが出てくる。

「ステファーン!リョーヤさんも!ありがと―!」

元気そうに手を振っている。



ルイスに案内され、落ち着いた雰囲気のリビングに入る。

「どうぞ座って。」

ソファーに座ると、黒髪の少年がワゴンを押して、紅茶を運んできてくれた。

サマーというニックネームの、ラテンな感じの青年が、テーブルにティーセットを置いて、目を輝かせて言う。

「ステファンさん、俺、ファンなんです!」

俺は立ち上がり、彼と握手する。

「ありがとうございます。」

握力のあるしっかりした手だ。アルシュという名前の少年も、

「僕もです!」

彼とも握手した。子供のころのルイスみたいにほっそりした繊細な手だけど、しなやかな強さがある。

俺はお二人に言う。

「ルイスがご迷惑をおかけすると思いますが、何かあったら俺に連絡ください。よく言い聞かせますから。」

サマー青年はちょっとうろたえ、アルシュ少年はくすくす笑っている。

「もう!ステファン!僕のこと舎弟みたいに言わないでよ!真顔怖いからやめて!」

俺はルイスを一瞥して着席し、紅茶を味わう。

ルイスは腕を組んでそっぽを向いて、すねている。

アルシュさんが楽しそうに説明する。

「こちらのクッキーは、村の市場で人気のお店のものです。」

俺は微笑んで、

「いただきます。」

素朴な見た目で、味も懐かしい感じだ。

「美味しいです。紅茶もクッキーも。」

リョーヤもうなづく。

「良かったです!」

と、アルシュさんとサマーさんは、ハイタッチする。

どうやら紅茶もクッキーも、二人のお気に入りらしい。

リョーヤが俺の肩をつつく。

「ボスだぜ。」

エマスイさんがリビングへ優雅に入ってきた。

「ごめんなさい。午前中は練習にあてているので。」

ついさっきまで演奏が聞こえていた。

「この屋敷の主のエマスイです。車での移動、お疲れさまでした。」

彼女と笑顔で握手する。

「ステファンさん、どうぞよろしく。」

「こちらこそ。よろしくお願いします。ルイスを受け入れてくださって感謝しています。手の焼けるやつですが、何かしらお役に立てると思います。温かく見守ってやってください。」

「ステファン、保護者やめて!」

俺はリョーヤを紹介する。

「彼はリョーヤ。俺のパートナーです。日本人の作家です。」

リョーヤは流ちょうにあいさつする。

「リョーヤです。初めまして。お会いできて光栄です。」

「リョーヤさん、初めまして、ピアニストのエマスイです。」

「いいお館ですね。」

「十七世紀にたてられたお屋敷よ。」

「入ってくる時気になったんですが、玄関ポーチの柱の、鉢植えが載っている台って、元は何だったんですか?」

「松明をともす台よ。十七世紀当初からあるものです。」

「へえ、そうですか!」

リョーヤは嬉しそうだ。日本人の彼は、西洋の建築様式がいまだに珍しくて面白いらしい。

「改めて紹介するわね。彼はサマー。私のアシスタントよ。」

「アシスタント兼、料理人兼、運転手です。」

「彼はアルシュ。作曲家でピアニスト志望よ。」

アルシュさんはにっこりして、

「ステファンさんのお料理、楽しみにしています!」

俺たちは一晩泊めてもらうことになったので、俺は昼食と夕食の手伝いを申し出た。

「オーソドックスなものしか作れませんが。」

と言うと、アルシュさんはくすっと笑って、

「サマーのオーソドックスとは違うと思うので。」

「……なるほど。」



レンタカーで運んで来たルイスの荷物を部屋に運び入れ、荷解きする。

アルシュさんが、ルイスの服をクローゼットにしまっている。

ルイスと仲良さそうに会話している。

「このシャツの色、良いですね!ルイスに似合いそう!」

「良いブルーでしょ!僕のこのキラキラな金髪と、澄み切った肌の白さが引き立つんだ!」

「似合う色味が分かってるって良いですね!

僕も、淡いターコイズブルーのウールのシャツジャケット持ってますよ。AIに勧められて、試着してみたら気に入って。」

「似合いそうだね!アルシュ君、ファッションセンス良いよね。」

「いえ、僕はまだ、洋服選びは分からない事だらけですよ。AIに頼ってます。」

「でも、決めるのはアルシュ君なんだ。楽しんで迷って探すといいよ。

僕がコーディネートしてもいいしね!」

「ぜひ!ルイスのコーデも試してみたいです!」

「淡いピンクのボーダーセーターとか、似合うと思うよ!下は白のセーラーパンツとか良いんじゃない?」

「ピンク!薄めのピンクなら好きですよ。」

「うん、パステルカラー似合うよね。スタイルは、ナチュラル系もクラシカルも似合うよね。

今度VRで一緒にコーデ考えよう!」

「ありがとうございます!あ、このセーターも素敵ですね!」

「でしょ!」

服の好みが近いらしい。二人とも楽しそうだ。

「……。」


車に荷物を取りに行くとき、ルイスもついてきたので、言ってやった。

「……ルイス。お前もあのくらいの年だったな。」

アドルフと付き合ってた時……。

「そうだね。」

「アルシュさんと、ずいぶん仲良さそうだな。」

ルイスが俺をまじまじと見て言う。

「ステファン……もしかして、僕がアルシュ君と恋仲になりたくて引っ越してきたと思ってる……!?」

「サマーさんも性格よさそうな好青年だな。」

ルイスは心外らしくて怒る。

「あわよくば、なんて思ってないよ!サマー君の腹筋よりステファンの腹筋のほうが好きだし!」

サマーさんの腹も見たのかよ……。


「あのね、僕は、アルシュ君、サマー君、エマスイ先生のために、何かできることをしたいと思ったから、引っ越しを決めたんだ。

恋愛欲も性欲も強いのは認めるけど、

自分の暗闇を埋めるために、だれかれ構わず関係を持たずにはいられなかったあの頃の僕とは違うんだ!」


ルイスは大学生の頃、夜な夜なバーで飲んだくれては、見知らぬ男とホテルへ行っていた時期があった……。

アドルフの喪失でできた、真っ暗で途方もなくデカい穴を忘れるために……。


ルイスは泣きそうな声で言う。

「あの頃とは違う!ステファンに疑われると悲しくなるからやめて……。」


俺はルイスの頭をなでる。

「心配なんだよ。お前が。」


ダルシアン博士を亡くして、まだ一年もたっていないから……。

様子を見に行って泊まるたび、泣きながら寝付くから……。

穴を埋めたい辛さや嘆き、幸せになりたい苦しさを、俺も知ってるから……。


「うん……。ありがとう。わかってるよ……。

僕はステファンを心配させるほど、節操の無い人間じゃないから安心して。

これでもちゃんと責任感ある大人なんだ。若者に手を出すなんてありえないよ。」

目元を指で拭っている。

俺は軽くため息をつく。

「はあ……。そうだな。」


俺は奥の荷物を取ろうと、車に乗り込んでかがみこむ。

するとルイスがわきから抱き着いてきた。

「!?」

「うふ。」

ルイスが俺の腹を撫でる。

「よせ‼人んちで!」

俺は抵抗する。

「またしばらくステファンと会えないと思うとね、ステファンの魅力におぼれたくなるっていうか……。」

Tシャツの上から腹や胸をなでられる。

「やめろ!離れろ!」

ルイスのシャツを引っ張る。

「はは!破れちゃうよ〜!」

「節操はどこ行った!?何が責任ある大人だ!」

「ステファンは優しいから甘えたくなるんだよ〜!」

背中を撫でられて、ビクッとする。

こいつは俺の弱点を知ってて、器用に狙ってくる……。

俺はルイスの髪をつかむ。

「あ、やめて!大事なとこを、そんな風につかまないで!」

ルイスは両手で、俺の両脇をくすぐってくる。

手を離し、脇を締めてルイスの両手を封じた。

お互い少し息が上がっている……。

ルイスが素早く俺の膝の上に馬乗りになって、キスしようと顔を近づけてくる。

「ステファン、好きだよ。今日もカッコイイね……。」

俺の背後も横も荷物があって逃げられない……。

俺は舌打ちして、顔を背ける。

「うふふ。可愛い!いいじゃない。キス一回くらい!寂しい僕から逃げないでよ……ねえ……ステファンったらぁ〜……んふっ」

耳や首にルイスの生温かい息がかかる。

蹴り上げてやろうかと思っていると、


「ルイスー?」


アルシュさんの高く澄んだ声が、天から降ってきた。


ルイスが俺から離れる。助かった……。

ルイスは髪に手ぐしをかけて、車の窓を開けて見上げる。

「なにー?」

「レインコートはどこにしまいますかー?クローゼットですかー?それとも玄関ですかー?」

「クローゼットに入れておいて‼ありがとう!」

ルイスの新居が角部屋でよかった……。


ルイスは俺と会う度に、俺に触ったりキスしようとしてくるけど……

襲う気はない。

年上の俺に甘えてじゃれてくるだけだ。

根は弱い、いいやつだ。

抵抗するこっちが気の毒になってくるくらい、痛々しい過去があるから、心配したくなるけど、ルイスは自分で、俺から離れるほうを選んだ。

そのほうがルイスのために良い。

俺とは、辛い過去を共有してきた記憶が溜まっいるせいで、共鳴する部分があるから……。

俺がルイスにしてやれることなんて、たかが知れてるし……。


何度も愛する人を失ったルイスを、快く迎え入れてくれた彼らのもとで……

幸せになれよ……。




夕食後。

ゲストの俺とリョーヤは、他のみんなより先に、部屋に戻ってきた。

ツインのゲストルームに入るなりリョーヤが言う。

「エマスイ先生ってスゲー人だな!俺らが来るってわかってから、俺たちの作品をいくつも観賞したんだってさ!俺の本も読んでくれてたんだぜ!めっちゃ褒めてくれた!」

リョーヤが日本語で執筆した作品は、何冊か翻訳されている。

「ああ。人を知って、相手を立てる努力を惜しまない人だな。会話してて心地よかったし、博識さに驚いた。」

俺とリョーヤも、改めて彼女の演奏を聴いてきたけど、洗練された品格と深みは、たゆまぬ努力の結晶だと思う。

と、エマスイさんに話したら、彼女は、

「私が頑張れることは、ほんの少ししかないので、せめてその質が落ちないようにしているだけなのよ。」

と、謙遜した。

少しではないし、誰にでもできることじゃない。

勤勉で、優雅な淑女だ……。

見習うべきだ。ルイスも影響受けてほしい。


寝る支度をしていると、ドアがノックされた。誰だろう。

「ステファーン!いる?お風呂入っちゃった?」

ルイスだ……。

開けると、

「ステファン、ちょっといい?」

と、にっこりして手招きする。

「なんだ?」

出ると、俺の腕を引っ張って、自分の部屋へ連れて行こうとする。

俺はため息交じりに言う。

「今度は何する気だ?」

たぶんキスしてくる気だ……。昼間できなかったから……。

すると彼は噴き出して笑い、

「何もしないよ!いいからいいから!」

それでも警戒しながら彼の部屋に入ると、そこにはアルシュさんがいた。

「アルシュさん……」

「ステファンさん、夜分にすみません。もう一人、ご紹介したい人がいるんです。」

「?」

紹介したい人?

この家の住人は三人だと聞いている。端末の画面越しにいるのか……?

この二人が紹介したがってるってことは、治験者仲間か……?

そう思っていると、アルシュさんは自分の肩に向かって話しかける。

「メルツ。出ておいで。」

すると、そこにネズミが一匹現れた。

思い出した!メルツって……!

「ご紹介します。精霊のメルツです。」

「!」

ベージュ色のネズミは、人間みたいに行儀良くお辞儀をする。

そして、見る間に小鳥の姿に変わった。

「!」

それからリスの姿になる。

ホログラム、には見えない。VRでもない。

俺が驚いて見入っていると、アルシュさんが右腕をこちらに伸ばして言う。

「ステファンさん、左腕を僕と同じようにしてくれますか?」

「……こうですか?」

左腕をあげて伸ばす。

アルシュさんは近づいてきて、俺の伸ばした手の甲に、自分の指先を重ねる。

すると、リスのメルツさんが、アルシュさんの腕を伝ってやってきて、そっと、俺の手の甲に乗った。

途端に、ベージュ色だった体毛が白くなり、オレンジ色だった瞳がグレーになる。

「!」

ビクッとして鳥肌が立ってしまった。ルイスがなだめるように言う。

「ステファン、大丈夫だから。落ち着いて。メルツさんは礼儀正しい、いい精霊だよ。」

そう言われても、俺は得体の知れないものが苦手だ……!

とても軽いけど、少し触感がある……。それがまた怖い……。

でも、振り落とすわけにはいかない……。

リスが俺を見上げ、目を細めてにっこりする。

アルシュさんが言う。

「初めまして、メルツです。驚かせてしまってすみません。ルイスさんからお話を聞いていた通りの、素敵な方ですね!と、メルツは言っています。」

「ほら、ステファンもあいさつしてあげて。メルツさんって、やさしくて綺麗な女の子なんだよ!」

俺は正気をかき集めてあいさつする。

「ステファン・グランドです。精霊の方とお会いするのは初めてで、失礼いたしました。

ドローンの行き来とか、ルイスがご迷惑をおかけすると思いますが、気にくわないことがあったら、はっきり言ってやってください。」

「またそういうこと言うー!」

メルツさんは両手で口を覆ってくすっとわらう。

ルイスが言う。

「あ、そうだ!メルツさん、ステファンは魔力ありますか?」

「え!?」

魔力だって!?

そういやルイスは、

「僕、ちょびっと魔力あるんだよ!」

って自慢してた……。

メルツさんが俺を見上げる。俺はビクッとする。アルシュさんが通訳する。

「サマーさんよりはありますが、エマスイよりはずっと弱いです。だそうです。」

メルツさんは一礼してアルシュさんの肩に帰った。

「なんだ。そっか〜。残念。」

と、ルイスはため息を付いているけど、

俺はほっとする……。

魔力なんて、わけのわからないもの、俺はなくていい……。

「実は大魔法使いの素質があった!とかだったら面白かったのにー!」

と、ルイスは笑っている。

ゾッとする。勘弁してくれ。

俺は気を取り直して言う。

「アルシュさん、大事なご友人を紹介してくれてありがとうございます。」

「メルツは、僕のパートナーなんです。魔法使いと精霊の契約をしたので。

だから、もう精霊狩りにつかまる心配はないんですよ。

なので、彼女の知り合いや友達も、増やしてあげたいんです。」

「それで、まずはステファンってわけだよ!」

精霊狩りか……。精霊も大変だな……。俺は笑顔を作り、

「暇なとき、また来るので、メルツさんともお話ししますよ。」

苦手も怖さも、知識と慣れで、ある程度は緩和される。

アルシュ君は嬉しそうだ。

「ありがとうございます!あの、リョーヤさんにもご紹介したいのですが……」

「まずは俺から話しておきますね。」

と、俺は微笑んで部屋を出て、廊下でこっそりため息をついた……。



リョーヤの待っている部屋に戻ると、リョーヤは心配そうに近づいてきた。

「長かったな。何の用だったんだ?」

それから俺の両肩に手を置いて、俺の眼を覗き込み、不安そうに言う。

「なんで消耗してんだ……?ルイスに何された……?」

ルイスが犬猫みたいに俺に甘えてくるのを、リョーヤは知っている。

「毎度毎度、大変だな。」

と、慰めてくれる。

そのいつもの疲れと今とでは違うから、リョーヤは不安がっている……。

「いや、ルイスは関係ない。黙ってて悪かった。全部話すから。」

俺はリョーヤに、メルツさんのことを話した。

「だから、アルシュさんが精霊狩りを警戒してて、ルイスに口止めされてたんだ。」

「なーるほどね!」

リョーヤは楽しそうに笑っている。俺の話しを信じたらしい。

「あはは!ステファン、オカルト苦手なのに、よく頑張ったな!」

と、腕をさすってくれた。俺はため息をつく。

「はあ……。リョーヤ、信じるのか?」

「メルツさんとか、魔法とか?

確かに初耳だけど、あり得なくはねえなと思うぜ。不思議な話しは古今東西、山ほどあるし。ステファンを信じてるしな。」

「そうか。すごいなリョーヤ……。」

逆だったら俺は苦悶する……。

「俺もメルツさんに会いたいな。できればエイリアンのスワロウさんにもな。」

と、にっこりする。


ドアの外から、ルイスとアルシュさんの話し声が聞こえてきた。

アルシュさんが自分の部屋へ戻るところらしい。

「お。」

リョーヤはニヤッとして、口の前で人差し指を立て、そっとドアを細く開ける。

ちょうどアルシュさんの部屋のドアが見えるから。

こういう時のリョーヤは、やんちゃな少年に見える。そうでなくても、彼は幾つになっても年上に見えない……。どう見ても青年だ……。

リョーヤが小声で言う。

「鳩だぜ!」

俺も近づいて覗き見る。

アルシュさんの肩には、鳩の姿のメルツさん。

ルイスが笑顔で言う。

「じゃあ、お休み!アルシュ君!」

「おやすみなさい、ルイス!」

二人は長めのハグをする。

いや……ハグというより、しっかりと抱き合っている……。

ルイスは、アルシュさんの髪をべたべた撫でているし、

アルシュさんは、ルイスの背中をやさしく何度もなでている……。

ルイスは離れると、愛しそうに、アルシュさんの頬と、メルツさんの翼にキスした。

ルイスもアルシュさんも、嬉しそうに笑っている……。

アルシュさんは笑顔で部屋に入っていった。

リョーヤはそっとドアを閉めて俺に言う。

「あれヤバくね?」

「……。」

「日本人の俺から見ると、アレって、恋仲に見えるぜ!」

「……。」

俺から見ても、いちゃついてるようにしか見えなかった……。

「普段あんな距離ゼロで接してて、アルシュさんがその気になったら、もしくは傷ついたら、ルイスは責任取れんのかよ?」

「……。」

「一難去って、また一難、ステファンはルイスに振り回されっぱなしで、ほんと大変だな……。」

リョーヤは同情して俺の肩をさする……。

「明日、アルシュさんと話してみる。」


それでなくても、一度、アルシュさんと話をしたかった。

アルシュさんは、すでに傷ついているから……。

ダルシアン博士を失ったルイスに同情して、ここへ招いたり、同居を提案したりしたのは彼だ。

ルイスを助けようとして、慣れない重荷を背負っているのは、アルシュさんだ。

その上さらに、ルイスと恋仲になったりしたら……

ルイスの過去を知ったら……

ますます傷つくだろう……。

「はあ……。」

未成年の彼が、そこまでルイスと深く関わるべきじゃない……。

「かわいそうに、ステファン……。」

リョーヤが抱きしめてくれた……。

「でもまあ、ルイスとの関係を決めるのも、傷つくのも、アルシュさんの自由だと思うけどな。しっかりした子だし。」

「……。アルシュさんは、昔のルイスみたいだ……。」


十五歳のルイスは……

傷だらけのアドルフを助けて、幸せを作るために、全力で頑張っていた……。


アドルフの死後、空っぽになってしまった俺とルイスは、

お互いの孤独に同情して、支え合って生きて来た……。


もし、ルイスとアルシュさんが付き合ったら、

俺がいまだにアドルフを思っているせいで、リョーヤを百パーセント幸せにしてやれていないように、

ルイスもきっと、今までの喪失や思慕で、アルシュさんをさらに傷つける……。

あぶなっかしくて、見ていられない……。




寝る支度をして、メルツの待つベッドに入って、僕は言う。

「メルツ、ステファンさんと会って、どうだった?」

「良い人だなと思いました。そのうち仲良くしてもらえたら嬉しいです。」

「ふふ。そうだね。今日はちょっと怖がってたね。でも、ルイスが言うには、ステファンさんは慣れるの早いらしいから、きっと大丈夫だよ。」

「映画がどうやってできるのか、質問したい事がたくさんあります。」

先週、メルツとエマスイとサマーと一緒に、ステファンさん主演の映画を見た。

職を失ったシングルファザー(ステファンさん)が、息子と一緒に、クラウドファンディングで寄付を募りながら、世界一周を目指して旅をする、実話を元にした話しだった。

良い映画だった。

「そうだね!エピソードとかも聞きたいよね。明日聞いてみよう!……おやすみメルツ。」

「はい。おやすみなさい。アルシュさん。」

メルツはしばらく僕の寝顔を眺めてから、森へ帰るだろう……。




翌朝。

食後に食器を片付けながら、俺は話しかけた。

「アルシュさんは毎日森を散歩しているんでしたね。今日も歩くんですか?」

「はい。後で行きます。」

「俺も一緒について行ってもいいですか?」

彼は嬉しそうな笑顔を見せる。

「はい!ぜひ!」


アルシュさんは森を歩きながら、楽しそうに話している。

この森に、どんな植物があるか。動物がいるか。

綺麗な川や、湖もあると話してくれた。

「アルシュさん。ルイスは、あなたといるとき、楽しそうで、幸せそうですよ。」

彼は嬉しそうに笑って、

「僕も幸せですよ!」

「ルイスは、ずいぶんアルシュさんに甘えているように見えます。」

「そうですね。ルイスは甘えん坊です。」

と、にこっとする。

「昨夜、二人が廊下で抱き合っているのを見ました。」

「あ……」

「アルシュさんは、そういうの嫌じゃないですか……?」

アルシュさんは、ちょっと恥ずかしそうに笑う。

「ふふ……ええ、僕はうれしいし、ルイスも幸せそうなので。」

「まだお若いアルシュさんが、彼の重さを受け止めて慰める必要はないんですよ。」

「……ご心配ありがとうございます。

確かに、ルイスは深い傷があって、僕は同情してますが……

それは、ルイスにとっての僕も同じで……。

ルイスと一緒にいると、お互い軽くなるというか、安心できるんです。」

と、幸せそうに、天使のように笑う。

「以前、ルイスに言われたんですよ。僕はルイスが昔無くしてしまったものを、今も持ってるって。

それなら僕は、それを、ルイスに分けてあげたいです。」

「……。」

アルシュさん、どうか、自分を大切にしてほしい。そう言いたかったけど、言えなかった。


自分の持っているものを、分けてあげたい……。


そう言うアルシュさんからは、全てを包括するような愛を感じた……。


アルシュさんのために何かしてやりたいルイスの気持ちがわかった……。


確かにアルシュさんは、まだ持ってる……。

まだ、信じている……。

俺もルイスも、とっくに失ってしまったものを……。

だから、アルシュさんがそうならないよう、支えてやりたくなる。

守りたくなる……。

でも、どうしたら守れるのか、ルイスはわかっているんだろうか……。


アルシュさんが、俺を見上げて言う。

「あの、ステファンさん主演の映画を見たんですけど、撮影中のエピソードって、何かありますか?」

インタビューでも、よく聞かれる質問だ。

用意してあるエピソードや思い出をいくつか話してあげた。

アルシュさんは、楽しそうに聞いていた。




俺はルイスの部屋に入るやいなや、凄む。

「おい、ルイス。アルシュさんに甘えるんじゃねえぞ。」

「怖い!怖いよステファン!ヤクザしないで!漏らしちゃうよ!」

俺はルイスの肩をつかむ。

「お前もそうだったけど、アルシュさんも、大人を助けるために、無敵になろうとしてる。

自分の二の舞をさせたくはねえだろ?」

アドルフの死後、ルイスはアドルフの後を追おうとした……。

ルイスとアルシュさんはそうならないとしても、心を通わせる相手に、ルイスが相応しいかどうか……。

ルイスの過去を知るたび、アルシュさんが傷つくのは目に見えてる……。

「僕とアドルフは違うし、僕とアルシュ君も違うよ!

ステファン、まだアルシュ君のことあんまり知らないのに憶測で話し進めないで!」

「お前もアルシュさんも、何も減らないって思ってても、傷ついたり、落とし穴があったりするんだ。

若い彼を巻き込むな。距離を取れ。」

「……お節介したくなる気持ちもわかるよ。僕だってアルシュ君を傷つけたくない。

できる限りの努力をするよ。大人として、彼を守る。」

「どう努力して守るんだ?」

ルイスは俺の眼をまっすぐに見て言う。

「アルシュ君の味方でいる。絶対手を離したりしない。必ず助ける。

僕は今まで、大切な人たちに、そうしてきたつもりだ。

ステファンは、それでもまだ、僕を信じられないの……?」

じっと見つめられる……。

「……。」

俺は離れてため息をつく。

「はあ……。」

信じたい。けど、ルイスの愛し方は、だいぶ距離が近くてウザいし、だいぶ私欲が混じってる……。

「はあ……ああ、怖かった!ちょっと濡れちゃったよ!シャツの脇が!ほら!」

と、見せつけてくる。

ウザ……。

「ねえ、ステファン、そんな心配丸出しだと、アルシュ君がかわいそうだよ!

あのね、聞いて。

彼が僕を好きなのは、メルツさんのことが好きとか、音楽が好きってくらい、自然なんだ。

同情心で無理に僕に合わせてるわけじゃないんだ。

だから、そこを遮断しないであげて!

好きな気持ちをダメって言われるのは、とっても辛い事だよ!

アルシュ君が子供だからって理由も良くないよ!

どれだけ年を重ねて、経験積んで、分別ある立派な大人になったって、欠けてるところはあるんだ。

子供だからって、心配しすぎて縛らないであげて!

ステファンだって苦しいでしょ!僕だって、信じてもらえないのは苦しいよ!

僕とアルシュ君の関係は、

僕らとアドルフの関係とは全然違うけど、お互い思い合ってるんだ。

お互い力になりたいって気持ちは、人間、生きていくのに必要だと思うよ。

僕がアルシュ君に手を出さないか心配なんだろうけど、あんな清純な子を口説いたりしないし、そもそも僕の恋愛対象は、大人なんだ。

アルシュ君よりステファンの方が断然、」

俺はルイスの口を手で塞ぐ。

「ううう〜……!」


確かにルイスの言う通りだ……。

俺の心配で、アルシュさんの幸せを取り上げてしまうのは残酷だ……。

それに、アルシュさんは言っていた。


「ルイスと一緒にいると、お互い軽くなるというか、安心できるんです。」


「はあ……。悪かった。確かに俺は心配しすぎる癖がある。

俺は見守るって決めたから、お前はアルシュさんのそばにいてやれ。

お互い必要なんだろう。」


「ステファン……!よかった!やっとわかってくれた!」

と、嬉しそうに抱き着こうとする。俺は、

「IQ低くて悪かったな!」

と、ルイスを押し戻す。

「ただし!アルシュさんに触れるのは一日三回までだ。」

「え、ええー!」

俺が睨むと、

「わかったよ!守るからさ!」


俺はアルシュさんにも謝った。

「すみませんでした。」

「そんな……こちらこそ、心配をおかけしてしまって……」

「いえ、アルシュさんは何も悪くないです。

これからも、ルイスと仲良くしてやってください。

それに、あいつはあれで、頼りになるやつなので、頼ってやってください。」

「はい。……ステファンさん、ありがとうございます。僕とルイスが仲良くすることを許してくれて。」

「アルシュさんを傷つけたのは俺なんです。お礼なんて言わないでください。

あいつのこと、ウザくなったらいつでも言ってくださいね。」

「ふふ。全然ウザくないですよ!」

その言葉が本当なら、稀有な人だ……。




ステファンとリョーヤさんが帰っていった。

「はあ、もう、帰りがけにもステファンに釘をザックザック刺されちゃった。

あれじゃあ、毎日アルシュ君とお風呂入ってるなんて、口が裂けても言えないよ……。」

言ったらきっとつるし上げられて、拷問される……。あ……それもいいな……。

アルシュ君が天使みたいな声で言う。

「ステファンさんって、優しい方です。

リョーヤさんも優しい方で、お話しも楽しかったです。」

「優しいのはアルシュ君のほうだよー!」

と、彼の頭をなでる……。あ、これで今日三回目だ……。

アルシュ君はニコニコして言う。

「僕は、ルイスとの距離感は、ローイと過ごしていた時以来で、心地いいんですよ。」

「よく同じベッドで昼寝してたんだっけね。」

「はい。」

「アルシュ君が僕といて心地いいと思ってくれるの、うれしいよ。」

「ステファンさんは、僕がルイスの近くにいると傷つくって思ってるみたいですけど、同情より、喜びのほうがずっと大きいんですよ。メルツもそうです。

おかげで僕は、孤独じゃなくなりました。

ルイス、ステファンさんはちょっと怖がりですけど、いい人です。大切にしてあげてください。」

「ははは!そうだね。なんかステファンよりアルシュ君のほうが大人みたいだよ。

彼がごめんね。彼もちょっとは大人になっただろうから、許してあげて。」

「そんな、許すだなんて……僕はステファンさんを憎んでなんかいませんよ。

ただ…………」


アルシュ君が涙目になる。

「僕の幸せが、ほかの誰かを幸せにしないっていうのは……

悲しいなって、ちょっと思っただけです……。」


「アルシュ君……!

そうだよね!自分の幸せを、できるだけ多くの人に喜んでもらいたいよね!」

僕も涙が出た……。




僕がまだ子供だという理由で、

僕の幸せも、ルイスの幸せも、

取り上げようとされるのは悲しかった……。

でも……ステファンさんには、あんなに心配するだけの理由があるのだろう。

それだけの過去が、ルイスにはあって、それを全部、すぐそばで見てきて、一緒に傷ついてきたから、心配するんだ……。

ルイスは言っていた。

「僕には、君のまだ知らない過去がある……。」

それが何であれ、ルイスのせいじゃないと思うし、知ったとしても、きっと、ルイスを好きなのは変わらないと思うから、

だから、それを証明して、ルイスの幸せを願っているステファンさんを、安心させてあげたい。

一緒に幸せになってほしい……。




月夜の窓辺へやってきたメルツに言う。

「メルツ……。ルイスは十六の時、パートナーが亡くなったんだって。

僕と同じ年だ……。

すごく……辛かっただろうな……。」


僕はメルツと手をつなぐ……。


メルツが消えてしまったら……

僕は、悲しい音楽しか書けなくなるだろう……。


メルツが微笑んで言う。

「私はまだ消えたりしません。

安心してください。」


「……メルツ……」


僕たちは、お互いを抱きしめた……。


僕は、メルツの目を見て言う。

「僕と一緒に、四百年、生きてくれる……?」


システムで延びた寿命は、本当に四百年かどうか、まだ不確かだ。

でも、他の誰よりも、長くメルツと一緒に生きていられるはずだ。


メルツは幸せそうに微笑む。

「はい。約束します。四百年、一緒に生きましょう!」


メルツがいてくれたら……

百年たって、誰がいなくなってしまっても、

僕は独りぼっちじゃない……。

何があったって、生きて行ける……。


メルツが感動した様子で言う。

「泣いているアルシュさんの魔力も、とってもきれいです……!」

僕は笑った。

「ふふふ!ありがとう。……メルツ、好きだよ!」


そうして僕の魔力に感動できる、明るいメルツでいてほしい。

その幸せを、僕が守りたい。





僕の部屋で、魔法の本を読みながら、ルイスと過ごしている。

ルイスが間近で言う。

「ほんとアルシュ君っていい香りするよね!」

「シャンプーとか、石鹸の匂いですよ。」

「うーん?」

ルイスは僕のバスルームへ行き、香りをかいで戻ってくると、

「シャンプーとも石鹸とも違うよ。」

と、僕の手をつかんで持ち上げ、掌の匂いをかいで、

「いい香りー!」

鼻を擦り付ける。

「はは!くすぐったいですよ!」

「もっとかがせて!」

僕の襟元とか、胸元に顔を押し付けてくる。

「あはは!くすぐったいんですってば!」

それにちょっと恥ずかしいけど、じゃれてくるルイスは子供(か犬猫)みたいでかわいい。

「ルイスだっていい香りしますよ。」

「ふふ。僕はねー、システムで、スワロウに近い香りを作ってるからね!」

「へえ!」

システムって、そんなこともできるんだ……。

僕はルイスの首の香りをかぐ。微かにフローラルな甘い香り。

「スワロウさんって、きっととても素敵な方なんですね!」

ルイスの眼が幸せそうに輝く。

「うん。そうなんだ!ふと香りがするとね、スワロウが近くにいる感じがしてうれしいんだ。」

「お会いしたいです。」

ルイスはにっこりする。

「うん。会ってほしい。」

百年後、治療が終わって帰って来たら……。





僕はリビングのソファで、メルツに本を読み聞かせる。

「人間の魔力にも、血液型のような種類がある。

そのため、型の合わない人から魔力を得ると、拒絶反応が起こる。

人同士の魔力輸血は調整や分類が必要だ。

しかし、精霊と人間の間では、型の問題は一切なく、どの精霊からも魔力を得ることができる。

……人と精霊では、魔力の発生源が違う。

人間の魔力が自発的なのに対し、精霊は磁石のように周囲から魔力を集め、無色透明な、水のように純粋な状態に精錬して、保持している。」

僕はメルツに訊ねる。

「そうなの?人によって、魔力に型があるの?」

「そうですね、確かに違いがあります。ルイスさんとアルシュさんは似ていますけど、モーリーさんとアリシアさんは、またそれぞれ違っています。」

「そうなんだ……。あ、僕がルイスに魔力を送り込んで、ルイスの魔力を強めることはできるのかな?」

「保持できる限界があるので、容量を大きくしないと、溢れてしまいます。

アルシュさんがルイスさんに魔力を送り込んで拒絶反応が起こるかどうかは、私には何とも言えません……。」

「容量を大きくする方法があるの?」

「そうらしいです。」

「そしたら、ルイスも魔法使いになれるかもしれない……!」




「あの、ルイス。試したいことがあるんですけど。」

「なになに?」

ルイスに僕の魔力を送り込むことを説明した。

モーリーさんに聞いてみたけど、魔力が似ているなら、おおむね大丈夫だとの事だった。

「できることから、一個ずつ試していきたいんです。

もし拒絶反応が起きても、すぐにメルツが僕の魔力を回収したり、薄めたりできるので、どうでしょう?」

「いいよ!アルシュ君って結構チャレンジャーだよね!そういうとこ、僕と似てるな!

やってみて!」

僕は、心臓マッサージするみたいに両手を重ねてルイスの胸の真ん中に、シャツの上から当てる。椅子に座っているルイスは楽しそうに言う。

「うふ。うれしいな。アルシュ君の身体をめぐっている魔力が、僕に入ってくるなんて。温かいよ……。」

温かいのは僕の体温だと思う。

「……。」

これだけで送りこめているんだろうか……。わからない……。

『ルイスさんの魔力の流れに、アルシュさんの流れをつなげて、魔力を押し出して流し込むイメージです。』

と、メルツに教わったけど……

「うーん……?」

メルツが隣でアドバイスをしてくれる。

「タイミングが合っていないのかもしれません。

流れが速くなるタイミングで繋げれば、スッと入りますよ。」

僕は目をつぶってみる。

「んん……」

そもそも、その流れが見つからない……。

ルイスの魔力の流れ……

ルイスの魔力の流れ……

手に集中する。

……でも、何も感じられない……。

もっと魔力の強い人ならわかりやすいのかな……?

自分の魔力の流れは、なんとなくわかるようになってきたけど、人のはさっぱり……。

やっぱり拒絶反応が怖いし、いったんやめることにした。

「はあ……。」

手を放し、目を開ける。

すると、ルイスの顔が赤い。

「え、ルイス!?」

彼は両手で顔を覆って体を折り曲げる。

「なんかもう、アルシュ君がかわいすぎる!」

震えて笑っている。

「だ、大丈夫ですか?」

僕はメルツを見る。

「ほんの少ししか入っていませんし、なじんでいるので、拒絶はなさそうです。」

「そう、よかった……。」

僕はほっとする。ルイスは身悶えしている。

「もう、心臓つかまれちゃってるし!

アルシュ君、いつになく真剣だし!

もう、可愛い可愛い!」

と、抱き着かれる。

「わ。」

こういうルイスにも、もう慣れた。

顔を僕の頭にすりすりしてくる。

「あるしゅく〜ん!」

「あ、魔力の型が似てるから、くっついてても平気なのかな?」

魔力が反発する人同士は、ハグするのも何か抵抗感があったりするのかもしれない。

『それもあるかもしれません。』

ルイスが離れて言う。

「あ、アルシュ君って、魔力が漏れてるんだっけ?」

「はい。意識するようになって、少しは減ったみたいですけど……。」

「もったいないね、水晶のアクセサリー、あげるよ!そうだ、お揃いで買おう!僕の魔力がたまったら、アルシュ君にあげる。」

「‼名案ですよ!拒絶がないってことは、水晶に充電した魔力を共有できるってことですもんね!お互い減った時、分け合えますね!」

ルイスはにっこりする。

「僕の魔力も、多少なりともアルシュ君の役に立つね!

それに、さっきの直に魔力を流し込む方法も、お互い練習していこうよ!」

「そうですね!」

「やり方教えて!」




「うふ!見て!ステファン!アルシュ君とおそろだよ!」

と、ペンダントを衿ぐりから引っ張り出す。

無色透明で、雫型にカットされている。

「僕もアルシュ君も気に入ってポチったんだ!」

「ああ、よかったな。」

「これに僕の魔力をためて、アルシュ君に使ってもらうんだ!楽しみ!どう使ってくれるかな!」

「あのな、ルイス、約束は守って」

「わかってるよ!アルシュ君に触れるのは一日三回まででしょ。

自然な距離を保って、ジェントルに接してるよ。」

「当たり前だ。」

「でもさ、アルシュ君のほうからアプローチされるとうれしくってさ!」

「ああ、そう。良かったな。」

「……あれ?ステファン、心配症、卒業したみたい?」

「お前もアルシュさんと年違わない気がしてきた。中身も。」

「そうかもね!……ステファン、ありがとう。」

「なにが。」

「ここで暮らすのを許してくれて。」

「許すも何も、お前の自由だ。俺といるときより、ずっと生き生きしてるぜ。」

ルイスはにこにこする。

「ふふ。ステファン。」

「ん?」

「愛してるよ。」

「ああ。」

ルイスはいつもそう言って、

俺を見ながら……

同時に遠くのアドルフも見ている……。




アドルフの病室で……

アドルフと、ルイスと、三人で過ごすのは、楽しくて幸せだった。

『おいで、ルイス。ステファン。』

アドルフは、横たわったまま、俺たちを両手で抱えて、幸せそうだった……。


アドルフは……

変声期前の少年に、恋をする人だった。

自分のセクシャリティに、長く苦しんだ人だった。


でも、最後は、

『君たちの一生を愛してる。』


……今も……

アドルフは、俺たちを愛してくれてる……。


けれど、心のもろいルイスは、俺がちゃんと見ていないと、闇に落ちていった……。

僕を殺してと、哀願してきた事もあった。


俺だってつらかった。


さらにルイスは、スワロウさんとも隔てられ、ダルシアン博士も亡くして……

俺には計り知れない、悲しみと苦痛を味わっている……。


今も、これからも、ルイスが大丈夫だって保証はできない。


ルイスは変わりたいと思って、エマスイ邸に入居することを選んだ。

そんな前向きなルイスを、応援してやりたい。


あいつの愛し方を拒まないアルシュさんなら……

ルイスを救えるかもしれない……。





研究所で……

システムを設置し終え、病が治りつつある僕たちに、ルイスが言った。

「このシステムは、やろうと思えば、髪の色や目の色、肌の色はもちろん、骨格、人相まで変えられる。

それから、ある程度の毒に耐性を持つこともできるし、

もし、システムのない人が死に至るような外傷を負っても、システムさえ壊れなければ、生存率は高い。」

それは、最初、システムの設置に同意するときにも、同じ説明を受けた。

ルイスは話し続けた。

「もしシステムが、悪い政治の国や、マッドサイエンティストの手に渡ったら……

どんな恐ろしいことが起こるか、目に見えてるよね……。」

戦争や犯罪に利用されてしまう……。

「だから、僕とダルシアンは、君たちのシステムに、何重もの鍵をかけた。

僕たちが組んだプログラム以外の動作ができないようにするために。」

それも最初に同じ説明を受けた。

設置した後、改めて聞くと、責任の重みがある……。

「もし君たちが、僕のようなキラサラの金髪になりたくても、残念ながら、そうできない。

僕に頼まれても、鍵を解くことはできない。

万が一、僕がうっかり許したとしても、僕一人では開けられない。

ダルシアンと僕は別々のカギを、それぞれのシステムで管理しているからね。開けるには両方必要ってこと。

もし、僕とダルシアンのどちらか一方でもシステムが壊れてしまったら、つまり、死んでしまったら、君たちのシステムは、一生鍵のかかった状態になる。

僕たちは、だれに頼まれようと、鍵を開けるつもりはないし、一生、君たちのシステムを、責任をもって守り通す。

だから、そもそも、治療のほかの機能はないものと考えてもらいたい。」

ルイスは僕たち一人一人の眼を見る。

ダルシアン博士が話す。

「鍵をかけたのは、不要な機能だけを取り除けないからだ。

君たちを治療する機能と被っているから。

この先、システムをアップデートするときは、一番外側の鍵を解除して、新しいプログラムをつなげる。

今後はそうして機能を増やして行く。

君たちが今後、病気になった時は、そうして治療する。

何かわからない事があったら、いつでも聞いてほしい。」

「そういう質問のほかにもね、システム持ちであるが故の悩みとか、恋愛相談、人生相談、何でも聞くよ!」

ダルシアン博士も誠実に話す。

「システムを持ってるせいで、孤立してしまう事もあるだろうと思う。

そうならないよう、サポートしたい。

これからも、俺達を頼ってほしい。」



僕達のシステムには、厳重に鍵をかけてある。

けれど、ルイスは自分のシステムには、厳重な鍵をかけていないらしい。

だから、少し背を高くしたり、スワロウさんの香りを作ったりできる……。

なかなか危なっかしい状態だと思うけど、

以前、

『ダルシアン博士とルイス博士は鍵をかけないんですか?』

と、ルイスに質問したら、

『治験前の実験をする人も必要だから。』

『……それって……』

『ダルシアンは天才だから、安全だよ。』

と、楽しそうに笑っていた……。

この先は、ルイスは自分自身に実験するのだろうか……。

優秀な研究チームがいくつも協力して研究しているけど……

独断で自分を実験台にしないか、少し不安だ……。





ダルシアンの死後、一週間たって、僕は気づいた。

ダルシアンのシステムから、僕のシステムに、何か送られてきてる……。


それは……

彼のシステムとともに消えるはずだった、治験者たちのシステムの鍵だった……。

たぶん、システムが損傷を受けたら自動的に送信するように、彼が設定したんだろう。


「ダルシアン……なんで……?

聞いてないよ……」


ダルシアンは、何を考えて僕に鍵を託したのか……。


自分と一緒に消えてしまったら、僕が後々困るかもしれないと、思ったのか……。

いつか、どうしても開ける必要が出てくるかもしれないと、思ったのか……。


僕のカギは、僕が死んだら消えるよう設定してある。

それでいいと思っているから。

患者を治療して完治させることが目的のシステムだから……。

もし、長命化問題が、宙に浮かんだままになってしまうとしても、

悪人に利用される可能性は、消した方がいいと思って……。


「ダルシアン……どうして……?重いんだけど……。」


僕は、ダルシアンの鍵のことは、だれにも話さず忘れることにした……。

でも……やっぱり、忘れることなんてできない……。

だから、責任を持って管理していく……。

責任持つからには、みんなに話しておかないと。

僕一人がみんなのシステムの鍵を持っていて、いつでも開けられる事を……。





ローイがコールドスリープする少し前。

ローイが先生に弱音を吐いているのを耳にした。

彼の部屋の外にいたら、戸口から聞こえてきた。


「先生……、僕はもう、頑張るのも、戦うのも、疲れました……。」


そんな弱々しいローイの声は、初めて聞いた。


先生は、

「ローイ君はとても良く頑張っていたね。戦うの、もうやめにしましょう。休みましょう。」


「はい……。」


ホッとしたのか、悲しいのか、ローイは涙を流していた……。


僕には言わない弱音と……

僕には見せない、疲れ果てた表情だった……。


僕は戸を開け、部屋に入った。

「ローイ、すごいたくさん頑張ってて、かっこよかったよ!お疲れ様。」

僕が側に寄って、手をつなぐと、

ローイはじっと僕の目を見つめていた……。


また会おう。とか、忘れない。とか、言うかと思ったら、

何も言わずにいて、

そのうち、まどろんで、目を閉じた……。


お互い、何も言わなくても、分かっていた……。


自分では、何も運命を変えられない。

命も人生も、委ねるしかない。


コールドスリープ……。


それは戦い続けた僕らにとって、安らぎであり、

希望であるけれど、現在の全てとの別れだ……。


まどろみから起きた彼に、僕は言った。

「ローイ、本当に良く頑張ったね!

未来で待ってるよ!」


また、未来で……。


なんの保証もできないその言葉に、

ローイは目を輝かせた。

「ああ……。」


「待ってるから。約束する。ローイも約束して。」

「……約束するぜ。また会おう。」


再会まで、おやすみローイ……。



眠っているローイのマイナスの体温を見るのは辛いけど……

いつか目覚めの喜びに変わるのを願って、見守っている……。

ローイはきっと、

「そんなん見てなくていい!」

って言うだろうけど……。





精霊にも、うっすらとだけど、影がある。

雪の上に落ちるメルツの影は、薄い水色をしている。

夏の日だまりでは、ほとんど影が見えないけど、

冬の陽光には、淡い影ができる。


僕の目には、鏡や水面にも、メルツの姿が写って見える。

けれど、僕の鏡に写った姿と比べてだいぶ存在感が薄く見えるから、馴染めない……。


メルツの姿が一番くっきり見える光は、月明かりだ……。

暗くて他の物ははっきりは見えないのに、メルツの姿は、昼間よりよく見えるし、影も濃い。

手を繋いでない時に一番存在感ある見た目なのは、月の光を浴びているメルツ……。

初めてメルツと会話したあの時も、月が出ていた。

宙に浮かぶ、白くて半透明のメルツは、とても綺麗で、不思議で、優しい姿だった……。


メルツの姿が一番見えにくいのは、霧の中。

メルツは霧が好きで、動き回りたくなるみたいだけど、最初、僕は不安になった……。

メルツが霧に溶け込んでしまって、どこかへいなくなってしまいそうで……。


けれど、契約して、コアを分かち合ったからか、なんとなく、霧の中でも、メルツがどこにいるか感じられるようになった。

それに、メルツは、いなくなったりしない、僕の側にいてくれるのだと分かったから、不安がなくなった。

僕も、少し、霧が好きになってきた……。






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