表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

言の葉

作者: 弦景真朱


 一人で生きていくのは、簡単だと思っていた。

 誰ともつるまず、誰とも群れず。何か困ることがあるだろうか。何か苦しいことがあるだろうか。


 いや、ない。誰かと居るほうが余程辛いのだ。共に過ごせば過ごすほど、離れる瞬間、失う瞬間を連想して恐怖する。頭を強く打ち付けられたように、酷く目眩がして立っていられなくなる。もう二度と失うなんて御免だ。置いていかれるなんて御免だ。もう二度と、立ち直れなくなるような苦しみなんて味わいたくないんだ。


 私の光だったあなたを失ったのは、いつだったか。失ってから、どれほどの月日が流れたのだろうか。あなたはいつも笑顔で、いつも咲き誇る花のように、美しかった。

 抱きしめれば潰してしまいそうなほど儚く、しかし凛として手折ることの出来ない芯を兼ね備えた人だった。あなたの笑顔を守るためなら、なんだってできたのだ。何日鞭で打たれようと、終の見えない闇の中で奴隷のように虐げられようと、耐えられた。

 あなたは目の前から突如消えた。


 私はもっと、あなたに伝えなければならないことがあったはずだった。

 私は、あなたをこれ以上になく愛していたのに。


 失った世界は灰色だ。いや、無色に近い。色がないのだ。食べ物を口に入れても、味がしない。食べる気も起きない。睡眠は数日に一度。眠って見る悪夢が恐ろしいのだ。

 すべてが恐ろしい。あなたがいないことが、こんなにも恐ろしい。


 私が無色の世界を生きて行く意味があるのだとしたら。

 朝日は昇り、日は沈み、日は巡る意味が、一人で越えていく意味があるのだとしたら、一体何だというのだ。


 一人で背負ったあなたが、独りで塵となった意味があるのだとしたら。

 

 言葉にならない叫びも、味のしない食事も、匂いのない空間も、輝きを失った世界も。

 なにか意味が、あるのだとしたら。


 あなたが居なくても巡る季節は、春の木漏れ日も、夏のさざなみも、秋の雲も、冬の足跡も残していく。

 ただ、あなたが居ないだけで。


 また、明日も巡る。そうして、季節は移ろう。

 生きる側の性なのだろうか。

 それとも、生き長らえてしまった自分の業なのだろうか。


 あなたになんと伝えればいい。

 先立つあなたに、追いついたときに。


 あなたがいないことを、背中の温度が語る。

 一人分の温度では、丸まるしかない。


 情けない姿を晒して、醜い思いを晒して。

 それでも、生きるのだ。また巡る明日を受け止めて。


 あなたがどう生きたか、胸の中で反芻しながら。


 あなたへ逢えたときに、届ける言の葉を紡いでは消して、今日もまた夕日を見送る。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ