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第四章 03

(ダミアンが一緒なら大丈夫かな……というか今、殿下のこと呼び捨てにした?)

「ダミアンはブレンダ嬢の従兄弟なんだってね」

残ったレアンドロがブレンダに向かって尋ねた。

「はい……。彼とは親しいのですか?」

「ああ。入学した次の日にはもう呼び捨てにされたよ」

「それは……申し訳ありません」

「いや、いいよ。彼は物怖じしなくて面白いね」

慌てて頭を下げたブレンダに、レアンドロは手を振った。


(漫画では登場した時はもう友人だったから……どう親しくなったのか謎だったけど)

まさか、入学して二日でとは。


「ところで、ブレンダ嬢も帰るの?」

「いえ、私は生徒会室へ向かうところです」

一瞬レアンドロの表情が曇った。

「――ブレンダ嬢は生徒会員だったね」

「はい」

「それは、兄上に命令されて?」

「え? ……命令というほどでは……」

頼まれたけれど、強いてという訳でもない。

「そう。じゃあ、生徒会室まで送るよ」

「いえ、それは申し訳ないです」

「ダミアンにだけ送らせて、僕が何もしなかったら傲慢な王子だと思われるだろう?」

そんなことはないと思ったが、あまり強く拒否するのも失礼かもしれない。

「……ではお願いいたします」

ブレンダがそう答えると、レアンドロは嬉しそうな笑みを浮かべた。



「ブレンダ嬢は兄上と親しいの?」

廊下を歩きながらレアンドロが尋ねた。

「……そうですね……それなりには」

「――兄上と婚約するというのは本当?」

「え? ええと……どうなんでしょう」

クリストフからは、否定も肯定もしないようにとは言われているけれど。

相手が弟でもそうなのだろうか。

ブレンダは首を傾げながら、口籠った。


「兄上とは親しくならない方がいい」

「え?」

ブレンダは思わずレアンドロを見上げた。

「あれは恐ろしい人だ。一緒にいたらブレンダ嬢が苦しむ」

「……恐ろしいとは思いませんが……」

「それは兄上の策略だ」

「策略……」

「ああ。だから決して心を開いてはならない」

ブレンダを見つめてレアンドロはそう言った。




「ブレンダ、遅かったな」

生徒会室に行くと、他の三人はすでに来ていた。

「すみません……少しトラブルがあって」

「トラブル?」

「クラスメイトが、嫌がらせを受けていたので……」

ブレンダは先刻あったことを説明した。


「いるのよね、そうやって他の子を威嚇したがる子」

クラウディアがため息をついて言った。

「だいたいそういうことを言うのって、子爵とか伯爵家の中でも下の方とか、微妙な位置の家の子なのよ」

「そうなんですね……」

「ブレンダが居合わせて良かったわ。私たちのような高位貴族には頭が上がらないから」

(どの世界でもマウント取りたがる人はいるのね……)

クラウディアの言葉に、ブレンダも内心ため息をついた。


「ちなみに、高位貴族もそういうことをするんですか?」

「そうね。自分たちより下位の家に対してはやらないけれど。家同士が対立していたりすると、どうしてもあるわね」

「そういう諍いを減らすのも生徒会の役目なんだ」

ベネディクトが言った。

「だから生徒会長はその学年で一番高位の者が選ばれる」

クリストフを見ながらベネディクトはそう説明した。


「なるほど……」

「でも、ブレンダは外の仕事はしなくていい」

クリストフが口を開いた。

「一年生なのだから、上級生に意見はしにくいだろう。今回の件も含めて、何かあればすぐ我々に報告してくれればこちらで対処する」

「……ありがとう」

「ブレンダは無理のない範囲で仕事をしてくれればいいから」

笑顔でクリストフは言った。


(やっぱり……優しいし怖くはないのよね)

ここに来る前のレアンドロの言葉を思い出しながらブレンダは思った。

(レアンドロ殿下は……他の貴族と同じで、クリストフの外面だけしか知らないんだ)

半分とはいえ、血の繋がった兄弟なのに。

(クリストフも殿下とは親しくなるなって、同じことを言っていたし。そういう所は似てるのに)



「それで、そのクラスメイトはその後どうしたの?」

「ちょうどダミアンが通りかかったので、寮まで送ってもらいました」

クラウディアに聞かれてブレンダは答えた。

「ダミアン?」

「従兄弟です。レアンドロ殿下と一緒にいて……」

「レアンドロ?」

一瞬部屋の空気が凍りついた。


「――レアンドロと会ったのか」

低い声でクリストフが言った。

「ええ」

「それで?」

「……ダミアンだけに送らせるのは傲慢だからって、ここまで送っていただいたの」


「へえ」

クリストフは、ブレンダが見たことのない笑みを浮かべた。

「ブレンダ。あいつとは親しくするなと言ったはずだが」

「親しくはしていないわ。お断りするのも失礼じゃない」

「失礼ではない」

「……でも立場上、お断りはできないわよ」


「ブレンダって、お人好しよね」

ブレンダとクリストフのやり取りを聞いていたクラウディアが言った。

「頼まれたら断れないタイプでしょう」

「……そう……ですか?」

「だって、ねえ」

クラウディアはベネディクトと顔を見合わせた。

「生徒会だって断らなかったし」

「そうだな」

「――本当に嫌なことは断ります」

ブレンダは言った。


「へえ。つまりレアンドロと一緒にいるのは嫌ではないと?」

「ここまで送っていただいただけよ」

「その間二人きりなのに?」

「それが、何か?」

ブレンダは不思議そうに首を傾げた。

「二人きりといっても、学園の廊下よ?」

「人目があるところだと余計まずいだろう」

「どうして?」


クッ、とベネディクトが吹き出した。


「やばい、笑える……」

「……ブレンダって天然というか……クリストフ殿下が不憫ね」

クラウディアも笑いを堪えながら言った。

「不憫?」

「――クリストフは、嫉妬してるんだ。ブレンダが、弟と……仲良くなることに」

何とか笑いを収めてベネディクトはブレンダに言った。

「嫉妬?」

ブレンダはさらに首を傾げた。

「……自分が弟と仲良くできないから? 仲良くなりたいなら自分から話しかければいいのに」


「……俺もう無理……」

ベネディクトは机に伏すと肩を震わせた。

「クリストフさ……根回しとかいいから正攻法で行けよ……」

「さすがの王太子殿下もブレンダの攻略は難しいのね」

声を震わせるベネディクトの隣で、ブレンダに聞こえない声でクラウディアが呟いた。


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