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おっさんのごった煮短編集

扇風機ラジオ

夏のホラー2022投稿作品です。


やっぱりホラー苦手です。

思いつきで書いてみました。




 熱帯夜に眠れずにいた。


 田舎住まいの俺は借りている一軒家の一部屋を寝室にしている。築年数の古い襤褸屋で、土地の買い手もつかないし、上物を解体する費用も惜しいと激安で借りに出されていたのに飛び付いた。


 この地に移り住んだのは滑り止めにと受けた大学以外全て全滅だったから、情けない理由だが、一度浪人した自分には親の支援は最低限で、学費は出して貰えるが生活費は自分もち。

 

 「もう一浪するなら、学費も自分もちにするよ」


 そんなことを笑顔で宣告されたのだ。

 高望みした訳ではないと思う。志望する学部が出身県にないために、関東近縁の大学で手の届きそうな所を受けて、最悪の場合を想定して隣県の志望学部のある大学を滑り止めに受けたのだ。

 

 田舎とはいえ、最近は夏の暑さがきつくなっていて、クーラーがないと日中はきつい、それでも夜なら窓を開けて扇風機を回していれば過ごせるものだ。

 電気代の節約にと、極力はクーラーを使わずに夜間は扇風機で過ごしていたんだが、壊れてしまったために寝室の扇風機を買い換えた。

 近くにあったリサイクルショップで格安で手に入れたそれは、かなり型式が古くて、使ってみるとモーター音が酷かった。扇風機の風切り音にまして、モーターの音、首を回すさいに部品の擦れる音が大きく、流石に失敗したと思ったが、もとより田舎だ、夜も虫の音やら近くの森から聞こえるトラツグミのギャーギャー鳴く声やら、出身も田舎の自分は早々に馴れたのだ。これもすぐに馴れると楽観することにした。

 決して払った代金が惜しかった訳でも、買い直す金が無いからでも無いさと、独りごちたのは嫌な思い出だ。


 その日はいつにも増して暑く、夕方から立ちこめた厚い雲に熱気と湿度が篭るように蒸し返して、窓から吹き入る風も蒸し暑かった。

 扇風機の風も温くて日中の炎天下で身体にたまった熱気が抜けない。

 乾きかけの汗でベタつく身体にさらに汗が吹き出しては不快感を加速させる。


 「流石に今日はクーラーつけるか」

 

 そんな風に考えてみるも、どこにしまったのか、おいてあった筈のリモコンが見当たらずに男やもめでとっ散らかった部屋の中で格闘するうち、またぞろ吹き出した汗と疲労に布団に突っ伏した。


 変な声が聞こえる。

 そう思ったのはいつの間にか寝ていたのか、薄ぼんやりと目を覚ましかけた時だ。

 窓の外は闇に沈んで暗く、部屋の明かりも消えて月明かりだけが僅かな視界をもたらしていた。


 「あれ、俺、電気消したっけ」


 覚束ない頭でそんなことを考えてみるも、きっと寝落ちする前の微睡みの中で記憶にないが消したのだろうと。

 それよりも、何かボソボソと声のようなものが聞こえて気味が悪いし、正直怖い。

 何だろうかと探ると、扇風機の方からしていた。

 相変わらずのうるさいモーター音に風切り音のノイズの中で調子の外れたような声が聞こえている感じがする。

 丁度、周波数があわずにノイズの中で僅かに声が混じって聞こえる時のラジオのような感じ、混線して複数の声が混じりながら、ジージーとなるノイズが被ってしまい、声の判別がつかない、あの感じに近い。


 「気のせいか、馴れたと思ってたけど、流石に煩いもんな」

 

 不快感のせいで幻聴が聞こえたのだろう。そう結論つけて寝直そうと、それでも、幾分かは涼しくなったし、この煩い扇風機の音が気になって、せめて風量を落としておこうかと身を起こして扇風機の側に身体を傾けたのだが。


 顔を近づけ扇風機の風量を手動操作しようとした途端、扇風機の頭が激しく左右に振れだした。

 通常ではあり得ない速度で右に左に動く扇風機にビビり、思わず仰け反って距離をとったが、扇風機は更に激しく動き続けてついに頭が回り始める。

 あまりに激しい頭の動きに扇風機全体がガタガタと動き出すが、不思議と倒れる気配なく、生き物のように跳ね回る。


 「何なんだよ」


 口をついた言葉はそのくらいで、むしろ思考が追い付かずにただ目の前の光景への疑問ばかりが浮上しては消える。


 次の瞬間


 爆音のようなノイズが耳をつんざいて、砂嵐の音が部屋中を木霊する。そして、聞こえてくる幾つもの声。


 「南無妙法~散華昇滅~」

 「死ね 死ねよ……死ね」

 ウフフウフフアハハアハウフフフフあぁぁあぃあー

 この度は誠にありがとう、ありがとうあり

 今日のお買い得は 

 「かわいいですねータマたんは」

 


 部屋のあちこちから大小様々な老若男女、シチュエーションもバラバラの声が聞こえてくる。


 俺は急いで扇風機を止めようと這う。

 下半身に巻き付いたタオルケットが鬱陶しい、暴れている扇風機の台座部分のスイッチを叩きつけるが、止まらないどころか音は大きく、声は更に数と種類を増していく。


 もうダメだと千切れるのも構わずに電源コードを引き抜こうと引っ張る。


 プラグタップから引き抜かれたコードとともに、扇風機がとまり、静寂が訪れる。


 「何なんだったんだ、今の」


 布団の上に座り直して、手に掴んだままのコードを見る。段々と寝ぼけてただけだと、コード千切れなくて良かったなと思い初めて、コードの先、倒れた扇風機が目に入る。


 起こすか、そんな風に条件反射のように伸ばした手の先、扇風機の頭がこちらへと向いた。


 それは俺の声だった。


 別れよう別れよう別れよう別れよう別れよう別れよう別れよう別れよう別れよう別れよう別れよう別れよう別れよう別れよう別れよう別れよう別れよう別れよう別れよう別れよう別れよう別れよう別れよう別れよう






 


 ただ、扇風機を見つめて、動くことも出来ない俺の背後で、よく知っている声がした。





 「ずっと一緒っていったじゃん」












 

 

 


 


 

ホラー上手くなりたいのでご意見、ご感想、是非ともくださいm(_ _)m

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― 新着の感想 ―
[良い点] 雰囲気とか出だしから怖かったですよ。 最後もゾッとさせられる終わり方でした! ヽ(〃´∀`〃)ノ
[良い点] ラジオをテーマにした小説でラジオを出さず扇風機に喋らせるという感性が本当すごいと思いました。天才ですか・・・。 扇風機の頭が大回転し始める下り、狂気に溢れていて素晴らしかったです。 洗濯物…
[良い点] 暑さの強烈な今の季節にピッタリな、臨場感のある御話ですね。 確かに首振り機能の付いている扇風機は人間臭い感じがしますので、付喪神的な感じに魂が宿り、超自然的現象の引き金になる可能性も充分に…
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