第6話 かくれんぼと三羽烏③
3人は反射的に振り返った。
入り口に停めたバンの辺りからタバコを咥えたスーツ姿の中年男が歩いてくる。
「おい、なんでまだ人がいるんだよ?」
サイトウは眉間に皺を寄せ、サトウを睨みつける。
「いや、そんなこと言っても…。やっぱり結界の不備としか言えませんよ」
「は〜…まったく、嫌なことばっかだ」
サイトウは思わずため息を漏らした。
別にサトウ態度が気に入らなかったという訳ではなさそうだ。おそらく、ここまで杜撰な結界を特別なものと称して仕事をして頼んだ依頼主に対してだろう。
眉間に皺を寄せたサイトウの表情は喧嘩を吹っ掛けてもおかしくない、どこか少年のように危なげな暴力性を放っている。
「おっさん!なんも言わねえからそこでじっとしてろ!」
苛立ちをみせながら足早に歩き出したサイトウはナイフを取り出すと右の掌を切りつけた。
それを後ろから見ていた二人は何を思ったのか。サイトウの元まで駆け寄ると、二人で片方ずつ腕をつかんで歩みを止めた。
「何してんだお前ら?離せよ!」
掴まれた腕をふり解こうと暴れるが、二人の力は決して弱まらない。
「冷静になってください!あの人、この状況でなんの疑問も持ってないいんですよ!」
「それがどうした!アイツもたまたま入ってきた一般人かもしんねえだろうが!」
「・・・・・・・・・・・・・・・いや、そうとも言えないかもしれない。あれを見ろ」
ササキは中年男性の胸の辺りを指差した。
最初サイトウは何を指し示しているのか分からなかった。ただ自分に冷静になるための時間を与えている、そう思っていた。だが、胸の辺りに光る金色のバッジを目にした時、サイトウは二人がなぜ自分を止めたのか理解した。
「そういうことか・・・。わかったよ」
サイトウは目をつむって浅く深呼吸する。
それを見た二人は掴んでいた腕を解放した。サイトウは向かって来る中年男をじっと見つめている。その表情からは苛立ちは感じられない。
「多分ですけど、あの人───」
「公安か警察だろうな。・・・クソッ、面倒な奴に見つかったな」
「・・・・・・・・・・・・・・・どうする?」
眼前の中年男が自分たちの天敵である可能性に気づいた3人は迂闊に動くことができなかった。
いかにもそこら辺にいそうな弱々しい見た目と、顎髭を撫でながら悠々と歩いてくる様子が3人の警戒心を強めていた。
サイトウは左右にいる二人の表情をのぞき込んだ。どちらも上手く表面に出してはいないが、額から流れる汗と唾を飲み込んむ音から何を思っているかを察するのは容易だった。
「お前ら、あんまりビビってんじゃねえぞ」
二人の背中を強く叩いたサイトウ。怯えるなという檄と、冷静になれという命令の意を瞬時に理解した二人は我に返る。もうその瞳にはかけらほどの迷いはない。
「ごめんなさい、ちょっとビビっちゃいました」
「……………俺も」
「気にすんな。多分だけど今までで一番ヤベぇからよ」
中年男は今のところ特に怪しい動きはしていない。相変わらず余裕そうな態度で歩いて来る。
サイトウが二人の顔を近づけると、これからの作戦を伝えた。
「いいか、相手が攻撃する前に終わらせるぞ。サトウは俺が合図したら能力で動きを止めろ。その後ササキはあいつの頭に一発かましてやれ。あとは俺が火葬してやる」
「わかりました」
「……………了解」
3人はいつでも動けるように身構えた。ジャッケとの内側に隠してあるナイフをすぐ出せるようにファスナーを下まで下げる。
その行動を見ていた中年男は対抗するかのように、スーツの内ポケットに手を伸ばす。
それを見たサトウは一瞬、血の気が引いた。急いでナイフを抜き出そうとしたが、ササキが手を伸ばしてそれを止めた。首を横に振ってまだその時では無いことをサトウに伝える。
それを見た中年男はゆとりをもった、どこか訝しい笑みを浮かべた。
「えっとね、おじさんこういう者なんだよね」
中年男が取り出したのは黒い手帳。中を開くと写真と警察記章が付いている。名前は堀風夏。髭を生やしただらしない見た目とは相容れないイメージの名前をしている。
3人は偽物かと疑ったが、持っていた警察手料は紛れもなく本物だった。仕事柄よく目にしているので判別するのは容易だ。
「実はちょっと人探し・・・と言うより、保護に来たんだけどさ。こんくらいの高校生知ってる?」
風夏は大体170センチくらいの高さをあらわす。
だが、3人はそれよりも風夏の別の部分に目が行っていた。別の部分というより風夏全体に注目していた。
近くに来て気づいたが、風化はかなりの高身長だ。体格のいいササキが187センチ、日本人にしてはかなり背の高い方だ。けれど風夏はそれを裕に超えていた。目測でも200センチは到達しているのがわかる。
路地裏から覗いていた隆之介も、風夏の姿を凝視してしまった。
(なんだあの人?警察官みたいだけど・・・なんか違和感が・・・)
今まで期待を裏切られ続けた龍之介が疑心暗鬼になっても仕方がない。
本当の警察官であれば嬉しいが、もしあの男たちが炎を出して攻撃してきたら勝ち目はないだろう。
龍之介はまだしばらく様子を見ることにした。
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