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ミスター・アンビシャス・テイカー  作者: 川神モガン
序章 悪魔の左腕
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第5話 かくれんぼと三羽烏②

「おい、お前何もんだ?」



 チンピラの声は確実に路地裏のすぐ側から聞こえる。龍之介との距離およそ6メートル。物音をたてれば見つかってもおかしくはない。



(なんで…なんでだよ…)



 龍之介はなぜ見つかったのか理解できなかった。男達はこれと言って変わった素振りは見せなかったし、龍之介の存在に気づいたとも思えない。



「お前だよお前!」



 再びチンピラが大声で問いかける。

 もう終わったと諦めた龍之介だったが、男達の行動にどこか違和感を感じた。すでに龍之介がいる場所がわかっていたなら、警告などせずさっさと捕まえに来るのではないか。相手は高校生一人、助けてくれる人は周りにはいない。この状況下でわざわざ面倒なことをするとは考えにくい。

 龍之介は覚悟を決め、壁に顔を押し当てながらゆっくりと男達の方をのぞき込む。すると、男達は商店街の出口の方を向いていた。予想通り気づかれた訳ではないようだ。



「聞こえねえのか!!てめえだよ!!!」



 チンピラの怒鳴り声に驚いた龍之介は素早く顔を引っ込めた。



「ったく、耳ついてんのかよ」


「なんか様子おかしくないですか?歩き方がゾンビみたいにヘロヘロというか…」


「……………不気味だ」



 ”ゾンビみたい”、この言葉が聞こえた瞬間、龍之介は男達の目の前にいる人物が先ほどまで追いかけられた駅員であるとすぐに気づいた。

 龍之介は再び男達の方を覗き込む。



「ていうか、なんで人がいるんだよ!あの高校生以外はいねぇはずだろ!どうなってんだよサトウ!」


「ぼ、僕に言われても…。け、結界に不備があ、あったとしか。で、ですよねササキさん!」


 メガネを掛けた青年───サトウは隣にいたササキに助けを求める。


「……………サイトウ、今はあいつをどうにかするのが先だ」


「んなこと分かってるよ!」


 

 サイトウと呼ばれたチンピラはジャケット内側に隠してあったナイフを取り出した。そのまま切りかかるのかと思ったが、サイトウは駅員の元へゆっくりと歩き出した。 



「わりぃな。てめぇがどこの誰だか知らねぇが、俺たちのこと見ちまったんならしょうがねぇ」


「う…うぅ……………」



 駅員は下を向いて低い唸り声を上げながらサイトウに構うことなく歩き続ける。

 それを見たサイトウは自分が舐められてると思い我慢できずにはいられなかった。



「楽に死ねると思うなよ!!!!!」



 サイトウは持っていたナイフで自分の右の掌を切りつけた。

 相手を傷つけるための道具を自分に使うなんて正気ではない。龍之介はその行動の意味を全く理解できなかった。

 すると、サイトウは不気味な笑みを浮かべたまま血が垂れている掌を駅員に向ける。



「燃えろ」



 次の瞬間、男の掌からまるで火炎放射器のように勢いよく炎が放出された。

 熱風が龍之介がいる裏路地まで届いた


「ああああああああああああ!!!!!!!!!!」



 炎を直に浴びた駅員は悲痛な叫びを上げながら倒れこんだ。抵抗しようともがいているが、炎の中では息を吸うことができず、叫び声は徐々に小さくなっていく。やがて体が次第に丸まっていき、駅員の声が聞こえなくなった。



「そろそろいいか」



 サイトウがゆっくり掌を閉じると炎の勢いが弱まっていく。完全に閉じると、先ほどまでの威力が幻だったのではと疑いたくなるような、か細いマッチほどの大きさとなって消えていった。

 


「運が悪かったな」



 黒く焼け焦げた駅員の死体に唾を吐き捨て、ササキとサトウの元へ歩き始める。

 


「さすがサイトウさんですね。たったあれだけの切り傷なのにすごい威力でしたよ」


「……………あぁ、さすがだ」


「そりゃどうも。そんじゃ、気を取り直してちゃちゃっと探しますか」



 人を殺したのに顔色一つ変えていない。それどころか、炎を出していたサイトウの顔は実に楽しげだった。おそらくこれが初めての殺人ではないだろう。何度も経験しなければ、あんなにあっさり人の命を奪うことなどできない。

 辺りに漂う肉の焦げた匂いで、龍之介は改めてあの3人が危険人物であると理解した。



(なんだよ………あれ………なんかのマジック?超能力?)



 目の前で起きた現実を脳内で上手く処理できない。目の前で人が死ぬを初めて見た。それも炎で焼け死ぬところを。ドラマやアニメで見るのとはわけが違う。数分前まで生きていた人間がごみのように捨てられている光景が夢のようで目を離すことができなかった。



(あんなに簡単に死んだ…。まさか、俺も殺されるんじゃ………)



 思い返してみると、男たちは”回収”と言っただけで”誘拐する””連れ去る”とは言っていない。もし見つかって抵抗すれば命の保証はない。あの切れやすい男───サイトウの気分次第で生死が決まる可能性だってある。

 龍之介はとにかく動かなかった。呼吸を極力少なくして気配を押し殺す。

 この先は奥に進むと袋小路になっていて隠れられる場所はない。もし気が変わって路地裏に入ってきたら一巻の終わりだ。最奥まで行って隅の方で縮こまっていようとも考えたが、それでは男たちの様子が分からないのでやめることにした。

 


「探すのはいいんですけど、あの死体はどうするんですか?」



 サトウが死体を指さす。

 そこまで時間がたってないのに焼け焦げた部分が欠如して全体の半分程度がすでに原型をとどめていない。



「ここに置きっぱなしにしてたら結界が解けたときに面倒ですよ」


「そうだけどよ…、今更じゃねぇか?この前も死体放置したままだったしよ」


「あれは計画無視してサイトウさんが勝手にやったからじゃないですか」


「……………あの時は、本当に呆れた」


「うるせえ!とにかく行くぞ!」



 都合の悪い話になったサイトウは我先に進んでいく。

 死体のところまで来ると、もともと顔があった部分を思いっきり踏みつけた。顔は簡単に崩れ、頭蓋の中から半生状態の脳みそがあふれ出す。ドロドロとした薄黄色の膿がサイトウのズボンのすそに飛び散った。



「うわっ!この野郎!最悪じゃねえか!!!」


「………………自業自得だな」


「ですね」



 ササキとサトウは呆れた面持ちで眺めている。必死に足を振るって付着した脳みそを取ろうとする姿は何とも滑稽だった。 

 二人は歩き出すと、サイトウの背中を軽く叩いた。



「先行ってますよ」


「………………お前を待つのは面倒だ」


「お、おい!待てよ!」



 ズボンのすそを死体になすりつけ、サイトウは急いで二人の後を追いかける。

 龍之介は3人が通り過ぎたのを確認すると体の力を少し緩めた。まだ油断はできないが、3人が商店街を完全に抜ければ見つかることなく反対方向に逃げることができる。

 重い脚で踏ん張って立ち上がろうとしたその時────



「ちょっとそこのお三方。話聞きたいんだけどいいかな?」


 

 入り口の方から低い男の声が聞こえた。


 



 

 



 

  



読んでいただいてありがとうございました


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