6 過去
「そうだよ。だから男同士ってのは‥。は?」
あまりに自然な会話で、反射的に返してしまった。なんで知ってるんだ?昔のことは誰も知らない遠い街に引っ越してきた。まて、落ち着け、聞き間違えかもしれない。健太には悪いが探るような会話をして確かめよう。俺は冷静になろうとした。が、
「そんなこと、どうでも良いじゃん。」
健太の言葉で、頭の中で何かがプツンと切れる。
「そんなこと?おまえにはわかんないだろ。ずっと違和感を抱えて生きて、家族に捨てられても、フツウの自分になるために頑張って、どんなにt‥」
両肩をつかんでいた健太の手が俺の顔をつかむ。強制的に顔が近づく。
「だから、里央が女だとか男だとか関係ないって言ってるの!僕は里央を否定したいんじゃない!・・・僕は里央の答えが聞きたいだけなんだよ。」
顔をつかんでいる手の力が緩み離れてく。健太は気まずそうに目線をそそらす。あんなに俺をまっすぐ見つめていた健太の目とはもう目が合わない。今思い返すと、健太は俺の返事が欲しかっただけなんだ。男同士とか、元々女だったとか、そういった性別にとらわれた返事じゃなくて、俺自身の返事を。でもあのときの俺は里央の言葉に過剰に反応しすぎていた。
「女だとか男だとか?ふざけんな。その言葉が俺を否定してるだろ!健太も俺がもともと女だったから告白したんだろ?関係ないなんて言っといて、結局お前は性別にこだわってるんだろ?」
俺の言葉を聞き、健太が目線を元に戻す。また目が合う。
「一番、性別にこだわっているのは里央なんじゃない?」
冷たい健太の声が響く。健太の言うとおりだ。今ならそう思える。俺は冷静になるべきだった。
「うるさい。もう帰ってくれ。」
俺はそう言って、健太を突き飛ばした。
「ごめんね。忘れて。」
健太は帰っていった。何も悪くないのに謝らせてしまった。