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勘違いから始まる吸血姫と聖騎士の珍道中  作者: 一色孝太郎
吸血鬼と聖女と聖騎士と

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第一章第7話 初めての味

次に気が付いた時、灯りのない暗い部屋で私はベッドの上に寝かされていた。どうやら夜になったようで、あのドレスは脱がされてシンプルだけれど明らかに初期装備のものより上質なワンピースを着せられている。


──── あれが、吸血衝動……


あれは強烈だった。今はそれなりに治まってはいるが、いずれ抑えられなくなる日が来るのは目に見えている。そうなった時、私は自分自身を一体どうやって止めればいいんだろうか?


しかし、事ここに至っても自動でログアウトしないということは、どこぞのアニメのようにアニュオンの世界から出られなくなるような事故が発生しているのだろう。これは、相当な期間この世界で過ごすことになりそうだ。であれば、ここを現実世界と同じようなものとみなして生活したほうが良いだろう。


そうなると、だ。明らかに私は世界の脅威。だって、吸血鬼対策の切り札である聖属性も太陽の光も吸収するんだぜ? それに【成長限界突破】なんてついているから、放っておいたらますますヤバいことになるだろう。ハッキリ言って、自分のことじゃなかったら今この場で切り捨てるというのが最善の選択肢だろう。だが、死んだときに何が起こるかが分からない以上、はいそうですか、とやられるわけにはいかない。どこぞのアニメでもゲーム内での死が現実世界での死と直結していたのだから。


「フィーネ様、お目覚めになられたのですね」


クリスさんの心配そうな声が聞こえる。


「クリスさん。すみません。ご心配をおかけしました」

「お加減はいかがですか?」

「はい。大分マシになりました」


それは良かった、とクリスさんは安堵してくれる。


やっぱり心配かけているよなぁ。


「料理に何か苦手なモノが入っておりましたでしょうか? 残った料理を毒見させましたが、問題なかったようなのです」

「あ、いえ。頂いた料理はとても美味しかったですし、倒れた原因は毒ではありません」

「え? ということはフィーネ様は原因をお分かりなのですか?」

「あ……はい。まあ」


しまった。迂闊なことを言ってしまった。クリスさんは心配してくれているのだから、答えないというのも失礼だし、どうやって誤魔化せば良いだろうか。


「あの、もし差し支えなければお教え頂けませんでしょうか? フィーネ様は我々の命の恩人です。どんなことでもしますので、我々に恩返しをさせてください!」


あー、ですよねー。やっぱりそうなっちゃうか。


仕方ない。話してみるか。ダメだったら逃げよう。まだ報酬もらっていないけれど。


「ええとですね。実は私吸血鬼でして。血を吸いたい衝動を抑えていたら倒れちゃいました♪」


てへぺろ、という感じで明るくいってみた。


あ、ダメだ。あの目は絶対信じていない。


「フィーネ様、冗談はおやめください。太陽の下で元気に活動して浄化魔法と治癒魔法を使う吸血鬼なんて、いるわけないじゃないですか!」


やばい、めっちゃ怒られた。どうしよう。あなたの目の前にそんな吸血鬼がいるんですよー、と言っても信じてもらえないんだろうなぁ。


「ダメでしょうか?」

「ダメです。嘘をついて誤魔化すにしても、もっと上手な嘘にしてください」


うーん、今でも割とがんばって吸血衝動を抑えてるんだけどなぁ。


ん? 待てよ? 吸血鬼だって信じてもらえていないってことは、血を飲ませてもらってもバレないんじゃね?


こ・れ・だ!


「じゃあ、クリスさんの血を飲ませてください。そこのティーカップ一杯分くらいで良いですから」

「フィーネ様……本当にその設定で続けるんですか? フィーネ様が望まれるなら私、本当にやりますよ?」


私のことをジト目で見ているクリスさん。だが、私の作戦は完璧のようだ。設定だと思いこんでくれている。


「はい。よろしくお願いします」


すると、クリスさんは一瞬マジか、という顔をしたが、その後自分の左手首をナイフで躊躇なく切り裂き、そしてティーカップにその指を差し入れた。


ポタリ、ポタリとティーカップに血が滴り落ちる。そして血はティーカップを満たす。


私は少し罪悪感を覚えつつ、クリスさんにお礼を言って生き血の注がれたティーカップを受け取った。悪いのでクリスさんの傷は治癒してあげた。


「では、いただきます」


そして私はティーカップに口をつけた。それは待ちわびた味だった。ほんのりと暖かい血液と鉄の香り。それはどんな食べ物よりも甘美な蜜の味で、血が喉を通るたびに体中の乾きが潤されていくのがわかる。


ああ、ヤバい。これは飲まずにはいられない。


身体だけではなく心までもが満たされていく。強烈な快感が脳を貫き、多幸感に包まれる。


気付けば私は最後の一滴まで飲み干し、そして唇に残った血をも舐めとっていた。


そして、不思議なことにあれほど私を苛んでいた衝動はさっぱりと消えてなくなっていた。


「ごちそうさまでした。血を飲んだのははじめてですが、とても美味しかったです」

「そ、そうですか。それは良かったです」


クリスさんが少し顔を赤らめ、そして何とも言えない表情をしている。そんな彼女を尻目に私はもうひと眠りすることにした。


「それでは、クリスさん。おやすみなさい。また明日」


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