第一章第12話 不治の病?
2020/02/07 ご指摘頂いた誤字を修正しました。ありがとうございました
2020/05/18 誤字を修正しました
2020/05/28 ご指摘頂いた誤字を修正しました。ありがとうございました
どうも、みなさんこんにちは。新米治癒師フィーネ・アルジェンタータです。
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どうしてこうなった?
治癒師だけは避けたいと思っていたのに。
やっぱりアレか?
強制イベントで得られる職業は固定なのか?
それとも、あの運営のハゲたおっさんが介入して嫌がらせを仕掛けてきたのか?
あの後、教皇様もクリスさんも、神殿の他の皆さんも口々に私の治癒師への就職をお祝いしてくれた。クリスさんなんかは、
「フィーネ様。私は、フィーネ様ならば必ず治癒師の職業を神より授けて頂けると確信しておりました。おめでとうございます!」
と、ウルウルと目に涙を貯めつつもキラッキラの目でお祝いしてくれた。
そして、教皇様は白銀色のロザリオをプレゼントしてくれた。クロスしている部分に大きな赤い宝玉が埋め込まれている。これは、聖母神様の祝福を受けた特別なミスリル、聖白銀製のロザリオで、赤い宝玉には美と愛を司る女神さまの力が込められているのだそうだ。まあ、聖なる力を宿すお守りのようなものらしい。大きな赤い宝玉が目立つが、デザイン自体はシンプルだったのでファッションとしての普段使いもできそうだ。なにしろ、ばっちり聖属性のアクセサリーだ。おかげで身に着けていると元気が出てくる。
しかし、聖なるロザリオは吸血鬼の弱点なわけだが、これを吸血鬼が身に着けていて果たして良いのだろうか?
さて、神殿には一応寄付をした。資産の 1% くらいを渡すのが普通だと言われたので、金貨 30 枚を支払った。欲しくもない職業をもらうのに 150 万円相当の寄付とは。ぐぬぬ。
そうして神殿を後にしようと思ったところ、クリスさんが教皇様に呼び止められて隅で話を始めた。普通の人なら聞こえないだろうが、吸血鬼の私は耳が良いのだ。その程度のひそひそ話など簡単に聞き取れる、そう思って聞き耳を立てた私は、世の中知らないほうが良いことがあるということを身をもって体験した。
「さて、聖騎士クリスティーナ。貴女に頼みたいことがあります」
「頼み、ですか?」
「はい。貴女にはフィーネ嬢を守り、そして導いてやってほしいのです。頼めますね?」
「もちろんです。私はフィーネ様をお守りするためにこの剣を捧げるつもりです」
「いえ、それだけではないのです。フィーネ嬢は時折貴女の血を飲みたがるそうですね? そして、他の人の血は一切口にしない、とも聞いています」
「はい。その通りです」
いえ、違います。単に、他の人に頼む機会がないだけです。
そもそも、だ。知らない人に血を飲ませてくださいなんてどうやって頼めばいいんだ。どこからどう見ても、完全な不審者じゃないないか!
「そうですか。やはり、フィーネ嬢は病気を患っています」
「フィーネ様がご病気?」
な、なんだってー! 私、実は病気だったらしい。
「はい。その病名は、血液嗜好症と言います。吸血病と言ったほうが通りが良いかもしれません」
「吸血病?」
「はい。何か非常に強い精神的なショックを受けた際、そのショックから自分の心を守るために自分が大切に思っている人間の血液を飲みたくなるのです。そして、その衝動を抑えることができなくなってしまうという病気です」
「なんと、そのような病が……」
「ええ。想像を絶するほど凄惨な、それこそ心が壊れてしまうような恐ろしい体験ですね。そのショックから逃れるために、大切な人の血を飲んでその存在を自分の中に感じる、そうすることで安心し、心を安定させているのです。血を飲んだ後のフィーネ嬢はどこか安らいだような、そして呆然としたような表情を浮かべていませんでしたか?」
「はい。確かに安らいだと同時に恍惚とした表情を浮かべてらしたように思います」
「そうでしょう。それが吸血病の患者が血を飲んだ時に示す典型的な特徴です」
いやいやいや、どっちかというとハイになっていたんですが。
「この病気は、本人がその精神的なショックを乗り越えるまでは完治しません。そして、そのショックというのは恐らく――」
「亡くなられたご両親」
「そういうことです。そしてそのショックが原因で吸血病という稀有な病を発症してしまったのでしょう。そしてそこに、あのくらいの年齢の若者がよく罹患する厨二病が併発したのでしょう。それが、自分は吸血鬼で、失われた吸血鬼の力を取り戻す、という発言に繋がっているものと思われます」
「厨二病?」
「ええ。主に 12 ~ 15 歳くらいの少年少女が罹患する心の病気です。具体的な症状としては、自らを特別視したり特別なキャラ設定のようなものを作ったり、あとは妙に正義感が強くなったり、逆に悪ぶったり厭世的になったりと様々なものがあります。共通して言えることは、発症者は自らの中に物語性の強い設定を作り出す傾向がみられます。有名な症状では、特に何もないのに『く、また暴れだしやがった。俺の左手に封印された何たらが……』と言い出したりとか、意味もなく眼帯をしては『ふん、邪眼を持たぬ者にはわかるまい……』などと言い出したりするといったものが挙げられます」
「なるほど、つまりフィーネ様がご自身を吸血鬼だと度々仰るのも――」
「そういうことです。強いショックをうけて吸血病を発症してしまったことで更に追い詰められ、その精神を守るために厨二病を併発して設定を作ることで安定を図ったのです」
何やらクリスさんがショックを受けている様子だが、厨二病と断定されたこっちのほうがショックだ。そもそも、それ厨二病じゃなくね? 絶対別の病名ついてるだろ。
「私は、一体どうすれば良いのですか?」
「フィーネ嬢が血を飲みたがったならば、一切否定せずに血を飲ませてあげてください。成長と共に厨二病は治癒していきますが、吸血病は治癒しません。吸血病は代償行為ですので、ショックを受けた過去を乗り越えなければ治らないのです。そして乗り越えたとしても、血を飲むことが習慣化してしまった場合は一生治りません」
「そんな……!」
「なに、気に病むことはありません。彼女は本物の吸血鬼ではないのですから、血を飲んだとしても大きな問題はありません。大切なことは、血を飲みたいというフィーネ嬢をそのまま受け入れてあげる存在が側にいてあげることなのです。恐らく、現状で一番の適任は貴女でしょう。貴女以外の血を飲んでいないということは、フィーネ嬢は貴女を無意識に求めているということなのです」
「ですが、私ごときに……」
「不安ですか? ですが、フィーネ嬢も深く傷ついているのですよ?」
教皇様にそう言われたクリスさんがはっとした表情を浮かべると、大きな声で叫ぶ。
「わかりました! 猊下。お任せください。この聖騎士クリスティーナ、我が騎士としての誇りに賭けて、そして我が聖剣セスルームニルに誓ってフィーネ様を必ずお守りいたします!」
やめて、そんな大声で言われるとめっちゃ恥ずかしいから。しかもそれ、完全に勘違いだから!
神殿を出て馬車で宿へと向かった私たちだったが、その道中、勘違いしたクリスさんが妙に優しかったのは言うまでもない。
先生、どうすればこの脳筋くっころお姉さんに私が吸血鬼だと理解してもらえるのでしょうか?




