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勘違いから始まる吸血姫と聖騎士の珍道中  作者: 一色孝太郎
花乙女の旅路

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第三章第21話 生臭大師の底力

「あの生臭大師ですか……」


私はシズクさんの話を聞いて頭を抱えてしまった。シズクさんが教えてくれたところによると、昨日の石窟寺院が私たちの名前を使って商売を始めたらしい。


巧妙な私たちの姿絵まで描かれた看板を立てて、「聖女様が奇跡を起こした石窟寺院はこちら」などとやっているらしい。


看板が設置され始めたのは今日の昼過ぎからで、その看板を見た住民によってシズクさんは一発で正体を見破られて声をかけられた。そして、その住民によって看板の設置場所に案内され、そこで看板を見ていた住民から握手攻めにあってはじめて事の重大さに気付いたらしい。


「拙者、もうこの町を歩ける気がしないでござるよ」

「こういうのは一過性のものでしょうし、次に来る頃にはみんな忘れていますよ。多分」

「そういうものでござるか?」

「そういうものです。はぁ。こうなるからバレるの嫌だったんですよね……」

「「ごめんなさい」」


心当たりのあるルーちゃんとクリスさんが謝ってくる。


「まあ、仕方ありませんね。明日はさっさと逃亡、じゃなかった次の目的地に向けて早めに出発しましょう」


****


私たちは翌日、日が昇ると同時に宿を発った。目的地のチィーティェンは南門から出発し、すぐに山へと入るルートだが、問題の生臭大師の石窟寺院への道を通ることだ。


そして問題の道へやってきた私たちが見たのは、道沿いに立てられている絵姿つきの立て看板だった。なんと、ご丁寧なことに数百メートルおきに違うものが延々と立てられている。


「に、似てる……」

「すごく……上手ですね……」


そう、看板の絵はとんでもなく上手で、非常によくできている。これが自分達の姿でなければ感心して眺めていたことだろうし、スマホでもあれば写真を SNS にアップしていたかもしれない。


だが、それが自分達の姿となると話は別だ。恥ずかしいなんてもんじゃない。


しかも、だ。まるで映画やアニメの宣伝ポスターのような決めポーズを取っているうえにやたらと恥ずかしい決め台詞まで一緒に添えられているのだ。


──── どうしてこうなった?


「あ、姉さま。クリスさんのこの『フィーネ様はこの私が護る。たとえこの身が朽ち果てようとも!』っていうセリフは言いそうじゃないですか?」


たしかに、と思ってしまった。


その絵のメインはクリスさんで、剣を正眼に構えて睨みつけている。私はその後ろで祈りを捧げる役で何だかよく分からないけど光っている。そしてその私にこれまたよく分からないけど何となく邪悪そうなイメージの黒い影が手を伸ばしている。クリスさんの左右にはシズクさんとルーちゃんが半身でそれぞれの武器を構えている。


「な、何を言っているんだ。わ、私は、そんな……」


クリスさんがまんざらでもなさそうな顔をしている。


「あ、ほら、こっちのシズクさんのがあります。『拙者の刃に斬れぬ悪はない。次の悪はそなたか?』だって。口調がちょっと違うけどアリじゃないですか?」

「い、いや、拙者は……」


シズクさんがたじろいでいる。え? もしかしてまんざらでもない、のか?


「あー、でもやっぱりあたしは姉さまのが好きです。『わたくしは迷える全ての魂を救いたいのです』だそうですよっ!」

「ええぇ」


いやいや、口調もキャラも違うでしょ? 変なイメージ植え付けないでほしい。


「ほら、こっちにも姉さまのがありますよ。『あなたは、あなたであればよいのです。さあ、あなた自身を愛することから始めましょう』だそうですよ。これは姉さま、言いそうにないですよね」


あはは、と笑いながら楽しそうに看板を見ている。


いやいや、これはもはや何かの宗教の勧誘じゃないか? 何だこれ?


お、次の看板はルーちゃんがメインだ。


「あ、やった。あたしのがありますよ。ええと『あたしの矢は百発百中、逃げられるとは思わないことね!』だって。すごい! 合ってますね」

「「うそだっ!」」


私とクリスさんの声がハモる。ルーちゃんの誤射フレンドリーファイアで二度も顔面を撃ち抜かれかけた私としては突っ込まずにはいられない。


「あ、次もまた姉さまですね。やっぱり姉さまが一番人気ですよ。ええと、『さあ、使命を果たす時がきました。善良なるみなさん、わたくしと共に祈りましょう』だって。これも言いそうにないですね!」


やめて、ほんとにもう、勘弁して。私こんなこと絶対に言わないから。


この看板による精神攻撃は南門へ向かう通りから石窟寺院へと向かう道の交差点まで続いていたのであった。ちなみに、南門からは逆向きに看板が設置されていたことは言うまでもない。


****


「お? もしかして噂の聖女フィーネ・アルジェンタータ様ですか?」


私たちは何とか南門に辿りついて町から出ようとしたところで門番さんにそう声をかけられた。


「ああ、やっぱり知れ渡ってしまったんですね……」

「そりゃあ、あれだけ看板立てたらそうなりますって」

「私たちは頼んでも許可をしてもいないんですけどね」

「あれ? そうだったんですかい? あの石窟寺院の大師様がすごい勢いで設置してってたからてっきり許可をお出しなんだと思っていましたよ」

「そんなことありません。私はただあの石窟寺院に幽霊が出たので送ってあげただけです」

「ああ、なるほど。そういう事ですかい。だとすると看板に嘘は書いていないし、セリフやポーズなんかはイメージだって小さく書いてあるから町としては罰することはできませんねぇ」


生暖かい表情で衛兵さんがそんなことを言ってきた。


何という事だ。どうやらこの国には肖像権という概念がないらしい。


「まあ、聖女様はみんなものですから諦めてください。侮辱しているわけではないですから」

「ええぇ」


商売に利用する気しか感じないのは私だけだろうか?


こうして私たちは逃げるようにイァンシュイの町を後にしたのだった。


「でも姉さま、あの看板見ながら歩くの、楽しかったですよねっ!」


うん、ルーちゃんはほぼ他人事だったからね。


でも、まあルーちゃんが楽しかったならまあ良しとしますか。次来る時が怖いけど。


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