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水霊の過去

 レナーテも水霊が言っている千年前の娘が自分である可能性に気が付いて顔が真っ青になる。

 どうなるの?


 水霊が手を伸ばした。

「サア、今度コソ共ニ」

 

 自分の元に歩いて来ないレナーテに痺れを切らしたのか、水霊は掌から魔力を放出した。

 その魔力は真っ直ぐにレナーテの元へ・・・行かずになぜか私の所へやって来た。


 なぜ!?


 私の体に巻きつこうとしてた光は、私の前に飛び出してきたレオとアーサーの剣によって弾き飛ばされた。

 凄いわこの二人。魔力に生身の剣で立ち向かったわ。


 感心している場合じゃなかった。

 水霊ってもしかして目が悪いの?

 私とレナーテを間違えてるなんて。


「邪魔ヲスルナ」

 水霊が再び光を出すが、今度もまた間違えて私の所に来る。


 ひええええ!

 だから人違いだってば!

 言わないけどね、言ったらレナーテが確実に狙われちゃうから。


 しかし今度はこちらに届く前に神馬によって弾かれた。


「ナゼ邪魔ヲスル」

『そなたが狙っていることは分かっていた。そなたこの女子(クラウディア)にここに来るよう誘導魔法を掛けていたであろう』

「・・・」


 え、私のこと?

 誘導魔法って何?私がここに来ることは自分の意思じゃなかったってこと?

 そんなことはないわよ、私はちゃんと私の意思でここに来ることを選択したんだもの。

 

『自分でも訳が分からずにここに来たいと思わなかったかの?少なくとも我と話していた時のそなたは異常なほどであったがな』

 神馬にそう言われて、確かに自分でもよく分からない不安があの時胸をよぎっていたような気はする。


『まあ、我の加護があったから効き目は余りなかったようだがの』

 そなたが単純なのは元からだしのと神馬にバカにされた。

 ぶーぶーぶー。

 

『昔からの知り合いであるそなた(水霊)には悪いが、この女子(おなご)はすでに我が加護を与えた人間なのでな。横取りはさせぬよ』

「ダカラ何ダ。我ハ千年待ッタ。アノ娘ハ元々ハ私ノモノダ。モウ誰ニモ譲ラヌ。誰ニモ誰ニモ誰ニモ誰ニモ誰ニモ誰ニモ誰ニモ・・・」

 水霊の言葉と共に辺り一面に黒い靄が広がった。

 明るかった世界が暗く染まっていく。


「「ディア!」」

「レオ、アーサー!」

 手を伸ばすが二人の手を掴む前に視界が真っ暗になった。

 スカッと手が空を切る。

 どこを見ても四方八方暗闇しかない。

 声を上げても闇の中に吸い込まれて何も聞こえない。


「レオ、アーサー。神馬!レナーテ!」

 誰の名前を呼んでも返事は返って来ない。


 変だわ、皆あんなに近くにいたのにどうして誰の声もしないの?

 暗闇の中手探りで進むけれど誰も見つからない。


 進んだ方が良いのか止まって様子をみた方が良いのか悩んでいたら、前方に小さな明かりが見えた。

 

 行ってみよう。


 十分注意をしながらそろそろと近寄っていく。

 小さな明かりは下の方に丸く光っていた。


 何かしら、コレ。

 近寄ると光は急激に大きくなり、地面にまるで映画のように映像が流れていった。


 森と湖の風景映像だ。

 誰もいない湖に風が流れ碧の水面がキラキラと輝いている。

 綺麗だ。


 しかし暫くするとみすぼらしい格好をした一人の女の子が数人の大人にぐるぐる巻きにされてやって来た。

 大人たちは湖に向かって跪き数回手を上げ下げしてお辞儀をしたあと、おもむろに女の子を湖に投げ入れた。


 なんてことを!


 大きな水しぶきを上げて女の子は沈んでいった。

 大人たちは無事沈んでいくのを見届けるとその場から去って行った。


 殺害事件というよりは先ほどの儀式のような仕草から、これは多分人身御供だ。


 昔は天災が起こると神の仕業とされ、神の怒りを鎮める為に人間を供物として捧げ鎮静化を願ったと本で読んだことがある。

 湖に投げ入れたということは、水関係。多分干ばつか何かだろう。


 何とか助けられないかしらと手を伸ばすけれど、ただの映像である世界は何の変化もみせない。

 しばらく湖の水面で泡が立っていたけれど、それも次第に消えて行った。


 ああ・・・。

 絶望的な気持ちで見つめていると、水面が渦を巻いて盛り上がった。


 現れたのは先ほど投げられた少女を抱えた水霊だった。

 ぐったりとした少女を水霊は陸上へと連れて行って寝かせた。


 くいっと水霊が指を曲げると、少女の口から大量の水が溢れた。


「ゴホッツゴホッゴホッ」

 せき込む少女を水霊は冷たく見下ろしていた。

 少女は水霊の姿を見ると慌ててその場で土下座した。


「水神様!どうぞ私の命と引き換えに村に雨を降らせて下さい。お願いします」

「そなたの命などいらん」

「ええ!それでは雨は!?」

「なぜ私が人間ごときの為に雨を降らせねばならないのだ」

「でしたら私めの命を差し上げますのでどうか!」

「人間の命などいらんと言っているのが分からんのか!第一お前は村の者たちに殺されかけたのだぞ、なぜそのような者たちの為に雨を望む」


「私は身寄りのない子供です。父は戦で死に、母も病で亡くなりました。私はずっと村の皆の温情で生かされてきました。やっとそのご恩に報いる時が来たのです。どうぞ、このようなつまらない命ではありますが、お納めください」

 そしてどうか雨を!と再びお願いする少女。

 話の通じない少女に水霊はこれ以上付き合ってられるかとばかりに湖に戻って行った。


「ああ、水神様どうかどうか!」

 少女は消えた水面に向かって叫ぶけれども水霊が再び現れることはなかった。

 少女はがっくりと肩を下ろし、てっきり村に帰るのかと思いきやその場に座り込んでころんと横になった。

 覚悟は出来ていてもやはり恐怖だったのか暫くカタカタと震えていたが、いつの間には少女は助かった命を守るように縮こまって眠った。


 翌朝、少女は湖に向かって挨拶をした。


「おはようございます、水神様。今日も良いお天気ですね。ですが気が向いたら是非雨をお降らし下さいませ」

 湖から水霊は現れなかった。

 少女は水霊が現れずとも湖に向かって朝な夕なに声を掛け続けた。


「こんにちは、水神様。今日はリンゴの木を見つけたんです。良かったら水神様もお一つどうぞ。お味がお気に召しましたらどうぞ雨をお降らしください」

「おやすみなさい、水神様。適度な雨が良い夢をもたらせてくれるそうですよ」

「おはようございます、水神様。今日は曇りですね。このまま雨が降ってくれると良いんですが」


 少女の独り相撲が続いたある日、とうとう水霊が現れた。

「水神様!」

 少女は喜んで水霊の元に駆け寄った。


「なぜ村に帰らない」

「雨が降らないのに村に帰ったら役立たずと言われて折檻されますから」

 その言葉に水霊が眉を潜めた。

「相変わらず人間の醜いことよ」

 水霊が手を振ると、どこからか雨雲が現れてどしゃ降りになった。


「これで良いだろう、さっさと私の前から姿を消せ。うるさくて叶わん」

 少女の顔がパッと輝いた。

「ありがとうございます、水神様!」 

 少女は喜んでどしゃ降りの中、手を振り振り村に帰って行った。


 しかしその時水霊が降らせた雨は数日経っても止むことがなかった。

 雨が降り始めて十日程過ぎた後、ボコボコに顔が変形された少女が再び村の大人達に引きずられてやってきた。


「お前が勝手に村に戻って水神様を怒らせたから雨が止まないのだ。その身を以て水神様に謝罪して来い!」

 ドカッと蹴り飛ばされて少女が再び湖に突き落とされる。

 

 なんて酷い大人達だ!

 この少女は健気にも毎日水神様にお願いして村人達の為に雨をお願いしていたというのに!


 許せない!

 えいえいっと映像の中で村人たちを攻撃するが当然のことながら何も変わらない。

 唇を噛みしめながら映像の中の村人たちを見つめていると、湖が高く盛り上がって少女を抱えた水霊が現れた。

 村人たちは全員その場で土下座した。


「1度ならず2度までも私の住処にゴミを投げ入れるとはいい度胸だな」

 ゴミって水霊さん。酷くない?


「も、申し訳ありません。お気に召しませんでしたか。それではどのような娘をご希望でしょうか。出来るだけご希望に沿わせて頂きますので、どうかこの雨をお静め下さい」

「雨を降らせよ止ませよと煩いことを。そなたはこの村の長か?」

「はっはい。そうでございます」

「では、そなたの子供を生贄に差し出せ。それで雨を止ませてやろう」

「そっそれは。私には生憎息子しかおりませんので、水神様にはお気に召されないかと」

「構わん」

「しかし、私にとっては一人息子ですから、息子が死んでしまいますと私の家が断絶してしまいます。5人でも10人でも代わりの人間をご用意致しますから、どうか私の息子だけはお見逃しください」

 村長が雨の中土下座して頭を下げる。


「人の命は同じ一つだろう。自分の子の命は惜しいが人の子の命は少しも惜しくはないと見える。醜くて反吐が出るわ」

 そう吐き捨てると水霊は村長の体を水の膜で覆った。

 村長は慌てふためいたが、どうやっても水の膜が破れない。そのうち呼吸が出来なくなって苦しくなったのか、口を押えていた手からゴボッと空気が漏れた。

「「「村長!」」」

「その男の命と引き換えに雨を止ませてやる。感謝するがいい」

 傲慢に告げる水霊に村人たちは村長を助けることも出来ず目を瞑って顔を反らした。


 村長の目が見開かれ苦しそうにあえぐ。

「水神様。お願いします、村長をお許しください。どうかお怒りをお納めください」

 勇敢にも怒れる水神を止めたのは村人たちに2度も殺されそうになった少女だった。


「なぜそなたが止める。そなたは被害者だろう」

「私も村の一員でございます」

「向こうがそうは思っていなくともか」

「それでもでございます」

 ふん!と鼻を鳴らし、水霊はパチンと指をならして村長を水から解放した。


 村長は溺れ死ぬ寸前だったのか、ぐえっほうえっと口から水を吐き出して地面に力尽きて横たわった。


「その醜い姿を今すぐここから連れ出せ。そしてそなたたち村の者がこの湖に来ることは今後二度と許さん。どんな理由があろうともだ。もし現れたら即座に殺す。分かったらとっとと消えろ」

「はっ、はいっ!」

 村の男たちは村長の体を引きずって村に帰って行った。


 村人たちの姿が完全に視界から消えた後で、ようやく雨は止んだ。


「水神様」

 抱えられていた少女が水霊に話しかけた。

「ご迷惑をおかけして申し訳ありません」

「そなたに謝られる筋合いはない。むしろなぜ止めた。そなたは2度も村人たちから殺されかけて、今回に至ってはそんなにも殴られているではないか」

「すみません。でもうちの村はとても貧しいんです。皆自分が食べていくのがやっとで。赤子が生まれても無事育つのは3人のうち1人位です。そんな中大して役にも立たない私を皆がちょっとずつ食料を分けてくれてここまで生かしてくれたんです。例えこうしていざというときの生贄の為に生かされていたんだとしても、やっぱり感謝の気持ちしかないんです」

「そなたはもう村に帰る必要はない」

「え?」

「好きなだけここにいればいい。そなた一人位ならこの痩せた森でもなんとか生きて行けるだろう」

「ありがとうございます。水神様」

 少女は嬉しそうに笑った。


 湖の近くの洞窟を住処に決めて、葉っぱを引いて寝床にする。

 食べ物は木の実がほとんどだったけれど、たまに朝起きると洞窟の前に魚が数匹置かれていることもあった。

 こうして水霊と少女の奇妙な生活が始まった。



いつもありがとうございます(*^_^*)

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