神馬にお願いした
クッキーをついばんでいる神馬に私は一生懸命話しかけた。
「災厄の魔物がとうとう現れたらしくてね、もうすでに王宮による討伐隊が結成されて出発したみたいなの。だから私もその討伐隊に付いて行きたいんだけど、レオやアーサーに反対されてて今この部屋に閉じ込められてるのよ。神馬なら私を乗せて窓から飛んで行けるでしょう?お願い背中に乗せて飛んで行って」
『災厄の魔物?そんなもの我は聞いたこともないがな』
え?知らないの?長生きなのに?
「一応伝承では1000年前に現れたみたいだけど。すぐに初代聖女様に封じ込められたから神馬が知らないだけなのかも」
『我を誰だと思うておるのだ。我の知らぬことなどこの世にありはせぬわ』
えー、嘘だぁ。むしろ知らないことだらけでしょ、なにせこちらの世界に来るのは700年ぶりなんだから。
『人間は短命であるがゆえに変化が激しいのだ』
700年前にはこんなクッキーがなかったようにな。うむ、美味だ。と言いながら神馬はモグモグ頬を動かす。
『だが反対に精霊や魔物は永遠ともいえる生を生きる故、たかが数千年ごときで力が大幅に上がることはない。この世界を破壊する程の力ということは、我に匹敵する力を持った魔物ということだ。そんな魔物が閉じ込められていたら我が知らぬはずがない。故にそんな魔物は存在せぬ』
以上終わりとばかりに神馬は自分の毛づくろいを始める。
待て待て待てーい!
何気に自分の自慢で終わらせないでよ。
「この際神馬の意見は良いの」
『なぜだっ!?』
「今の段階は実際にいるかいないかのレベルじゃなくて、すでにいることが決定していて討伐隊が出ているの。そして魔物なのかなんなのか知らないけれど、本当に国を滅ぼす存在がそこにいるのよ。災厄を止めなきゃいけないし、レナーテを助けたいの。だから連れて行ってって言ってるの」
『だからそんなものはいないと言うておろうが』
「じゃあ、確かめてみましょうよ。私の言っていることが正しいのか、神馬が言っていることが正しいのか。向こうに言って自分の目で確かめてみればいいでしょ」
『・・・そう言って我に連れて行ってもらおうと考えておるのだろう』
チッ、引っかからなかったか。神馬割と頭良いわね。
「なんでダメなの?いないなら余計に行っても構わないじゃない。神馬まで拒否する意味が分からないわ」
『討伐隊というのは軍隊のことであろう。戦争が前提の場所に連れて行ったらそなたがどうなるか分からぬ。我は我が加護を与えた人間が死ぬことは好まぬ。故にそなたの頼みは聞けぬ』
そんなぁ。じゃあ加護返還しようかしら。ん?加護?
そうよ、私には加護が付いてたんじゃない。
「私には神馬の加護があるのでしょう?だったら少しくらい危ない場所に行っても大丈夫なんじゃないの?」
ね、だから連れて行って。
『そなたは加護をなんだと思うておるのだ?加護とはその者の持つ力を増幅させる力であって、全ての攻撃から身を守るものではないのだぞ』
え、そうなの?だってレナーテが前に自分は加護持ちだから危険はないみたいなこと言っていたのに。
『あの娘の力は防御に特化していたからそう言っていたのであろうの。あの精霊も水属性だったからの。水の精霊は主に防御や制御に向いておる』
へぇ、そうなんだ。
『それゆえ攻撃に特化した火属性とは相性が悪い』
でしょうね。
『そなたの力は攻撃でも防御でもない癒しの力だ。他人を癒すことが出来ても自分が攻撃を受けたら癒すことは出来ぬ。戦いにおいて役にも立たぬし諦めるのだな』
役に立たない?そんなことないでしょ。だって怪我した人を治せるんでしょ?
死なないようにすることが出来るって戦場では一番役に立つじゃない。
『そなたの力では瀕死の人間を助けることが出来るのは1人が限界だ。そのような魔力で戦場に赴いてどうする?そなたに生き残る人間と死ぬ人間の選択が出来るのかの?』
痛いところを突かれた。
でも今回は大丈夫よ、だって危険なのはレナーテただ一人ですもの。
選択する必要なんてないのよ。
だからお願い神馬。
「討伐隊と合流しなくても良いわ。神馬が危なくない場所で遠くから見るだけでも良い。だからお願い連れて行って」
私の必死のお願いに、仕方なく神馬が折れた。
『遠くから見るだけなら良かろう。出発は明日の朝食事を済ませてからだな』
え、何でよ。
『出発したのは恐らく先行隊であろう。そこにはそなたが助けたいと言っていた娘はおらぬであろう。そなたが急いで行く必要もあるまい』
あ、そっか。そうよね。神馬あったま良いー。
『戦というものはいつの時代もそう形は変わらぬからな。本当に愚かなことよ』
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