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災厄の兆しが反応した

「災厄の魔物の封印には危険はないの?」

 ずっと疑問に思っていたことをレナーテに聞いた。

 愛冒のゲームをしていない私は魔物の姿が想像出来なくて、黒くてモヤモヤしている姿しか思い浮かばなかった。


「ゲームでは必ず勝利していたから大丈夫でしょ。私は知識を持ってこちらの世界に来たんだもの。事前準備もばっちりよ」

 そうだろうけど、ゲームと現実はやっぱり違うし。


「後2年もあるもの大丈夫よ・・・って、そうだ。忘れてたわ!災厄の兆しが反応する時ゲームではあなたがいたのよ」

 え?私?


「そうよ、そう。レオン様の存在が大きすぎてすっかり忘れてたわ。ゲームのあなたが性格悪くて私に散々意地悪をするのよ。で、その中に聖女の証である水晶のネックレスをあなたが盗んで捨てようとするところを私が発見してもみ合いになる場面があるのよ。その時あなたが床に水晶を投げつけてその瞬間赤い光がパーって一点を示すの。その先に災厄の魔物がいるのよ。やぁだ、肝心なこと忘れちゃってたわ、あなたがいなくても災厄の魔物が出てくれば水晶は反応するのかしら?」

 それはゲームをしていない私には保障できないわ。してても保障できないけど。


「聖女の証って何?」

「これよ、私が生まれた時から握りしめていたらしいわ」

 レナーテは首の鎖から棒状の水晶を取り出した。


「なくさないようにこうしていつも肌身離さず持っているのよ」

 へぇ~、綺麗ね。


 キラキラと水晶が光っていて、思わず私は水晶に手を伸ばした。

 チョンと手が触れると、水晶からいきなり光が溢れた。


「何!?まぶしいんだけど」

 腕で目を押さえると光は収束に収まり、その後は一点を指し示した。


「なんで、予定ではまだあと2年はあるはずなのに。早すぎるわ」

 レナーテが水晶を握りしめながら呆然と呟いた。


 もしかしてこれが災厄の魔物が現れた印なの!?


 強烈な光だったせいで、大勢の人間が気が付いた。

 荒々しい足音があちこちから聞こえて、私たちのいる部屋もバン!っと大きな音を立てて開かれた。


「レナーテ、今の光は何事だ!?」

「お兄様」

 ズカズカと部屋に入ってきてレナーテの肩を掴み無事を確認する。

 レナーテの体を心配しているところを見る限り、クリストフ殿下は妹思いの良いお兄さんのようだった。


「おお、こんなところにクラウディア嬢もおられたのか、そちは無事か?」

 どさくさに紛れて抱きしめてこようとしてきたので、素早く身を躱した。


「ええ、大丈夫です。私のことはお気になさらずに」

「お兄様、大変です。災厄の魔物が現れました!」

 テーブルを挟んでクリストフ殿下と攻防を交わしていたら、レナーテが訴えてきた。


「何!?予言では後2年後の予定だったではないか」

「何かの拍子に早まってしまったのですわ。クラウディア様も予定よりこちらに来るのが2年早まりましたもの。私の知らない何かが起こっているに違いありませんわ」


「そうか、だが心配するなレナーテ。そちより聞いていた通り災厄の魔物を倒す準備は万端である。これから父上に裁可を頂きすぐに討伐隊を派遣しよう」

「お願いします、お兄様」

「クラウディア嬢、こういう訳だ。今日はあまりそちと話すことは出来なかったが、これが終わったらゆっくり時間を取るから余とのことを真剣に考えてくれ」

 手を取り口づけされる。


 そうだった、この人からもプロポーズされていたんだったわ。レオとアーサーのことばかり考えていたから頭からスポーンと抜け落ちていたわ。

 今ここで断って良いものかしら?ダメよね、これから魔物を退治するのにテンション下げたらやられちゃうかも知れないわよね。

 レナーテを見ると、レナーテも首を横に振っていたからここは黙っていることにした。

 帰国してから丁寧な謝罪付きのお断り文を送っておきましょう。

 

 今はそれよりも災厄の魔物の方が重要よ。

 まさか私がこの国に滞在している間に現れるとは思わなかったわ。

 クリストフ殿下はさっそく各部署との連絡に走り、部屋にはレナーテと私だけになった。


「まさかこんなに早く災厄の魔物が現れるとは思わなかったけど、あなたたちはどの道明日帰国の予定だったのでしょ、出来るだけ急いだ方がいいわ。災厄の魔物が現れたことを発表してしまった後だと検問が厳しくなると思うから」

「でも、レナーテ。私が触ったら反応したってことは、私も災厄の封印にやっぱり必要だってことじゃないの?」

「ただの偶然よ偶然。それにゲーム通りならあなたは災厄の魔物に取り込まれてしまうのよ。ゲーム補正が掛かって負の感情とか関係なしに魔物に目をつけられたらどうするつもりなのよ。あなたは大人しく自分の国に帰りなさい」

「でも!」

「煩いわね、レオン様と結婚するんでしょう、もう危ないことに首を突っ込める程軽い立場じゃないんだから、大人しく引っ込んでなさい」


 ぐいぐいとレナーテにドアの外に追い出される。

「待ってよ、レナーテ」

「聞かない。レオン様を不幸にすることは私が許さない。あなたは無事レオン様と一緒に帰国してさっさと式でもなんでも挙げてレオン様を幸せにしてあげれば良いのよ。それだけを考えてなさい」


 バタンとドアが閉められる。

 ガチャリと中から鍵まで掛けられた。

 ちょっとー、少しは私の話も聞いてよ。ガチャガチャとドアノブを回すがレナーテが開けてくれる気配はなかった。


 何か嫌な予感がする。

 あの水晶が私に反応したのに、私が部外者で本当に封印がうまくいくのか心配だ。

 ゲームだって私がいないと封印できなかったみたいだし、そりゃ災厄の魔物に取りつかれるのは嫌だけど何か他にいい案が出るかも知れないのに。それを話し合いたいのに。


 暫くドンドンとドアを叩いてみたものの変化はなく、諦めかけた時私はレオの知恵を借りることを思いついた。


 そうよ、こういう時はレオが一番最適よ。いつだって私たちの頭脳(ブレーン)だったんですもの。

 私はレオを探しにホールに戻った。

 

 ホールでも先ほどの光はなんだったのかと貴族たちがざわめいていた。

 えーと、レオレオっと。中に入りキョロキョロ辺りを見回していたら、腕を掴まれた。


「いた!ディアどこにいたの、ずっと探していたんだよ。先ほどある部屋から一筋の強い光が現れて消えたけど、ディアは関与してないだろうね」

 ギクゥ!レオ鋭い。

 レオの目が細くなる。


「関与しているんだね。良いよ、話は後だ。皆先ほどの件で浮き足立っているからどさくさに紛れて今のうちにイングラム侯爵家に戻ろう。アーサー、ディアが見つかった。来てくれ」

 アーサーもいなくなった私を探してくれていたようで、せっかくセットした髪が乱れていた。


「このバカ!他国の宮殿で勝手にいなくなるな。心配しただろうが!」

 アーサーがこぶしを振り上げる。

 叩かれると思って首を竦めたけれど、いつまでたっても叩かれなかった。

 あれ?

 アーサーはグーにした自分のこぶしをじっと見て降ろした。


 アーサー?


「アーサー先ほどの光にディアが関係しているようだ。誰かに追及される前にここを抜け出すぞ」

「は?クラウディアが!?」

 お前何してんだよという顔で見られる。


 私のせいじゃないわよー。偶然(たまたま)偶然(たまたま)


 レオに肩を抱かれてこっそり宮殿から抜け出し、馬車に乗って帰った。

 馬車に乗っている間、何が起こったのか説明させられた。


「なるほどね、災厄の魔物が現れる兆しの光だったのか。この国は本当に面白いね」

 レオがククッと笑う。

 災厄の魔物の出現を面白いと言える神経はレオ位なものよ。


「お前は大丈夫だったのか?」

 アーサーが心配して尋ねてくる。

 アーサーはいつどんな時でも優しいわね。振った相手の心配までするなんて。


「大丈夫よ、ただ私が触れた途端光が出たからちょっとびっくりしただけよ」

「ディアが触ったら光が出たの?」

 レオが確認してくる。あ、そうねそこ抜かして説明してたわね。


「そうなの、私が触れた途端光が出たの。でね、だから・・・」

「「却下」」

 レオとアーサーの声がハモった。


 なによぉ、まだ最後まで言ってないのに。


「どうせ自分も討伐隊に参加したいとか言うんだろう」

 アーサーが呆れたように言ってくる。


 う、図星です。


「そんな我儘許されないことは分かっているよね?君は私の何になるんだっけ?」

「・・・婚約者です」


「そう、君は未来のインディア国の王妃だ。そんな立場の人間が他国の揉め事に首を突っ込んで良い訳がないだろう」

 分かってる、分かってるんだけど。

 でもレナーテに何かあったらどうするの?

 レナーテはゲームでは必ず封印出来ていたから大丈夫なんて言っていたけど、すでに本来の流れから2年のズレがある。ゲームで封印するのに必要だった私もいない。そんな初めて状態で行ってうまくいくとは思えない。


 私が行ったって何の役にも立たないのかも知れないけれど、前世の知識を持った人間がこうして出会ったってことは何か理由があるような気がしてならないのよ。


「お願いレオ。何かいい案はない?なんだか嫌な予感がしてならないのよ」


「君が大人しく帰国してこの国から離れたら何か案を出すよ」

「それじゃあ間に合わないわ」

「君に案を授けたら君は帰国せずに一人でも討伐隊に合流しようとするだろう。だから今は何も案は出さないよ。無鉄砲に合流したところで無駄死にが増えるだけなんだから、大人しくしているんだ」

 頭ごなしに否定されて私は何も言えなくなる。


 何よ、何よ。レオのケチンボ。人でなし。

 良いわよ、じゃあ私が自分で何か考えるわよ。


 知識はあっても地頭が良くない私がいくら考えたところで妙案は出てこない。しかも私が抜け出すことを懸念したレオによって部屋に軟禁されてしまった。


「ねえ、マリー。私どこへも行かないから部屋に鍵を掛けるの止めるようにレオに言ってくれない?」

 食事を下げに来たマリーにお願いするが、マリーはこれもお嬢様のためですからと言って許してくれなかった。

 主人よりもレオの言葉を信用するのってどうかと思うのよ、マリー。


 まあ、抜け出すつもりだったけど。


「あーもー、一体どうしたら良いのよ」 

 部屋の中でウロウロ動き回っていたら、窓から神馬がやってきた。


「神馬!!」

 そうよ、神馬がいたじゃない。忘れてたわ。

 神馬に乗せてもらえばドアに鍵が掛かっていようと平気よ。窓から飛んで行っちゃえば良いんだもの。


「ねえ、神馬。お願いしたいことがあるの。聞いてくれる?」

『なんだ?聞くのは良いがまずは腹ごしらえさせてくれ』

 

 精霊ってお腹空かないんじゃなかったの?

 でも私は神馬に早くお願い事をしたいので、お土産に持って帰る予定だったクッキーの缶を開けて神馬に差し出した。


『茶も頼む。そなた以外で』

 むっ。


「残念ね、私は今軟禁されていて人が呼べないの。大人しく私の煎れた紅茶を飲みなさい」

 ハイっと差し出すと、うっと鼻を押さえて神馬は横を向いた。


 何よぉ、毒なんて入ってないのに失礼ね。

 私は中身を9割ほど捨ててお湯を足して神馬の前に再度出した。


 神馬はスンスンと鼻でかいで一口飲んだ。


『うむ、不味いが飲めないほどじゃない。ほとんどお湯だからな』

 分かったわよ、次はお湯だけ出すわよ。 




ブクマ&評価&誤字連絡&感想ありがとうございます(*^_^*)


感想の返信はちょっとネタバレになりそうな感じなので、少しだけ遅らせてください。


今むかつく展開だと思う方もいらっしゃるとは思いますが、できれば最後まで読んでもらえたらうれしいです。

ゴールも見えてまいりましたので。

20万字くらいで終わらそうと思ったのに無理でした。

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