バーロウ家のお茶会
バーロウ家のお茶会はとても盛況だった。
直前になってレオが参加表明をしたことが大きいだろう。
色とりどりのドレスをまとった可愛らしいご令嬢たちが所狭しとひしめきあっていた。
彼女たちの目当ても当然レオン王太子殿下。
まだ婚約者のいない彼の目に留まれば一躍未来の王妃様。婚約者のいない者もいる者も鵜の目鷹の目でレオを狙っていた。
開催者のバーロウ侯爵夫人はレオが参加したことを周りの貴族に鼻高々と自慢していた。
当然自分の娘にレオの横をガッチリキープさせている。
一歩離れたところから見るとレオを中心に台風の目でも出来ているかのようだ。
怖いから離れてよっと。
レオが移動するたびに女の子たちも民族大移動のように動いていくので、レオが左に行けば右。右に行けば左ととにかく避けまくった。
こんな耳目のある場所でレオから親しげに話しかけられでもしたら、取り返しのつかないことになってしまう。今日のミッションはレオから逃げまくることだった。
落ち着きなく移動する私にお友達のリリアーナがクスクス笑いながらついてきた。
「どうしたの?ディア。なんだか今日は落ち着きないのね。あ、分かった。良い人が出来たんでしょう」
どなたか当てて見せましょうかと唇に人差し指を当てて周囲を見渡すリリアーナ。
「うふ、やっぱりいたわ。あなたのお相手ダレル様でしょ。さっきからあなたが行く方に彼も移動してるもの」
「ただの偶然じゃない?」
ダレルなんていたかしら?レオの動きを警戒しすぎて周りの人間を完全に無視していた。
でも群衆の中にそれっぽいのがいたようないないような?と考えながらレオを遠くから眺めていると、
「あ、ほら」
とリリに肘で小突かれた。
「え?」
振り向くとダレルが飲み物を持って私たちの後ろにいた。
「お久しぶりですねクラウディア嬢、リリアーナ嬢。楽しんでますか?」
「ええ。お招きありがとうございます。ダレル様。とても素敵なお庭ですね」
社交辞令で褒めると、ダレルが照れくさそうに笑った。
「ありがとうございます。この辺りは僕が管理している庭なので褒められると嬉しいですね」
「まあ、ダレル様が?ではこの見事なお花の配置もダレル様がお考えに?」
園芸好きなリリアーナが食いつく。
「はい。男のくせに花なんてと父にはよく叱られますが、僕の唯一の息抜きなので」
「素敵なご趣味ですわ。私もお花が大好きですもの。こちらの品種はどこで手に入れられましたの?見たことありませんわ」
「ああ、こちらは先月輸入されたばかりで一般にはまだ手に入らないんですよ。宜しければ購入先を・・・」
ダレルとリリアーナが園芸の話で盛り上がってしまったので、一人侘しくもらったジュースを飲み干す。
いえ、良いの。リリアーナの邪魔をする気は全くないから。
だってそもそも私がリリアーナとお友達になったのも、リリアーナが虹恋でアーサーの婚約者だったから。
虹恋の中のリリアーナはそれはいじらしい女性だった。アーサーを奪われてもヒロインに文句も言わず、ただ悲しげに涙を流し黙って身を引いていた。
アーサー自身も大人しいリリアーナを嫌ってはいなかったけれどもかといって好きでもなく、ただ家同士が勝手に決めた形ばかりの婚約者として扱っていた。
アーサーのバッドエンドでは、 剣に邁進していたアーサーを陰日向に支えてくれていたのがリリアーナだということに気づき、結婚式で今自分がこの地位にいるのは君のおかげだとアーサーが告白して、白いヴェールを被ったリリアーナの額にそっとキスをする。
やっと気持ちが通じたリリアーナは、瞳にうれし涙をにじませアーサーにそれはそれは可憐に微笑む。それを見た私はバッドエンドにも関わらず良かったねと拍手してしまった。
それくらいゲームのリリアーナは健気でいじらしい女性だった。だからこの世界で、もしヒロインがアーサールートに入ったらリリアーナを修道院行きから助けてあげようと思っていた。
今のところアーサーとリリアーナに接点はない。でもリリアーナも立派な伯爵令嬢だから、いつアーサーとの婚約話が出るか分からない。
完全にリリアーナの修道院行きを阻止するには、リリアーナがアーサーじゃなくて他の人を選ぶのが1番良いんだけど、今まで良いお相手がみつからなかった。
それがここに来てのダークホースダレル。
線が細くてどちらかといえば3枚目寄りだけど、穏やかさと人の好さが顔に表れている。小柄で可愛らしくて繊細なリリアーナにはピッタリだ。
こうして二人が並んでいるところを見ると、将来春の日差しの中で仲良く土いじりしている絵まで浮かんでくる。
笑いあいながら花を植え、その傍らには二人に良く似た男の子と女の子。
良いわ、ぴったりよ。なんとかこの二人くっつけられないかしら。
気分はすでにおせっかいオバサンである。
ただこの2人をくっつけるには大きな問題が1つある。
それをどうしたらいいものかと考えていると、、後ろから長い腕がニョキっと現れた。
「こんなとこで何やってんだ、お前」
その腕はひょいっと私から空になったグラスを取り上げて、新しくジュースが入ったグラスを押し付けてきた。
「あ、ありがとう」
流れで手の先を追って行くと、きっちりとジャケットを着て髪を整えているアーサーがいた。
ぐはぁ!!格好いい!!!
ちびっこいのに格好いい。なにこれ、違反でしょう。こんなカッコカワイイ生き物を野に放しちゃいけません。キーホルダーにして私が鞄に付けておきます。
「おい、なんかお前目つきと手先が変だぞ。なんで手をワキワキしながら俺に迫ってくるんだよ」
ちょっと落ち着けと頭を手で押さえられて距離を取られる。
きゃあ、頭ポン。なんかちょっと違うけど、でもアーサーの初頭ポン!嬉しい~~。
「なんか、仲良いのね二人とも。いつの間に?」
ちょっと引き気味のリリの声に我に返る。
はっしまった前世の私が前面に出てしまった。涎を拭き取らないと。ジュルリ。
そう、これが2人の最大の障壁。
アーサーだ!
見て!10歳にしてこの完璧な姿。危険な雰囲気。長い手足。
大人になるとこれに魅惑の腰砕けボイスがついてくるからね。
こんなイケメンを捨てて平凡が取り柄のダレルと付き合おうと思ってくれるかどうか。
私なら無理だわ。アーサー一択。
「つい最近知り合ったのよ。って、そういえばなんでアーサーがここにいるの?レオ・・ン王太子殿下の傍にいなくていいの?」
側近でしょ?
「お前の傍にこいつがいるから見張ってこいって言われたんだよ」
「え、僕?」
指を差されたダレルが驚く。そうだよね、私も意味が分からないよ。
「初めましてダレル=バーロウです。アーサー=シモンズ君だよね、お噂はかねがね」
ダレルがアーサーに手を差し出す。それを握ってアーサーも「初めましてアーサー=シモンズです。こちらこそお会いできて光栄です」と答えた。
なんだ、まともな挨拶出来るんじゃないアーサー。私の時とは大違い。
続けてダレルはリリアーナをアーサーに紹介したが、内心ハラハラしていた私の予想は外れ、二人とも実に簡潔に事務的に挨拶して終わった。
いまのところアーサーもリリもお互い興味がないみたいで良かった。良かった。
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