レナーテ先生のご教授
今更ながら恋心とはなんぞやとレナーテに尋ねると、遠くから見てもその人だけライトアップして見える。気がつくとその人のことばかり考える。目が合うだけで嬉しくて近寄るとドキドキして抱きしめられるととろけそうな気分になることととても具体的に言われた。
遠くから見てもすぐに分かるかぁ。
ホールを眺めるとレオとアーサーがすぐに見つかった。
だってあの二人は長身な上超絶美形だからね。
キラッキラした所を見ればレオがいるし、一人だけスタイルの良い引き締まった身体をしている人が目に入ればアーサーだし。
あの背筋から流れるボディラインと引き締まった大臀筋がもの凄く格好良いのよねぇ。剣を扱うのに理想的な筋肉っていうか。まぁレオにしろアーサーにしろイケメンは後ろ姿さえもイケメンってことよね。
私がぼんやりと二人を見ていると、レナーテはため息をついて言った。
「あなたみたいな本能娘はいくら考えても答えなんか出ないわよ。頭で分からないなら身体に聞いてきなさい。ほらっ、さっさとレオン様の輪に割り込んでレオン様をダンスに誘ってらっしゃい」
ぐいっと押されてバルコニーから追い出される。
レナーテって口は悪いけど、結構面倒見の良い娘よね。
前世もそんな感じだったんだろうな。
「いい、女どもを蹴散らして上手くレオン様をダンスに誘えたら、自然とこちらに寄ってくるのよ。次のダンスは私が踊るんだからね」
前言撤回。私は皆からレオを奪って恨まれる役なのね。
「しょうがないでしょ、皇女である私が無理矢理あの輪からレオン様を奪っていったら同国の貴族女性たちから恨まれちゃうじゃない。あなたなら他国民だし恨まれたところでどうせ帰国しちゃうんだから良いでしょ」
さっさと行けと手でシッシッとやられる。
私は犬じゃないわよ!
「私だってあのご令嬢達の群れからレオを連れてくる事なんて怖くて出来ないわよ」
「なんの為にその顔と身体があるのよ。美貌の無駄遣いしてないで最大限に活用しなさい。いい、優雅に気高く自分が女王になった気分で歩いて行くのよ。そうしたら皆騙されて道を空けるから」
ええー、そんな無茶な。
でもやらないと許して貰えなそうだし、仕方なく私はレオの元にゆっくりと近づいて行った。
うーん、見事なドレスの山々。レオまで遠いわぁ。
一人のご令嬢とトンと軽く肩が触れあってしまった。
「あら、ごめんなさい」
私が微笑んで謝罪すると、ご令嬢は私を見て目を丸くして慌てて後ろに下がった。
そしてその波がなぜか周囲に広がりレオの前までサァと道が広がった。
え、何で?
「クラウディア」
レオが嬉しそうに微笑んだ。
レオのキラキラフラッシュを受けたご令嬢達がパタパタと倒れた。
「私と踊って頂けますか?」
レオが手を出してきたので「はい」と返事をして踊りの輪の中に入った。
レオとは小さい頃からダンスのパートナーを務めていたから息はピッタリだ。
レオは昔から踊るのがとても上手だからレオと踊るといつもよりも一段上手になった気分になる。
しかもエスコートも完璧だから実に気分良く女性をお姫様気分にさせてくれる。完璧王子のあだ名は伊達じゃない。
微笑めばその麗しさに大抵の女性は心を奪われるし常に冷静沈着で頭も切れる。
なんでこんな完璧な人が私を好きなんだろうと疑問に思った。
「ねえ、レオ。レオは一体いつから私のこと好きになったの?」
軽くターンを決め、レオの腕の中に戻ってくる。
「君が私のことに興味を持ってくれるなんて嬉しいね。初めて会った時から君は私の特別だったよ」
またそんな嘘を。
初めて会った時なんて3歳と5歳じゃない。あり得ないわよ。
「嘘じゃないよ。でも恋心を抱いたのは再会した時かな」
再会した時って私レオのこと殴って逃げただけよね。なんであれで好きになるの?
レオってばSだと思っていたけど実はM?
思わず考え込んでしまったら、レオが私に向かって微笑んだ。
「いつだって君だけが私の特別なんだよ」
「!!」
胸がドキドキと高鳴る。これが恋心なの!?
そうなの?レナーテ先生!
私レオに恋しているのかしら!?
音楽が終わりダンスが終了した。バルコニーのそばには行けなかったけれど、いつの間にかちゃっかりレナーテが側にてレオにダンスを申し込んだ。流石にレオも一国の王女の誘いを断ることは出来ずパートナーチェンジした。
一歩下がって二人を眺めていると、目の前にスッと手が差し出された。
手に沿って見上げると、
「アーサー」
「俺と踊って頂けますか?」
気取った言い方がらしくなくて私は笑って承諾した。
「ええ、よろしくてよ」
アーサーも伯爵家の子息だから騎士とは言え一通りのダンスは踊れる。本人はあまり好きじゃないようだけど、元の運動神経が良いだけあって中々上手だ。
「折角ダンス地獄から抜け出せたのに、私と踊って良いの?」
レオと違いアーサーは断り切れずに数人のご令嬢と踊っていたのを見た。
「香水の海の中にいるよりか身体を動かしている方がマシだったからな」
ああ、そうね。一人一人の匂いは良い匂いでもブレンドされると強烈よね。
アーサー特に鼻が良いし。
腐りかけの食べ物とか匂い嗅いだだけで分かるのって便利よね。完璧腐っているなら私でも分かるけど。前世なんて勿体ないからって消費期限の切れた肉を食べて何度お腹を壊したことか。あの時アーサーが側にいてくれたらお腹壊さなくてすんだのに。
踊っているついでにレオに聞いたからアーサーにも聞いてみることにした。
「ねえ、アーサーはいつから私のこと好きになったの?」
「さあな」
さあな?何それ。いい加減ねぇ。
「気づいたら好きになっていたんだよ。俺も分からないんだから答えようがないだろ。ああ、でも子供の頃レオと三人で街に遊びに行った時、お前が脇道で子供が拐われるのを見たことがあっただろ」
そんなこともあったわね。
「レオが後をつけてアジトを見つけるのが先だから待てって言ったのに、お前抵抗した子供が殴られてるのを見て我慢出来ずに飛び出しちまって、お前まで人さらいの親父に殴られただろ」
あの時人さらいの親父の腕を思いっきり噛んでやったからね。
でもその後怒った親父に平手でぶん殴られて吹っ飛んじゃったのよね。そのせいで右頬がかなり腫れちゃって、お母様に誤魔化しがきかなくてみっちりお説教受ける羽目になっちゃったのよ。
しかもいつもは優しいお父様からも外出禁止令を発動されちゃって、しばらく家で勉強漬けの毎日だったわ。
「あの時、自分も殴られたのに泣きもせず泣いていた子供を一生懸命慰めているお前を見て、格好良いなって思ったのは覚えてる」
え、あら。そうだったの?
でもあの後アーサーが素早く人さらい親父に金的かまして、蹲った所をレオが回し蹴りで倒してたわよね。
その騒ぎで人が集まってきて人さらい親父は股間押さえながら逃げたけど、レオの影が後を付けて後に人さらい達を一網打尽にしたのよね。
他に捕まっていた子供達も無事解放されたとか。
なんかあんまり私活躍してないんだけど。ただ無鉄砲に突っ込んで殴られただけの馬鹿っていうかなんていうか。
「お前はそれで良いんだよ。人の痛みに人一倍敏感で、他人の痛みを自分の痛みのように思える奴だから俺もレオも好きになったんだ。バカはバカでも良いバカって奴だな」
「・・・褒めてないでしょ」
アーサーはハハッと軽やかに笑うと、
「お前の欠点もまとめて丸ごと愛してる」
と言ってきた。
レナーテ先生!呼吸が出来ません!身体に力も入りません。
私やっぱりアーサーが好きなんでしょうか!?
~ 後日ディアの出した答え ~
身体に聞いても分かりませんでした。二人がイケメン過ぎるのが悪いんだと思います。
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