敏腕刑事レオ
食器を下げに来てくれた侍女さんにルーカスとアーサーをこちらに呼んできてくれるようお願いした。
アーサーはすぐに来たけれど、レオは中々来なかった。
アーサーはなぜここに聖女がいるのか知りたがっていたけれど、どうせなら一遍に説明したいからとレナーテはレオが来るまで理由を話そうとしなかった。
暫く待っていると、レオが遅れてやってきた。
レナーテの顔が途端に光り輝く。
うん、分かりやすくて何より。
レナーテはレオが来たことによってようやく理由を語り始めた。(主にレオに対してだけど)
レオ攻略に自信満々だっただけはあり、その語り口調は虹恋の主人公にそっくりだった。素直で健気でいじらしくて私が男なら思わず守ってあげたくなっちゃう程だ。
レナーテ凄いわ、主演女優賞あげちゃう。
思わず私は感心してしまったのだが、単純に結果だけを言うと話し合いはレオの圧勝で終わった。
全てが終わった後にはレオに散々詰問され、抜け殻になってソファーに横たわるレナーテがいた。
いやぁ、レオ凄かったわ。決して声を荒げる訳でもなく終始笑顔でレナーテの矛盾点を次々ついていって、本当のことを白状するまで追い込んでいく姿はまるでベテラン刑事のようだったわ。
カツ丼食べるか?実家のお袋さんが泣いているぜ。いい加減吐いて楽になっちまえよ。
そんな昭和の刑事ドラマの定番台詞が思わず頭の中をリフレインした。
当然愛しのレオン様に逃げ道を塞がれ追い詰められたレナーテは早々に白旗を揚げ、祈りによる力の増幅が嘘で本当は私を災厄の犠牲にしようとしていたことと、犠牲者がいなくなってしまったせいで封印方法に悩んでいることをあっさりゲロッた。
途中あまりに怒濤に矛盾点を指摘されパニクったレナーテが混乱して、レオに「好きなんです、愛しているんです、私と結婚して下さい」と意味不明に告白するシーンもあったけれど、あっさり無視されていた。
おーいレナーテ大丈夫?生きてる?
横たわるレナーテの目の前でヒラヒラ手をかざしてみるが、レナーテは白目を剥いたまま反応しなかった。
あー駄目だわこれ。口から半分魂が飛んでるわ。
レオの詰問えげつなかったものね。どんな些細な矛盾も見逃さずかといって逃げることも許されず。
これはレナーテの百年の恋も冷めてしまったかも。
レナーテの廃人状態を気にもせずにレオはアーサーと何やら相談をしていた。
「聖女様」
レオの呼びかけに半分廃人だったレナーテは素早く立ち直った。
「レナーテとお呼び下さい」
ポッと頬を染めて答えるレナーテ。
レナーテもめげないわね。
「分かりました。聖女様。それで、災厄についてですが」
ああん、いけずぅとレナーテは身を捩る。
丸無視するレオ。
なんか、この二人の掛け合いがコントに見えてきた。
「単純に負の感情を持つ人間で良いのであれば、死罪予定の罪人を2~3人用意しておけば済む話ではありませんか?」
あ、そっか。そうよね、なんでそんな単純なことに気がつかなかったのかしら。
レナーテもそうか、と手を打っている。
「まあ、そんな単純な話であれば良いんですがね」
「え、何か仰いまして?」
レナーテは問題が既に解決したとばかりに気を抜いている。
「いえ、何も」
にっこりと微笑むレオに見とれてそれ以上追求しようとしないレナーテ。
「あの、レオン様。災厄解決の目処も立った事ですし、これから私たちの未来についてじっくりお話をしたいのですけど」
モジモジしながら切り出すレナーテ。
「先程からあなたは私をレオン王太子殿下とお間違えのようですが、私はルーカス=サンドフォードです。折角のお申し出ですが、私ではあなたのお相手となるには相応しくありません」
あくまで自分はルーカスだと言いはるレオ。
しかしレナーテは気にしない。
「身分差など愛の前には無意味ですわ。たとえレオン様が奴隷の身分であろうとも、私はあなた様を心から愛するでしょう」
「ありがとうございます。聖女様にそう言って頂けるのは誉れですね。ですが私は王太子殿下ではありませんので。そしてレオン王太子殿下には既に心から愛する女性が既におりますので、聖女様の入る隙はないと思われます」
ちょっと、レオいきなり何を言い出すのよ。
他人の振りしてシレッとこっちを見て告白してこないで。
「そ、そ、それは、どなたの事ですの?」
「レオン王太子殿下が結婚を申し込んでいる女性は一人だけですが」
レオの言葉にグリンとレナーテがこちらを睨んでくる。
余計なこと言わないでよレオ!
レナーテの目が暗闇の中のライトのように光って私に照準を合わせてくる。
「どぉいぅことかしらぁぁぁぁぁ」
至近距離で上から下まで舐めるようにレナーテの目が私の身体を行き来する。
怖い、怖いからレナーテ!
「政略結婚じゃなかったのぉぉぉぉぉぉ」
地獄の亡者のような声で責め立ててくる。
言ってない、政略結婚の申し込みだなんて私一言も言ってない。
勝手にレナーテがそう思い込んだだけだから。
「レオン様、私にお時間を下さい。レオン様は少し勘違いをしていらっしゃるのです。私と過ごす時間を頂ければ、レオン様の真のお相手が誰かすぐにお分かりになりますわ」
私相手に責めても仕方ないと思ったのか、レナーテはレオ攻略に戻るようだった。
「私はレオン王太子殿下ではありませんが、少なくとも私がレオン王太子殿下でしたら、愛する女性を災厄の犠牲にしようとした人間を愛することなど天地が逆さまになろうともありえませんがね。あなたが私でもそうお思いになりませんか?」
レオ容赦ない。
「それは、それは・・・」
レナーテがショックを受けて俯いてしまう。
まあ、レナーテはゲーム通りに進めようと思っただけだからね。
今まで100%ゲーム通りになってきたんだもの、今回もその通りになると思い込んでも仕方ないわよ。
どちらかと言えば私の存在がイレギュラーだったんだから。
「そんなに責めないであげて。レナーテは神の声に疑問を持って私を犠牲にするのをやめてくれたのだから」
転生者じゃなかったら危なかったけど。
まあ、結果オーライよ。
「甘いよディア。普通は神のお告げだからって他国の筆頭令嬢を災厄の生け贄にはしないもんだよ」
それはあれよ、ゲームの都合ってやつよ。キャラの使い回しっていうか運営の手抜きっていうか。
「レナーテ王女」
「はい♪」
名前で呼ばれたことでちょっぴりレナーテが回復する。
「あなたがクラウディア嬢を利用しないと言った言葉は一旦信用致しましょう。ですがもしその言葉に嘘偽りがあったなら、私たちはインディア国の誇りを掛けて全軍事力をもってこの国に攻め入ります。災厄を封じ込めることに成功しても結局我々によって滅ぼされることを覚悟して頂きたい」
レオの言葉に呼応するかのようにアーサーがレナーテの首にいつの間にか抜き身の剣を突きつけている。
「わか、分かりました」
レナーテが返事をするとアーサーは剣を引いた。
ヘナヘナとレナーテがソファーに崩れ落ちる。
何も二人がかりで女の子を追い詰めなくても良いのに。どうやらレオだけじゃなくアーサーも私を災厄の犠牲にしようとしていたことに対し激怒しているようだった。
「あのね、それで帰国についてなんだけど」
「明日で良いんじゃない」
んー、そうなんだけど。でも出来れば折角転生者に会えたしもう少しお話したい。
次いつ会えるか分からないし。
「明日!?そんなの聞いてませんわ。皇宮でも皆様の歓迎夜会を予定しておりましてよ」
レナーテも反対する。
お土産も買いたいし、懸念だった私を犠牲にするって話も頓挫したし急いで帰る必要ないと思うんだけどな。
決して成果も出せずに帰るとお母様が怒るから嫌だとかそんな理由じゃないからね。
「もう危険はないとレナーテも誓ってくれたことだし、皇宮での夜会をボイコットしてしまっては今後の二国間の付き合いにヒビが入ってしまうんじゃないかしら」
私の訴えにレオは渋々頷いた。
「分かったよ。じゃあ皇宮の夜会に参加したらすぐに帰国するからね」
「ありがとう、レオ」
レナーテと手を取り合いながらキャアキャアはしゃぐ。
やったわ、これで帝都の街を思う存分観光出来るわ。
ブクマ&評価&感想ありがとうございます(^_^)
猫にキーボード押されて画面が小さくなりました。これどうやったら直るんでしょう?