仲良しな二人
眼を開けると、アーサーの右こぶしはアーサーの右頬に。そしてレオの鉄拳もアーサーの後頭部に綺麗に決まっていた。
アーサーダウン。1.2.3ノックアウト!カンカンカンカーン。
「ってなんでだよ!?」
がばっとアーサーが起き上がる。回復早いですアーサー。
「なんでお前が俺を殴るんだよ、レオ!。俺がこの女を殴るとでも思ったのか?」
自分で殴った場所よりもレオに殴られた場所の方が痛かったようで、後頭部を押さえながらレオに詰め寄るアーサー。
「まさか。君が女性を殴るような下種だったら、友達になんかなっていないよ」
「じゃあなんでだよ」
「いや、そろそろ私の出番かな?って思ったから」
「なんだよそれ」
「だってアーサー、君いつも反省する時私に喝を入れてくれって頼むじゃないか。手加減するともっと強く殴れって怒るから」
「ばっ、バカ!それは二人っきりの時だけだろ。第3者の目がある時に頼むわけないじゃないか。王子が側近を殴ったなんて知れたら、どんな誤解されるか分かったものじゃない」
「ディアなら大丈夫だと思うけど」
チラリとレオとアーサーが私を見る。
もちろんよ、レオ&アーサー。二人がそんなSMの関係だったなんて。
原作にない展開にドキドキしちゃう。
大丈夫、誰にも内緒にしておくからね!
親指立ててバチーンと二人にウィンクをする。
「なぁ、なんかあいつ誤解してるような気がしてならないんだけど」
「うーん、多分私たちの想像とは違う誤解をしてると思うけど、まぁ実害なければ良いんじゃないかな」
「良いのか、本当に良いのか?なんかあいつ俺たち見てニマニマしてるぞ」
「あはは、変な方向に想像を飛ばすのがディアの面白い所だから良いんだよ。間違えたと気づいた後でディアが困っているところをフォローすれば、ディアが私から逃げにくくなるしね」
「お前って・・・」
腹黒く笑うレオにアーサーが引く。
小声で話されて声が聞こえない私は、二人は本当に仲が良いのねと大人の目線で微笑ましく見ていた。
◆
勉強会はほぼ毎日のようにあったが、アーサーは初日に来て以来パッタリと来なくなった。
どうして来ないのかレオに聞いたら、
「アーサーは勉強の大切さが分かったから、家で家庭教師を付けて一人で勉強しているよ」
という返答が返ってきた。
レオと二人だけで勉強をすると私をレオの婚約者になんて話がぞろ立ち上がりそうで嫌だったから、私も王宮で勉強するのを辞めると言ったら、なぜかそれからアーサーもたまに勉強会に来るようになった。
アーサーが再び勉強会に顔を出した時、アーサーは私に向かって「いざ勝負!」と戦技盤での再試合を申し込んできた。
が、私は丁重に断った。
あの時はアーサーが私を素人だと油断してくれていたから奇策が成功したけれど、碌に型も知らない私が警戒されたら勝てるわけがない。
アーサーはそれでもしつこくやろうと言ってきて困っていたら、レオが私の代わりにアーサーの相手に立候補してくれた。
そして結果はレオの全勝だった。
「レオ、凄いのね」
アーサーがどんな型で攻めて来ようとも、まるでそれを読んでいたかのようにあざやかに返り討ちにしてしまう。
「くっそぉ、勝てねぇ。レオ、お前今まで手を抜いてただろ!」
そうなの?と目で問うと、
「まさか、今日はたまたまだよ」
とレオはいつもの胡散臭い笑みを浮かべた。
あ、コレ絶対嘘だ。
可哀そうにアーサー。
そもそもあの図書室の本を全部読んで理解しちゃうような天才に勝てる人なんていないわよ。
アーサーが弱いわけじゃない。レオが特別なだけなのよ。
悔しがっているアーサーの頭を撫でて慰めていたら、レオの目が冷たく光った。
「アーサー、許さないよ」
その低い声の脅しにアーサーが私の手を振り払って、壁まで逃げた。
なんで勝ったレオがアーサーを怒っているの???
訳が分からずレオを見るが、レオは私にはにっこりとほほ笑むだけで説明してくれなかった。
「ところでディアは来週のバーロウ侯爵家のお茶会には参加するの?」
「え?ええ。お母様に言われて一応参加予定だけど。もしかしてレオも?」
あそこには私と同い年の令嬢がいたから、レオにお誘いが来てもおかしくない。
むしろバーロウ家のお茶会開催の目的はレオだろう。
「行くつもりなかったけど、ディアが行くなら行くよ。あそこには確か私の1つ上で婚約者がまだ決まっていない子息がいるからね」
「はぁ」
なんでフリーの子息がいるとレオが参加するの?
あ、あれか。アグレッシブなご令嬢たちの防波堤にするつもりね。
でも無理だと思うけどなぁ。ダレルは良い人だけど、レオと比べたら顔も姿も1段どころか2段も3段も落ちるから、レオに群がる女の子の数は減らないと思うわ。
「俺、来週は予定が・・・」
アーサーが壁際でおずおずと手を上げる。
「もちろんアーサーも参加するよね?私が行くと言っているのだから、君も行かないわけがない」
にっこり笑って予定のキャンセルを強要するレオ。
口元が引きつるアーサー。
「ひでぇ、折角副団長が俺に稽古をつけてくれるって言ってくれたのに。チャンスなのに」
「ああ、そうなんだ。それは悪いことをしたね。それじゃあ代わりに5番隊のモーゼス隊長にアーサーを鍛えてくれるように頼んでおくよ」
「げぇ、あの鬼隊長!?いや、いいです。遠慮しておきます。あんなのにしごかれたら3日は歩けなくなっちまう。喜んでお茶会に行かせていただきます!」
ビシッと綺麗な敬礼をするアーサー。
「ふふ、そう?それなら良かった。でもね、アーサー。その実これは君の為でもあるんだよ。この間シモンズ伯爵夫人が母上主催のお茶会に来られた際、アーサーの婚約者にふさわしい令嬢が誰かいないか母上に相談していたからね」
「ええ!?そんなこと俺には一言も」
「いう訳ないだろう。剣術の事しか頭にない君に言った所で、婚約者なんかいらないと言われるのがオチなんだから。だから、ちゃんとこういう場にはそれなりに出ておいた方が良いよ。親に勝手に相手を探される前に自分で探しているとアピールできるからね。さもないと君の嫌いなドレスと恋バナしか出来ないご令嬢をあてがわれるよ」
「いや、無理。ほんとそういうの無理。分かった、出る。ちゃんと出るから頼むから王妃様を抑えておいてくれ」
「いいよ。私としては相手がディアじゃなければ君の婚約者が誰になろうがどうでも良いけど、アーサーに婚約者が出来てしまうと私の方にも飛び火がくるかもしれないし。母上にはうまいこと言っておくよ」
「ありがとう。なんだかいまいち俺の為って言うよりか自分の為って感じだけど、とりあえずありがとう」
「どういたしまして」
真剣な顔で語り合う二人に疎外感たっぷりな私は、せめて麗しの美少年二人を肴に紅茶でも飲むかと一人茶を啜っていた。
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※読み返すと色々誤字があってすみません。ちょこちょこ治して行きます。