吉と出るか凶と出るか
「聖女様」
ビックリして思わず小走りでソファーに駆け寄った。
聖女様は青い瞳の侍女さん1人だけ連れてソファーに座っていた。
「あ、その名称やめてくださいね。私が聖女だということは王族と最高神官以外秘密にしているので」
「えっとじゃあ王女様?」
「レナーテで構わないわ」
「では、レナーテ様」
「ええ」
「こちらにいらした理由は何でしょう?」
聖女様はにっこりと微笑んだ。
「あの言葉を投げかけておいて、それを私に言わせるおつもりかしら」
分かっている。私に会いにわざわざ聖女様が単身で来たことが答えだ。
チラリと侍女の方を気にした私に、
「彼女は聞いても問題ないわ」
と聖女様が言ってきたので、意を決して聞いた。
「あなたは転生者ですね」
「そういうあなたもでしょう?」
「ええ、そうです」
「・・・」
「・・・」
二人の間に沈黙が流れる。
胸がドキドキする。
顔が熱い。
悲しいわけではないのに勝手に涙が零れる。
見ると聖女様も泣いていた。
理由はきっと私と同じだ。
同郷者がいた。
それがこんなにも嬉しいとは思わなかった。
本当はあの時無理矢理聞こうと思えば聞けた。でも、勇気が最後の最後で出なかった。もしはっきり違うと言われてしまったら期待してしまった分傷ついてしまうから。
「レナーテ様は日本人でしたか?」
「ええ、そうよ。看護師だったの。クラウディア様は?」
流れた涙をハンカチで拭いながら聖女様が答えた。
へぇ、今世は聖女で前世は白衣の天使だったのか。凄いわね。
「私も日本人でしたよ。ブラック企業のOLしてました。ちなみに独身でした」
「やぁね、虹恋してるんだから独身に決まってるじゃない。既婚者はあんな恋愛ゲームなんてしないわよ」
えー、そういうものなの?私恋人いた時でもやってたけどなぁ。
それは私がオタクだったからか。失敬失敬。
「虹恋面白かったですよね、ちなみに誰推しでした?」
まあ、答えは分かりきってるけど。
「そんなの神レオン様に決まってるでしょ!あっ、そうだ。どうしてここにレオン様が一緒にいらっしゃるの?ルーカスって自己紹介されたときから本当はずっと追求したくて仕方なかったのよ。でもお兄様の前でレオン様の正体がバレたら大変だと思ってグッと我慢してたんだから」
兄 < レオン だったのね。ゲーオタ万歳。
私はなぜカーラ帝国に来る羽目になったのか説明した。
「ふぅん、元はクラウディア様のお見合いが原因だったの。あなたモテないの?そんな有利な顔と身体しておいて」
うっ、グサッと来る言葉をありがとう。
同郷だと分かった瞬間聖女様も遠慮がなくなってきた。
「一応レオとアーサーから婚約申し込みは受けてマス」
何だかちょっぴりプライドが傷ついたので挽回してみる。
「え、嘘でしょ。何でヒロインじゃないのに好かれてるのよ」
「虹恋のヒロインはこちらの世界ではアナベルって言うのだけれど、全く恋愛に興味がないのよ」
「ええ、そんなのアリ?虹恋のヒロインって良くも悪くも恋愛馬鹿だったのに?」
まあ、恋愛ゲームですから。
なぁんか変ねぇとレナーテは首を傾げる。
「それより、なんで私がクリストフ殿下の婚約者なのか、そっちの方が知りたいのだけど」
レオに物騒な話を聞かされてしまった以上、ここは同郷者でもしっかり追求したいところだ。
「あら、だってゲーム通りならあなたはお兄様の婚約者でしょ?ってその顔、もしかして続編ゲームやってないの?」
続編!?何それ。
私は前世で自分が虹恋の新キャラである隣国の王子様が留学にやって来る前に多分死んだということを伝えた。
「あー、なるほどね。じゃあ知らない訳だわ。その隣国の王子様っていうのがうちのお兄様なのよ。強引キャラだけどちょっと抜けてて可愛いところがあるっていうギャップ付き」
へー。
「続編っていうのは、同じ運営会社が『愛と試練の冒険物語』って名前で新たに作ったゲームなんだけど、虹恋と同じ世界だけど設定国がカーラ帝国でヒロインが聖女なのよ。内容も虹恋は恋愛中心だったけど、こっちはRPG要素が強いかな。攻略対象者と災厄を倒す旅に出てラスボス倒してヒーローと結ばれるって内容よ」
へー。
で、私はなぜ婚約者に?
「だから、続編ゲームの世界では虹恋でヒロインがレオン様と結ばれて婚約者だったあなたが捨てられて修道院に一時期行くでしょ?その後ほとぼり冷めて学園に戻ってきた時にお兄様に出会い、あなたは自分を捨てたレオン様に復讐する為にお兄様を誘惑してたぶからしてまんまと婚約者の座におさまり、カーラ帝国の女帝にならんと陰で色々仕組むんだけど、あなたの本性を知っているのは私だけで、私は災厄と悪役令嬢であるあなたの二つを同時に対処しないとハッピーエンドにならないわけ」
え、私続編では悪役令嬢にJOB変してるの?うそーん。
「あの、私悪役令嬢やるつもりないんだけど」
「そんなの改めて言われなくても分かっているわよ。愛冒のあなたはすっごく性格悪かったもの。紅茶を煎れれば不味いと吹き出し、座る場所が上座じゃないと怒鳴り散らし、そのくせお兄様の前では猫被ってお淑やかなふりして裏で散財する典型的に嫌な女だったのよ。まあそれも愛した男性に振られて傷ついたせいなのかも知れないけど。とにかく続編では最悪最低の悪女だったわ。だからあなたをゲーム通りに利用するのに全く良心が痛まなかったのだけれど、現実のあなたは知ってみると全然悪女じゃないしその上私と同じ転生者だなんて。いくら国のためとはいえ罪もない人を犠牲にするのはさすがに私も心が痛むしね」
その言葉に嫌な予感がする。
「もしかしてゲームでは災厄を封じ込めるのに私の犠牲が必要だったの?」
恐る恐る問いかけるとあっさり肯定された。
「そうよ。まあゲームではあなたの負の感情と災厄の魔物の負の感情がシンクロして勝手に融合しちゃうんだけど。本来ならあなたに災厄の魔物が乗り移ったところで私が聖女の魔力で封じ込める手筈だったのよ。でも現実のあなたには融合の元となる負の感情がないみたいだし。そうなるとあなたに手伝ってもらっても何の役にも立たないのよね」
うわー、やっぱり私の犠牲ありきの作戦だったのね。怖っ!
レオの読みも怖っ!
「じゃあ私手伝わなくても良いの?」
手伝っても何の役にも立たないし。
「うーん、災厄を封じ込めるときにいなくてもいいわ。でも、あなたが使えない以上他に良い案がないか一緒に考えてよ。良い案が出たら本当にお兄様と結婚しても良いから」
「しないわよ。っていうか皇太子殿下も私を犠牲にするつもり満々だったんでしょ、そんな人の妻になんかならないわよ」
保険金殺人計画みたいなもんじゃない。
「ないない。お兄様は何も知らないわよ。私だってさすがにお兄様の将来の婚約者は実はこの国を乗っ取ろうとしている悪女で、でも災厄の魔物を封じ込めるのに必要だから一時期婚約しておいてくださいなんて非道な事言えないわよ。お兄様は本気であなたを好きになったんだと思うわよ。私散々お兄様の将来の婚約者は美しくて聡明だって囁いていたから。だってあなたに出会う前に他の女性と恋に落ちてしまったら大変でしょう」
本当苦労したんだからと言われても、自分を殺す努力をしていたと言われたところで褒めるわけがない。
じと~と恨みがましい目で見ていると、レナーテは慌てて謝ってきた。
「悪かったわよ。でもこうして作戦を暴露したんだから良いでしょ。お願いだから力を貸して。ねっ!」
手を合わせてお願いされても私にもどうにも出来ないことがある。
「貸してあげたいのはやまやまだけど、私一人では決められないわ。レオとアーサーを呼んでくるからあなたが頑張ってあの二人を口説き落として」
特にレオは手強いわよ。
「分かったわ。レオン様攻略は得意中の得意よ。伊達にあのゲームをやりこんでないわよ。任せといて」
自信満々にレナーテは言うが、現実のレオは一筋縄ではいかないわよ。
でもそのことは黙っておいた。私を騙して災厄の犠牲にしようとしたことへの些細な嫌がらせだ。
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新しいPCに中々慣れません。




