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聖女とレオ

 クリストフ殿下に案内されてやってきたレオとアーサーを見て聖女様が固まった。


「生レオン様」

 ポソリと聖女様が呟いた。


「え?」

 サッと血の気が下がった。


 今レオンって言った?

 嘘でしょ、神馬に頼んでレオの顔を微妙に変えてもらっている筈なのに、どうしてバレたの?

 聖女様だから?


 しかし他の皆には距離が離れていて聖女様の呟きが聞こえなかったようで、にこやかに自己紹介が続けられた。

 クリストフ殿下に紹介されてレオが聖女様に一歩近づく。


「初めまして、私はルーカス=サンドフォードと申します。お会いできて光栄です」


 レオが麗しく微笑み手を差し出すと、聖女様はその自己紹介に戸惑いつつもそっと手を重ねた。

 レオが優しくその手の甲に唇を落とすと、聖女様の口から変な声が漏れ出た。


「はうあ、尊い!」


 ん?

 突然の奇声に注目すると、聖女様はプルプルと震えながら目頭を摘んで天井を仰いでいた。


 アーサーも次いで自己紹介をしたが、聖女様はそれどころじゃないようだった。


 これにはクリストフ皇太子殿下も苦笑いするしかなかった。

「すまない、たまにレナーテはおかしくなるんだ。多分神と交信中なのだと思う」

「そ、そうですか」

 神と交信中?そうなの?

 随分激しい会話なのね。

 凡人の私にはついて行けないわと思っていると、アーサーがちらっと私を見てきた。


 何よ?


「なんかあの聖女、お前に似てるな」

 小声でコソっとアーサーが言ってきた。


 は?どこが?顔も髪の色も全然違うわよ。


「いや、外見じゃなくて中身が。今の聖女の反応が、俺が制服着た時のお前の奇行に良く似てる」

「・・・」

 本当だ。


 おや、おやぁ。

 もしかして。


 ありえないことはない。だって現にここに転生者()がいるのだから。

 他にもこの世界に飛ばされてきた地球人がいてもおかしくないわ。


 確かめなくちゃ。

 でも一体どうやって確かめればいいのかしら。

 まさかいきなり「聖女様は転生者ですか?」なんて聞けるわけがない。当たっていたら良いけれど、外れていたらただのおかしな人扱いされてしまう。

 インディア国筆頭令嬢が頭のおかしな令嬢だって噂されてしまったら、インディア国のイメージまで悪くなってしまう。


 取りあえず今は保留にして聖女様を観察してみよう。


 まずはクリストフ殿下と二人を交えて4人で話し合うことになった。

 殿下は聖女様の隣にもう一つ一人掛けの椅子を用意してもらいそちらへ。

 長椅子に奥側から私、アーサー、レオの順で並んで座った。

 自然と聖女様の前にレオが来たので、もはや聖女様の目にはレオしか映っていない様だった。


 聖女様、レオに惚れたわね。


 聖女様が先ほどと同様に私の力が災厄の封印に必要だという事を説明する。

 もはや皆にというよりか、レオしか見ていないのでレオに説明してるみたいだった。


 レオは聖女様の説明を聞いて考え込んでいた。

「災厄の封印ですか。失礼ですが、災厄とはどのようなものなのでしょうか」


「それは我々にも分かりません。神からはこの世界を滅ぼす力を持つものの存在がカーラ帝国に封印されているとのことです」

「疫病などの目に見えないものなのか、破壊などの物質的なものなのか。それさえも分からないのでしょうか?」

「残念ながら。ただ災厄が解き放たれた後の世界のビジョンは映し出されました。生き物は全て死に絶え建物は破壊され荒廃した世界でした」

「世界を滅ぼす力を持った存在に少女二人で立ち向かうと言うのですか?」

「それが神の使命であるならば、()()必ず災厄に打ち勝ちます!」 

 聖女様が高らかに宣言した。


「誤解しないで頂きたい。もちろん帝国軍も聖女達を守るべく共に戦う所存だ」

 クリストフ殿下も災厄に立ち向かう気満々だ。


「そうですか、貴女はとても勇気のある方なのですね」

「あら、そんな」

 レオに褒められてポッと聖女様の頬が赤くなる。

 

「お話は分かりました。災厄の封印はもはやカーラ帝国のみの問題ではありませんから、インディア国としても出来るだけお力になりましょう。それで封印が破られる時期はいつ頃なのでしょうか」


「はっきりとした時期は分かりませんが、約2年後位だと思われます」

「2年後ですか。失礼ですが、今回の件でクラウディア嬢の力が必要だと仰られましたが、もし我々が今回こちらに来なかった場合どうされていたのですか?」


「クラウディア様が帝国に来られることは神の予言で知っておりましたので、特に何も」

 え、そうなの?私が来る事知ってたの?

 お母様のお見合い暴走で決まった事だったのに?


「本来であれば余がインディア国に留学してクラウディア嬢と出会い恋に落ち、余の婚約者として共に帰国するはずだったのだ。まさか、それを待ちきれずにこちらに来るとは思わなかったがな」

 ハハハ、可愛い女だとクリストフ殿下が笑う。


 待てぃ、恋に落ちた覚えも殿下に会いに来た覚えもないわよ。

 レオとアーサーが鋭い目つきでクリストフ殿下を睨んでいる。


「それも神の予言ですか」

 レオの問いかけに聖女様が答える。

「そうです。時期と順番が少し変わってしまっているので、私としても少し混乱しているのですが」


「なに、時期や順番など大したことではない。大事なのは余とクラウディア嬢が愛し合い結婚するということだ。些末なことを気にする必要などない」


 私の頬が引きつる。

 なぜ私の結婚が決定事項なの?

 隣国の皇太子からの申し込みを即座に断るのは失礼かと思って黙っているだけなのに、勝手に話を進めないで頂戴。


「その件については正式にインディア国王家を通して下さい。それまで勝手に物事をお進めにならないように」

「もちろん、正式に申込みもするが余とクラウディア嬢の結婚は神が定められた事だ。たとえ王と言えどもこれを覆すことは出来ない」


「あいにく私には神の声など聞こえませんので」


 レオが際どい皮肉を言う。

 さすがに侮辱と受け取ったクリストフ殿下が眉間に皺を寄せた。


 ヤバいわ喧嘩になる前に止めなくちゃ。

 口を開こうとした瞬間、聖女様が二人の間に割って入った。


「お止め下さい、お二人とも。今は両国が力を合わせ災厄に立ち向かう時です。些細なことで仲たがいをしてはなりません」


 待って聖女様、私の一生の問題を些細な事で片づけないで。

 でも今はそこに突っ込んでいる場合ではない。


「そうですよ、今は災厄の事を第一に考えることが大切です」

「余の妻は大局に立って物事を考えることのできる聡い女性のようだ」


 だーかーらー、殿下も少しお黙りなさい!

 もういいや不敬でも。断っちゃえ。


「私も説明を受けましたが、災厄を封じるには私の協力が必要というだけであって、クリストフ殿下の婚約者にならなくてもそれは可能かと思われます。予言では殿下がインディア国に留学されて私と恋に落ちることによって私がカーラ帝国に来るはずだったのですよね。でも、私は殿下に会う前にこちらに来てしまいましたので、条件が満たされてしまいました。元々そこに恋愛要素が入っていないのですから、婚約者云々は不必要かと思われます」


 クリストフ殿下が目をパチクリさせている。


「そちは余を好きではないのか?」

「失礼ながら。しかし殿下も私のことをお好きではないでしょう?」

 だって出会って間もないし。


「いや、余は小さい頃から運命の女性がいると言われ続けてきたから、やっとそちと出会えたと喜びで一杯だったのだが。そちもてっきり同じ気持ちかと・・・」


 喜んでたんかーい。

 

 やばいわ、どうしましょう。そんなの知らなかったし、ごめんなさいって言ったら余計傷付けちゃうわよね。

 え、でもこれ私が悪いの?


 ズーンと落ち込む皇太子殿下。


 あああああ、ごめんなさい。

 私一人でオロオロしてしまう。聖女様を見ても苦笑いされるだけだし、アーサーを見ても俺に振るなって顔をされるし、レオを見ると・・・うん。見なかったことにする。一人だけすっごい良い笑顔なんだもん。


「あの、取りあえずこのお話は一旦保留ということで」

 空気を変えようと話を終わらせようとしたのだが、

「もしや既に婚約者がいるのか?」

 クリストフ殿下が突然切り込んできた。


「え、いえ特には」

「では、余とのことを真剣に考えてくれ。余はそちを見て思い描いていた理想の女性だと心より喜んだ。誰よりも気高く美しいそちを見て恋に落ちたのだ。余がインディア国に行っていればそちと恋に落ちていたと言うのであれば、今から余と恋に落ちても良いはずだ。余のことをもっと知って欲しい。余とそちは神の運命によって結ばれるはずの二人だったのだから」

 椅子から立ち上がり、皇太子殿下は跪いて私の手を握り締めながら訴えてきた。


「頼む」


 皇太子殿下(イケメン)の真剣なお願いを無下にできるほど冷たい人間ではない私は、思わず頷いてしまった。

 皇太子殿下は大喜びしていたが、私はそれどころではなかった。なぜなら横から二人分の怒りのオーラが飛んでくるのをヒシヒシと感じていたからだ。

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