聖女と対面2
聖女様の淹れてくれたお茶を飲んで一息つく。
「とても美味しいですわ」
私が褒めると、聖女様はまた少し驚いた顔をした。
なぜかしら、先ほどからこの聖女様驚きすぎじゃない?
聖女様という位だから俗世の人間とあまり関わりがなくて、私の反応が珍しいのかしら。
さて、呑気にお茶を飲んでいる場合ではないから、いい加減本命の話題を出さないと。余り遅くなるとレオが心配の余り禿げてしまいそうだし。
「あの、クリストフ皇太子殿下よりお聞きしたのですが、聖女様が私を殿下の婚約者にと予言されたというのは本当でしょうか?」
聖女様は真っ直ぐに私の瞳を見つめてきた。
「はい。本当です。神が私に告げました。あなたがいなくてはこの国は滅んでしまうと。どうぞあなたのお好きなように振る舞って頂いて結構ですから、兄クリストフの婚約者になっていただけませんか」
好きなようにって。私別に独裁者に憧れてる訳じゃないんだけど。
「あの、なぜ私がいないと滅んでしまうのでしょうか?」
「・・・この国の聖女伝説をご存知でしょうか?」
ああ、あのレオが言っていた災厄がどうのって話よね。
私がそう言うと、聖女様は頷いた。
「その通りです。災厄が目覚める時、聖女もまた生まれます。ここ数年カーラ帝国で起きている天変地異は正しく災厄が目覚める証拠なのです。私はその災厄を再び封じ込める為に生まれてきました。しかし、災厄を再び封じるには私1人の力では無理なのです」
つまり、私に災厄を封じ込める手伝いをしろと?
え、でもなぜに私?他国民で何の能力もないただの一貴族ですけど。
「お願いです。私と一緒に災厄を封じ込めるお手伝いをして頂けませんか。して頂けるのでしたら、なんでも貴女に差し上げます。財宝でも地位でも名誉でも。もちろん災厄を封じ込めるのは私がやります。貴女はただ私と一緒に来て下さるだけで結構です」
「あの、私が一緒に行く意味が分からないのですが。私の役目ってなんですか?」
「清らかな少女が私の傍に居て祈ってくださると私の聖女としての力が増幅されるのです。神は災厄の封印には貴女様のお力が必要だと告げてまいりました。封印場所までは行けるところまで馬車で行きますし、貴女には護衛も付けます。普段は私の後ろにいて下さって構いません。災厄を封じる時だけ私の隣にいて下されば構いませんから。もちろんその時も貴女の周りには大勢の護衛を付けますので」
聖女様の隣にいて祈れば良いだけ?え、本当にそれだけ?
「あの、それだけなら何も私がクリストフ殿下と婚約しなくても良くないですか?」
「ええ!?」
聖女様が驚いて立ち上がった。
え、そんなに変な事言ったかな?
「だって、祈るだけですよね。私が皇太子殿下の婚約者にならないと力になれないとかそんな裏設定ないですよね?」
「え、え。そう言われればそうなんですけど。え、でも婚約者にならないのに協力はして頂けるのですか?」
「まだ私からは何とも言えませんけれど、協力するとなったら皇太子殿下と婚約しなくても協力はさせて頂きます」
「そう、なんですか」
すとんと気が抜けたように聖女がソファーに座る。
そしてブツブツとなにやら呟いていた。おかしいわとか、こんな性格じゃなかったわとか聞こえる。
一体何のことかしら?
「あの、本当にお兄様・・・この国の皇太子殿下と結婚するおつもりはないのですか?」
今のところは更々ありません。
「ではなぜ貴女はこの国に来られたのですか?」
首を捻って考える。
「観光?」
まあ、お見合いも半分入っていたのだけれど、この分じゃ無理そうだしなぁ。
「かかかか観光!?」
かかかか観光です。
どういう事?確かに来る時期は早かったけれどと聖女様が呟いている。
どうにも独り言の多い聖女様だ。
「あの、つかぬ事を伺いますけど、貴女様は本当にクラウディア=エストラル様ですよね?」
あ、なんか偽物扱いされた。
「本物です」
何も証明書持っていないけれど、なんでしたらお父様とお母様のお名前と住所も言えますよ。迷子になっても大丈夫。
「レオン王太子殿下との仲はどうなっていらっしゃいます?」
なぜここにレオの名前が?
「良いお友達ですけれど」
まあ、プロポーズはされてますけどね。
「お友達!?え、あの婚約者だったんですよね?」
「いいえ。レオン王太子殿下と婚約したことは1度もありませんけれど」
逃げまくったからね!
「ええ!?」
変だわ、歴史が変わってる。え、どうして。と聖女様が再度意味不明な言葉を呟いて悩み始めてしまった。
うーん、そろそろ話戻しても良いかなぁ。
「あのぉ、そもそもなぜその為だけに私とクリストフ皇太子殿下との婚約を推されたのでしょう?」
普通に協力お願いすれば良いだけじゃない?
「それは・・・神からの予言で貴女様をクリストフ殿下の婚約者にと言われましたし、それに何より貴女がそれを望むと思われましたので」
危険手当みたいな感じ?
それにしても私がそれを望むってなんで?確かにクリストフ殿下は美形だけど、レオやアーサーを見慣れた目には特に特別には見えないしなぁ。
恋が芽生えるには時間もなさすぎるし、そもそも皇太子殿下の外見は好みじゃないから一目惚れも無理。
「封印に婚姻が不必要でしたら、そちらは丁重にお断りさせて頂きますね。私が殿下の妃になるよりも国内で有力貴族の女性を娶られた方が殿下の為にもなると思いますし。インディア王国とカーラ帝国の仲はとくに悪いわけでもありませんから、政略結婚をする必要もないでしょう」
「いえ、お待ち下さい。あなたを婚約者にしなくても封印ができるのかまだ分かりません。このお話はまだ保留にさせて下さい」
「分かりました。でも災厄の封印はなんとかしないといけませんよね。私としては私の力が必要という事であれば喜んでお手伝いしたいところなのですが、勝手に返事をするとその後が怖い人がいるので、ちょっと相談させてください。あ、この事言っても構いませんよね?もちろん他言無用で打ち明けるのは私の護衛で来た二人だけに致しますから」
「そ、うですね。ええ、構いませんわ」
やった、ありがとう聖女様。
うーん、でもどうやって打ち明けよう。私が説明した所でレオの疑問に答えられるほど私も理解しているわけじゃないし。
いっそのこと二人をここに連れて来て貰って、聖女様に直接疑問をぶつけて解決してもらえば良いんじゃないかしら?
うん、我ながら良いアイディアだわ。
それなら私も勝手に決めてって怒られることもないし、2度手間にならなくて済むもの。
「あの、聖女様。私の護衛をここに呼んでも構いませんでしょうか。私一人であの二人を説得する自信がありませんの」
「良いですわ、では使いの者をやりましょう」
聖女様は鈴を鳴らし侍女を呼んで私の護衛二人をここに連れてくるよう命じた。侍女さんは先程と同じ人だった。さっきは緊張してて気づかなかったけれど、この侍女さんもとても綺麗な青色の瞳をしていた。