皇宮にやってきた
イングラム侯爵に皇宮に行ってくることを告げると、侯爵は頷いた後レオに何やら耳打ちをした。
「侯爵と何を話していたの?」
皇宮の馬車に乗り込む前にレオにこっそり聞いてみたけれど、
「内緒」
と言って答えて貰えなかった。
ケチ。
皇宮のある一室に案内され待っていると、クリストフ皇太子殿下が現れた。
「ようこそ宮殿へ、未来の妻よ」
誰が妻よ、誰が。
レオとアーサーが私と殿下の前に立ちはだかる。
「正式な申し込みもまだの状態で馴れ馴れしく彼女に近づくのは止めて頂けますか?」
レオに冷たく言われても皇太子殿下の余裕は崩れない。私達にソファーに座ることを勧め、自らも座る。
「そういきり立つな。他国民であるそち達には分からぬことだろうが、余とクラウディア嬢が結婚するのは運命で決まっていることだ。運命は誰にも覆せはしない」
出た、予言。
「胡散臭い占い師の予言を信じるとは、将来国を背負う皇太子殿下にしては少々迂闊な行為ではありませんか?」
「占い師などというレベルの低い者の言葉ではない。これは聖女による天啓だ」
聖女!
レオの予想通りカーラ帝国に聖女が生まれていたのね。
「・・・その存在は明らかにしていないはずでは?なぜ今我々に言うのです?」
レオが緊張した面持ちでクリストフ殿下に聞いた。
アーサーもいつでも剣を抜けるようにしている。
「そう身構えるな。聖女の存在は確かにトップシークレットだが、それは敵に漏れる心配をしてのことだ。未来の妻となるクラウディア嬢とその護衛は我々の敵にはならない。そう判断したからこそ打ち明けたのだ。聖女もクラウディア嬢に会いたがっている事だしな。まずは宮殿の案内をと思ったが、聖女の存在が信じられないのであれば、先に会いに行くか?」
「宜しいのですか?」
「こちらに敵意がないことを証明するにはそれが一番手っ取り早いだろう。ただし聖女と会えるのはクラウディア嬢ただ1人のみ。護衛の二人は遠慮してもらいたい」
「お断りいたします。我々の目を盗んで彼女を監禁されでもしたら取り返しがつきませんので」
「そのようなことはしない。今日も無事に三人を帰すとイングラム侯爵と約束をしている。あの煩型の老人を動かすことを考えたのはそちか?」
クリストフ皇太子殿下がレオを指差す。
「我々の帝国での保護者はイングラム侯爵ですから報告するのが筋だと思っただけです」
「ふん、随分と頭が切れるようだな。王国に飽きたら帝国に来るが良い。余が上手に使ってやろう」
レオのこめかみに怒りマークが浮かび上がる。
「永遠に有り得ない事ですので結構です」
そうよね、レオがクリストフ殿下の部下になるってことは、インディア王国がカーラ帝国の属国になるってことですものね。
ないわ。
「聖女様のお住まいはどちらなのですか?」
やっぱり神殿かしら?
「この宮殿内にいるが」
はい?
「ああ、そうか。聖女の正体を言っていなかったな。聖女は私の妹だ。腹違いのな。聖女は第二王妃の娘だ。名をレナーテと言う」
え、皇女様が聖女様?
役割二つもなんて贅沢じゃない?
私も侯爵令嬢だけど、さすがに皇女と聖女の名称には敵わないわ。お転婆と無鉄砲の二つ名なら貰えそうだけど。
「レナーテ本人がクラウディア嬢と二人だけの面談を希望しているのだ。こちらに敵意はない。間違いなく五体満足でクラウディア嬢を二人の前に戻すと、余の名誉にかけて誓おう」
「我々も聖女様にお会いしたいのですが、どうしても同席は難しいのでしょうか」
ふむ、とクリストフ殿下が考え込む。
「それは分からぬな。レナーテは妹でありながら神殿から正式に聖女と認められている存在だ。余の力でどうにか出来る存在ではもはやない」
聖女の方が皇太子より地位が上なの?聖女って凄くない?
「レナーテ本人が望むのであればその希望も叶えられるだろう。だがまずはクラウディア嬢ただ一人のみの面会だ」
レオとアーサーから離れるのは正直心細いけど、ここで怯んでしまったら何のために来たのか分からない。
勇気を出して頭を突っ込むのよ、ディア!
「分かりました。では早速案内をお願い致します」
すくっと私は立ち上がる。
「ディア!」
レオが止めてくる。私は大丈夫だと言うように大きく頷いた。
「クラウディア、何かあったら俺達を呼べ。必ず駆けつけるから」
分かったわ、アーサー。
「お願いします」
手を差し出してエスコートを待つ。
ニッと笑ってクリストフ殿下が私の手を取った。
「いいな、気の強い女は嫌いじゃない。そちが余の運命の女性で良かった」
だから、私はあなたの運命の女性じゃないから。
次言ったらその高い鼻に洗濯バサミ付けるからね!
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昨夜は蚊に悩まされて睡眠不足でございます。